【完結】牧場で羊になりきっていたら、氷結の貴公子に夜のお供を命じられました

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後ろを振り返ったボクの背中に、ライランド様の唇が落ちた。

「ひゃっ」

ボクはびっくりし過ぎて、つい変な声が出てしまった。
いまっいまっ!ライランド様がキスした!ボクの背中にキスした!!!

「今俺が触れた所に、3つ並んだホクロがちゃんとあるよ」

触れたって…触れたって……。わざわざ唇で?ポンっとボクの顔が火を吹いた。

でも、ホクロ、本当にあった…。じゃあ、ボクは本当にパミール様だって事でいいのかな。

暖かい家族も、王子様という地位も、ライランド様の夫という地位も……。他の誰でもなく、正真正銘、ボクのものだという事で、良いのかな。

ボクは嬉し過ぎて、つい涙が溢れてきた。

そんなボクの肩を抱きながら、ライランド様がボクの頬を濡らす雫を唇で吸い取る。


その時、
「バンッ!!!」
と扉が開かれたかと思うと、そこには、4本のツノを持つ高貴な羊の姿があった。

その高貴な羊は、ボクの全裸の上半身から頬を伝う涙に視線を移す。キッと目が光った錯覚のあと、ツノを振り回してボクからライランド様を引き剥がしにかかる。

「お父さま!やめてください!お父さま!」

ボクはライランド様をお父さまの鋭いツノから守ろうと、ライランド様の前に腕を広げて立った。

お父さまの鋭い視線と目が合った一瞬。

ボクはつい感極まって、お父さまの首元に、もふっと抱きついた。

「お父さま!お父さまは、ボクの本当のお父さまだったのですね!」

改めて見上げると、お父さまのツノのそり返り具合や黒ぶちの位置が、ボクと似ている気がする。ずっと欲しかった家族だ!ボクの本当の家族だ!!

ただ、ボクのツノは2本なんだよなぁ。黒ぶちが現れるのも遅かったし、もしかしたらボクは幼少期の栄養不足が原因で、身体の成熟がゆっくりなのかもしれない。
もう少し経ったら、お父さまみたいな立派なツノが生えてくるのかな。

お父さまはまだお怒りで、何やら吼えている。

何も言わなくても解る。
ワシの大事な息子をまた泣かせたな結婚前に花嫁の寝室に入るな!なんてハレンチな息子だ!許さんぞ!!』

お父さまはきっとそう言っているに違いない。

「お父さま!これには深いわけがありまして……。
パミール様の背中にあるというホクロを見て貰っていただけなのです。確かに上半身裸ですが、誓って!ボクはライランド様に不埒なマネをしようとした訳ではありませんから、ご安心ください!
あなた様の息子は嫁入り前の妻に乱暴を働く様な狼藉者ではございません!」


お父さまは眉間に皺を寄せて、ライランド様に確認を取っている。

ライランド様は、臣下の礼を取ったまま、頭を深く下げた。

「ライランド様!ズワルト王国の侵攻という大事だったとはいえ、花嫁の寝室に夜分押しかけた非礼をお詫びさせて下さい。大変申し訳ございませんでした!
ライランド様の潔白と名誉の為にも、もう二度とこんな誤解を招く様な事はしません。安心して下さい!」

どこからか引き笑いの声が聞こえてきたと入り口の方に目を向けると、ジャコブがロムニーの口を必死に抑えていた。

今の話のどこに笑うポイントがあったのか解らないが、ロムニーは、思いのほか笑い上戸らしい。


「良かったです。ボクの背中には3つ並んだホクロがあったのですね。
あの日王様方はそれでボクがパミールだと確認されたのですね。

ボク、今まで半信半疑だったから……。お父さまが、ボクの本当のお父さまだと、今日やっと確信がもてました。
これから、本物の息子として、よろしくお願いします!」

お父さまはポンっと獣人姿に戻ると、ボクをぎゅっと抱きしめてくれた。

「そうか。あれほど語り合ったのに、まだ信じていなかったのか。
おかえり。我が息子よ。君は正真正銘、私の自慢の息子のパミールだ。

君が無事で良かった。」

後半はどうやら、ライランド様に顔を向けていた様だ。


そうだ。ボクが両親の元に無事に帰れたのも、全てライランド様がボクをここまで連れてきてくれたからだ。

命の恩人にプラスして、ボクの生き別れの家族を見つけてくれたという大恩まで加わってしまい、ボクはライランド様にどう恩返ししたら良いのだろうか。

そうだ!一生をかけてライランド様を大切にしよう!そうしよう!
ライランド様が欲しがる宝飾品もドレス…は着ないか。服も、美味しいものも、全部買ってあげよう!
幸い、ボクは王太子なのだから。それくらいの事は許されるだろう。


お父さまの侍従がすかさず、お父さまにマントをかける。
そしてボクは、絶妙のタイミングで伸びてきたライランド様の腕の中に囚えられた。

実の父とはいえ、半裸のボクが全裸のイケオジに抱きしめられている絵面は、確かにあまり良くはなさそうだ。
ボクは大人しくライランド様に服を着せられる事にした。


お父さまは、
「いいか。今回はお手柄だったが、婚前交渉は認めん!絶対にだ!」
とボク達に言ったかと思うと、
「パミールよ。明日の朝食も一緒に食べような」
と言い残して去っていった。


残された二人で視線を合わせた途端、ライランド様の氷の眼差しの奥に潜む焔にドキリとした。

そのまま、ライランド様の顔が近づいてくる。

えっえっ!いまお父さまがダメだって言ったばかりだよ。相手がライランド様ならやぶさかではないけれど、ダメだって、まだ早いって。

ボクが内心アタフタとしていると、ライランド様がボクのツノにちゅっとキスをした。

「すまないな。俺のせいで、不恰好なままだ」

あれから3ヶ月が経ち、ボクのツノは多少盛り上がってはいるものの、まだツノと呼べるまでには成長していない。

確かに、王太子としては少しカッコ悪いが、ツノが無いおかげでライランド様を怖がらせなくて済むんだと思うと、別に気にならない。

「大丈夫です。ライランド様が怖くない様に、ツノは一生短く切っておきますね」

「っっ!どこでそれを!ってジャコブか。

それは別にいい。メリノなら怖くない。
メリノのツノが、一生俺に向けられない様に頑張るよ」

なんだかプロポーズの言葉みたいだ。
そうだ!そういえばボク、まだライランド様にプロポーズしてないや。

夫として、ボクの方から言わないと。

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