悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ

文字の大きさ
18 / 231
1章.妹君は少年伯と出会う

18.妹君は思案する③

しおりを挟む
 リーゼロッテはぼんやりとサラダを頬張った。

『……ありがとう』

 頬張りながら彼の言葉と笑顔を反芻はんすうする。反芻しては悶える。そしてまたぼんやりとする。

 はたから見ると異様な繰り返しだった。

(はぁ……あんなことをしてしまうなんて、私ったら浮かれてしまっているわ)

 ユリウスから「美しい」と言われて相当舞い上がっている自覚はあった。

 が、それを差し引いても手を握って至近距離で話すなど大胆すぎである。

「おい」

(いけない、私はユリウス様の奉公人。いえ、奉公人と呼ぶのもおこがましいわ。婚約者ですらないのだから)

「おい、聞いてんのか?」

(そういえば、婚約者候補もいらっしゃらないのかしら……? いらっしゃったら申し訳ないことをしたわ。改めて謝る……いえ謝らなくていいと言われてしまってるのよね……ならばどうしたら……)

「おい!」

「はいぃ!」

 耳元で発せられた男性の大きな声にリーゼロッテは驚いた。

「オレの作った料理をクネクネしながら不味そうに食うな。皿下げんぞ」

 不機嫌な声を上げたのは若き料理長でもあるザシャだ。

 リーゼロッテと同い年の青年で、茶色の巻毛と口が少し悪いところは母親のデボラそっくりである。

 目つきも悪い彼のことが、リーゼロッテは苦手だ。

 よく会話するデボラと違い、たまにしか会わないザシャとは仲良くなるとっかかりがなかった。

「す、すみません……」

「何があったか知らねぇけどユリウス様付きになったからって調子乗るんじゃねーぞ」

「こらザシャ! ごめんね、こいつ最近生意気で」

 デボラが謝る背後で、彼はあっかんべーと舌を出した。それを見てますます申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「食うんだったらさっさと食えよ。ノロマはこれ以上ロルフや母さんの仕事増やすな」

「ザシャ!!」

 デボラの怒号に両手を上げたザシャは厨房へと引っ込んでしまった。

「ごめんね、リーゼ。あとでアイツ、ぶん殴っておくから」

「ぶん……?! い、いいえ! 大丈夫です。その……皆さんの足手まといになっていることは事実なので……」

「そんなことはないよ。アイツこそ料理しかしてない癖してリーゼのこと何も分っちゃいないんだ。こーんなにいい子なのに」

 抱きつく勢いでベタ褒めしだしたデボラに、リーゼロッテは慌てて否定した。

 普段褒められ慣れてない彼女は、急に称賛されるとどうしていいかわからない。

「そ、そういえば、ユリウス様はお母様のお粥なら食べられるとおっしゃってましたが、その再現は難しいのでしょうか?」

「あー……ザシャが何度かチャレンジしたんだけどダメだったねぇ。レシピ見てその通り作ってもダメだったから、書いてないことで奥様特有の工程があるのかもしれないんだと」

 と、デボラは難しい顔でスープを啜る。

(ザシャさんが再現できないって……)

 辺境伯家の使用人の食事は品数は少ないものの、リーゼロッテが唸るほど美味だ。

 常に戦争と隣り合わせの緊張感がある辺境では、備蓄が命だ。

 辺境伯やそこに仕える使用人といえど、普段から豪勢な食事を食べられるわけではない。

 その少ない食材の中で、満腹感と満足感を得られるように調理の工夫をしてるであろうザシャの腕前は、王族お抱えの料理人にも引けを取らないだろう。

 そのザシャが無理だと言う代物だ。誰がやっても無理だろう。

(……でも、なんでしょうか……何か引っかかるような……)

 考え込むリーゼの様子に気を回したのか、デボラが厨房の方へ首を突っ込んだ。

 使用人食堂と厨房が繋がっているためか、こうして会話することはよくあった。

「ザシャ、アンタあのレシピノート持ってたろ? さっさと出しな」

「は? あーあれか……書室に戻したぞ。オレなんかが持ってるよりユリウス様の好きな時に読んでもらったほうがいいだろ」

 先ほどよりは幾分か刺々しさが薄らいだ声が聞こえてくる。

(……書室……レシピ……料理……)

「!」

 リーゼロッテははっとして立ち上がった。

 驚いたデボラは振り返る。ザシャも文句を言いたげな表情で厨房から出てきた。

「ど、どうしたんだい?」

「あ、あのっ……もしかして、ユリウス様のお母様は……」

 彼女の唐突な質問に、デボラとザシャは思わず顔を見合わせたのだった。
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...