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王都街道編 4・5日目

2-4-7 薫の射出槍?黒狼全滅?

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 拠点に戻ると、結界の外に6匹の黒狼が倒されていた。狼の数に圧倒されて、こっちに気が回せなかったが、やっぱりこちらにも来ていたようだ。俺の結界は壊れていたが、美弥ちゃんの結界が生きているので大丈夫みたいだな。何か危険があれば、直ぐコールしてくることになってたので、特に問題はなかったのだろう。

 結界を解除して、美弥ちゃん先生が駆けつけてきた。

「龍馬君、お帰り! どうなったの? 急に狼たちいなくなっちゃったのよ?」

 どうやら、黒王狼の遠吠えは【身体強化】されていても、ある程度離れると人の耳では聞こえていなかったようだ。

「狼のリーダーが、分が悪いと判断して、一時撤退の命令を出したようです。ここから5km程の場所で待機しているようですね。こっちにも来たようですが、怪我人とかは?」

「こっちは誰も怪我してないです」

「龍馬、一時撤退っていう事はまた襲ってくるのか?」
「三田村先輩、絶対とはいえませんけど、日が完全に落ちた後、闇に紛れて襲ってくるんだと思います。色が黒いので、夜来られたらめっちゃ厄介でしょうね」

「うゎ~、闇夜に鴉か! そりゃ見えんわな……どうするんだ?」

「そうですね、幸い俺たちは生活魔法の【ライト】持ちが多いでしょ? 襲ってきたら、一斉に放って目を潰しましょう。後はサクッと狩るだけです」

「なんか、聞いた感じでは簡単そうだが、そう上手くいくか?」
「どうでしょう? やってみてダメなら、これまでのように俺が魔法で全部倒します。毎晩こられて寝れないとかウザいですからね」

「確かにそれは嫌だな……今日はこれからどうするんだ?」
「もう日が暮れるので、このままここにテント設営ですかね。男子のテントも、今晩は密集したこの中に張ってもらいます。高畑先生、良いですね?」

「ええ、仕方ないでしょう。排卵周期中の者に近寄らせなければ問題ないのでしょ?」

「ええ、彼らの事はある程度俺も信用しています。何かやらかしたら、チョッキン刑ですので、そんなに警戒はいらないでしょう。それと、今晩はうちの戦闘班もテントで野営する事にします」

「それは安心ね。そうしてくれると気分的に有り難いわ。よろしくね」


 皆も慣れたもので、15分ほどでテント設営が完了する。いつ襲ってくるか分からないので、夕飯も早めに済ませる。当然、今晩は学園にあった保存食とスープのみだ。 


 スープを啜っていたら、薫がこっちをちらちら見ている。何か言いたそうなんだが、なんだ?

『……成程、どうやらマスターの造った武器が欲しいようですね』
『薫の武器も良い武器だぞ? キングの装備武器をあげた時は凄く喜んでいたはずだが?』

『……あの槍を薫にあげた時は、あれが一番良い武器だったので、そりゃ喜んだでしょうけど、今日皆がマスターの武器を所持しているのを見て、雅に聞いてしまったのです。皆と一緒が良いと思うのは当然じゃないですか?』

『そうか、何か言いたそうなのは、自分にも作って欲しいと言い出せないでいるんだな?』
『……そのようですね。凄く作って欲しいのに遠慮なんかして、可愛いじゃないですか』


「薫ちゃん! ちょっとおいで!」
「龍馬先輩なんですか?」

「今日戦闘見てたけど、穂香といい連携だったよ。凄く槍の扱いも上手くなっているね?」
「ホントですか? 嬉しいです! 一生懸命練習していますので、褒められると凄く嬉しいです!」

「薫ちゃんの槍なんだけど、元々男性用の槍なので、薫ちゃんの手のサイズに合っていないんだよね。ちょっと長さも握り部分の太さも、中1の薫ちゃんには大きすぎるんだよ。今からちょっと造り替えてあげるけど、どうする? その槍、気に入ってるようだから、そのままが良いって言うならそれでも別にいいけど、使いずらいなら打ち直してあげるよ?」

