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歓迎されざる出会い
223.異国の蒼空は蒼かった2*(オメガ視点)
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<オメガ視点>
理性があるのか無いのか、僕の事をちゃんと認識しているのかすら解らない正吾さんにズボンをひん剥かれ、ひんやりとした石畳の感触を背中側に感じる。だが、引き出されたヒートで熱く火照った身体には、それがちょうど良かった。揺さぶられる背中が少し痛いが、婚礼衣装の分厚い生地が守ってくれる。
裸になるには少し寒いスロベニアの六月の気温も、今はアドレナリンが出ていて全く気にならない。
焦点の合わない一揃いの目が、涙を流しながら僕をぼんやりと見つめている。
今正吾さんの脳裏に浮かんでいるのは、果たして自分なのだろうか。それとも、あの彼なのだろうか。怖い…怖い…。
ヒートで上手く思考が回らないはずなのに、漠然とした恐怖だけは感じる。獣と化した正吾さんに揺さぶられている事よりも、その後の事が怖い。
こんな時なのに、正吾さんは僕が感じる所を適切に抉ってくる。これは長年の習慣?それとも、相手が僕だとちゃんと認識しているから?
一度無理やりイかされて、思考が少しクリアになる。
「蒼空・・・蒼空…。」
正吾さんがうわ言の様に呼んでいる名前は紛れもなく僕のものだ。でも、それは正吾さんが彼の名前を知らないからではないだろうか。知らないから、呼び慣れているオメガの名前を呼んでいるだけで、本当は彼の名を呼びたいのではないだろうか。
本当に僕で良いのだろうか。ふと我に返った時に、コイツじゃないと思われてしまわないだろうか。
1秒前まで揺さぶられていたのに、ふと我に返って、違うと突き飛ばされたら…。そしたら僕はもう立ち直れない。正吾さん、あなたが求めているのは、本当に僕?
正吾さんは焦点が合っていない目で僕をずっと見つめている。顔は涙と鼻水と汗と涎でぐちゃぐちゃだ。
噛みつきたい衝動を抑える為か、自分の腕をずっと噛んでいるから、このまま肉を噛みちぎってしまわないか心配だ。
僕は揺さぶられながらも、必死になって正吾さんの口に指を入れて、腕を引き抜けないか試みた。
「あんっ!正吾さん!噛むならっ僕をっ噛んで!あ゛っ!!ちょっ…。
僕ならっいくらでも、噛んでいいから!」
お願い。他の人は噛まないで。
正吾さんの幸せを願っていない傲慢なオメガになり下がってしまう様で、その言葉は言えなかった。ツガイの幸せを願えないなんて、僕はなんて狭量なオメガなんだ。
必死の願いを呑み込んだ腹の中が重い。
正吾さんは一度イッた後、
「蒼空、ごめん。」
と言いながら僕を裏返し、またすぐに押し入って来た。
なぜ謝ったんだろう。僕を、運命のツガイの代わりにしたから?欲望のはけ口にしたから?
僕は気にしないよ。正吾さんが運命のツガイに襲い掛かるより全然いい。全部僕が受け止めるから。僕、痛くても辛くても頑張れるから。だから、全部僕にぶつけて?彼の代わりに僕を噛んで?
