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第一章
出会いと始まり 1
「なぁなぁ、どっから来たん?」
「東京だよ」
「なんでこんなとこにー?何もないやろー」
「あはは…でもすごくいいとこだね」
チャイムが鳴り、大人が教室から出て行く。
待ちに待った休み時間が始まるなり、綾は生徒たちの格好の餌食となっていた。入れ替わり立ち替わり訪れる男子生徒たち一人一人に丁寧に対応してやる。そのたびに彼らは嬉しそうに微笑み、更に綾のことを知りたがった。
興味津々の眼差しでやってくる彼らは総じてお洒落な身なりをしていて、水色の制服を各々自分流にカスタマイズして着こなしている。規制があまりないのか、髪を染めている者もいればピアスが開いている者もいる。
綾は薄茶色に染まった自分の髪が案外目立たないことに少し驚き、安堵する。
「なあ、結城くん、やったっけ」
す、人だかりの中から、それを割るようにして一人の生徒が声をかけてきた。その瞬間、心なしか周りの生徒が大人しくなり、声の主のための道が開かれた。
水色の隙間から現れた彼は、ひときわ人の目を惹く容姿をしていた。
「ずっと見てたよ。すっごくカワイイね、惚れちゃいそう」
「あ、ありがと…?君は?」
「環春人。はると、でイイよ」
にこ、微笑んだ口元は綺麗に弧を描き、三日月型に細められた瞼の奥に見える瞳に綾は一瞬釘付けになった。
周囲とは一線を画す人、とは存在するものなのだ。例えるならば主人公、明るい金色に染められた髪が陽に透けて、まるで彼の纏う空気を示すかのようにキラキラと輝いている。
「結城くんは、名前、綾、やったよね。んー、じゃあ、りょーちゃん。これでい?」
首を僅かに傾け、笑顔のまま訊いてくる。
綾は、半ば自動的に頷いていた。
「うん、大丈夫」
「ね、りょーちゃん、まだここ慣れてないよね。今日の放課後、暇?」
「えと、特に予定はないけど…」
「案内したるよー。廊下で待ってるから」
ね、そう言って、春人は綾の返事も待たずに手を振って出て行った。
どうやら彼は、違うクラスだったらしい。
特に面白い話などない田舎の学校で、今最も旬の話題はもちろん物珍しい転校生のことで、更にその転校生がカワイイという噂は学年問わず多くの生徒たちを惹きつけてやまないらしい。中高一貫のこの学校は、意外と多くの生徒たちを抱えている。少し離れた中等部の生徒は流石に高等部までは来られないが、高等部のほとんどの生徒はこの二年舎に集まっていた。
ふと廊下に目をやれば、大勢の水色が見える。その全てが綾を見つめていた。
春人が離れると、今まで和気藹々と綾を囲んでいた生徒たちも少し気まずそうに笑って離れていった。
一人の男子生徒が控えめに綾の肩を叩き、囁く。
「…ま、頑張って。綾くん」
「え、なに?」
「俺らにはどうしようもないからなぁ…」
ごめんな、と呟いて、彼も綾の席を後にした。
ざわざわ、わいわい、授業のラスト、HRが終わると、喜びに満ちた生徒たちが続々と廊下に溢れ出してくる。綾も例外ではなく、鞄を片手にすれ違うクラスメイトたちに挨拶をしながら混雑した廊下へ向かう。
遠巻きに綾を見る生徒たちを尻目に彼を探すと、派手な金髪はあっという間に見つかった。
さっと片手を挙げた春人は手ぶらだ。
「りょーちゃんお疲れぇ」
「春人くん」
「春人でイイって。ほらこれプレゼント」
「あ、ありがとう」
言葉通り、教室の前で待っていた春人に缶ジュースを手渡され、綾は少しはにかみつつも微笑んだ。
今日一日、多くの人間が綾の元へ訪れた。正直、名前を覚えられたのはごく僅かだ。
「じゃ、いこっか」
しかし、にっこり笑ったこの環春人のことはとてもよく覚えていた。
いかにも女性が好みそうな細面の顔、色素の薄い彼には金髪がよく似合う。着崩した制服と複数個開いたピアスは、鬱陶しくない程度に自己主張をしている。
無意識のうちに、綾はそんな彼の雰囲気に惹かれていたのかも知れない。
食堂、図書室、購買…様々なところを巡りながら校舎を歩く二人のことを、周囲は羨望と憐憫の眼差しで見つめた。通常ならばすぐに帰宅する生徒たちも、今日ばかりは居残って様子を伺っているらしい。
見られることには慣れているが、遠巻きに眺められるのには慣れない綾は、その視線の意図を判じかねて少し居心地が悪い。そわそわ落ち着かない様子でそっと春人の袖を掴んで耳打ちする。
「ねぇ…なんかみんなこっち見てるね」
「そりゃーりょーちゃんと歩いてたらみんな見るよー」
「ぇえ、なんで?」
「りょーちゃん、カワイイからね」
「!?」
春人は軽やかに笑い、ぐ、綾の肩を抱き寄せ、耳元でちゅっと唇を鳴らす。細い指先が耳たぶを掠めて消える。
思わず身を引いた綾をからかうように、春人はあはは、と笑った。
「な、な、」
「んー?どしたの?」
(どしたの?じゃないよっ…!)
