女神様から同情された結果こうなった

回復師

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王都街道編 1~3日目

2-1-1 野営?ログハウス?

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 学園から出て山を下っているのだが、舗装道路は100mほどで途切れて無くなっていた。
 そこからはオークや魔獣が通ってできた獣道を使って下山する。

 当然獣道は獣が通る……道なき道を通るより歩きやすいが、危険だと皆に伝えてある。
 獣道は狭く2人が横に並ぶのがやっとで、馬一頭通れる程度しかない。仕方なく1列での下山になるのだが、これが危険なのだ。総勢115名が縦に一列になって移動すると、1m間隔で歩いても114mもの距離が先頭と末尾に開いてしまうのだ。どっちかから襲われた場合、距離があり過ぎてすぐには対応できない。なので先頭を俺が歩き、最後尾を美咲先輩に歩いてもらっている。どっちから来ても確実に屠る為だ。

 そして10人毎に戦闘員を配置し、非戦闘員を守るように配慮した。

 この山を下って見晴らしのいい平原に出るまでに、約5時間ほど掛かるとみている。
 2時間ほど下った場所に少し開けた所があるそうなので、そこを1回目の休憩場所予定にしている。

 皆にも出立前に注意事項とともに事前に伝えてあるのだが、徐々に人の間隔がまばらに開いてきた。こうなると、先頭と末尾の距離が更に開いてしまう。これでは横っ腹に強い魔獣が襲ってきたら対処できないかもしれない。

「ちょい開き気味になってきたな。一回止まるので後ろに伝達して距離を詰めなおそうか?」

 1時間ほど歩いたのでどうしても注意散漫な者も出てきてこういう事態が発生する。俺はすぐ後ろの美弥ちゃん先生に指示を出す。あえて連絡役に後ろに控えてもらっているのだ。体育館に居た女子の中には、年下で学生な俺より、年上で教師の美弥ちゃんの方を信頼している者の方が多くいるのだ。

 隊列を整え点呼をとる。一列だったのでこれはスムーズだった。ドリフのコントのようなボケをかます人もなく、115名の確認が取れる。良かった115名欠けずにちゃんといる。

 そして再出発、後1時間ほど歩けばやっと休憩できるとため息をつく。 

『……マスター、緊張しすぎです。黙って観ていましたが、それだとマスターの心労が過度なものになってしまいます。ナビーがちゃんと監視しているので、魔獣なんかの不意打ちなんかさせません。それに迷子とかも心配しなくても監視しててあげます』

『そうだった。俺にはお前がいたんだった……なんかどっと肩の荷が下りた気分だ。ナビーの言うとおり凄い緊張してたんだな。プレッシャーか……こういうのも怖いものだな』

 なんとなく皆に頼られ、リーダーっぽい立ち位置になってしまい、1人も死なせないようにと変に気張り過ぎていたようだ。俺には【周辺探索】という強力なスキルも、ナビーという優秀なサポートもあるんだ。

 魔獣が近寄る前にアラート機能ですぐに分かるのに、何で目視警戒していたのだろう……視野も思考も狭くなっている。


 予定通り、その後約1時間で最初の休憩地点に到着する。
 ナビーの声掛け以降は張っていた気が抜け、異世界の山道を大勢の女子と歩くピクニック気分だった。

「ここで30分ほど休憩します。トイレは魔道具使用の仮設トイレを7つ用意しています。中は完全防音仕様ですので音は外に漏れません。安心してプリプリやっちゃってください。出るときにクリーンボタンを押せば便器内の汚物とトイレ内の匂いも浄化してくれますので、おっきい方も恥ずかしがって我慢などしないでくださいね。2時間に1回程度休憩しますので、できるだけ休憩時間中にトイレは済ませておいてください。移動中のトイレは、何度も言いますが勝手に隊列を離れてしようなどと思わないでくださいね。必ずリーダーに言ってから行ってください。勝手に隊列を離れて迷子になって、コールで救援を求めてきても助けになんか行かないですからね」

