蛇の狂人図鑑

写るもの

写るもの 巡る思考

  小宮は、頭の中で思考を巡らせる。何故、あれだけの死体があったのか、そして彼女はそこにいたのか。彼女が全部やったのならば、一体どのような方法なのだ。しかし、目の前にいるのは、十代後半くらいの女の子だ。
  「刑事さん。怖い顔してどうしたの？」
  「いやいや、なんでもないよ。君の方こそどうなの？何か思い出した？」
  「何も、思い出せない。ごめんね。」
  「いや、いいよ。無理せずにいこう。」
  「刑事さん、優しいのね。私にしか見えない、この人も微笑んでくれているわ。皆優しいの。」
   彼女は、無邪気に笑う。それにつられて、小宮も笑う。彼女は、記憶喪失と他人に見えない人間がいるくらいで、後は普通の女の子だった。むしろ、大人びた顔を無邪気に笑ってくしゃっとさせているは、魅力的な部類だろう。小宮もこんな子に、あの殺人は出来ないだろうと考えていた。
   しかし、彼のある記憶が、その安心感を揺らがせた。一時の場面だけで甘い考えを持ったことが、悲劇を生んだこと。彼は、その恐怖に頭を悩ませながら、彼女のこと、事件のこと、自分のこと。色々なことに、思考を巡らせるのだ。