どきどきどき、心臓が音を立てる。
真っ赤な顔で耳を押さえた綾の身体は、身を引いた勢いのままぐらりと揺れた。
「お…っと」
すかさず春人がそれを支える。
固い床に叩きつけられるのを逃れた代わりに、綾はずるずると春人の腕の中に倒れこんでしまった。どく、どくと波打つ心臓と力の抜けた下半身。何が起きたのか分からないが、自らの唇から吐き出される吐息があつい。
しっかりと綾を抱きとめた春人はそんな綾を見て、心底心配そうに訊ねた。
「大丈夫?」
「ごめん、どうしたんだろ、なんか力入んなくて…気疲れかな」
「ちょっと休もっか。ちょうどここ、使われてないとこだし」
優しい春人に促されるままに、連れられた教室の近くの机に座り込んだ。
春人がにこにこと笑いながらゆっくりと髪を撫でてくれる。宥めるようなその手つきは優しかったが、くすぐったいような奇妙な感覚は収まることなく続いている。
(なんだか、もどかしい…)
髪を撫でる指先から熱が伝わって感覚が研ぎ澄まされていく。髪の毛の一本一本まで感じ取れそうになって、春人に触れられる感覚は何とも言えない気持ちよさで。
紅潮した顔を伏せ、両手を握りしめていると、その顔を覗き込むように春人が顔を寄せてきた。僅かにかかる春人の息遣いに、綾はピクリと反応する。
心配をかけたかな、と慌てて春人を見遣ると、彼の顔は一層楽しそうに笑っていた。
ああ、この笑顔に吸い込まれてしまいそうだ。綾が瞬きひとつ出来ずに春人に魅入ってしまったのを、彼は感じ取ったのかも知れない。その距離のまま、春人は綾の名前を呼んだ。
「ねぇ、りょーちゃん。一通り校舎は見て回ったけどさ、最後に重要なことが一つあるんだよね」
「ッ…な、何?」
耳元から流れ込んでくる、低い音。
わざと息を多く吐き出しながら紡がれる言葉。
春人が言葉を発するたびに、その吐息が触れるたびに、"なんとも言えない気持ちよさ"が身体を這い上ってくる。
「ここ。こんなとこだけど、ここには恋人同士の人間がたくさんいるの」
「え……?」
「みんなじゃないけどね?でも、俺はそーだよ」
クス、嬉しそうな響きが春人の唇から伝わってくると同時に、髪に触れていた優しい手のひらが綾の頭を強く引き寄せるものに変わった。それは春人の言葉を理解する間もなく、強制的に顔の向きを定められ、距離は更に近くなる。
「りょーちゃんは俺らみたいな人間にとって…とってもオイシソウ」
「なっ…なにそれ…ッ!?」
赤い舌が口元から覗いて消えた。
「食われる。」
そう思った時には既に呼吸は奪われ、空いた左手が綾の下半身を掴んでいた。
「ンンン、ふ、ぁ…ッッ!」
無理矢理捻じ込まれた舌が、綾の口内を暴れまわる。無遠慮に扱われているにも関わらず、綾の中心はみるみる形を変えて自己主張を始める。熱が上がる。春人の手の形が伝わってくる。駄目だ。流される。
とにかく無我夢中で春人の胸板を押し返し、綾は流れに抵抗する。わずかに出来た距離で見えた春人の顔は、先ほどまでの優しい笑顔とは全く違っていた。
愉しくて愉しくて堪らない顔。
欲で彩られた、愉悦の表情。
春人は自分の胸を押し返す手をいとも簡単に取り払い、いやらしく指を絡めながら言った。
「無理だよ。俺から逃げられるヤツはおらんのよ」
「なんで…」
「気持ちよくさせてあげる天才なん。りょーちゃん、運がイイね?」
普通は無理矢理ヤられちゃうんよ?
目だけ細めて、にっこり笑う。
(ダメだ、これだけでゾクゾクするッ…)
まさか、最初の耳へのキスでもう堕ちてしまっていたのか。嫌だ、嫌だ嫌だと頭の中では繰り返しながらも、身体が脳の指令を聞かなくて。固まったまま、硬い床に引き倒される。
「じゃ、りょーちゃん…カワイイ声で鳴いてよね」
春人の楽しそうな声を聞きながら、冷たい手のひらが上ってくるのを感じた。
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