PURIFICATION

かわたる

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第3章

(1)覚醒

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翌日の午前中

生徒たちは、いつものように授業を受けていた。

朋友と結子のクラスでは、教壇に立つ男性教師の生駒に名前を呼ばれた生徒が起立して指示された教科書のページを朗読している。

「一次情報とは、伝えられている事柄を直接知っている人、またそれを調べた人が発信している情報で、一次情報を編集してまとめたものを二次情報という。一次情報よりも二次情報の方が、信憑性が低くなることがある・・・」

空席になっている結子の座席をぼーっと眺め、「結子は撮影か・・・」と心の中で呟きながら、朋友は昨夜の出来事を思い返していた。
 
神社境内を覆い尽くす清らかな気・・・神様だ!
御神気を初めて体感した朋友の肉体は、はっきりとその感覚を記憶している。
 
結子とふたりで体験した昨夜の出来事は、まるで遠い過去の記憶を呼び覚ましたかのような不思議な感覚でもあり、朋友の心と体は体験したひとつひとつの感覚を想い出し、空間から得た初めての情報を懸命に処理していた。
 
 「朝日、朝日くん!」

うつろな眼差しの朋友に対して厳しい視線と共に黒縁の眼鏡に手をかけながら生駒が呼びかけると、朋友は即座に反応してその場に立ち上がった。
 
「朝日くん、君は授業中にボーッとして、いったい何の情報を得ていたのかね?」

眼鏡越しに見え隠れする切れ長の目を光らせながら、独特の雰囲気を醸し出す生駒は朋友に対して鋭く指摘するのだが・・・
 
 「はい、心を鎮めて体感した一次情報です!」

溌剌とした表情で生駒からの問いに即答する朋友の姿を見た生徒たちは驚き、朋友の返答に感心する余り教室内は一斉に騒つくのであった。

   
結子主演の映画「愛しい人は、女神さま」の撮影も順調に続いていた。鬼塚京一の役柄は、南北朝時代の公卿・武将である。

「足利の軍勢は余が撃退する!」

「カット!」

監督の掛け声が撮影現場に響き渡ると速やかに映像のチェックに入るスタッフたち。

「鬼塚さん、お疲れさまです」

「鬼塚さん、差し入れありがとうございます!」

撮影スタッフたちは、鬼塚からの大量の差し入れを喜んで食べていた・・・ 
 

夕刻

学校の授業を終えた朋友は、ひとり公園で御神剣を片手に孤軍奮闘こぐんふんとうしている。

「こうすると見える、そんでもって、こうして手放すと見えない」

朋友は布袋に包んである御神剣を持っては離し、離しては持つことを繰り返していた。なぜなら、御神剣から放出される圧倒的な御神気によって、剣を握ると朋友の肉体も一瞬にして清らかさが増し、肉眼では見ることができない幽霊や魔物をリアルに感じて見えるようになるのである。しかしながら、御神剣を手放すと、それらが見えない元の朋友の状態になる・・・

「ほら、ブランコに座ってるよ」

子どもの未成仏霊がブランコに座っていた。御神剣を手にした朋友にはその姿がはっきりと見えている。

御神剣を手にする時だけとは言え、目には見えない幽霊が見えるようになることは朋友にとって大変な変化であり驚きの連続である。これまでの人生で霊の存在をリアルに感じ、それらを正確に捉え見ることなど無かった朋友にとってはすべてが初体験!

今まで自分が見てきた世界は何だったのか?今日まで如何に目から入って来る情報だけに頼りながら少ない情報だけを得て生きていたのか・・・そう切実に思う反面、幽霊が見える世界と見えない世界、どちらが真実なのか、自分の頭が変になったのか、病気なのかとも誰から教わることもなく疑うようになる。そのことを以て、朋友もまた結子と同様に自分自身を客観視して事の成り行きを見定めていることができている訳で、それは正常な心と体を持ち備え、それらの機能を有効に活用できている証なのである。

結子との出逢いをきっかけに、一歩また一歩と加速しながら正しく進化してゆく朋友は、「早く幽霊にも馴れないと・・・」と呟きながら、これから起こる出来事や自分の身に降り掛かる難題や変化に対して不安と期待を胸に、静かに溜め息をつくのであった。


同日の夜

闇夜にこだまする恐怖におののおびえる声・・・

「ぎょえ~!!!」

朋友は初体験の魔物に驚き、神社境内には朋友の大声が響き渡った。
そう、以前に結子と訪れた場所・・・神社の本殿と拝殿は巨大幼虫の姿をした魔物が占領しており、その異形な姿を目の当たりにして恐怖のあまり慌てふためく朋友と、その側で冷静に状況を把握している結子。

「どうしたの朋友? は、はぁ~ん、さては怖いの?」

「怖くはないけど、その、節足動物が苦手で・・・(冷汗)」
 
「あっ、そう・・・」

強がってはいるが内心では恐怖している朋友の本音を結子は感じ、理解していた。他方、微塵みじんの恐怖も感じさせず、冷静沈着な対応をする結子のことを見つめながら朋友は心で呟く。

