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第一章
今夜の獲物
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一人の時間が長すぎて、ネオは今日久しぶりに自分の声を聞いた。
口から出てしまったそれを耳で聞いて初めて、一瞬だけ過った考えを口に出してしまっていたことにネオは気が付いた。
だが、もう遅い。それは相手に過不足なく伝わってしまった後なのだから。
「…………え?」
声にならない声が陽向の唇から零れた。
陽向は、この一見正義感が強そうな体育会系の"命の恩人"からの想定外の要求に、完全に引いていた。
一歩、二歩、三歩と物理的に下がりつつも、もし自分がこの要求を退けたらどうなるのか考えてみる。
一、衛兵に突き出されて足を切り落とされた上に国外追放
二、逃げて森のなかで餓え死にするか、肉食恐竜に生きたまま食われる
三、逃げてもこの大きな体躯の男に捕まり、ヤリ捨てられる
どれもこれも最悪だ。むしろ、男の要求を呑んで自ら進んで性処理係になるのが、一番マシな選択肢にさえ思える。
耳が良い陽向でなければ聞き取れないくらいの一人言で、さっきからずっと可愛い可愛いと呟きながら陽向の顔を凝視してくるネオ。
そのネオの股間のものの大きさを想像し、果たして自分に性処理係が務まるのだろうかと現実的なことを考え始めた陽向だったが。
「ぐぅ~~」
その二人の沈黙を破ったのは、陽向のお腹の音だった。
先ほどの肉食恐竜との遭遇で命の危険に晒されたせいで、一瞬空腹を忘れていた。
だが陽向はもうこれ以上我慢できない程お腹が空いている。
『拒否しても今夜を無事に明かせるかわからない。いっそのこと、この男の家で食事にあやかってから、逃げ出すかどうしようか考えよう。
ワンチャン、体躯に見合わない粗チンかもしれないし。そうだ。そうしよう』
お腹が空き過ぎているからか。または、秋の森が寒すぎるからか。陽向はつい希望的観測に支配されてしまう。
「お腹が空いているのか?」
「そうなんです。遭難してから、もう二日も何も口にできていなくて……」
「二日も……そうか。なら、ひとまず家に来い」
ネオは有無を言わさない勢いで陽向をマントで包むと、俵のように軽々と抱え上げた。まるで、狩人がその日仕留めた"獲物"を持ち帰るときのような動作だ。――ネオにとっての陽向は、疑いようもなくその日手に入れた"獲物"なのだろうが。
『捕まった!?えっ。これやっぱり逃げた方がいい??』
陽向が、自分の浅慮を憂いたのも束の間。
「俺と一緒にいてくれれば、うまいものを沢山食わせてやる」
「うまいもの……たくさん……」
陽向は、うまいものと聞いて想像した熱々のシチューの誘惑に負けた。
昨晩はほとんど寝られなかったし、この二日間、朝露に湿ったスウェットのみで秋風にさらされ続けてずっと寒かった。喉の渇きも空腹も言わずもがなだ。
『マントの中、あったかいな。もうなんでもいいから、温かいものが食べたい』
眠れぬ夜の寒さがまだ骨に残っていた陽向には、その温もりは甘く、抗いがたかった。
ネオが歩く揺れの中。
『よし! 今までと同じだ。長いものには巻かれよう』
施設育ちの頼る親がいない子供の処世術。
少なくとももう、野宿はしなくても良くなるのだと思うと陽向の緊張も次第にほぐれていった。
もう、命の危険からは脱した。一定テンポの揺れと温かいマントが眠気を誘う。
逆さまになった視界で、倒れているエドモントサウルスに別れを告げると、陽向は自分でも気が付かぬうちに、ネオのマントの中で静かに意識を手放した。
口から出てしまったそれを耳で聞いて初めて、一瞬だけ過った考えを口に出してしまっていたことにネオは気が付いた。
だが、もう遅い。それは相手に過不足なく伝わってしまった後なのだから。
「…………え?」
声にならない声が陽向の唇から零れた。
陽向は、この一見正義感が強そうな体育会系の"命の恩人"からの想定外の要求に、完全に引いていた。
一歩、二歩、三歩と物理的に下がりつつも、もし自分がこの要求を退けたらどうなるのか考えてみる。
一、衛兵に突き出されて足を切り落とされた上に国外追放
二、逃げて森のなかで餓え死にするか、肉食恐竜に生きたまま食われる
三、逃げてもこの大きな体躯の男に捕まり、ヤリ捨てられる
どれもこれも最悪だ。むしろ、男の要求を呑んで自ら進んで性処理係になるのが、一番マシな選択肢にさえ思える。
耳が良い陽向でなければ聞き取れないくらいの一人言で、さっきからずっと可愛い可愛いと呟きながら陽向の顔を凝視してくるネオ。
そのネオの股間のものの大きさを想像し、果たして自分に性処理係が務まるのだろうかと現実的なことを考え始めた陽向だったが。
「ぐぅ~~」
その二人の沈黙を破ったのは、陽向のお腹の音だった。
先ほどの肉食恐竜との遭遇で命の危険に晒されたせいで、一瞬空腹を忘れていた。
だが陽向はもうこれ以上我慢できない程お腹が空いている。
『拒否しても今夜を無事に明かせるかわからない。いっそのこと、この男の家で食事にあやかってから、逃げ出すかどうしようか考えよう。
ワンチャン、体躯に見合わない粗チンかもしれないし。そうだ。そうしよう』
お腹が空き過ぎているからか。または、秋の森が寒すぎるからか。陽向はつい希望的観測に支配されてしまう。
「お腹が空いているのか?」
「そうなんです。遭難してから、もう二日も何も口にできていなくて……」
「二日も……そうか。なら、ひとまず家に来い」
ネオは有無を言わさない勢いで陽向をマントで包むと、俵のように軽々と抱え上げた。まるで、狩人がその日仕留めた"獲物"を持ち帰るときのような動作だ。――ネオにとっての陽向は、疑いようもなくその日手に入れた"獲物"なのだろうが。
『捕まった!?えっ。これやっぱり逃げた方がいい??』
陽向が、自分の浅慮を憂いたのも束の間。
「俺と一緒にいてくれれば、うまいものを沢山食わせてやる」
「うまいもの……たくさん……」
陽向は、うまいものと聞いて想像した熱々のシチューの誘惑に負けた。
昨晩はほとんど寝られなかったし、この二日間、朝露に湿ったスウェットのみで秋風にさらされ続けてずっと寒かった。喉の渇きも空腹も言わずもがなだ。
『マントの中、あったかいな。もうなんでもいいから、温かいものが食べたい』
眠れぬ夜の寒さがまだ骨に残っていた陽向には、その温もりは甘く、抗いがたかった。
ネオが歩く揺れの中。
『よし! 今までと同じだ。長いものには巻かれよう』
施設育ちの頼る親がいない子供の処世術。
少なくとももう、野宿はしなくても良くなるのだと思うと陽向の緊張も次第にほぐれていった。
もう、命の危険からは脱した。一定テンポの揺れと温かいマントが眠気を誘う。
逆さまになった視界で、倒れているエドモントサウルスに別れを告げると、陽向は自分でも気が付かぬうちに、ネオのマントの中で静かに意識を手放した。
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