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第一章
入学式の後悔と寮の隣人
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受付で貰った書類に書いてあった部屋に入ると、そこは一人部屋だった。
1LDKの部屋を思い浮かべてほしい。部屋の手前に居間があり、キッチンやシャワールームがある。そんな感じの部屋だ。
キッチンを付けるか否か。一人部屋か二人部屋かなど、選べるタイプは沢山ある。
俺は趣味で料理を作るのでつけてもらった。
シャワールームまで完備されているので部屋の外を彷徨く必要もない。
大浴場など苦手なのでそれが凄く嬉しかった。
そんな寮としては大きく見える部屋に入って、俺は大きく落ち込む。
「何でこんなことに……」
部屋に備え付けられている椅子に座り、肩を落とす。
入学しても平平凡凡どころかどん底で頑張ろうと思っていたのだ。
そうすれば俺の目立たないという目的も達成されるし、卒業すれば家族も喜ぶ。
それなのに、入学そうそう王太子に目を付けられた上に、幼馴染にまで狙い撃ちにされるとは思わなかった。
いや、決めつけるのは良くないが、俺の嫌な予感は昔から当たるのだ。絶対ウィリアムズが遊びに来る。そう確信していた。
俺は余り詳しくないが、クリスティーナも俺のことをよく思っていることは有名らしい。
その話は貴族どころか一般庶民にも広く広まっているからだ。よく使用人から聞かされたものだ。お似合いがどうこうって。
だからこそカイルにも揶揄われたのだし。仕方ないことだと思う。
でもそれを入学式で宣誓するなんて聞いてない。衝撃の展開だった。
そもそも学園長もだ。あんな演説されっちゃったらお先真っ暗だ。
「とりあえず、落ち着こう。多分この中に……」
俺は入学式の受付で渡された封筒を手に取った。結局カイルをあの場に置いて来てしまったが、多分大丈夫だろう。何かアイツ逞しそうだからな。
そこには予想通り白い封筒が入っていた。目録に入っていないものだ。
それを手に取り中に目を通す。
ヒロ・ステファンバーグ様へ
この度はご入学おめでとうございます。
入試の件に関して折り入ってお話したいことがございます。
4月2日の午後16時に学園長室へお越し下さい。
ファイブ・イージン
その手紙を見てヒロは内心感心した。
この手紙は一見個人情報が漏えいしやすい最悪の方法に見えるだろう。
他人に見られたらあっさりと入学式の件の人物の正体がばれる。
けれど、この手紙に使われている技術を思えば、最高の情報隠蔽だ。
まずこの手紙は相手の魔力認証型で、登録されている魔力以外を持つものが触れると、偽りの情報を映し出す。そして触れている者以外には偽りの情報しか見えない。
だからこれは実質特定の人物との連絡を取るのに用いられる最高の隠密連絡手段だ。
まあヒロみたいに相手の魔力に魔力波動を合わせられるものには通じないが、この世界にはない技術なので大丈夫だろう。
「それにしても明日か……」
気分が重くなって俯くと、ピンポーンと扉からチャイムの音が聞こえてきた。
誰だろうと席を立って玄関の扉を開く。
そこには栗色の髪に栗色の瞳の優しい目をしている青年がいた。
「こんにちは。隣の部屋のアルバート・ポッツだ。今日から三年間寮の部屋は変わらないだろ? だからよろしく」
「こんにちは。俺はヒロ・ステファンバーグです。よろしくお願いします、ポッツさん」
「ああ。よろしく。それより呼び捨てで良いし、名前で呼べよ。同い年だろ。俺もヒロって呼ぶし」
「わかったよ、アルバート」
アルバートははきはきとした様子でヒロにぐいぐいと迫ってくる。
確かポッツと名乗っていたので、バレン王国の子爵の出じゃないかな。
本に載っていたので暗記した甲斐があったが何故ヒロのところに来たのだろうか?
