156 / 184
商都フォレスト編
3-2 菜奈の救済?【細胞治療】の真価?
しおりを挟む
夕食時、あまり食の進まないミーニャを見ていたら可哀想になり、すぐにお母さんを診てやる気になった。
自分の身を犠牲にしてでも母を助けようとした、家族想いの良い娘なのだ。
「ミーニャの家はここから近いのか?」
「いえ、私の家は平民街ですので、15分ほど歩きます。ごめんなさい」
「そういう気遣いは要らないよ。いきなり俺が訪問しても大丈夫か?」
「メールでこれから行くとは伝えましたが……私は、また怒られるかもしれません……」
よくよく話を聞くと、どうもミーニャは家族に黙って自分の身を売ってお金を用意したみたいなのだ。単身奴隷商に赴き、自分の身で借りられるだけの最高額を借してくれと言ったら、終身契約での性行為等何でも可能な借金奴隷だったそうだ。
彼女は自分の一生を6千万ジェニーという額で売り渡したのだ。凄い覚悟がいったと思う……お金を持ち帰ったミーニャを当然両親は猛烈に怒った……母親は死んだ方がましだと憤り、お金を返してきて契約を解除してこいと言ったが、一度契約を結べば、例えその日であろうが返済には倍額のお金が要る。クーリングオフなんかない厳しい世界だ。とても払える額じゃないので、両親は仕方なくお金を受け取り、ミーニャと別れたそうだ。
実家に向かうミーニャの足がだんだん速くなってくる。気が急いてる証拠だが、周りの人にぶつかっても事なので注意する。
「ミーニャ、慌てて誰かにぶつかると厄介だから、普通に歩け」
「あ! ご主人様ごめんなさい……いつの間にか、速くなっていました……奥方様も申し訳ありません」
「ん、気持ちは解る……問題ない」
「ええ、大丈夫だよ。でも、兄様の言うとおり、誰かにぶつかって怪我とかさせちゃったら大変だから、ゆっくり歩こうね」
貴族街を抜けて一般区に入り、メイン通りを歩いていたら見知った顔を発見した。
「おや、バグナーさん。こんな時間にお出かけですか?」
「リョウマ様! 先日は勇者様御一行とつゆ知らず、大変申し訳ありませんでした! 何卒ご容赦くださいませ!」
あらら……そこまでへりくだらなくても良いのに……様呼ばわりになっちゃってるよ……。
「バグナーさん、これまで通り普通にしてください。で、どこかに行かれるのですか?」
「はい。先ほど商人ギルドと冒険者ギルドに赴き、事の仔細を報告し、契約を解除いたしてきました。その後、先に宿を確保してきて、これからこの娘たちを奴隷商に売り込んでくる予定です」
なるほど……例の2人か……。
「勇者様! どうか私をお救い下さいませ! 心を入れ替えて、あなた様に精一杯尽くしますので、娼館に売るのだけはお許しください!」
穀潰し娘が、ボロボロ泣きながら俺の足に縋り付いて懇願してきた。
「止めぬか!」
【奴隷紋】の権利をバグナーさんに渡しているので、ピタッと彼女の動きは止まる。まだボロボロ泣いているので、【奴隷紋】で行動は抑止されるが、感情まで制限はされないみたいだ。
「ねぇ、兄様……この人は別に犯罪者じゃないのですよね? ただ何もしなかっただけですよね?」
「うん? まぁそうだな。だが、その何もしないってのがこの世界ではダメなんだよ。働かざる者食うべからずだ。家に余裕のない世帯では、働けなくなったお年寄りは、神殿で安楽死してもらって口減らしをしているくらいなんだぞ。それなのに、健康体の農家の娘が働きもしないで、飯食って寝てただけとか、ふざけるなって話だ。彼女は自業自得だよ」
「でも、菜奈ずっとこの人の事が気になってたの……やっぱ一生性奴隷とかは可哀想かな。ねぇ兄様、この娘私に下さい」
「はぁ? なんでお前が問題児を引き取るんだよ。その娘は本当に何もやってこなかったんだぞ。掃除や洗濯は勿論、食器すら一度も洗ったことないんだぞ」
「えっ? マジですか?」
「マジマジ。ネトゲ廃人のパラサイトニートも真っ青な穀潰しだぞ」
