女神様から同情された結果こうなった

回復師

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学園ロワイヤル編 9・10日目

1-9ー2 粘土採取?巨猪GET?

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 桜と学園を出て、魔獣を狩りながら粘土の採取場所に向かう。
 途中に何ケ所か良質の薬草採取場所や、キノコなどもあるそうだが、ナビーの指示ではとにかく先に土だそうだ。

 約25kmの距離だったが結構なハイペースで、90分で到着する。魔獣を無視すれば1時間掛からなかったかもしれない。結構険しい道なき道だったにも拘らずこの短時間だ。2人とも、完全に人間辞めちゃっている。

「桜、結構ハイペースできたけど大丈夫? 疲れてない?」
「ええ、平気よ。APポイント使っての【身体強化】とか【敏捷】のパッシブってほんと反則だよ。アスリートバカにしてる……努力とか根性なんて言葉とは無縁な世界だよね」

「うん。でも理不尽に強制転移しちゃったんだから、お詫びと思って有意義に使わせてもらって楽しんじゃおう」
「そうね。フィリアも私たちが楽しそうにしてたら少しは気も紛れるでしょうしね」

 料理部内ではすっかり身内扱にまで馴染んだが、フィリアは当のミスをやらかした張本人。恨んでもおかしくないのだが、フィリアをこうやって気遣ってくれる。桜ってやっぱ良い娘だよな。



 ほどなく現地に到着して土を採取する。
 空間指定でごっそりそのままシールド内に閉じ込めて、【インベントリ】内のナビー工房に放り込むだけだ。

 こんなに要るのかってぐらいの量を確保させられて、やっとナビーに解放される。

『……マスター、後はお任せください。夕刻までには試作第一号の【ログハウス・タイプA】が完成します』
『そんなに早く出来るのか?』

『……基礎と金属部品などの各種パーツはもう粗方できていますので、後は組み立てるだけです。このログハウスには小規模ながら鍛冶場を設置しますので、刀や剣の仕上げ作業ができるように整えておきますね』

『ああ、宜しく頼む。それと雅・桜・菜奈・穂香・フィリア・沙織・未来・美弥ちゃんの順で順次武器の原型を作っておいてくれるか? 【プランクリエイト】の方にそれぞれの特性に合った設計図を昨晩用意してある』

『……はい。その通りの物を既に用意できています』
『え!? こらっ! 指示出しの前に勝手に造っちゃダメだろ!』

『……金属素材なので、溶かして、錬金術で分解練成すれば何度でも再利用できますから何の問題もないのです。むしろ熟練度を上げるために何度も繰り返しやっています』

『ん? でも熟練度は全部Lv10にしてあるだろ?』
『……勇者補正のLv10と実際に造ってやりこんでいるLv10ではその差に雲泥の差が出ます。マスターならご存知ですよね?』

『だな。うん、ナビーに任せるよ。素材を無駄にしないなら好きに使っていい』
『……はい。ありがとうございます。でも、金属素材が何度も再利用できると言っても多少は減りますからね』

『ああ、叩きや研ぎの段階で金属粉なんかになって減っていくんだろ?』
『……その通りです。少量ですが繰り返せばそれなりの量になってきます』

『いや構わない……そのくらいは必要経費だ。実地で熟練度を上げた方が将来的に良いからね』
『……了解しました。では、何かあったらお知らせします』


「さて、粘土は十分確保できたから狩りや採取しながら学園に戻るよ」
「うん。龍馬君、この粘土って焼き物とかに使えないのかな?」

「使えるよ。鍛冶用の炉や耐火煉瓦に使うつもりなんだけど、食器や花瓶なんかにも使えるよ。なんで?」
「陶芸にも少し興味があって、自分の食器とか作ってみたいな~って前から思ってたのよね」

『ナビー! 【陶芸工房】をログハウスに追加だ!』
『……残念ながら【ログハウス・タイプA】にはスペースが足りません。町に行ってから使う予定の館の方になら増設可能ですのでそちらの方ではダメでしょうか?』

『ああ、そっちで良いので宜しく頼む。陶芸も今日すぐって訳じゃないからね』

「陶芸もいいね。自分で造った茶碗とかで食べると、もっと美味しく感じるかもね」
「でしょ! こっちの世界にも陶芸はあるのかな?」

「勿論あるけど、俺が自分の家に工房を構えるからなくても問題ないよ」
「あはは、なければ造っちゃえばいいのね。ひょっとして、データがあるの?」

「クククッ、勿論あるとも! 中世タイプから現代仕様の物まで焼き釜は絶対いると思ってデーター収集済みだ!」

「あはは、あなたって人は呆れちゃうほどやってる事は中二臭くておバカなのに、私の好みにドンピシャで、もうメロメロよ。そか……老後にでもできればいいなって思ってた陶芸にも挑戦できるんだね」

 ドンピシャでメロメロ! マジか!? 凄く嬉しい!

