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オレが、修博に入学して、そろそろ一年が経とうとしていた。三学期の期末考査も終わり、春休みに入ろうという頃合いだった。オレは相変わらず、学校からの課題に追われていた。夏実と、下校途中に例のマギーで課題を前にして、くっちゃべっていた。
「まったく、なんで毎度々々こんなに膨大な宿題をやらなくちゃならないんだ。オレ、入る高校間違えたかな」
「違うとこ行ってたら、あたしとは逢えなかったじゃん」
「その替わり、違う娘と付き合ってたと思う」
「そして、フラれて泣かされる、というパターンを繰り返してたね」
「うう、確かに。お前の言うとおりだ」
「昔から、あんたは女を見る目がないから」
「ホントにそうだと思う、心から思う」
そう言って、オレは夏実のやつをじろじろ眺めてやった。
夏実は、オレに拳骨を当てた。
「あたしは、あんたがフラフラしてるから、掴まえてあげたの!けど、あたしのことが嫌なら、仕方ないしい」
「捨てないで、夏実ちゃん」
「相変わらず、仲がいいですね」
久住が、新美と楓とともに入店していた。
「ここが、先輩方の集合場所なんですね。素敵なお店です」
「夏実の趣味だ」
「だろうと思いました、店の名前を見ましたから。マギーさんには、大変お世話になりました。お陰様で、皆さんの後輩になることができました」
「あーよかったな、まーがんばれー」
オレは棒読み口調で言ってやった。
「あれ、小隊長はつれないですね。可愛くて、頼りになる後輩ができたんですよ。もっと喜んでくださいよ」
「いい加減、お前の図々しさにも慣れっこになったな。この課題の山を見ろ、これが来たるべき、お前の近い将来だ」
「ええっ、修博って、こんなに宿題出るんですかあ」
「おうともよ、これが修博に入った者の運命だ。これがこなせないというなら、悪いことは言わん、今のうちに他の高校に鞍替えしろ。オレも今後悔してたところだ」
「確かに、遼介はウチでは中の上てとこだけど、他校へ行けば、トップクラスでとおると思うな」
「そして、成績優秀、拳法部でもトップになり、女子生徒にモテる」
「そして、悪い娘に騙されて、捨てられる」
他の三人は、オレと夏実の掛け合いに、声を出して笑った。
「まあ、確かに松澤は頼りになりそうで、抜けたところがあるからなあ」
新美がいみじくも感想を述べた。あまりに的確過ぎてオレは情けなくなった。
こいつは、最近、楓と行動を共にする機会が増えたようだった。どうも、夏実はオレを連れて、ふたりで先に下校することで、後から、楓と新美が自然にふたり連れでここへ来るように仕向けているらしかった。オレは、そのことをふたりに言ってやった。
「それで、お前らの進展具合はどうよ」
「進展て何よ?」
「楓ちゃん、カレシ作らないの?好い男がそこにいるじゃん」
「はあ、克哉のことお?こいつはただのダチでしかないよ。あたしが好きなのは、誰だか知ってるくせに」
「でも最近、ふたり連れでいるのが多いらしいじゃん。悪いけどオレは浮気はできない性分なんだ。その代りと言っちゃ失礼だが、新美は良い奴だぞ、ちっとは考えてみろよ、楓」
「そういうことを、本人の前で言うな!」
新美も、楓もなんだか顔を赤くしていた。オレと夏実は、その様子をニヤニヤしながら眺めていた。
こいつらは、結局春休みの間、進展はなかったようだ。まあ、本人たちが決めることだから、オレもそれ以上関与する気もなかったがね。オレと夏実は、休み中例の図書館デートと言う名の勉強会をずっとやっていた。
春休みも終わり、明日から新学期だ。新美とオレたち空手部は一日早く登校し、来週から始まる、春の総体の準備に入った。部室で新美は、オレを選手として、部長の葛城さんに推薦した。
「ああ?あんなヘタレ野郎、使い物にならねえだろ」
「とんでもない、奴はこの一年間、三味線引いてたんですよ。こないだの初段の昇進試験で、協会の徳永理事に相手をして貰ってましたが、実力はほぼ互角でした」
「はあ?徳永って、あの元全日本代表の徳永さんか?」
「まさか、そんなことはあり得んだろ」
「いや、オレはその場に立ち会ったんです。やつは少林寺拳法を十二年程やってましたからね。少林寺の内規のため公称は二段ですが、実力は五段以上のお墨付きです」
新美は、話を少し大げさに脚色してキャプテンたち先輩に吹き込んだ。
「信じられんな」
「立ち会って見られれば分かりますよ。間違いなく、奴はこと武術に関しては、わが校最強です」