流石に菜奈もこれには驚いたようだ……日本のニートでももう少しマシだろう。
「この娘、何歳なのですか?」
「17歳になったばかりだったかな」
「兄様、少しだけ様子を見てあげませんか? 半年……いや1カ月でいいです。本当に役に立たないバカ娘なら、売ってしまえばいいのではないですか? バカでないのなら、これから教えればいいだけです」
「ん、菜奈のいうとおり。売るのはいつでも可能」
再度穀潰し娘を見てみたが、うんうんと激しく頷いて懇願している……一度受けた『止めろ』の命令はまだ有効なんだな。
「君の匂いを嗅がせてもらう……少しでも悪臭がしたら、却下だ」
彼女に近付いて匂いを嗅いだが、悪臭は全くしなかった……盗人猫の方は近づくまでもなく、嫌な下水溝のような臭いが漂ってきている。
「ん、どちらかというと良い匂い?」
「そうですね……微香ですが、ジャスミン系の匂いがします。兄様、少しだけでも様子を見てあげませんか?」
「菜奈がそこまでいうなら、引き取るか……でも、奴隷のそそうは主人の責任になるので、俺が引き取る事にする。他人のせいで菜奈が責任を被るのは嫌だしね」
「ありがとうございます! 奥様方もお口添えありがとうございます! 一生懸命お仕事も覚えますので、ご指導してくださいませ」
「バグナーさん……という事になりました。彼女の手間賃が入らなくなりますが、替わりの手間賃が入る仕事をお任せしますので、ご容赦ください」
「いえいえ、お気になさらずに……替わりのお仕事というのは何でございましょう?」
「今、サーベルタイガーを持っているのですが、それをオークションにかけてもらいたいのです」
「サーベルタイガー!? 今持っているのですか? 是非今すぐ見たいです!」
「ちょっとここで出すのはは不味いでしょ……大騒ぎになります」
「確かに……サーベルタイガーなら、ギルドのアイテムボックスに預けて、年始のオークションに出すのが良いと思います。軍で狩るほどの魔獣ですので、高額で売れると思います」
「このサーベルタイガー、ちまたで『街道の耳無しタイガー』といわれているらしいのですが……」
「まさか、ヤツを退治したのですか! なら、億はいくでしょう! 是非わたくしめにお任せくだされ! 必ずや高額で捌いて見せます!」
現物は明日見せることにし、【奴隷紋】の譲渡をおこない彼女を引き取る。自分だけ売られる事になった盗人猫はめっちゃ睨んでたけど知ったこっちゃない。
「ご主人様、本当にありがとうございます!」
「菜奈に感謝するんだな……後、折角のチャンスを無駄にしない事だ。ダメだと思ったら容赦なく売り払うからな」
「はい! 今後は心を入れ替えて、一生懸命働きます。奥様、ありがとうございました」
「君の名を聞いておこうか」
「エリスといいます。よろしくお願いします」
可愛い名前だった。
「リョウマ様、その【奴隷紋】はあくまで仮のモノなので、早めに奴隷商に行って正式に更新しておいた方が宜しいですよ」
仮なので、盗賊や冒険者、貴族なんかに目を付けられる可能性があるそうだ。なにせ、口頭で権利を移動できるのだから、脅して権利を奪おうとする輩が結構いるようだ。
バグナーさんと別れて、ミーニャの家にあらためて向かう。
「ご主人様、ここが私の実家です」
大きくはないが、ちゃんとした一軒家だった……俺は勝手に貧困街のあばら家をイメージしていた。
ミーニャの家族は両親と、兄が1人と弟が1人の5人家族だった。稼ぎは両親と兄が冒険者として稼いでいたようで、それなりに稼げていたようだ。数年前より母の体調が悪くなり、父親と兄の2人で稼ぎに出るようになったが、最近は薬代や診察代で出費がかさみ、赤字分を貯蓄のほうから削って生活していたそうだ。
ミーニャの先導で家の中に入ると、鬼の形相で父親と兄らしき者から殺気を向けられた。どうも娘を性奴隷として買った貴族のボンボンと思われたようだ。
「お父さん止めて! ご主人様は態々お母さんの治療をする為にここまで足を運んで下さったのよ!」
