上官は秘密の旦那様。〜家族に虐げられた令嬢はこの契約結婚で幸せになる〜

見丘ユタ

文字の大きさ
34 / 97
1章

34.誰だそれは

しおりを挟む
【ジークフリート視点】





「それで、覚えてないのか? そいつの外見とか」

 食事を済ませ、ジークフリートはそれとない雰囲気を漂わせ彼女に聞いた。

 もしそいつジークフリートの外見を覚えているなら、事件の詳細も覚えている可能性が高い。当時は彼女もショックを受けたのか、何を聞いても黙ったままだったという。

(3歳の彼女が覚えているとは思えんが……)

 ジークフリートに緊張が走る。

 犯人につながる手がかりが、ようやく見つかるかもしれない。

 いや、剣を握れないほどの過去など思い出さないで欲しい。

 期待と焦燥感と、覚えていて欲しくない気持ちがせめぎ合う。

 そんな彼の気も知らず、アルティーティは考え込むようにしばらく下を向くと、口を開いた。

「ええと……あまり覚えていないんです。ただ……」

 その言葉の続きを、ジークフリートはなんともないふりをして見守る。

「サラサラの金髪で、宝石みたいにキラキラした目で、すごく身長高くてカッコいい人だったかなぁってことくらいですかね」
「誰だそれは」

 思わず心の声が口から漏れた。

 言わずもがな、ジークフリートの髪は金髪ではない。燃えるような赤髪と赤眼だ。身長もそこまで高くない。

 しかも、『だったかなぁ』とは。
 彼女も覚えているか自信がないということだ。『こんな感じだったかもしれない』という願望も入っていそうだ。

 目の前にいる人物がその人とは知らず、アルティーティは口を尖らせた。

「いや、わたしが聞きたいですよ。名前も知らないですし……騎士団に配属になれば分かると思ってたんですけど……」

『誰だそれは』という言葉を文字通りに受け取った彼女は、いじけたように両の人差し指をつつき合っている。

「他に何か覚えてないのか?」
「うーん……私を守りながら敵を殲滅できるくらい強い人ですかね……」

 それも違う。

 今ならばそれくらいできるが、当時は大して強くもなかった。必死で応戦したが数人取り逃した上に、自身も重傷を負っている。

 敵を殲滅するどころか、こちらが全滅する可能性の方が高かった。

(まさか間違って覚えてるとは……もしやこのアルティーティはあのアルティーティとは別人なのか……?)

 さすがに自信がなくなってきた。
 
 もしかしたら同じ境遇の別人を守ろうとしているのでは、という気さえしてくる。

 内心頭を抱えている彼をよそに、アルティーティは何かを思い出したように手を打った。

「あ。絶対助けるって言ってくれました。だからわたしもいつもそう思って訓練してるんですよ。ひったくりから子供を守った時もそうでした」

 彼女のはずんだ声に思わず小さくうなった。

(俺だ。たしかに、それは言った)

 金髪云々は間違えて覚えてしまったのかもしれない。夕陽の加減で赤髪が金に見えたのかもしれない。身長も、3歳児から見たら大人はみな巨人に見えるだろう。

 認める。彼女はあのアルティーティだ。

 良かった、とほっとすると共にどこかむず痒い。

 今思えば、あんな台詞恥ずかしい、のひとことしか出ない。
 それくらい青くさい台詞だが、彼女は自分の信条のように掲げている。

(そいつは俺が、随分前に捨てたものなんだがな……)

 口角は上がり、花が舞うような朗らかな笑みだ。心底嬉しそうに笑う彼女を複雑な思いで見つめた。

 たった一瞬の思い出を、後生大事に磨き上げてきたのだろう。磨きすぎて別人に変換されていたが。

(……今の俺が、あの時の騎士だとわかったらガッカリするだろうな)

 きっと目に見えて肩を落とすだろう。ため息どころか悲鳴をあげるかもしれない。

 なにせ彼女が憧れた、向こう見ずで無鉄砲で王子のような彼が、仏頂面の鬼上官になってしまったのだから。

 ジークフリートは決めた。絶対に名乗り出ない、と。夢は夢のままがいい。

「……まぁ、うちの騎士団だけでも千人はいるからな。他の騎士団員かもしれんな」
「そうですね。気長に探します……あ」

 肩をすくめたアルティーティは、何かに気づいたように声を上げた。

「どうした?」
「あの時、隊長、『今のお前みたいなやつはいつか大事なものをなくす』って言ってたじゃないですか。もしかして、その人もなくしちゃったのかな、と思いまして」

 あの時、というのがひったくりを捕らえた時だと気づくのに少しかかった。

 たしかに言った気がする。しかしそれは、彼女があまりにも危なっかしかったからだ。昔の自分を見ているかのようで、見ていられなかった、とも言う。

 自分のようにはなってほしくない。その一心だったのだが、彼女はそれに思うところがあったのだろう。

 まさか自分の経験則から出た発言を、今出してこられるとは思ってもみない。面を食らったジークフリートは必要以上に表情を硬くした。

「……なぜ、そう思う?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

8年ぶりに再会した男の子は、スパダリになっていました

柚木ゆず
恋愛
 美しく育てて金持ちに高く売る。ルファポール子爵家の三女ミーアは、両親達が幸せに暮らせるように『商品』として育てられてきました。  その結果19歳の夏に身体目当ての成金老人に買われてしまい、ミーアは地獄の日々を覚悟していたのですが―― 「予定より少々早い到着をお許しください。姫をお迎えにあがりました」  ミーアの前に現れたのは醜悪な老人ではなく、王子様のような青年だったのでした。 ※体調不良の影響で、現在一時的に感想欄を閉じさせていただいております。

【完結】何もできない妻が愛する隻眼騎士のためにできること

大森 樹
恋愛
辺境伯の娘であるナディアは、幼い頃ドラゴンに襲われているところを騎士エドムンドに助けられた。 それから十年が経過し、成長したナディアは国王陛下からあるお願いをされる。その願いとは『エドムンドとの結婚』だった。 幼い頃から憧れていたエドムンドとの結婚は、ナディアにとって願ってもいないことだったが、その結婚は妻というよりは『世話係』のようなものだった。 誰よりも強い騎士団長だったエドムンドは、ある事件で左目を失ってから騎士をやめ、酒を浴びるほど飲み、自堕落な生活を送っているため今はもう英雄とは思えない姿になっていた。 貴族令嬢らしいことは何もできない仮の妻が、愛する隻眼騎士のためにできることはあるのか? 前向き一途な辺境伯令嬢×俺様で不器用な最強騎士の物語です。 ※いつもお読みいただきありがとうございます。中途半端なところで長期間投稿止まってしまい申し訳ありません。2025年10月6日〜投稿再開しております。

処理中です...