その願いが通じたのか。正吾さんは僕の上着を乱暴に引き剥がして放り投げると、シャツをまるで紙の様にビリッと破り、最短時間で僕のうなじを露出させた。でも予想していた痛みはいつまで経っても来ない。何故か僕の事は噛まずに、今度は先ほどとは反対の自分の腕を噛んでいる様だった。
僕を噛んでくれて良いのに。もしかして、僕の事はもう、噛みたくも無いのかな。
涙が溢れて来る。いや…違うな。僕も正吾さんにつられてもうとっくに泣いていたけれど、その涙の勢いが更に増した気がする。
考えるな。ただ身を任せろ。今考えても、悪い方にしか考えられないから。
全てが終わって正吾さんが正気になれば、ちゃんと正吾さんの口から今後の事は聞ける。だから、今は全てを手放して、ただ正吾さんに揺さぶられる事に専念した。
石畳と煉瓦の壁と蒼い空。正吾さんの顔が見えない状況で、ただそれだけを目に焼き付ける。
でも大丈夫。正吾さんのフェロモンがちゃんと僕を包み込んでくれている。僕を、愛してくれている証拠だと信じたい。
だって、さっき神様に誓ったばかりだもの。
僕たちは、病める時も健やかなる時も、お互いをただ一人の唯一として愛する事を。
その終わりのない自問自答の終焉は、突然だった。
父さんの意識を落とし、吉崎さんの方も問題ないと悟るとすぐに、母さんは僕の後を追ってくれたらしい。
僕と同じ手段で近くの道までたどり着いて、後は足でひたすら走り回って探し出してくれた。
母さんの必死の形相を見た時、恥ずかしさよりも安堵が勝った。一人で不安に対峙するのはもう限界だった。
車の中の正吾さんの上着に入っていた緊急抑制剤をプスリと正吾さんの太ももに刺したのに、それでも正吾さんは止まらなかった。だから母さんが首の後ろに踵落としをし、無理やり僕たちの獣の様な交わりを終わらせてくれた。
従前からの恨みをこれを機に晴らしたんじゃないかと思う程には結構容赦ない感じで、正吾さんが大丈夫なのか僕は怖かった。
母さんが呼んだタクシーの運転手は、婚礼衣装で泥まみれになっている僕たちの訳ありな様子にあからさまに眉を顰め、ご親切になんども病院や警察を勧めてくれた。でも僕は、この状態を他の人には見られたくなかったし、正吾さんを早く自分の巣に連れ帰りたかった。
正吾さんを病院に運んだら、医師や看護師さんに阻まれてそのまま僕の手が届かなくなってしまうのではないかと怖かった。正吾さんを監禁できそうな所に一刻も早く向かいたいという本能の方が強く働いて、心配する運転手さんを宥めすかし、なんとかホテルまで運んでもらった。
ボロボロでフラフラな僕と小柄な母さんだけではどうしようも無かったから、親切に部屋まで運んでくれたのは、本当に助かった。
理性があるのか無いのか、僕の事をちゃんと認識しているのかすら解らない正吾さんにズボンをひん剥かれ、ひんやりとした石畳の感触を背中側に感じる。だが、引き出されたヒートで熱く火照った身体には、それがちょうど良かった。揺さぶられる背中が少し痛いが、婚礼衣装の分厚い生地が守ってくれる。
裸になるには少し寒いスロベニアの六月の気温も、今はアドレナリンが出ていて全く気にならない。
焦点の合わない一揃いの目が、涙を流しながら僕をぼんやりと見つめている。
今正吾さんの脳裏に浮かんでいるのは、果たして自分なのだろうか。それとも、あの彼なのだろうか。怖い…怖い…。
ヒートで上手く思考が回らないはずなのに、漠然とした恐怖だけは感じる。獣と化した正吾さんに揺さぶられている事よりも、その後の事が怖い。
こんな時なのに、正吾さんは僕が感じる所を適切に抉ってくる。これは長年の習慣?それとも、相手が僕だとちゃんと認識しているから?
一度無理やりイかされて、思考が少しクリアになる。
「蒼空・・・蒼空…。」
正吾さんがうわ言の様に呼んでいる名前は紛れもなく僕のものだ。でも、それは正吾さんが彼の名前を知らないからではないだろうか。知らないから、呼び慣れているオメガの名前を呼んでいるだけで、本当は彼の名を呼びたいのではないだろうか。
本当に僕で良いのだろうか。ふと我に返った時に、コイツじゃないと思われてしまわないだろうか。
1秒前まで揺さぶられていたのに、ふと我に返って、違うと突き飛ばされたら…。そしたら僕はもう立ち直れない。正吾さん、あなたが求めているのは、本当に僕?