「「ご主人様……」」
娘の『ご主人様』発言に、更に殺気が強くなった……既にお手付きになったと勘違いしたんだな……。
「ミーニャ、それより君のお母さんを診せてくれ……ここまで死臭が充満して臭っている……あまり長くないかもしれない。獣人のお前なら、臭いである程度分かっているだろ?」
「はい……少し離れた数日の間に、更に悪くなっているみたいです……こちらです……お母さんを助けてください……」
ミーニャは、既にボロボロ泣いている……匂いでもう助からない事が分かったのだろう……それほど強い死臭がしている。
寝室に入ると、ヒューヒューと喉で息をしているガリガリに痩せこけた女性がベッドに横たわっていた。
後ろで菜奈と雅の息をのむのが聞こえてくる。
「お母さん……ぐすん……ウェ~ン!」
「ミーニャ、大丈夫だ。お前が身を捨ててまで繋いだ俺との縁だ、無駄にはしない! 俺に任せておけ!」
「兄様素敵です!」
「ん! 龍馬カッコいい!」
「菜奈、雅、厄介そうだ、手伝ってくれ」
「はい」
「ん!」
「ミーニャ、3人でお母さんの服を脱がせてくれ。【クリーン】【ハウスクリーン】【エアーコンディショナー】【ウィンド】」
母親に浄化魔法を掛け、部屋をきれいにし、母親に寒くないようにエアコン魔法を掛けたのちに部屋の換気を行った。
妻を裸にすると知った旦那がとうとう怒りだしたが、【魔糸】で縛って【音波遮断】で声を封じ、部屋の中央で見える位置に【フロート】の魔法で浮かせておいた。部屋から追い出さなかったのは、俺がエッチな行為をしていない事をあえて見せるためだ。
「【ボディースキャン】これは酷いな……よくこれで生きていられるものだ」
ナビーの予想通り、癌だった……しかも現代医学でも治療不可能な末期のものだ。
「兄様……菜奈の診断だとあと2日ほどとなっていますが……これ、治せるのですか?」
「ん……正直無理だと思う……ミーニャごめん」
「菜奈も雅も駄目だな……治せる? 無理だと思う? 何言ってるんだ? 治すんだよ! 俺に不可能はない! 魔法はイメージが一番大事なんだ。ダメと思った時点でダメになる。無理と思った時点でそういうイメージが定着して治らなくなる。俺には治せない病気はない! 治せない怪我もない! そこで見ていろ! 【アクアフロー】【細胞治療】」
『という訳で……ナビー先生よろしくお願いします!』
『……あれほどカッコ良かったのに! 全部台無しですね! でも、マスターの言うとおり、イメージが大事なのです。治る事しか考えてないマスターに不可能はないですね』
癌転移もしていたが、1時間ほどかけて全て完治させた。魔素の停滞も酷かったので、それも可能な限り散らしておいた。見るからに顔色が良くなり、あれほど酷かった死臭も今は全くしなくなった。
「ミーニャ、完治だ。もう大丈夫だぞ」
ここで意識が混濁していた母親が目を覚ます。
「あれ? ミーニャ? 私、夢でも見ていたのかしら……ミーニャが奴隷になって売られちゃう夢を見ていたのよ……」
「ミーニャ、もう大丈夫なので、服を着せてあげて」
ここで、お父さんを解放してあげる。兄の方は騒ぐこともなく終始事の成り行きを見守っていた……殺気は抑えていたが、何かあったら即殺してやるって気配だったけどね。
家族で抱き合っている姿は微笑ましいものだ。菜奈はその光景を見て自分の両親の事を思いだしたのか、もらい泣きしている。帰ったら、今日はたっぷり甘やかせてあげよう。
***************************************************************
お読みくださりありがとうございます。
『騙され異世界』の方から入った方は、『また癌治療ネタかよ!』と思ったかもですが、この作品で言えば初だしですので、クレームなきようお願いします。
例の穀潰しな彼女ですが、龍馬君的には放置でしたが、作者的にちょっと迷って、菜奈をダシに使って救いました。