「この鬼、こいつはある意味、鬼より恐ろしい」と・・・。

朋友は実体験を通じて結子の凄さ、強さ、素晴らしさを感じていた。
   
「早く、斬って!」

「おう、わかってるって!」

朋友が御神剣を振りかざして、巨大幼虫を斬りつけた。禍々しい気を放つ巨大幼虫は一瞬にして真っ二つに引き裂かれ、弐の太刀、参の太刀をふるうまでもなく、動きが止まり絶命した。凄まじい御神剣の威力である!巨大幼虫の周囲で蠢動しゅんどうしている小型幼虫の姿をした魔物たちも御神剣で斬り刻み瞬殺した。

「これで消滅するの!」

結子に渡されたストラップの勾玉を動きの止まった巨大幼虫に当てると跡形もなく消滅した。

その光景を目の当たりにして、朋友は驚きと感動を隠せない。結子は朋友の理解力を向上させるために言葉による説明だけではなく、実践を交えながら朋友へ説明を続けた。何故なら、結子は「知ること」と「理解すること」は違うことを熟知しており、真の理解は自ら体験することから学習できることを自身も実体験を通じて学んで来たからである。

「斬る力と消滅させる力、これで身を守ることができるわね!あと、清めて成仏させる力があるんだけど、これから身につけないとね!」

「おう、やってやるよ!」
 
「はい、それじゃ、まずは深呼吸から」

暗闇が深みを増す中、静寂な神社境内で結子のレクチャーがスタートした。

「いきなりかよ!」

「ほら、心と体の動きを鎮めて」

朋友は集中力を高め、心と体の動きを鎮めた。

「目からの情報じゃなくて、静かに、全身で空間の状態を体感するの」

結子の指示通りに心と体の状態を変化させる朋友。期待に胸を膨らませ、結子から投げ掛けられる言葉と結子と共有している空間から伝わって来る変化を余すことなく感じ取り、受けた指示を忠実に実践する朋友は無我夢中だった。

「そう、そういうこと!」

心と体の動きを鎮め、空間に意識を集中するだけではなく、その意識を空間全体に広げながら、その空間にあるものすべての清らかさのレベルを繊細に比較するのである。

何がどの程度、清らかで、何がどの程度、穢れているのかをとてつもなく高い集中力を駆使しながら全身で空間からの情報を感じ取るのだ。その一連の作業を正確にするためには、濁りの無い清らかな心と体を育む必要がある。そして、その清らかさを基準にして穢れの程度を選別するのである。

朋友はこのレクチャーによって、空間に穢れた情報が多い汚い場所であれば、同じ事をやるだけでも肉体にかかる負担が増大するために全身は悲鳴を上げ、作業が困難を極めるであろうことを瞬時に理解した。

「集中力が半端ねー、やり続けたらヘトヘトになる・・・」

「そうでしょう、清らかな場所が少ないからよ!」

結子の言葉を聞いて、朋友は汚れた大都会・・・スカイツリーの展望台から眺めた東京の風景を想い出した。

「汚れた空間・・・成る程!」と頷いた朋友は、当たり前のように多くの人が気にもせずに過ごしている空間は既に相当に汚れていて、其処で違和感なく暮らしている人もまた相当に感覚が麻痺し、汚れを汚れだと認識できない状態に陥っていることが解った。

結子が更に説明を続ける。

「人が汚している空間に合わせて、鈍く穢れたことが平気になることは適応じゃなくて、正しく改善しない怠け者なだけ、脆弱なの!」

「うん、言われてみれば・・・人は鈍感に成り過ぎてるよな」

時の経過と共に、朋友の理解力も深みを増してゆく。

「うん、きれいな空間に改善するためには、まずは自分が清らかになって、何がきれいで、何が汚れているのかを繊細に感じることができるようになることが大切なのよ」

結子は自分自身が完全に女神の想いで朋友に説明していることを客観視して、そんな自分に対して静かに笑いが込み上げてきた。

清らかさ、繊細さ、高い集中力がいかに大切なのかを朋友は痛感した。そして、体感からの情報が増加した朋友は、清らかになることが命を輝かせることであることを細胞レベルというか、体の深部から納得し、理解できていることを感じていた。

繊細な体感を日常生活においても常に当たり前のように出来るようになると、御神剣が無くても幽霊や魔物も正確に感じ取れるようになることを結子は朋友に伝えた。

「まだ無理」

「大丈夫、朋友なら必ずできるようになるから、毎日の訓練頑張ってね!」

笑顔で朋友を見つめる月明かりに照らされた結子の表情を見ていると、不思議と力がみなぎってくる朋友は、結子が時間のあるときに県内のきれいな場所へ案内することを提案し、約束した。田舎町で真新しいものはないけれど、空間がまだ少しはマシなところはあるからと・・・

そんな笑顔のふたりに暗闇の中から鋭い眼光が注がれていた。角田剛毅(茨木童子)と、その仲間たちである。強烈な妖気を放っている角田の側から逃げる事も出来ず、静かに佇んでいる花々は生気を失っていた・・・
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