「龍馬先輩の造った武器が良いです! 私、先輩の武器が欲しいです!」

 近くでこのやり取りを見ていた、フィリアや桜はニヤニヤしている。

「武器を作ってやるのは良いのですが、兄様はそうやってまた愛想を振りまいて、嫁を増やすつもりなのですか?」

 また、お前は……可愛いがちょっと面倒な妹だ。

「サイズの合ってない武器を使うのは危険だからな。早めに手直ししてあげるんだよ」
「ん、龍馬は優しいから、薫の欲しそうな視線に気づいて、自分から言ってくれた」

 この娘は……それ言っちゃったら全部台無しだろ! 恥ずかしい事を言うんじゃない!

「龍馬先輩ありがとう! 皆より良い武器を先に貰っているのに、私も作って欲しいとか言えなかったんです!」
「ん、私が後で言ってやるつもりだったけど、龍馬はやっぱり良い男。ちゃんと先に気付いてくれた」

「雅、あまりそういう恥ずかしい事をさらっと言うな……」
「ん、照れくさい?」

「うん。照れくさいし、ガラじゃない」
「ん、じゃあ、気を付ける」


 食後にログハウスの鍛冶場に行き、40分ほどで薫専用武器を造ってあげた。


 【鬼灯(ほおずき)】
  穂(刃部)(ブラックメタル90%・ミスリル5%・鋼5%)
  柄部(ブラックメタル40%・ミスリル30%・鋼30%)

  武器特性
   ・穂先部は槍の中に普段は収納されている
   ・手元のスイッチで穂先を出すことと、射出する事ができる
   ・射出必中距離は20m、噴出動力は魔石を利用した圧縮空気を利用する
   ・穂先部分は10秒後に自動転移で槍の柄内部に戻る
   ・結界を切る事ができる

  付加エンチャント
   穂(刃部) 
   ・結界切断
   ・自動転移
   ・自動修復
   ・個人認証

   柄部
   ・硬度強化
   ・重量半減
   ・自動修復
   ・個人認証


 面白いモノが出来た。
 なんと槍の先端が射出でき、飛び道具にもなるのだ。

 普段はうっかり人を傷つけないように、柄の内部に穂先を収納する事にした。
 最初、穂先部分の保護はカバーケースにしようかと思ったのだが、付与魔法や魔石を使った魔道具があるのだから、どうせならと思い、面白いギミック武器にしてみたのだ。


 薫を呼び出し、武器を渡してあげる。

「武器出来たよ。銘を【鬼灯(ほおずき)】って名にした」
「どういう意味があるのですか?」

「いろいろ掛けてるんだけどね。鬼って字が雅の刀に掛かってるんだ、それと頬突きって当て字的な意味もある。砲付きって意味も掛けてるんだけどね」

「雅ちゃんの般若とか夜叉とかいうやつですか? 刃を空砲で飛ばすから、砲付きは分かるんですが、頬突きはむっちゃ強引ですね、顔はあまり狙いたくないです! でも、銘は気に入りました! ありがとうございます」

「薫ちゃんの身長と、手の大きさに合わせたので、前のより使いやすくなったはずだよ」

「少し短くなったんですね? 刃が無くなって棍棒ですか?」
「違うよ、そこの手元にあるスイッチを押してみて」

 カシャンという音とともに刃が槍の穂先に出てきた。

「刃の部分は内蔵になったんですね! カッコいいです! 槍としても棒としても使えるのですね?」
「まだあるよ、危険なので気を付けてね。さっきのスイッチに魔力を込めたらその穂先が射出されるんだよ。人の居ないあっちに射出してみて」