自分の身を犠牲にしてでも母を助けようとした、家族想いの良い娘なのだ。
「ミーニャの家はここから近いのか?」
「いえ、私の家は平民街ですので、15分ほど歩きます。ごめんなさい」
「そういう気遣いは要らないよ。いきなり俺が訪問しても大丈夫か?」
「メールでこれから行くとは伝えましたが……私は、また怒られるかもしれません……」
よくよく話を聞くと、どうもミーニャは家族に黙って自分の身を売ってお金を用意したみたいなのだ。単身奴隷商に赴き、自分の身で借りられるだけの最高額を借してくれと言ったら、終身契約での性行為等何でも可能な借金奴隷だったそうだ。
彼女は自分の一生を6千万ジェニーという額で売り渡したのだ。凄い覚悟がいったと思う……お金を持ち帰ったミーニャを当然両親は猛烈に怒った……母親は死んだ方がましだと憤り、お金を返してきて契約を解除してこいと言ったが、一度契約を結べば、例えその日であろうが返済には倍額のお金が要る。クーリングオフなんかない厳しい世界だ。とても払える額じゃないので、両親は仕方なくお金を受け取り、ミーニャと別れたそうだ。
実家に向かうミーニャの足がだんだん速くなってくる。気が急いてる証拠だが、周りの人にぶつかっても事なので注意する。
「ミーニャ、慌てて誰かにぶつかると厄介だから、普通に歩け」
「あ! ご主人様ごめんなさい……いつの間にか、速くなっていました……奥方様も申し訳ありません」
「ん、気持ちは解る……問題ない」
「ええ、大丈夫だよ。でも、兄様の言うとおり、誰かにぶつかって怪我とかさせちゃったら大変だから、ゆっくり歩こうね」
貴族街を抜けて一般区に入り、メイン通りを歩いていたら見知った顔を発見した。
「おや、バグナーさん。こんな時間にお出かけですか?」
「リョウマ様! 先日は勇者様御一行とつゆ知らず、大変申し訳ありませんでした! 何卒ご容赦くださいませ!」
あらら……そこまでへりくだらなくても良いのに……様呼ばわりになっちゃってるよ……。
「バグナーさん、これまで通り普通にしてください。で、どこかに行かれるのですか?」
「はい。先ほど商人ギルドと冒険者ギルドに赴き、事の仔細を報告し、契約を解除いたしてきました。その後、先に宿を確保してきて、これからこの娘たちを奴隷商に売り込んでくる予定です」
なるほど……例の2人か……。
「勇者様! どうか私をお救い下さいませ! 心を入れ替えて、あなた様に精一杯尽くしますので、娼館に売るのだけはお許しください!」
穀潰し娘が、ボロボロ泣きながら俺の足に縋り付いて懇願してきた。
「止めぬか!」
【奴隷紋】の権利をバグナーさんに渡しているので、ピタッと彼女の動きは止まる。まだボロボロ泣いているので、【奴隷紋】で行動は抑止されるが、感情まで制限はされないみたいだ。
「ねぇ、兄様……この人は別に犯罪者じゃないのですよね? ただ何もしなかっただけですよね?」
「うん? まぁそうだな。だが、その何もしないってのがこの世界ではダメなんだよ。働かざる者食うべからずだ。家に余裕のない世帯では、働けなくなったお年寄りは、神殿で安楽死してもらって口減らしをしているくらいなんだぞ。それなのに、健康体の農家の娘が働きもしないで、飯食って寝てただけとか、ふざけるなって話だ。彼女は自業自得だよ」
「でも、菜奈ずっとこの人の事が気になってたの……やっぱ一生性奴隷とかは可哀想かな。ねぇ兄様、この娘私に下さい」
「はぁ? なんでお前が問題児を引き取るんだよ。その娘は本当に何もやってこなかったんだぞ。掃除や洗濯は勿論、食器すら一度も洗ったことないんだぞ」
「えっ? マジですか?」
「マジマジ。ネトゲ廃人のパラサイトニートも真っ青な穀潰しだぞ」
流石に菜奈もこれには驚いたようだ……日本のニートでももう少しマシだろう。
「この娘、何歳なのですか?」
「17歳になったばかりだったかな」
