最後の転生者

土星衝角

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世界

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 チート能力を与えられた転生者がなだれ込む世界があった。やがて人々はその世界のことをバイウドカスケトと呼ばれた。やがて、絶大な力を持つ魔王となった転生者が世界を統治し、武力による平和が生まれる。

 魔王は、よくある異世界物の世界を、魔物が支配するディストピアという状況に変えてしまった。世界の中で自身を鍛え、強くなる魔王は能力を貰っただけの転生者を軽々と打ち倒すことが可能で、ただの人間は天に祈ることしか出来なかった。

 天は、次の転生者が最後になるであろうと世界の者達に伝えた。

 ある世界があった。地球人類は長期に渡る星系間戦争によって疲弊し、技術と予算を大量に突っ込んだ戦略兵器と呼べる戦艦を作る計画を立て、実行してしまった。

 51cm連装砲を六基搭載し、無数のミサイル、魚雷発射管とバリア発生装置。対空砲も無数に取り付けられて無敵の戦艦だった。往復56万光年の旅で12万六千隻の敵艦艇を轟沈させ、戦争を終結させた。その艦の名は、敷島という。濃紺と赤色の塗装の上に大きく描かれた敷島の文字は、味方に頼もしさを、敵に絶望を与えた。

 敷島は地球に帰還後、乗員が降りたのちにひっそりと爆発を起こして、海に沈んだ。

 彼はバイウドカスケトに意識というたった一つの能力を貰って、出港時の姿で海の上に現れた。

「あの船が、最後の転生者か」

 その姿は、すぐさま魔王と十二体の上級幹部に発見された。

「ウンディーネとタートルが近くにいるか。充分だな」

 上級幹部の二人、女性の姿をしたウンディーネと、男性の姿をしたタートルが敷島の元へ向かっていた。

「あれは……蒸気のコルベットか。どうやらそういう文明の所に私は呼び出されたらしいな。仕事のための異物だというのは悲しいな」

 外輪を回して進む木造船を敷島は眺めていた。外宇宙のように地球のものではない生命の渦巻く世界に、彼女は心を躍らせていた。

 対照的に、蒸気船の乗客と乗員は酷く淀んだ空気の中での会話をしていた。
 
「おじいちゃん。あれが最後の転生者なんだって。きっとラルームを守ってくれるよ」

「ウンディーネ様は、レベル四桁。極位魔法も使えるらしい。それに、タートル様は陰の中に空間を作り出してそこにもぐりこめるらしい。もう人類は終わりだよ。あんなに目立つ者を送っては」


 老人は、寂しそうに剣を置いて、隣に座る少女を抱きしめた。
「その通りだ」

 彼らの影の中から白髪で長身の男が出てくる。タートルだ。

「この世界を支配するのは魔王ランド様だ。あの船はもうすぐ沈む。ここなら良く見えそうだな」

 小高い丘で、緑色の長髪の女性が呪文を紡ぎ、彼女の周りは魔法陣で覆われている。

「なんだ? 西の辺りだけ正体の分からないエネルギーがある。それも豪州をまるまる吹っ飛ばせる量だ!」

 彼女はそう叫び、空間跳躍の準備をする。

 莫大な魔力の塊が圧縮され、彼女の方に打ち出される瞬間に、敷島は空間を跳びだし、その空域から消えた。

「逃げたか……」

 ウンディーネがそう呟いた刹那、敷島は彼女の真上に現れ、言葉を発させる暇もなく対空レーザーで彼女を丘ごと粉々に砕いた。
 
「ウンディーネ? ウンディーネ!」

 タートルは、通信が取れないことに慌て、影の空間にもぐりこんだ。

「一方的に沈めてやる!」

 亜空間の中で、タートルは極超音速を出して敷島に向かっていた。

「この速度。空間潜行艦にしては速い。魚雷にしては正確だ。対潜ミサイルでいけるか?」

 敷島が一発のミサイルを発射する。それは、飛んでいる最中で二つに割れて亜空間魚雷をタートルのいる空間に落とした。

 魚雷は無の中で僅かなエネルギーを察知し、それに向かって進み、爆発して粉々にした。

 

 幹部を瞬く間に失ったヤギの獣人の魔王ランドは、各地にいた上級幹部を無理やり自らの城の中の円卓に転移させた。そのエネルギーを感知した敷島は、地平線の向こうにいる相手を撃ち抜くため、地面に砲門を向けた。

「ウンディーネとタートルとの連絡が取れない」

 魔王がそう言いだしたとたん、ランドの城の地下が敷島の発射した砲によって白熱し、それはどんどん広がって城は光に包まれた。

 大穴だけがそこに残っていた。


「待てよ? 状況の元凶は……」

 敷島は僅かな時間のうちに支配体制が崩壊した世界を尻目に宙へ飛び去って行った。そして、自身をバイウドカスケトに送り込んだ神の元へ空間跳躍を行った。

 神は細長かった。生物的な棒が無数に集まり、一本の巨大な棒のようになっている。

 無数に集まった棒の一つ一つから敷島に向けて白い炎が打ち出される。敷島はバリアを全力で展開しながら主砲を撃ち続ける。主砲の光は、神に触れる前に震えて消えた。

「私もお前も、あの世界には要らない!」

 敷島のバリアが限界に達する寸前で、彼女は神に突撃し、体当たりをする。巨大な質量弾は、両者の体を崩壊させていった。

 バイウドカスケトは支配者を失い、力を失ったことで自然に悩まされながらも少しずつ復興していった。
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