新美の段取りで、オレは、キャプテンの葛城さんと、三年の周東さんと立ち会うこととなった。防具をつけて、一本勝負だ。試合は、あっという間に終わった。
キャプテンは、突き蹴りの際、オレにいなされてバランスを崩し、そこを足刀蹴り一発でノックアウトとなった。防具をつけていなければ、あばらの数本も折ってたところだ。
周東さんは、慎重に攻めてきたが、軽くジャブを放ち、よけたところを連続技で、蹴り倒した。空手なら、それで終わりだが、少林寺流は相手の制圧を旨とするので、より実戦的であり、倒れた周東さんの腕を固め、動けなくした。もっともこれは、空手の技ではないので、試合で使っても、単なるスリップと扱われるだろう。
しかし、葛城さんと周東さんはオレの技に驚嘆したようだった。
「松澤!お前こんな技、どこで身に着けたん
だ?」
「はあ、ウチの近くに道場がありましてねえ、そこの師匠にガキの頃から、基本を叩き込まれたんですよ。今回の昇進試験でもいろいろ世話になりまして、まず空手の基本を勉強しろ、と言われて新美と二人で形の特訓をしてたんですよ」
「オレもその道場を見学したい。お邪魔させて貰えないか」
「良いですけど、今は空手部存亡の危機でしょう。他道場の見学より、空手の練習に専念すべきじゃないですか」
「なに、空手部が廃止になりゃ、拳法部を立ち上げればいいだけのことだ、部長はお前にする」
この人たちが、こんなに節操のない連中だったとは思いもしなかった。空手で負けたから、少林寺でというのは虫が良すぎるだろ。
案の定、上泉師匠は道場で彼らから事情を聴くなり断った。
「まだ、君たちは、空手で何かを掴むところまで行ってないじゃない。空手には、空手の良さがあると思うよ。ただ、その道が平坦でないのは、ウチの拳法も同じだ。空手でやることをやって、他の世界も見てみたいというなら、その時は歓迎するよ」
だが、どうせなら、うちの拳法の神髄を披露しようということで、師匠とオレが、約束組手方式で、組み合ってみせた。
空手にはない、剛柔併せた技の数々に先輩たちは驚嘆していた。特に師匠の技は、キレていた。すさまじい迅さで、見たこともないような技が繰り出されるのだ。オレがその技についていけてたことにもたまげていた。
ウチの美人師匠の技に葛城先輩たちは、大変感銘を受けたようで、妙にやる気になったらしい。学校に帰るなり、おれたち空手家にできることをすべきだと言いだした。上泉師匠の紹介もあり、徳永さんの指導を月一度受けることにもなった。
翌日の始業式の前に、クラス替えが発表になっていた。二年、三年では、毎年前年の成績に基づき、クラス替えがある。オレは、今回は残念ながら、夏実とは別のクラスとなった。成績によって、国立理系と文系、私立理系と、文系のクラスに分かれることとなった。夏実は、国立理系だ。残念ながら、オレは私立理系クラスだ。俗に、リボンと呼ばれていた。ちなみに、私立文系はブルボン、最低クラスはバカボンだそうだ。夏実は、コクリクラスなので、成績ヒエラルキーの頂点に君臨する。
「夏実と、一緒でないと、オレはこの高校では生きていけないよお」
「オーバーねえ。来年は頑張って、コクブン狙えばいいじゃん。遼介は、もっと要領よく勉強すれば、あと少しでコクブンくらい入れるよ」
「いいや待てよ?アホ生徒として、このまま夏実に勉強面倒見て貰ってた方が良くね?」
「はああ?貴様あ、いったいいつまであたしに頼る気だあ!」
「勿論、一生」
その返事に、なぜか夏実は顔を赤らめた。
まあ、二年からのクラス分けは成績次第ということは、入学時から分かってたことだったし仕方がない。が、ひとつだけ、気に食わないことがあった。青崎千華の奴が、オレと同じクラスになったのだ。あいつは確か、オレより成績は良かったはずだ。コクリクラスにも入れたはずなのだ。なにか嫌な予感がした。
ただし、悪いことばかりではなく、新美と楓も同じクラスだったのはありがたかった。どうも、青崎は苦手だ。オレひとりでは心許なかったところだった。
またなぜか、豊田、大井、丹波、浅野、芝原と言った、前世で同じ中隊だった連中が集まっていた。
「よう、最低野郎ども、オレたちゃ同じ穴のムジナだぜ」
オレは、クラスに入るなり、新美と楓に声をかけた。新美は頬づえをつきながらオレを見て、溜息をついた。
「代り映えのしないメンツだ」
始業式後から、いきなり授業が始まった。いや普通、始業式後は早仕舞いだろ。まあ、修博らしいと言えば、そうなのだが。きっちり六時間の授業に、課題もどっさり出された。オレの高校生活は、ひたすら課題を解くことで終わるのだろう。