「兄様、少しだけ様子を見てあげませんか? 半年……いや1カ月でいいです。本当に役に立たないバカ娘なら、売ってしまえばいいのではないですか? バカでないのなら、これから教えればいいだけです」
「ん、菜奈のいうとおり。売るのはいつでも可能」
再度穀潰し娘を見てみたが、うんうんと激しく頷いて懇願している……一度受けた『止めろ』の命令はまだ有効なんだな。
「君の匂いを嗅がせてもらう……少しでも悪臭がしたら、却下だ」
彼女に近付いて匂いを嗅いだが、悪臭は全くしなかった……盗人猫の方は近づくまでもなく、嫌な下水溝のような臭いが漂ってきている。
「ん、どちらかというと良い匂い?」
「そうですね……微香ですが、ジャスミン系の匂いがします。兄様、少しだけでも様子を見てあげませんか?」
「菜奈がそこまでいうなら、引き取るか……でも、奴隷のそそうは主人の責任になるので、俺が引き取る事にする。他人のせいで菜奈が責任を被るのは嫌だしね」
「ありがとうございます! 奥様方もお口添えありがとうございます! 一生懸命お仕事も覚えますので、ご指導してくださいませ」
「バグナーさん……という事になりました。彼女の手間賃が入らなくなりますが、替わりの手間賃が入る仕事をお任せしますので、ご容赦ください」
「いえいえ、お気になさらずに……替わりのお仕事というのは何でございましょう?」
「今、サーベルタイガーを持っているのですが、それをオークションにかけてもらいたいのです」
「サーベルタイガー!? 今持っているのですか? 是非今すぐ見たいです!」
「ちょっとここで出すのはは不味いでしょ……大騒ぎになります」
「確かに……サーベルタイガーなら、ギルドのアイテムボックスに預けて、年始のオークションに出すのが良いと思います。軍で狩るほどの魔獣ですので、高額で売れると思います」
「このサーベルタイガー、ちまたで『街道の耳無しタイガー』といわれているらしいのですが……」
「まさか、ヤツを退治したのですか! なら、億はいくでしょう! 是非わたくしめにお任せくだされ! 必ずや高額で捌いて見せます!」
現物は明日見せることにし、【奴隷紋】の譲渡をおこない彼女を引き取る。自分だけ売られる事になった盗人猫はめっちゃ睨んでたけど知ったこっちゃない。
「ご主人様、本当にありがとうございます!」
「菜奈に感謝するんだな……後、折角のチャンスを無駄にしない事だ。ダメだと思ったら容赦なく売り払うからな」
「はい! 今後は心を入れ替えて、一生懸命働きます。奥様、ありがとうございました」
「君の名を聞いておこうか」
「エリスといいます。よろしくお願いします」
可愛い名前だった。
「リョウマ様、その【奴隷紋】はあくまで仮のモノなので、早めに奴隷商に行って正式に更新しておいた方が宜しいですよ」
仮なので、盗賊や冒険者、貴族なんかに目を付けられる可能性があるそうだ。なにせ、口頭で権利を移動できるのだから、脅して権利を奪おうとする輩が結構いるようだ。
バグナーさんと別れて、ミーニャの家にあらためて向かう。
「ご主人様、ここが私の実家です」
大きくはないが、ちゃんとした一軒家だった……俺は勝手に貧困街のあばら家をイメージしていた。
ミーニャの家族は両親と、兄が1人と弟が1人の5人家族だった。稼ぎは両親と兄が冒険者として稼いでいたようで、それなりに稼げていたようだ。数年前より母の体調が悪くなり、父親と兄の2人で稼ぎに出るようになったが、最近は薬代や診察代で出費がかさみ、赤字分を貯蓄のほうから削って生活していたそうだ。
ミーニャの先導で家の中に入ると、鬼の形相で父親と兄らしき者から殺気を向けられた。どうも娘を性奴隷として買った貴族のボンボンと思われたようだ。
「お父さん止めて! ご主人様は態々お母さんの治療をする為にここまで足を運んで下さったのよ!」
「「ご主人様……」」
娘の『ご主人様』発言に、更に殺気が強くなった……既にお手付きになったと勘違いしたんだな……。
