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1章
34.誰だそれは
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【ジークフリート視点】
「それで、覚えてないのか? そいつの外見とか」
食事を済ませ、ジークフリートはそれとない雰囲気を漂わせ彼女に聞いた。
もしそいつの外見を覚えているなら、事件の詳細も覚えている可能性が高い。当時は彼女もショックを受けたのか、何を聞いても黙ったままだったという。
(3歳の彼女が覚えているとは思えんが……)
ジークフリートに緊張が走る。
犯人につながる手がかりが、ようやく見つかるかもしれない。
いや、剣を握れないほどの過去など思い出さないで欲しい。
期待と焦燥感と、覚えていて欲しくない気持ちがせめぎ合う。
そんな彼の気も知らず、アルティーティは考え込むようにしばらく下を向くと、口を開いた。
「ええと……あまり覚えていないんです。ただ……」
その言葉の続きを、ジークフリートはなんともないふりをして見守る。
「サラサラの金髪で、宝石みたいにキラキラした目で、すごく身長高くてカッコいい人だったかなぁってことくらいですかね」
「誰だそれは」
思わず心の声が口から漏れた。
言わずもがな、ジークフリートの髪は金髪ではない。燃えるような赤髪と赤眼だ。身長もそこまで高くない。
しかも、『だったかなぁ』とは。
彼女も覚えているか自信がないということだ。『こんな感じだったかもしれない』という願望も入っていそうだ。
目の前にいる人物がその人とは知らず、アルティーティは口を尖らせた。
「いや、わたしが聞きたいですよ。名前も知らないですし……騎士団に配属になれば分かると思ってたんですけど……」
『誰だそれは』という言葉を文字通りに受け取った彼女は、いじけたように両の人差し指をつつき合っている。
「他に何か覚えてないのか?」
「うーん……私を守りながら敵を殲滅できるくらい強い人ですかね……」
それも違う。
今ならばそれくらいできるが、当時は大して強くもなかった。必死で応戦したが数人取り逃した上に、自身も重傷を負っている。
敵を殲滅するどころか、こちらが全滅する可能性の方が高かった。
(まさか間違って覚えてるとは……もしやこのアルティーティはあのアルティーティとは別人なのか……?)
さすがに自信がなくなってきた。
もしかしたら同じ境遇の別人を守ろうとしているのでは、という気さえしてくる。
内心頭を抱えている彼をよそに、アルティーティは何かを思い出したように手を打った。
「あ。絶対助けるって言ってくれました。だからわたしもいつもそう思って訓練してるんですよ。ひったくりから子供を守った時もそうでした」
彼女のはずんだ声に思わず小さくうなった。
(俺だ。たしかに、それは言った)
金髪云々は間違えて覚えてしまったのかもしれない。夕陽の加減で赤髪が金に見えたのかもしれない。身長も、3歳児から見たら大人はみな巨人に見えるだろう。
認める。彼女はあのアルティーティだ。
良かった、とほっとすると共にどこかむず痒い。
今思えば、あんな台詞恥ずかしい、のひとことしか出ない。
それくらい青くさい台詞だが、彼女は自分の信条のように掲げている。
(そいつは俺が、随分前に捨てたものなんだがな……)
口角は上がり、花が舞うような朗らかな笑みだ。心底嬉しそうに笑う彼女を複雑な思いで見つめた。
たった一瞬の思い出を、後生大事に磨き上げてきたのだろう。磨きすぎて別人に変換されていたが。
(……今の俺が、あの時の騎士だとわかったらガッカリするだろうな)
きっと目に見えて肩を落とすだろう。ため息どころか悲鳴をあげるかもしれない。
なにせ彼女が憧れた、向こう見ずで無鉄砲で王子のような彼が、仏頂面の鬼上官になってしまったのだから。
ジークフリートは決めた。絶対に名乗り出ない、と。夢は夢のままがいい。
「……まぁ、うちの騎士団だけでも千人はいるからな。他の騎士団員かもしれんな」
「そうですね。気長に探します……あ」
肩をすくめたアルティーティは、何かに気づいたように声を上げた。
「どうした?」
「あの時、隊長、『今のお前みたいなやつはいつか大事なものをなくす』って言ってたじゃないですか。もしかして、その人もなくしちゃったのかな、と思いまして」
あの時、というのがひったくりを捕らえた時だと気づくのに少しかかった。
たしかに言った気がする。しかしそれは、彼女があまりにも危なっかしかったからだ。昔の自分を見ているかのようで、見ていられなかった、とも言う。
自分のようにはなってほしくない。その一心だったのだが、彼女はそれに思うところがあったのだろう。
まさか自分の経験則から出た発言を、今出してこられるとは思ってもみない。面を食らったジークフリートは必要以上に表情を硬くした。
