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 翌日も、九曜は生ける彫像として宝物庫にたたずんでいた。
 昼の間には翼弦の訪れはなかった。
 そして夜になり、宝物庫に人が訪れる気配がした。
 庫内に入ってきたのは二つの人影だった。
 そのうち一人が部屋のカーテンを開けた。
 月の美しい晩だった。窓から差し込んだ月光が九曜の裸身を照らし出した。
 九曜は照らし出された庫内を見た。
 庫内にいるのは翼弦と、浅黒い肌に黒髪、黒い瞳の、下男と思われる白い作務衣姿の粗野な印象の屈強な男だった。
 九曜は作務衣姿の男と目が合った。男は九曜の存在に一瞬、動揺したように目を見はった。
 月光に浮かび上がった九曜の姿を見た翼弦が、微笑を浮かべる。
「見よ、木龍(もくりゅう)、これが最近手に入れた私の宝だ。九曜という。美しかろう」
「九曜様……」
 木龍と呼ばれた男は言った。
 九曜は応えることができなかった。ただ、新たに入ってきた男に裸身をさらすことに抵抗を感じていた。
 全身を月明かりに照らされているうちに、九曜の体に変化が生じた。
「ん……」
 九曜の唇が微かに動き、喉がわななく。次第に肩や脚が震え始める。
「んん……」
 ついに呪縛から解かれた九曜の体は、床にくずおれた。
「はは、月光を浴びて術が解けたぞ」
 翼弦が九曜を見下ろして面白がるそばで、床に倒れた九曜を抱き起そうと、木龍が歩みで出る。
 木龍は九曜の腕を引こうとしたが、九曜は木龍の手を振り払ってそれを拒んだ。
「触るなっ」
 九曜は両腕で体を覆い、うずくまった。
 青ざめた九曜をみとがめた木龍が作務衣の上着を脱いで、九曜の肩にかけてやった。  
 翼弦はようやく立ち上がった九曜と向かい合って木龍の存在を視線で示した。
「九曜よ、この者は新しくここに入った下男で木龍という」
「木龍……」
 九曜が改めて木龍という大男を見ると、木龍は不遜な眼差しで九曜の視線に応じた。
 九曜は男の不躾な視線に不快感をもよおして、すぐさま顔をそむけた。
「そう嫌悪するな、九曜。お前の今宵の相手だぞ」
 笑いを含んだ翼弦の言葉が、九曜の耳にこだました。
「翼弦様、今、なんと?」
 九曜は血相を変えて翼弦に問いかけた。
(今宵の相手だと?)
「私はお主から受けた傷のせいでお主を可愛がることができぬ。傷が癒えるまでの間、他の者に代理を務めさせることにしたのだ。木龍、九曜に湯浴みをさせよ」
「承知いたしました」
 木龍は返事をすると、逃げ出そうとする九曜の腰を捕らえて肩に抱え上げた。
 
 
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