 その時俺の【周辺検索】に魔獣が引っ掛かった。引っ掛かったというのは、知らせるアラートに条件を付けていたからだ。俺が付けた条件は、食材と素材、そして魔石に価値がある物だ。

『……マスター、スタンプボアの上位種です。スタンプ・マッド・ボア、700kg超えの大物です。間違いなく美味しい筈です。これ、ナビーも味見したいです!』

『それほどのものなの? マッドってMADのマッドだよね? 狂ってるんだよね? 狂犬病とかのウイルスに犯されてるとかじゃないよね?』

『……マスターは心配性ですね。そんな危ないモノお勧めしませんよ。狂ってるほど危険な奴っていう意味だそうです。ジェネラル同様オークション級のお肉です』

『了解した。狩らないってのはないな』


「桜、魔獣タイプの猪が9kmぐらい離れた下流に居る。どうも上位種らしくて凄く美味しいらしい。その肉はキングやジェネラル同様オークションに懸けられるそうだ」

「どこ!? 勿論狩っていくでしょ? 絶対逃がさないでね!」

 桜に狩らないという選択肢はないようだ。そういえば最上級のイベリコ豚を独自のルートで買う変態部長だったな。

「でも、上位種だけあって強いしデカいぞ。その名もスタンプ・マッド・ボア! スタンプの名の由来は鼻でぺしゃんこ攻撃してくるからだそうだ」

「MADって、名前からして凄そうね? 勝てそう?」
「魔獣ランクではAランク相当だからジェネラルより強いけど、キングより弱いってとこかな」

「めちゃくちゃ強いじゃない! どうするの?」
「ん? 桜1人で勝てるぞ?」

「え? そうなの?」
「ああ、勝てる。でも素材を傷めると嫌だから2人で連携して倒そうか」


 9kmの移動中に蜘蛛を2匹と兎が2匹狩れた。蜘蛛はストリング・スパイダーと言って、絹より丈夫で滑らかな上質の糸を出す糸蜘蛛だ。ナビーが今この蜘蛛の糸を紡いで服を作ろうと色々やっているようで、当然この蜘蛛もナビー行きになった。

「私、あのクモの魔獣は苦手……」
「蜘蛛というより昆虫全般苦手なんじゃないか? 今は冬だからいいけど、夏になるといろんなのが出るらしいぞ」

「うぇ~、ムカデとかも嫌だな。まさかでっかいGとか居ないよね?」
「いるんだよね……でっかいG。1mほどの奴がガサガサってきて急に飛んで襲ってきたりするらしい」

 桜はその様子を想像してしまったのかブルッと震えた。

 そして現地に到着したのだが……。

「何あれ? ちょっと龍馬君、あれは無理でしょ! あれじゃ乗用車じゃない! 車と正面衝突なんて嫌よ!」

 猪を発見し、離れた所から観察しているのだが、とにかくでかい。700kg超えとかナビーが言ってたけど、軽自動車ぐらいの大きさは有りそうだ。

「う~ん。どうやって倒す?」
「マジで? あれ倒すの? てか、あの猪、穴なんか掘って何しているの?」

「ほら、上の木を見てごらん」
「ああ、自然薯ね。芋掘りに夢中なんだ」

 猪が鼻や足を使って一生懸命に掘っている穴の周囲の木には、黄色いハート形の葉を持つ弦が巻き付いている。
 自然薯を掘る時はまずこの弦を探すのだ。夏場は緑の葉だが秋になると紅葉して黄色くなって目立つので探しやすくなる。


「じゃあ、俺が魔法で奴の足元を凍らせて動きを封じるから、桜は首か心臓を剣で一突きにして倒して」
「おっかないけど、丸々太って美味しそうだから頑張ってみるわ。傷んじゃうからハツはダメね」

 桜の食い気は半端ないね。心臓じゃなくてハツとか言っているし……あの巨猪の恐怖を凌駕するんだから、俺的には猪より桜の方がちょっと怖い。


 俺は【アイスラボール】を凍らせないで、液体窒素のイメージで猪の足元に5発放った。

 ブギーという叫びをあげ、襲ってこようとするが、完全に足が凍ってしまっている。無理に動いたので前足の一本が折れて砕けたほどだ。桜は一瞬で距離を詰め首元を薙いだ。

「駄目だ桜!」

 俺は突けと指示していたのに、首を落とそうと薙ぎにいったのだが、大きいうえに奴の体毛は凄まじく丈夫で剣の刃など通らない。美咲先輩や雅なら落とせるだろうが、桜の腕ではまだ無理だ。

 剣の間合いは奴の間合いでもある。桜は牙で逆に胸元を突かれ10mほど吹き飛んで、大木にぶつかってやっと止まった。全身を強打したが【マジックシールド】のおかげでダメージ自体はないようだ。衝突の衝撃は強かったようで、まだ立てないみたいで、木の下でへたり込んでこちらを見ている。

 俺は猪に近づき延髄を断つように首に刺し込んだ。猪はビクッと震えてすぐに絶命する。

「桜、大丈夫か?【クリーン】」
「ごめんなさい、ドジっちゃったわ。そうやって殺すのね」

「ああ、奴の毛は鋼のように硬いから、美咲先輩や雅クラスの腕でもないと首は落とせないよ。だから突いて頸動脈を切って出血死か延髄を断ち切るように突くか、心臓を一突きかが理想なんだよね。でも心臓って人型と違ってどこにあるか分かりにくいからね。闘牛士のようなやり方が一番いいんだよ」

「それにしてもでっかいね。急いで血抜きと冷却しなきゃ。でも2人じゃ大変よねこれ……どうしようか?」
「俺に任せてくれ。全部こっちでやっておくよ」

「なんか秘密がありそうだけど、聞かないでおくわ」

『ナビー、こいつをさっそく食べる。夕飯までに血抜きと熟成も宜しく。牡丹鍋にするので薄くスライスしておいてくれ』

『……了解です。もう少し下ったところに大きな自然薯と、松茸が群生してる場所があるのでMAPに☆を付けておきますね』

『ああ、ありがとう。夕飯が楽しみだ』



 桜はさっきの狩りでちょっと興奮気味だな。


「桜、少し開けた場所があるのでそこで少し早いけどお昼にしよう」
「そうね。結構移動したので、お腹ペコペコ」


「今朝俺が握ったおにぎりだけど、それでいい?」
「そうなの? 龍馬君のにぎったおにぎりとか、なんか楽しみ! 早く行きましょ」


 桜に急かされて、昼食を食べるのに良さげな、少し開けて日当たりのいい場所に移動するのだった。
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