「魔力を込めるのですね?」

 『バシュッ!』と結構大きな圧縮音とともに穂先が闇に消えていった。

「ああっ! 先っぽが飛んで行っちゃいました!」
「ふふふ、大丈夫だよ。10秒で穂香の盾のナイフみたいに自動で返ってくるから」

 魔力反応が有り、カシャっという音が聞こえた。ちゃんと内部に自動転移されたようだ。

「外ではなく内部に戻るのですね?」
「うん。穂先が戻るまでの10秒間と、刃を再度出すまでの間は、柄の部分だけになっちゃうけど、棍棒のように扱えばいいからね。その素材はブラックメタルという素材なので、絶対折れたり曲がったりしないから」

「カッコいいです! 遠距離攻撃もできるようになったのですね! 嬉しいです!」
「穂香の盾のナイフと同じで、射出と回収にMPを使うから魔力切れに注意ね。射出時は周りをちゃんと見るんだよ。仲間に当てると笑えないからね。それと必中距離は20mほどだけど、練習すればもっと離れてても当てられるようになるから、練習するように」

「うん、分かった! 龍馬先輩ありがとう!」

 穂先と柄の部分にある龍馬印に血を垂らして、個人認証させる。
 スイッチを押しても、薫以外は反応しないようになった。これで完全にこの槍は薫専用だ。



 夜10:30過ぎにヤツらは再度やって来た。
 こちらに優秀な探索魔法があるとも知らず、忍び足で姿勢を低くして忍び寄ってきている。だが、こちらは奴らが動き出したと同時に全員起こして、戦闘態勢に入って待ち構えているのだ。戦闘員は俺のレイドパーティーに入れて【エリアシールド】を自由に出入りできる状態になっている。

 普段は幾つか出している【ライト】も今は1つも出していない。

 俺と非戦闘組の数名以外は全員目を瞑って、手で目を塞いで待機している。目を開けている者たちは、俺の指示で【ライト】を最大光量でフラッシュのように発動させる者たちだ。

 狼たちの先頭が30mを切ったので、手を1回叩き【ライト】発動の合図を出した。きっちり3秒後にタイミングのあった閃光が起こる。

 俺も片手で覆って目を保護していたが、それでも瞼に明るさを感じたほどだ。もう片手は、ハティの目を守ってあげていた。手で覆っていてこれなのだ、瞼をタイミングよく閉じてたとしても、瞼越しに目に光が焼き付いてしまっているだろう。

「皆、GOだ!」

 狼たちは目をやられ身動きできず、忍び足状態のままその場で硬直していた。
 俺たちの足音で危険を察知したようで、何頭かは体を反転させて逃げの姿勢を見せたが、盲目状態じゃ全力で逃げられない。

 【身体強化】MAXの俺たちにあっという間に狩られていく。俺は既に全部の狼にマーキングを入れ終わっている。倒そうと思えば直ぐにでも倒せるのだが、皆に戦闘訓練をさせているのだ。

 薫も渡したばかりの槍を上手く使いこなしているようだ。近くにいる奴は槍で突き刺し、逃げ出したヤツは射出で穂先を飛ばして倒している。ガントレット組も、上手く殴り倒しているようだ。ギミックの針で頭部を殴って、脳を直接破壊している。

 三月先輩は態と足の脛当てを噛ませて、その隙に上から頭部を針で殴って一撃で倒していた……上手い。
 剣道部員も切れ味に一喜一憂してノリノリのようだ。生き物を殺しているんだから、もう少し彼らは自重してほしいな。

 ウォーン! また遠吠えだ!

『……マスター、タイムリミットです』

 ナビーの合図が出たので、俺の多重魔法を発動する。上級魔法の【ウィンダガカッター】を逃走し始めた狼に撃ち込んだ。一瞬で1頭を残して殲滅する。

「ハティ!」
「ミャン! ミャオーーン!」

 ハティのめっちゃ可愛いハスキーな遠吠えが響き渡る。ハティを使って、あえて残した1頭にメッセージを送らせたのだ。勿論、俺が残したのは黒王狼だ。ハティの発した遠吠えは、縄張りを主張する意思表示。

 つまり狼的に捉えると挑戦的に、『カカッテコイヤー!』的な意味がある。
 ヤツはそれに答えたようだ。

 馬くらいありそうな真っ黒な狼が、俺の下にやって来た。
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