「ミーニャ、それより君のお母さんを診せてくれ……ここまで死臭が充満して臭っている……あまり長くないかもしれない。獣人のお前なら、臭いである程度分かっているだろ?」
「はい……少し離れた数日の間に、更に悪くなっているみたいです……こちらです……お母さんを助けてください……」
ミーニャは、既にボロボロ泣いている……匂いでもう助からない事が分かったのだろう……それほど強い死臭がしている。
寝室に入ると、ヒューヒューと喉で息をしているガリガリに痩せこけた女性がベッドに横たわっていた。
後ろで菜奈と雅の息をのむのが聞こえてくる。
「お母さん……ぐすん……ウェ~ン!」
「ミーニャ、大丈夫だ。お前が身を捨ててまで繋いだ俺との縁だ、無駄にはしない! 俺に任せておけ!」
「兄様素敵です!」
「ん! 龍馬カッコいい!」
「菜奈、雅、厄介そうだ、手伝ってくれ」
「はい」
「ん!」
「ミーニャ、3人でお母さんの服を脱がせてくれ。【クリーン】【ハウスクリーン】【エアーコンディショナー】【ウィンド】」
母親に浄化魔法を掛け、部屋をきれいにし、母親に寒くないようにエアコン魔法を掛けたのちに部屋の換気を行った。
妻を裸にすると知った旦那がとうとう怒りだしたが、【魔糸】で縛って【音波遮断】で声を封じ、部屋の中央で見える位置に【フロート】の魔法で浮かせておいた。部屋から追い出さなかったのは、俺がエッチな行為をしていない事をあえて見せるためだ。
「【ボディースキャン】これは酷いな……よくこれで生きていられるものだ」
ナビーの予想通り、癌だった……しかも現代医学でも治療不可能な末期のものだ。
「兄様……菜奈の診断だとあと2日ほどとなっていますが……これ、治せるのですか?」
「ん……正直無理だと思う……ミーニャごめん」
「菜奈も雅も駄目だな……治せる? 無理だと思う? 何言ってるんだ? 治すんだよ! 俺に不可能はない! 魔法はイメージが一番大事なんだ。ダメと思った時点でダメになる。無理と思った時点でそういうイメージが定着して治らなくなる。俺には治せない病気はない! 治せない怪我もない! そこで見ていろ! 【アクアフロー】【細胞治療】」
『という訳で……ナビー先生よろしくお願いします!』
『……あれほどカッコ良かったのに! 全部台無しですね! でも、マスターの言うとおり、イメージが大事なのです。治る事しか考えてないマスターに不可能はないですね』
癌転移もしていたが、1時間ほどかけて全て完治させた。魔素の停滞も酷かったので、それも可能な限り散らしておいた。見るからに顔色が良くなり、あれほど酷かった死臭も今は全くしなくなった。
「ミーニャ、完治だ。もう大丈夫だぞ」
ここで意識が混濁していた母親が目を覚ます。
「あれ? ミーニャ? 私、夢でも見ていたのかしら……ミーニャが奴隷になって売られちゃう夢を見ていたのよ……」
「ミーニャ、もう大丈夫なので、服を着せてあげて」
ここで、お父さんを解放してあげる。兄の方は騒ぐこともなく終始事の成り行きを見守っていた……殺気は抑えていたが、何かあったら即殺してやるって気配だったけどね。
家族で抱き合っている姿は微笑ましいものだ。菜奈はその光景を見て自分の両親の事を思いだしたのか、もらい泣きしている。帰ったら、今日はたっぷり甘やかせてあげよう。
***************************************************************
お読みくださりありがとうございます。
『騙され異世界』の方から入った方は、『また癌治療ネタかよ!』と思ったかもですが、この作品で言えば初だしですので、クレームなきようお願いします。
例の穀潰しな彼女ですが、龍馬君的には放置でしたが、作者的にちょっと迷って、菜奈をダシに使って救いました。
41
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる