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1章.妹君は少年伯と出会う
18.妹君は思案する③
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リーゼロッテはぼんやりとサラダを頬張った。
『……ありがとう』
頬張りながら彼の言葉と笑顔を反芻する。反芻しては悶える。そしてまたぼんやりとする。
はたから見ると異様な繰り返しだった。
(はぁ……あんなことをしてしまうなんて、私ったら浮かれてしまっているわ)
ユリウスから「美しい」と言われて相当舞い上がっている自覚はあった。
が、それを差し引いても手を握って至近距離で話すなど大胆すぎである。
「おい」
(いけない、私はユリウス様の奉公人。いえ、奉公人と呼ぶのもおこがましいわ。婚約者ですらないのだから)
「おい、聞いてんのか?」
(そういえば、婚約者候補もいらっしゃらないのかしら……? いらっしゃったら申し訳ないことをしたわ。改めて謝る……いえ謝らなくていいと言われてしまってるのよね……ならばどうしたら……)
「おい!」
「はいぃ!」
耳元で発せられた男性の大きな声にリーゼロッテは驚いた。
「オレの作った料理をクネクネしながら不味そうに食うな。皿下げんぞ」
不機嫌な声を上げたのは若き料理長でもあるザシャだ。
リーゼロッテと同い年の青年で、茶色の巻毛と口が少し悪いところは母親のデボラそっくりである。
目つきも悪い彼のことが、リーゼロッテは苦手だ。
よく会話するデボラと違い、たまにしか会わないザシャとは仲良くなるとっかかりがなかった。
「す、すみません……」
「何があったか知らねぇけどユリウス様付きになったからって調子乗るんじゃねーぞ」
「こらザシャ! ごめんね、こいつ最近生意気で」
デボラが謝る背後で、彼はあっかんべーと舌を出した。それを見てますます申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「食うんだったらさっさと食えよ。ノロマはこれ以上ロルフや母さんの仕事増やすな」
「ザシャ!!」
デボラの怒号に両手を上げたザシャは厨房へと引っ込んでしまった。
「ごめんね、リーゼ。あとでアイツ、ぶん殴っておくから」
「ぶん……?! い、いいえ! 大丈夫です。その……皆さんの足手まといになっていることは事実なので……」
「そんなことはないよ。アイツこそ料理しかしてない癖してリーゼのこと何も分っちゃいないんだ。こーんなにいい子なのに」
抱きつく勢いでベタ褒めしだしたデボラに、リーゼロッテは慌てて否定した。
普段褒められ慣れてない彼女は、急に称賛されるとどうしていいかわからない。
「そ、そういえば、ユリウス様はお母様のお粥なら食べられるとおっしゃってましたが、その再現は難しいのでしょうか?」
「あー……ザシャが何度かチャレンジしたんだけどダメだったねぇ。レシピ見てその通り作ってもダメだったから、書いてないことで奥様特有の工程があるのかもしれないんだと」
と、デボラは難しい顔でスープを啜る。
(ザシャさんが再現できないって……)
辺境伯家の使用人の食事は品数は少ないものの、リーゼロッテが唸るほど美味だ。
常に戦争と隣り合わせの緊張感がある辺境では、備蓄が命だ。
辺境伯やそこに仕える使用人といえど、普段から豪勢な食事を食べられるわけではない。
その少ない食材の中で、満腹感と満足感を得られるように調理の工夫をしてるであろうザシャの腕前は、王族お抱えの料理人にも引けを取らないだろう。
そのザシャが無理だと言う代物だ。誰がやっても無理だろう。
(……でも、なんでしょうか……何か引っかかるような……)
考え込むリーゼの様子に気を回したのか、デボラが厨房の方へ首を突っ込んだ。
使用人食堂と厨房が繋がっているためか、こうして会話することはよくあった。
「ザシャ、アンタあのレシピノート持ってたろ? さっさと出しな」
「は? あーあれか……書室に戻したぞ。オレなんかが持ってるよりユリウス様の好きな時に読んでもらったほうがいいだろ」
先ほどよりは幾分か刺々しさが薄らいだ声が聞こえてくる。
(……書室……レシピ……料理……)
「!」
リーゼロッテははっとして立ち上がった。
驚いたデボラは振り返る。ザシャも文句を言いたげな表情で厨房から出てきた。
「ど、どうしたんだい?」