 トイレ説明を終えたあたりで三田村先輩が話しかけてきた。

「龍馬、魔獣が3匹しか襲ってこなかったが、こんなものなのか?」
「ここはまだキングのテリトリーだった場所です。俺たちがさっき通ってきた獣道は、主にオークが利用していたものです。あの洞窟は昔は盗賊団が根城にしてたそうなので、この獣道は人が作ったものかもしれないですが、俺ももう少し先までは事前に狩っているので、危険なやつは多分まだいないです。厄介なのはもう少し先ですね」

「そうか。あまりにも何事もないから警戒し過ぎてたんじゃないかと思ってな」
「変に気張り過ぎても心身ともに疲れちゃいますからね。俺も最初の一時間ほど変に力が入っちゃって、かなり疲れました。俺には優秀な探索スキルがあるので大丈夫だという事すら失念してたほどです」

「後方だと全く何もないから正直つまらないな」
「そうですか? 後ろから女子のお尻を追っかけるのも目の保養になって良いと思うんですけどね? 先頭の方が面白くないですよ? しばらく道なりなので何だったら俺と変わりましょうか?」

「いや、やっぱりこのままでいい! 後ろだと女子の残り香の良い匂いもするしな」
「「「Booo! Boooo!」」」

「龍馬! お前の方がセクハラっぽいこと言ってるのに、この差は何なんだ!」
「そんなの知らないですよ。俺に当たらないで下さい」 

「小鳥遊君、何か連絡事項はある?」
「そうですね、水分補給と出発までに各リーダーの方で気分が悪くなった人とかいないかのチェックをお願いします」

 疲れたと文句を言う人もなく、時間通り出発できそうだ。

 事前に文句を言いそうな女子を軽く脅しておいたのだけどね。かなりの距離を歩くので疲れるのは当たり前。嫌なら留守番しててくれと言ったのだ。ブツブツ言うのも禁止してある。疲れたとか文句を言う奴が多くなると士気に拘る。そうなるとペースが急激に落ちるだろうし、雰囲気が悪くなると下らない事で喧嘩を始めたりする者も出るだろう。


 3回休憩を入れ、予定より2時間遅れて今日の野営予定地に到着する。
 遅れた理由は単に1回の休憩と、昼食時間を長めに取っただけで、特に問題があったわけじゃない。


 現在午後3時。
 時間に余裕はあるのだが、初日なので野営設営と体力に余裕を持たせようと思っている。


「野営を設置し始めるには早い時間ですが、移動初日なので野営設置時間の計測と皆の体力に余裕を持たせるために、今日は平原に入ってすぐの此処に野営の拠点を構えます。事前に決めてもらった班ごとにテント設営を行ってください。完了した班からリーダーに完了報告をしてそのまま休憩に入ってもらって結構です。夕食は日が暮れる前の5時頃の予定です。何か質問はありますか?」

「夕食の際に携帯食以外にもスープが出るとか言っていたけど、かまどとかの準備はしなくていいの?」
「それは料理部で全部行いますので気にしなくていいですよ?」

 例の大影先輩だ……この人と柴崎先輩が喋りかけてくるとちょっと警戒してしまう。

「それだと料理部の娘たちだけ大変じゃない? 言ってくれれば手伝うよ?」
「大影先輩が壊れた! 不吉な……何か凶兆の前触れか?」

「失礼ね! 私をなんだと思ってるのよ!」
「文句タレ……クレーマー……ぼそっ」

「うぐっ……ちょっと真剣に殴りたくなってきたわ」
「冗談ですってば! マジで拳骨作んないで下さいよ! でも手伝いは気持ちだけで良いです。まず自分たちのするべき事をきっちりこなしてください。初日は様子見です、皆に余裕がありそうなら、明日以降から仕事も割り振って手伝ってもらいますので」


 テントは決められた場所に決められた配置で、問題なく30分ほどで設置できた。
 【亜空間倉庫】から組み立て済みのテントを出して、ロープを張り風で飛ばないように杭を4か所に打ち込むだけなのだから実に簡単だ。収納も杭を抜いてそのまま【亜空間倉庫】に保管するだけだ。

