【完結】もう一度君に蒼空を見せたい〜奴隷オークションで高額な処女地下オメガを買ってしまったので借金返済に追われています〜

夜曲

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運命の日

9.街の電気屋さん

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 商品の確認の為に顔合わせをするらしい。扉が開き、オメガが黒服に連れられて入ってきた。
 無理やり引っ張られて来た訳ではなく、きちんと自分の足で歩いて入ってきた。

 先ほどのオークションで、もう自分の境遇を否が応でも自分の立ち位置をハッキリと認識させられたのかもしれない。
 3億円以上の値がついたのだ。もう自分が嫌だと言っても、状況は何も変わらないのだと知っているのだろう。

 どんな人物が自分を買ったのか見極めたいのだろう。その瞳は遠慮がちではあるが、まっすぐアルファを見つめている。その様子から、この子の芯の強さが伺える。

 もしかしたら父のや知り合いが、自分を救い出してくれる可能性にも期待していたのかもしれない。
 にもかかわらず、そこに立っているのは見覚えの無い男。
 父の友人や知り合いにしては幾分か若い。


 手持ちが足りなかった件で狼狽したせいで今は若干疲れているが、それでも隠せないアルファ然とした品格と容姿から醸し出された覇者の雰囲気。
 淡く漂ってくるウッディムスクのフェロモンの香りは、この男がアルファであることを物語っている。

 正しく今が男盛りの三十代後半と思しき見覚えが無いアルファに、自分が買われた理由に思い至ったのかもしれない。
 オメガは俯いた。



 一方アルファの方は、オメガが自分を気に入るかどうかを憂慮していた。
 歳を取っているわけではないが、もう若くもない。
 持っている中では上質なスーツを着てきたつもりだが、彼が今まで身に着けていたものに比べると見劣りするであろう品質の服。それに身を包んだ、自分より16歳も年上の38歳のアルファを見て、彼はどう思うのであろうか。


 アルファの心情に配慮したのだろう。オメガの首には黒革の枷はついたままだったものの、もう鎖にはつながれていなかった。


「お客様がご落札されたのは、彼でお間違いございませんね。」

「はい。その通りです。」

「では、不備がないかご確認をお願いします。特に、お客様は初夜権もご購入されておりますので、彼が本当に初物かどうかは必ずこの場でご確認下さいませ。後からのクレームに関しては対応しかねますので。」

 その支配人の言葉を聞いて、オメガは目を見開いて身を強張らせた。目に浮かんだのは恐怖の色だった。
 一歩下がろうとしたところを、すぐ後ろに立っていた黒服にやんわりと遮られている。

 一方のアルファも支配人のその発言には思わず耳を疑ってしまった。それってここで脱がせて指でも入れて確認しろって事か?
 そのくせ、黒服も支配人も出ていく素振りはない。“検品”の証人になるつもりなんだろう。他の男がいる前で、彼の肌を晒せと?
 初対面でさすがにそれは…いくらなんでも可哀想だろう。他の客は…それをするのか?


「えっと…それは、大丈夫です。一応オークションの方で確認はして下さっているという事ですよね?であるならば、大丈夫です。」

「勿論医師の診察は受けており、この通り見解書も添付しておりますが…。
 では今この場でご確認しなくても宜しいので?この後のクレームには対応致しかねますよ?」

「はっはい。大丈夫です。そんな可哀想な事は出来ません。」

「優しいご主人様に買われて良かったですね。
 了解致しました。では、商品の検品はお済みになったという事で、先に進みますよ。」

 オメガの彼の目の前で商品と呼ばれ、アルファは狼狽した。その言葉を彼には聞かせたくなくて、アルファは半ば被せるかの様に返事をした。

「だっ大丈夫です。私が欲したのは彼で間違いありませんから。何も問題ありません。もう全部大丈夫ですので。」

「了解致しました。では、地下オメガはこのまま専用車でお客様のご自宅までお送りいたします。お客様はお車をお持ちで無いようなので、お客様も専用車にご同乗頂いてかまいませんよ。」

 自分だけのものになったオメガと少しでも多く一緒に居たかったアルファは、迷わず同乗すると頷いた。


「では、準備がありますので、こちらにお掛けになって、少々お待ちください。
 私はこちらで失礼させていただきますが、後は従業員がご案内いたしますので。
 本日はご落札頂きまして、誠にありがとうございました。」

 支配人はそう言って一礼すると、オメガの彼と共にそそくさと出て行った。きっとこの後も他の契約の予定があるのだろう。

  アルファは不安がっているだろうオメガの彼に、一言声を掛けて安心させたかったのだが、そうする暇も無かった。



 しばらく待つと先ほどローン契約の紙を渡してくれた黒服が戻ってきた。てっきり着替えか何かをしたオメガの彼を連れてきてくれるのではと思っていたが、彼の姿は見当たらない。
 その代わりに、黒服の後ろには、洗濯機の段ボールを積んだ大きな台車を押している作業服を着た人が居た。

 段ボールの表記に違和感は感じられない。有名メーカーの正規品の段ボールを手に入れたのか、それとも似せて作っているだけか。
 この地下オークションは表の銀行や名だたる大企業とも繋がりがある。
 もしかしたら、本物かもしれないと思わせるだけの違和感の無さだった。


「驚いて外で声を上げてしまう方もいらっしゃるので、先にお伝えしておきます。
 現在お客様の地下オメガにはお眠り頂いて、この中に入って頂いています。」


 アルファは驚きの余りつい手の平で口を塞いでしまった。
 っ!!!ふざけるな!彼は人間だぞ!
 と喉まで出かかったが、彼をそんな目に遭わせているのは、間違いなく自分である。

 では他にどう運ぶ?と聞かれても、人目に触れない自分だけのオメガをと望んだのは自分だ。
 人道的ではないが、間違いなく人目に触れずに運べる方法であると納得せざる得なかった。

 彼を一秒でも早く外に出してあげたくて、アルファは「早く行こう。」というので精一杯であった。



 そうして訪れた地下駐車場で目にした輸送専用車は、後部窓部分すべてに渡って装飾が施されている、大き目の商用バンだった。

 あなたの街の電気屋さん 加藤電機 洗濯機、テレビ、エアコン…と家電名が印刷されている。
 実在しているお店なのか分からないが、どこから覗き込んでも全く中が見えない。その上、わざと傷なども残しているのか、綺麗すぎず汚れすぎず、恐ろしいほどに違和感がない。

 作業服を着た男が、その商用バンの座席がない後部に彼が入った箱を丁寧に積み込んで固定をした。
 なるほど。これではただ新居に洗濯機を購入しただけにしか見えない。


 アルファは助手席に乗り込む様に言われた。
 運転席には作業員その一。
 彼が起き出さないかの監視の為だろう、彼を“積み込んだ”後部には作業員その二が乗っている。


 体感ではもう随分と夜も更けていると感じていたが、実はまだ二十時過ぎだった。二月の日の入りは早く、日が落ちてすぐにオークションが開始されていた。

 事情を知らない人から見れば、仕事帰りに締まりかけの街の電気屋さんに飛び込んで、その場で家電を買って、そのまま店頭品の配送をお願いした人と言った風情か。


 車が地下を出て、アルファの視界に街行く人が映り始める。今まで別世界に居た様にどこか現実味が無かった心が、急に現実に引き戻された。

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