「……なぜ、そう思う?」
「それで、覚えてないのか? そいつの外見とか」
食事を済ませ、ジークフリートはそれとない雰囲気を漂わせ彼女に聞いた。
もしそいつの外見を覚えているなら、事件の詳細も覚えている可能性が高い。当時は彼女もショックを受けたのか、何を聞いても黙ったままだったという。
(3歳の彼女が覚えているとは思えんが……)
ジークフリートに緊張が走る。
犯人につながる手がかりが、ようやく見つかるかもしれない。
いや、剣を握れないほどの過去など思い出さないで欲しい。
期待と焦燥感と、覚えていて欲しくない気持ちがせめぎ合う。
そんな彼の気も知らず、アルティーティは考え込むようにしばらく下を向くと、口を開いた。
「ええと……あまり覚えていないんです。ただ……」
その言葉の続きを、ジークフリートはなんともないふりをして見守る。
「サラサラの金髪で、宝石みたいにキラキラした目で、すごく身長高くてカッコいい人だったかなぁってことくらいですかね」
「誰だそれは」
思わず心の声が口から漏れた。
言わずもがな、ジークフリートの髪は金髪ではない。燃えるような赤髪と赤眼だ。身長もそこまで高くない。
しかも、『だったかなぁ』とは。
彼女も覚えているか自信がないということだ。『こんな感じだったかもしれない』という願望も入っていそうだ。
目の前にいる人物がその人とは知らず、アルティーティは口を尖らせた。
「いや、わたしが聞きたいですよ。名前も知らないですし……騎士団に配属になれば分かると思ってたんですけど……」
『誰だそれは』という言葉を文字通りに受け取った彼女は、いじけたように両の人差し指をつつき合っている。
「他に何か覚えてないのか?」
「うーん……私を守りながら敵を殲滅できるくらい強い人ですかね……」
それも違う。
今ならばそれくらいできるが、当時は大して強くもなかった。必死で応戦したが数人取り逃した上に、自身も重傷を負っている。
敵を殲滅するどころか、こちらが全滅する可能性の方が高かった。
(まさか間違って覚えてるとは……もしやこのアルティーティはあのアルティーティとは別人なのか……?)
さすがに自信がなくなってきた。
もしかしたら同じ境遇の別人を守ろうとしているのでは、という気さえしてくる。
内心頭を抱えている彼をよそに、アルティーティは何かを思い出したように手を打った。
「あ。絶対助けるって言ってくれました。だからわたしもいつもそう思って訓練してるんですよ。ひったくりから子供を守った時もそうでした」
彼女のはずんだ声に思わず小さくうなった。
(俺だ。たしかに、それは言った)
金髪云々は間違えて覚えてしまったのかもしれない。夕陽の加減で赤髪が金に見えたのかもしれない。身長も、3歳児から見たら大人はみな巨人に見えるだろう。
認める。彼女はあのアルティーティだ。
良かった、とほっとすると共にどこかむず痒い。
今思えば、あんな台詞恥ずかしい、のひとことしか出ない。
それくらい青くさい台詞だが、彼女は自分の信条のように掲げている。
(そいつは俺が、随分前に捨てたものなんだがな……)
口角は上がり、花が舞うような朗らかな笑みだ。心底嬉しそうに笑う彼女を複雑な思いで見つめた。
たった一瞬の思い出を、後生大事に磨き上げてきたのだろう。磨きすぎて別人に変換されていたが。
(……今の俺が、あの時の騎士だとわかったらガッカリするだろうな)
きっと目に見えて肩を落とすだろう。ため息どころか悲鳴をあげるかもしれない。
なにせ彼女が憧れた、向こう見ずで無鉄砲で王子のような彼が、仏頂面の鬼上官になってしまったのだから。
ジークフリートは決めた。絶対に名乗り出ない、と。夢は夢のままがいい。
「……まぁ、うちの騎士団だけでも千人はいるからな。他の騎士団員かもしれんな」
「そうですね。気長に探します……あ」
肩をすくめたアルティーティは、何かに気づいたように声を上げた。
「どうした?」
「あの時、隊長、『今のお前みたいなやつはいつか大事なものをなくす』って言ってたじゃないですか。もしかして、その人もなくしちゃったのかな、と思いまして」
あの時、というのがひったくりを捕らえた時だと気づくのに少しかかった。
たしかに言った気がする。しかしそれは、彼女があまりにも危なっかしかったからだ。昔の自分を見ているかのようで、見ていられなかった、とも言う。
自分のようにはなってほしくない。その一心だったのだが、彼女はそれに思うところがあったのだろう。
まさか自分の経験則から出た発言を、今出してこられるとは思ってもみない。面を食らったジークフリートは必要以上に表情を硬くした。
「……なぜ、そう思う?」
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