不思議に思っていると、他愛もない話をしていたアルバートがにっこりと笑い掛けてきた。
「今『なんで俺のところに来たんだろ』って思っただろ」
「えっ! いや……」
思わず言い当てられて反応してしまった。恥ずかしい。
その様子を見てアルバートはあっさりとネタ晴らしをする。
「今この学園で話題になっている有名人に会いたくてね。それにあんなに熱烈に想ってくれる子がいる人ってのを見て見たかったんだよね。彼女いい意味で人気者だからね」
「あ~。俺はそんなに目立つようなことした覚えはないんだけどな」
ぶっちゃけすぎる内容に苦笑する。
けれど、そのあっさりし過ぎる反応に、自分が過剰すぎる反応をしていたことに気付けた。
笑い飛ばされたことで余計な肩の荷が取れた俺は、アルバートに心の底から感謝する。
「そうだよなあ。お前あんま目立ってなかったし。陰口だって僻みじゃねえかって思ってたんだよな。あいつら他人のことなんて足を引っ張る道具としか見ちゃいない。ま、皆じゃないけどな。じゃあ荷物片付けたらよかったら一緒に食堂に行かないか?」
「わかった。じゃあ、また後でね」
そのまま一度別れて部屋の中へと戻る。
因みに俺がいるのは三階だ。二階は二人部屋が、そして一階は食堂や浴場などがある。
三学年分なので寮がとても大きい。実は寮だけで男女に分かれてそれぞれ三つあるのだ。
各学年で一つ。それに貴族用のサロンとかもあるらしいから侮れない。学園の施設は酷く広大だった。
俺は衣類を箪笥に仕舞うと、残った時間をお茶をして過ごすことにした。
夕方までのんびり過ごしていると、チャイムの音がまた響いた。
アルバートかなと扉を開くと、そこにはカイルがいた。そして一緒に食堂に行かないかと誘ってくる。
「あ、ごめん。アルバートと約束してるから一緒でもいい?」
「いいけど、アルバートって?」
「会えばわかる」
部屋の鍵を閉めて俺はまだ来ていないアルバートの部屋へと向かう。
俺の部屋は角部屋だ。隣はアルバートしかいない。
チャイムを押してる間にカイルと話をする。
「カイルは部屋の整理終わったのか?」
「ああ。ただこの階来るの結構勇気いるな。流石貴族階」
貴族階とはこの三階のことを指す。基本的に貴族しか一人部屋は選ばないからだ。
「カイルは同室は誰だったの?」
「ディオニシオってやつ。おっとりしてて話すと面白いぞ」
「そっか」
「はーい! あ、やっぱりヒロ! 今行くからって……」
ガチャリと開いた扉から出てきたアルバートはカイルを見て不思議そうにじっと見詰めた。
そして俺とカイルを交互に見てぽんと手を叩く。
「あ! ヒロの友達? 入学式で目立ってたよね? 俺はアルバート・ポッツ。同じくヒロの友達だ」
「よろしくアルバート。俺はカイル・バトソン。それと目立ってたのはヒロであって俺じゃない」
「それもそうだね。こちらこそよろしくね」
握手し合う二人を見て、ヒロは少しだけ置いてけぼりを喰らった。
ノリについていけない。というかこの二人ノリが軽すぎる。どうしてこんなに気軽にしていられるのだろう。
それ思うと世の中が物凄く理不尽に思えてきた気がした。見た目イケメンだし、性格いいし禿ればいいのに。
自分のことは棚に上げてそんな怨嗟に塗れた視線を思わず向けていると、二人は同時に俺の方を向いた。
「じゃ、食堂行こうぜ。席埋まっちまうらしいしな」
「そうそう。早く行かないと。学食も美味しいらしいし」
「そ、そうだな」
二人に押されるようにして歩き出す。三階の一番奥なので食堂からも遠い。急がなければ。
「そう言えばアルバートは何組?」
「ああ。Aクラスだよ」
「皆同じか。凄い偶然もあるもんだな」