正吾さんは焦点が合っていない目で僕をずっと見つめている。顔は涙と鼻水と汗と涎でぐちゃぐちゃだ。
噛みつきたい衝動を抑える為か、自分の腕をずっと噛んでいるから、このまま肉を噛みちぎってしまわないか心配だ。
僕は揺さぶられながらも、必死になって正吾さんの口に指を入れて、腕を引き抜けないか試みた。
「あんっ!正吾さん!噛むならっ僕をっ噛んで!あ゛っ!!ちょっ…。
僕ならっいくらでも、噛んでいいから!」
お願い。他の人は噛まないで。
正吾さんの幸せを願っていない傲慢なオメガになり下がってしまう様で、その言葉は言えなかった。ツガイの幸せを願えないなんて、僕はなんて狭量なオメガなんだ。
必死の願いを呑み込んだ腹の中が重い。
正吾さんは一度イッた後、
「蒼空、ごめん。」
と言いながら僕を裏返し、またすぐに押し入って来た。
なぜ謝ったんだろう。僕を、運命のツガイの代わりにしたから?欲望のはけ口にしたから?
僕は気にしないよ。正吾さんが運命のツガイに襲い掛かるより全然いい。全部僕が受け止めるから。僕、痛くても辛くても頑張れるから。だから、全部僕にぶつけて?彼の代わりに僕を噛んで?
その願いが通じたのか。正吾さんは僕の上着を乱暴に引き剥がして放り投げると、シャツをまるで紙の様にビリッと破り、最短時間で僕のうなじを露出させた。でも予想していた痛みはいつまで経っても来ない。何故か僕の事は噛まずに、今度は先ほどとは反対の自分の腕を噛んでいる様だった。
僕を噛んでくれて良いのに。もしかして、僕の事はもう、噛みたくも無いのかな。
涙が溢れて来る。いや…違うな。僕も正吾さんにつられてもうとっくに泣いていたけれど、その涙の勢いが更に増した気がする。
考えるな。ただ身を任せろ。今考えても、悪い方にしか考えられないから。
全てが終わって正吾さんが正気になれば、ちゃんと正吾さんの口から今後の事は聞ける。だから、今は全てを手放して、ただ正吾さんに揺さぶられる事に専念した。
石畳と煉瓦の壁と蒼い空。正吾さんの顔が見えない状況で、ただそれだけを目に焼き付ける。
でも大丈夫。正吾さんのフェロモンがちゃんと僕を包み込んでくれている。僕を、愛してくれている証拠だと信じたい。
だって、さっき神様に誓ったばかりだもの。
僕たちは、病める時も健やかなる時も、お互いをただ一人の唯一として愛する事を。
その終わりのない自問自答の終焉は、突然だった。
父さんの意識を落とし、吉崎さんの方も問題ないと悟るとすぐに、母さんは僕の後を追ってくれたらしい。
僕と同じ手段で近くの道までたどり着いて、後は足でひたすら走り回って探し出してくれた。
母さんの必死の形相を見た時、恥ずかしさよりも安堵が勝った。一人で不安に対峙するのはもう限界だった。
車の中の正吾さんの上着に入っていた緊急抑制剤をプスリと正吾さんの太ももに刺したのに、それでも正吾さんは止まらなかった。だから母さんが首の後ろに踵落としをし、無理やり僕たちの獣の様な交わりを終わらせてくれた。
従前からの恨みをこれを機に晴らしたんじゃないかと思う程には結構容赦ない感じで、正吾さんが大丈夫なのか僕は怖かった。
母さんが呼んだタクシーの運転手は、婚礼衣装で泥まみれになっている僕たちの訳ありな様子にあからさまに眉を顰め、ご親切になんども病院や警察を勧めてくれた。でも僕は、この状態を他の人には見られたくなかったし、正吾さんを早く自分の巣に連れ帰りたかった。
正吾さんを病院に運んだら、医師や看護師さんに阻まれてそのまま僕の手が届かなくなってしまうのではないかと怖かった。正吾さんを監禁できそうな所に一刻も早く向かいたいという本能の方が強く働いて、心配する運転手さんを宥めすかし、なんとかホテルまで運んでもらった。
ボロボロでフラフラな僕と小柄な母さんだけではどうしようも無かったから、親切に部屋まで運んでくれたのは、本当に助かった。
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