女神様から同情された結果こうなった

回復師

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学園ロワイヤル編 7・8日目

1-7-5 殺すための理由?【フェイク】?

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 俺を中心に男女が左右に分かれて対峙している。
 俺から見て右側に美弥ちゃん先生・桜・菜奈、左側に教頭の坂下・英語教師の大谷・高2の男子生徒泉本だ。

 これから3対3のチーム戦が行われるのだが、女性陣は死闘のつもりで決死の覚悟で殺気を孕んでいる。一方男性陣は4レベルほど上なので余裕を見せている。俺の鑑定では大谷がレベル19になっていた。主なコロニーは先回りで潰して狩らせていないが、教頭たちは周辺の雑魚を狩って今日半日で2レベルも上げているのだ。おそらくコロニーから狩りに出ていたオークをくまなく探して狩ったんだろう。

 一方菜奈たちは俺の経験値増量があるのだが、30人の大所帯だった為1レベル上がっただけで現在レベルが15、美弥ちゃん先生はB班だった為レベル13しかない。

 パーティー内の人数が増えると安全性は高まるが、経験値が人数割りになってしまうのでレベル上げの場合その分魔獣の数を倒す必要がある。レイドPTを組むとメリットとデメリットがあるという事だ。



「審判として確認する。この決闘はお互いの生殺与奪を掛けた死闘って事でいいんだな?」

「「「ああ、そうだ」」」
「「「それでいいわ」」」

「1つ審判に確認だ。俺たちが勝った場合、その娘らを好きにしていいんだな? 決着後、お前が邪魔したりするんじゃないか?」

「絶対邪魔しないとは言い切れないな。菜奈とは兄妹だしな。目の前で嬲り殺されそうだったり、レイプされそうなら助けに入るのが普通じゃないか? 俺を審判に選ぶ方がおかしいと思うぞ?」

「確かにそうだな。まぁいい。彼女たちに大怪我を負わすつもりはない。だから戦闘中に邪魔はするなよ? 流石に4対3はズルイからな」

「そんな事はしないよ」
「ならいい。始めてくれ」

 大谷のやつ、レベル差が4つもあると思ってメッチャ余裕をかましていやがる。実際4レベル差というのはかなり優位なんだよな。レベルが上がる際に基本ステータスもレベルアップ補正が掛かって1レベルでも筋力や素早さ、知力、HP・MP全てに於いてプラスされる。獲得しているジョブ補正も入ると魔術師なら知力や精神とMPが大幅に上がるし、戦士系なら筋力や防御力やHPがプラス補正される事が多い。4レベルも差があるとどの項目も10~100ほど数値に差が出るのだ。この差が大きいと致命的になる。

 だが菜奈たちが負ける事は100%ないだろう。理由は俺が奈菜にコピーしてあげた中の4つのスキルのせいだ。【マジックシールド】【無詠唱】【多重詠唱】【ホーミング】この4つがあれば負ける事は絶対ない。

 俺が心配しているのは勝敗でなく、殺人をしようとしている彼女たちの心の方だ。  

 10年も一緒にいる菜奈の事は理解している。おそらく奈菜は教頭を殺せないだろう。相手が佐竹ならひょっとしたらあり得るかもしれないが、幾ら嫌悪する教頭が相手でも、まだ未遂でもないのだ。事を起こしたのならまだしも、卑猥な発言をした程度で菜奈が本気で人を殺すとは思えないのだ。

 美弥ちゃん先生も皆の事を想って汚れ役をかって自分で手を下そうとしているようだが、先生は菜奈以上に優しくて甘い人だ。殺すどころか躊躇して怪我をしないか心配だ。

 一番心配しているのは桜の事だ。
 俺は正直彼女の事をあまり知らない……結婚する気でいるのに実際桜の事は何も知らないのだ。美弥ちゃん先生ほど解りやすければいいが、桜は時々感情を隠して見せないから、性格の方も本性はよく分からない。間違いなく良い娘だが、もっとお互いを知る必要がある。