そうしてわいわい騒ぎながら食堂へと移動したのだった。
友達と呼ばれたことが本当は凄く嬉しかったことを俺は二人には絶対に伝えないと心の中で決めた。
1LDKの部屋を思い浮かべてほしい。部屋の手前に居間があり、キッチンやシャワールームがある。そんな感じの部屋だ。
キッチンを付けるか否か。一人部屋か二人部屋かなど、選べるタイプは沢山ある。
俺は趣味で料理を作るのでつけてもらった。
シャワールームまで完備されているので部屋の外を彷徨く必要もない。
大浴場など苦手なのでそれが凄く嬉しかった。
そんな寮としては大きく見える部屋に入って、俺は大きく落ち込む。
「何でこんなことに……」
部屋に備え付けられている椅子に座り、肩を落とす。
入学しても平平凡凡どころかどん底で頑張ろうと思っていたのだ。
そうすれば俺の目立たないという目的も達成されるし、卒業すれば家族も喜ぶ。
それなのに、入学そうそう王太子に目を付けられた上に、幼馴染にまで狙い撃ちにされるとは思わなかった。
いや、決めつけるのは良くないが、俺の嫌な予感は昔から当たるのだ。絶対ウィリアムズが遊びに来る。そう確信していた。
俺は余り詳しくないが、クリスティーナも俺のことをよく思っていることは有名らしい。
その話は貴族どころか一般庶民にも広く広まっているからだ。よく使用人から聞かされたものだ。お似合いがどうこうって。
だからこそカイルにも揶揄われたのだし。仕方ないことだと思う。
でもそれを入学式で宣誓するなんて聞いてない。衝撃の展開だった。
そもそも学園長もだ。あんな演説されっちゃったらお先真っ暗だ。
「とりあえず、落ち着こう。多分この中に……」
俺は入学式の受付で渡された封筒を手に取った。結局カイルをあの場に置いて来てしまったが、多分大丈夫だろう。何かアイツ逞しそうだからな。
そこには予想通り白い封筒が入っていた。目録に入っていないものだ。
それを手に取り中に目を通す。
ヒロ・ステファンバーグ様へ
この度はご入学おめでとうございます。
入試の件に関して折り入ってお話したいことがございます。
4月2日の午後16時に学園長室へお越し下さい。
ファイブ・イージン
その手紙を見てヒロは内心感心した。
この手紙は一見個人情報が漏えいしやすい最悪の方法に見えるだろう。
他人に見られたらあっさりと入学式の件の人物の正体がばれる。
けれど、この手紙に使われている技術を思えば、最高の情報隠蔽だ。
まずこの手紙は相手の魔力認証型で、登録されている魔力以外を持つものが触れると、偽りの情報を映し出す。そして触れている者以外には偽りの情報しか見えない。
だからこれは実質特定の人物との連絡を取るのに用いられる最高の隠密連絡手段だ。
まあヒロみたいに相手の魔力に魔力波動を合わせられるものには通じないが、この世界にはない技術なので大丈夫だろう。
「それにしても明日か……」
気分が重くなって俯くと、ピンポーンと扉からチャイムの音が聞こえてきた。
誰だろうと席を立って玄関の扉を開く。
そこには栗色の髪に栗色の瞳の優しい目をしている青年がいた。
「こんにちは。隣の部屋のアルバート・ポッツだ。今日から三年間寮の部屋は変わらないだろ? だからよろしく」
「こんにちは。俺はヒロ・ステファンバーグです。よろしくお願いします、ポッツさん」
「ああ。よろしく。それより呼び捨てで良いし、名前で呼べよ。同い年だろ。俺もヒロって呼ぶし」
「わかったよ、アルバート」
アルバートははきはきとした様子でヒロにぐいぐいと迫ってくる。
確かポッツと名乗っていたので、バレン王国の子爵の出じゃないかな。
本に載っていたので暗記した甲斐があったが何故ヒロのところに来たのだろうか?