「あ、あのっ……もしかして、ユリウス様のお母様は……」
彼女の唐突な質問に、デボラとザシャは思わず顔を見合わせたのだった。
『……ありがとう』
頬張りながら彼の言葉と笑顔を反芻する。反芻しては悶える。そしてまたぼんやりとする。
はたから見ると異様な繰り返しだった。
(はぁ……あんなことをしてしまうなんて、私ったら浮かれてしまっているわ)
ユリウスから「美しい」と言われて相当舞い上がっている自覚はあった。
が、それを差し引いても手を握って至近距離で話すなど大胆すぎである。
「おい」
(いけない、私はユリウス様の奉公人。いえ、奉公人と呼ぶのもおこがましいわ。婚約者ですらないのだから)
「おい、聞いてんのか?」
(そういえば、婚約者候補もいらっしゃらないのかしら……? いらっしゃったら申し訳ないことをしたわ。改めて謝る……いえ謝らなくていいと言われてしまってるのよね……ならばどうしたら……)
「おい!」
「はいぃ!」
耳元で発せられた男性の大きな声にリーゼロッテは驚いた。
「オレの作った料理をクネクネしながら不味そうに食うな。皿下げんぞ」
不機嫌な声を上げたのは若き料理長でもあるザシャだ。
リーゼロッテと同い年の青年で、茶色の巻毛と口が少し悪いところは母親のデボラそっくりである。
目つきも悪い彼のことが、リーゼロッテは苦手だ。
よく会話するデボラと違い、たまにしか会わないザシャとは仲良くなるとっかかりがなかった。
「す、すみません……」
「何があったか知らねぇけどユリウス様付きになったからって調子乗るんじゃねーぞ」
「こらザシャ! ごめんね、こいつ最近生意気で」
デボラが謝る背後で、彼はあっかんべーと舌を出した。それを見てますます申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「食うんだったらさっさと食えよ。ノロマはこれ以上ロルフや母さんの仕事増やすな」
「ザシャ!!」
デボラの怒号に両手を上げたザシャは厨房へと引っ込んでしまった。
「ごめんね、リーゼ。あとでアイツ、ぶん殴っておくから」
「ぶん……?! い、いいえ! 大丈夫です。その……皆さんの足手まといになっていることは事実なので……」
「そんなことはないよ。アイツこそ料理しかしてない癖してリーゼのこと何も分っちゃいないんだ。こーんなにいい子なのに」
抱きつく勢いでベタ褒めしだしたデボラに、リーゼロッテは慌てて否定した。
普段褒められ慣れてない彼女は、急に称賛されるとどうしていいかわからない。
「そ、そういえば、ユリウス様はお母様のお粥なら食べられるとおっしゃってましたが、その再現は難しいのでしょうか?」
「あー……ザシャが何度かチャレンジしたんだけどダメだったねぇ。レシピ見てその通り作ってもダメだったから、書いてないことで奥様特有の工程があるのかもしれないんだと」
と、デボラは難しい顔でスープを啜る。
(ザシャさんが再現できないって……)
辺境伯家の使用人の食事は品数は少ないものの、リーゼロッテが唸るほど美味だ。
常に戦争と隣り合わせの緊張感がある辺境では、備蓄が命だ。
辺境伯やそこに仕える使用人といえど、普段から豪勢な食事を食べられるわけではない。
その少ない食材の中で、満腹感と満足感を得られるように調理の工夫をしてるであろうザシャの腕前は、王族お抱えの料理人にも引けを取らないだろう。
そのザシャが無理だと言う代物だ。誰がやっても無理だろう。
(……でも、なんでしょうか……何か引っかかるような……)
考え込むリーゼの様子に気を回したのか、デボラが厨房の方へ首を突っ込んだ。
使用人食堂と厨房が繋がっているためか、こうして会話することはよくあった。
「ザシャ、アンタあのレシピノート持ってたろ? さっさと出しな」
「は? あーあれか……書室に戻したぞ。オレなんかが持ってるよりユリウス様の好きな時に読んでもらったほうがいいだろ」
先ほどよりは幾分か刺々しさが薄らいだ声が聞こえてくる。
(……書室……レシピ……料理……)
「!」
リーゼロッテははっとして立ち上がった。
驚いたデボラは振り返る。ザシャも文句を言いたげな表情で厨房から出てきた。
「ど、どうしたんだい?」
「あ、あのっ……もしかして、ユリウス様のお母様は……」
彼女の唐突な質問に、デボラとザシャは思わず顔を見合わせたのだった。
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