 風が強ければ杭を増やして重石を乗せるだけで良いようにしてある。

 設置時間に満足し、中央に土魔法で釜戸も造り、夕食の準備も完璧だ。
 オークたちが所持していた鉄の錆武器を溶かして、大きな寸胴鍋を作ってある。それにスープを大量に作って保管してある。もともと俺の【インベントリ】内は時間経過がないので冷めることはないのだが、冬のこの時期は外に出したらすぐ冷えてしまうので、火にかけて配膳中に冷めるのを防ぐようにしているのだ。

 拠点の中央だけ10mほど綺麗に空間が開いていて、その周りに密集してテントを設営している。
 通ってきた側の外周に格技場の男たちのテントが少し離れて張られている。

 場所的に一番危険な位置だが、喜んで引き受けてくれた。脳筋な彼らは、『女子を守るのは男の役目だ!』とか言って、一番危険な場所と知っても怯みもしなかった。

 後ろが一番危険な理由は匂いだ。
 俺たちが通ってきた後には色濃く匂いが残っている。殆どの肉食獣はこの匂いを辿って獲物を追尾して風下から襲ってくる。そのまま一気に襲ってくる事も多々あるので、最後尾が一番危険だとされる理由だ。


 中央の空白地帯で皆の動向を観察していると、また大影先輩が近付いてきた。今度は高畑先生も一緒のようだ。

「ねぇ、小鳥遊君? 料理部のテントはこの中央に設置して全方位のトラブルに対応してくれるのでしょ? まだ何も準備されてないようだけど? なんだったら手伝おうか?」

 大影先輩って口出しも多いけど、こうやって面倒見の良い人だったんだな。なにやら周りの女子からも一目置かれているみたいだし、あまり邪険にするのは控えようかな。

「大丈夫ですよ。逆に皆を手助けさすために待機させてたぐらいなので。どうやら手伝いも要らなかったようで安心しました。出発数日前に練習させた成果が出ていますね」


「小鳥遊君、本当に手伝いは要らないの?」
「ええ、高畑先生。そろそろうちの娘たちも休ませてあげたいので、うちのテントも出しますね」

 そう言いながら、ログハウスを召喚魔法っぽく取り出した。

「テント召喚!」
「「どこがテントよ! 家じゃない!」」

 ハモッて突っ込まれた……せいぜいちょっと大きめの小屋でしょう?

「何よこれ?」
「見ての通りのテン、こ、小屋ですよ?」

「テントって言いかけたでしょ! テントじゃないよね? 確かに小屋だけど……家出したのにはびっくりしたけど、よく見ると皆が入るにはちょっと狭くない?」

「うん。そうかもですが、事前に昨日グランドで一泊して検証していますので問題ないです」

 大影先輩が中に入ろうと近付いたが、薄い半透明な壁にぶつかって跳ね返り尻餅をついた。

「へっ? 何これ?」
「結界です……【個人認証】された料理部の娘たちしか中に入れません」

 この中の情報は内緒という事にしてある。
 空間拡張されて快適だとバレると、ズルいなどと不平不満が出かねないからだ。

 特にサウナと風呂はまずい……この世界に転移以来入浴していない女子が殆どなのだ。バレたら入らせろと言われるのは間違いないだろう。特に目の前のこの人とか何を言ってくるかわからない……想像しただけでウザそうだ。


 大影先輩は料理部の面々が続々中に入っていくのを眺めていたが、不意にこっちを睨んで質問してきた。

「ねぇ、小鳥遊君? 何を隠しているの? この中にどんな秘密があるの?」

 うっ……見透かされちゃってますよ。
 だが断る! 100人の風呂とか何時間掛かるって話だ。断固秘密保守だ。

「何のことでしょう?」

 彼女はキッと俺を睨んだ後【クリスタルプレート】を取り出して、こう言った。

「優~ちょっと出ておいで……聞きたい事があるの? すぐ出てくるのよ?」


 彼女の【クリスタルプレート】から、『うっ……』という優ちゃんのうめき声が聞こえてきた。
 この人、優ちゃんの情報源の1人だったのか……やっぱこの人、嫌いではないけど苦手だ。
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