不思議に思っていると、他愛もない話をしていたアルバートがにっこりと笑い掛けてきた。
「今『なんで俺のところに来たんだろ』って思っただろ」
「えっ! いや……」
思わず言い当てられて反応してしまった。恥ずかしい。
その様子を見てアルバートはあっさりとネタ晴らしをする。
「今この学園で話題になっている有名人に会いたくてね。それにあんなに熱烈に想ってくれる子がいる人ってのを見て見たかったんだよね。彼女いい意味で人気者だからね」
「あ~。俺はそんなに目立つようなことした覚えはないんだけどな」
ぶっちゃけすぎる内容に苦笑する。
けれど、そのあっさりし過ぎる反応に、自分が過剰すぎる反応をしていたことに気付けた。
笑い飛ばされたことで余計な肩の荷が取れた俺は、アルバートに心の底から感謝する。
「そうだよなあ。お前あんま目立ってなかったし。陰口だって僻みじゃねえかって思ってたんだよな。あいつら他人のことなんて足を引っ張る道具としか見ちゃいない。ま、皆じゃないけどな。じゃあ荷物片付けたらよかったら一緒に食堂に行かないか?」
「わかった。じゃあ、また後でね」
そのまま一度別れて部屋の中へと戻る。
因みに俺がいるのは三階だ。二階は二人部屋が、そして一階は食堂や浴場などがある。
三学年分なので寮がとても大きい。実は寮だけで男女に分かれてそれぞれ三つあるのだ。
各学年で一つ。それに貴族用のサロンとかもあるらしいから侮れない。学園の施設は酷く広大だった。
俺は衣類を箪笥に仕舞うと、残った時間をお茶をして過ごすことにした。
夕方までのんびり過ごしていると、チャイムの音がまた響いた。
アルバートかなと扉を開くと、そこにはカイルがいた。そして一緒に食堂に行かないかと誘ってくる。
「あ、ごめん。アルバートと約束してるから一緒でもいい?」
「いいけど、アルバートって?」
「会えばわかる」
部屋の鍵を閉めて俺はまだ来ていないアルバートの部屋へと向かう。
俺の部屋は角部屋だ。隣はアルバートしかいない。
チャイムを押してる間にカイルと話をする。
「カイルは部屋の整理終わったのか?」
「ああ。ただこの階来るの結構勇気いるな。流石貴族階」
貴族階とはこの三階のことを指す。基本的に貴族しか一人部屋は選ばないからだ。
「カイルは同室は誰だったの?」
「ディオニシオってやつ。おっとりしてて話すと面白いぞ」
「そっか」
「はーい! あ、やっぱりヒロ! 今行くからって……」
ガチャリと開いた扉から出てきたアルバートはカイルを見て不思議そうにじっと見詰めた。
そして俺とカイルを交互に見てぽんと手を叩く。
「あ! ヒロの友達? 入学式で目立ってたよね? 俺はアルバート・ポッツ。同じくヒロの友達だ」
「よろしくアルバート。俺はカイル・バトソン。それと目立ってたのはヒロであって俺じゃない」
「それもそうだね。こちらこそよろしくね」
握手し合う二人を見て、ヒロは少しだけ置いてけぼりを喰らった。
ノリについていけない。というかこの二人ノリが軽すぎる。どうしてこんなに気軽にしていられるのだろう。
それ思うと世の中が物凄く理不尽に思えてきた気がした。見た目イケメンだし、性格いいし禿ればいいのに。
自分のことは棚に上げてそんな怨嗟に塗れた視線を思わず向けていると、二人は同時に俺の方を向いた。
「じゃ、食堂行こうぜ。席埋まっちまうらしいしな」
「そうそう。早く行かないと。学食も美味しいらしいし」
「そ、そうだな」
二人に押されるようにして歩き出す。三階の一番奥なので食堂からも遠い。急がなければ。
「そう言えばアルバートは何組?」
「ああ。Aクラスだよ」
「皆同じか。凄い偶然もあるもんだな」
そうしてわいわい騒ぎながら食堂へと移動したのだった。
友達と呼ばれたことが本当は凄く嬉しかったことを俺は二人には絶対に伝えないと心の中で決めた。
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