 桜が本当に人を殺すかも知れないと思うと、殺したその後が凄く心配だ。
 俺はバスケ部キャプテンの藤井を殺してから、あいつの助けてくれという叫び声が耳から離れない。あいつは女子に恨みを買って嬲り殺されたのだ。失血死で死ぬまですぐ死なないようにヒールを掛けながら何度も苦痛を与えられてあいつは逝った。

 もし桜が人を殺したら、同じようにその最後の言葉や悲鳴や叫びが一生耳に残るだろう。本当にやつらが襲ってきたのならこのような後悔も薄れるのだろうが、今の状況はヤラレル前にヤル……というちょっと行き過ぎた自衛の為の殺人なのだ。本当に殺してしまうと一生尾を引くはずだ。

 俺がこうやって殺人をしたことを引きずっているのは、藤井や吉本が俺に直接殺すほどの関係性が無かったからだ。あいつらが殺したり犯したりしたのは俺に全く関係が無い第三者だからこうやって尾を引いているのだ。もし体育館のレイプ事件が、俺の留守中に料理部の子がレイプされていたとかなら、藤井を殺した事に一切後悔も迷いもないだろう。

 人の感情とは不思議なものだ。
 殺すのにちょっとした理由があれば、そこに正統性を自分で勝手に付けて、罪の意識を薄くする。この殺人に意味が無いとは言わないが、きっと後悔する。奴らはまだ殺すほどの事は何もしてないからだ。理由付けはできても、自分で正当性を見い出せない限りは、罪の意識は薄くならないはずだ。



「両者準備はいいか?」

 全員が頷く。

「じゃあ、始め!」

 戦闘は予想どおり僅か5秒で終わった。散々皆には教え込んでいたから、訓練どおりともいえる。
 結果を先に言うと彼女たちは誰も殺していない。思った通り殺せなかった。

 5秒の間に何が起こったかだが、俺の開始の合図と同時に泉本が大谷に支援魔法の詠唱を、教頭がおそらく美弥ちゃんを狙って攻撃魔法の詠唱に入り、大谷が詠唱中断されないよう守るために一歩前に出た。

 スムーズな動きで良く練習された連携だが、悪いがうちはチートスキル持ちだ。

 こっちは向こうが詠唱に入ってすぐ、菜奈が【無詠唱】で3人に【サンダラボール】を放ち硬直させる。間を置かず【マジックシールド】【プロテス】【シェル】を張るが、必要も無かった。

 桜は菜奈がスキルを放ったのを確認して、硬直中の泉本に剣を突き刺した。一瞬俺は『あっ!』っと思ったが、刺した場所は心臓でなく左肩だった。俺の訓練では狙うのは心臓か喉元なのだが、心臓を狙った攻撃は、躊躇して刺せなかったようだ。急所を外して刺した個所は心臓のかなり上の肩なのだ。

 俺的には桜が人を殺さなくて本当に良かったと思っている。

 美弥ちゃんは桜が突っ込んだ後、追従するように教頭に突っ込んでいき、杖で顎を打ち砕いていた。これも本当は殺すのが前提なら、頭を直殴りで即死させる筈なのだが、顎を殴って昏倒させている。

 菜奈が大谷に再度【サンダラボール】を打ち込みそうなのでここで俺が決闘を止めた。
 魔法職の教頭と泉本は魔術耐性が高いので菜奈の魔法も耐えられたが、剣士の大谷は最初の菜奈の魔法で既に瀕死状態だ。これ以上食らうと本当に死んでしまう。

 桜に刺された泉本と、瀕死の大谷に死なないように初級ヒールを掛けてやる。初級じゃ全回復しないが、それ以上は自分たちでやれ。教頭たちは負けて悔しそうな顔をしていたが、それ以上に沈んだ顔をしていたのがうちの勝った3人の方だ。

「龍馬君ごめん……偉そうなこと言ったのに」
「兄様、ごめんなさい。菜奈は殺せませんでした……」
「ヒック……グスン」

 美弥ちゃん先生に至っては鼻水を流しながら泣いている。殴っただけでも死ぬかもしれないと思い怖かったんだろう。

「3人ともこれでいいんだ。殺すほどの罪状がないのに決闘とかでこじつけて殺しちゃいけない。それやっちゃうと一生後悔するからね。そのうち本当に人を殺さないといけない事はあるかもしれないけど、それは今じゃない」

「でも……この人たち、生かしておくとうちの可愛い生徒に……手出ししてくるかもしれないよ。グスッ……先生そんなの絶対嫌だから、私が頑張って殺してしまおうと思ってたのに……グスン」

 泣きながらしゃべるから聞き取りにくい……涙と鼻水で顔はグシャグシャだが、それでも可愛い先生だ。

「そうかもだけど、未遂でもない今は殺すのは違うと思うな」
「白石、俺たちをどうする気だ?」

 負けると思ってなかった大谷が不安げに俺に聞いてきた。なにせ勝った方に生殺与奪の権利があるのだ。

「タカナシだ! 泉本、もう1回俺に鑑識を掛けてみろ」

 俺は【フェイク】で種族レベルを63に見せかけている。スキルや称号や祝福なども見せないようにしている。ステータスもHP21792とか適当に見せかけた。実際はこんなにないのだがハッタリだ。 

「なっ! 何だそのレベルは!」
「どうした泉本?」

「大谷先生! あいつのレベル、63もある。HPも21792とか……それに全部見えない。何かステータスに細工してあるんだ……ひょっとしたら、他の3人も隠ぺい魔法で細工しているのかもしれない……そうじゃなきゃ、俺たちの方が高いレベルなのに、こうもあっさり負けるはずがない! 騙してやがったんだ!」

「何だと!?」

「そういう事だ。言っておくが他の女子も皆レベル高いぞ。お前らなんか奈菜1人いれば十分だ。いや違うな……誰でもいいや、うちのグループの女子の誰が相手でも、お前らが束になっても勝てないよ! あはは! いつでも殺せるし、お前らなんか殺す価値もない。お前たちが【クリスタルプレート】で現在閲覧できるのはレベル30の上級スキル程度までだ。お前たちが知らない高レベル専用の禁呪スキルも俺は山のように持っているぞ。もういいから出て行けよ、目障りだ! 二度とちょっかい出すんじゃないぞ? 次は殺すからな」

 『ヒッ!』っと言って奴らは這うように出て行った。

 この辺の魔獣だけでレベル63とかになるには数年かかると思う。こんな短期間では絶対無理な数字だ。あいつらも頑張ってレベルをちょっと上げても、もううちに挑もうとは思わないだろう。


「あの? 龍馬君? レベル63って本当?」
「嘘だよ。【フェイク】って言うスキルでそう見せかけただけだ。俺の本当のレベルは26だ。ハッタリだけど、桜たちのレベルも隠ぺいしているものだと勘違いしてくれたみたいだから、これで教頭たちは2度と襲ってこないだろう。他の料理部の女子もレベルを隠していて強いかもと思ったはずだ。怖くてそうそう手出しできないだろうね」

「そうね、でも私たちに本当のレベルを教えてくれて良かったの? 【フェイク】ってスキルも人に教えたくないから獲得したスキルなんだよね?」

「うん。桜の言うとおり秘匿するために獲得したスキルだけど、今更婚約者に隠す必要も無いだろ? もう、桜や美弥ちゃんの事は信用している」

「そう! 嬉しいわ!」

 これまでいろいろ秘密主義で通してきたから、桜は嬉しかったのか凄く良い笑顔を見せてくれた。

 桜、その笑顔は可愛すぎだ!
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