ホームルームの後、早速、青崎のやつが、露骨に言い寄ってきた。
「ねえ、今日帰りに一緒に来てほしいところがあるんだけど」
「オレは用はねえよ。ってか、部活がある。じゃあな」
放課後は、空手部でみっちり練習があった。もう適当に空手をやる必要がないというか、しっかりやらなければ、ならなくなったオレは、先頭で形をやらされた。
そのあと、事情を知らない連中にオレが対戦メンバーになった理由を、実地に示すように部長に言われた。黒帯の部員五人を相手に自由組手をおこなった。
あっという間に、組手は終了した。別に自慢するわけではないが、防具をつけていなければ、全員病院行となっただろう。それだけ、オレと他の部員たちには腕の差があった。
オレの本当の実力を知った部員たちは、みな呆気にとられていた。
「徳永さんと互角?オニだな、それ」
「松澤がこんなバケモノとは思わなかった」
ざわつく、部員たちにオレは説明した。
「実は、オレはガキの時分から、十数年間少林寺流の拳法をやってたんだ。ウチの流派は、対外試合禁止なもので、みんなには黙ってた。実際、空手については素人だからな。だが、今回PTAから厄介な要求があったんで、仕方なく早急に初段を取得したんだ。だから、オレのメンバー入りは、今回だけのものと思ってる。オレより長く、空手をやってるひとは、不満だろうし、それも承知している。だから、夏の大会は、特に先輩中心で選んでもらえると良いと思ってる。以上です」
「オレは、今回メンバーから漏れたが、松澤がメンバーなら納得できると思う。実際、こいつとやってみて、全く歯が立たなかった。恐ろしく強かった。松澤なら、ひとりで岳徳寺高校の連中を片付けられるだろう。廃部になったら意味がないし、ここは松澤に託すべきだとオレは思うが」
オレの言葉に、先ほど立ち会った、石橋という先輩が感想を述べてくれた。
「まあ、そういうことだ。部の存亡がかかっている以上、今回の試合は結果を残さなければならない。そんな時に、松澤がいてくれたのは、ラッキーと思うべきだろう。みんなも宜しくたのむ」
部長の葛城先輩が締めてくれた。空手部は一致団結して、春の大会を目指すこととなった。
その日は、練習が遅くなり、夏実とも別々で下校することになった。彼女からメールが来たが、結局合流はできなかった。どうも、同じ陸上部同士の楓と一緒だったようだった。
翌日は、入学式だった。上級生は、この日くらい休みにしたって良さそうなものだが、自習という名目で登校が指示された。
先生方の多くは、入学式に駆り出されていたが、学年に数人の先生が残り、各クラスを巡回していた。まあ、そんなことまでしなくても、ウチの生徒は真面目だから、しっかり自習していたが。その中で一部の生徒が、一年の誘導に駆り出されていた。おおむね、クラス委員のメンバーだった。勿論オレは、そのメンバーには加わらなかった。
ただし、在校生は午前中で授業は終わり、弁当を食って帰宅することになった。午後は、新入生のオリエンテーションがあるそうだ。帰宅部は、そのまま帰っていいが、部活の勧誘も許され、オレはそっちに駆り出された。
午後から、空手着を着て、空手部員募集の呼びかけをさせられた。そんなことしてる場合かね。オレは、部長に意見した。
「あの、おれたちの部は危急存亡の秋でしょ。新入生が入ってもすぐ潰れちまったら意味ないじゃないですか。こんなことやってるより、試合に向けて、メンバーだけでも練習しましょうよ」
部長も、その意見を考えていたが、うんと頷いた。
「そうだな、練習風景が、そのまま活動のアピールになるかもしれない。よし、メンバーは、試合に向け稽古だ。その他の連中は、新入生を誘導して解説をやってくれ」
オレたち主力メンバーは、道場に集まり、まず形から稽古を始めた。そして身体をほぐすと、自由組手の練習を始めた。オレが登場しては練習にならないから、もっぱらコーチ役に回っていた。
「良いですよ、今の蹴り。なるべく左右に動いて、相手を撹乱しましょう」
新入生は、先輩たちの動きを見て、驚きの喚声を上げていた。まだまだ、こんなもんじゃないんだがな。
「小隊長、僕も入部しますよ」
久住が言って来た。お前経験あるのか、と聞くと、中学三年間は空手、その前は柔道をやってたそうだった。オレは、つい久住と談笑していた。
その時、ひとりの新入生が、自分の実力を見てほしいと言って来た。形と自由組手を所望だった。女生徒で、身のこなしを見ると、それなりの経験者のようだった。
「いや、今日は君たちは見学、主力選手は来週の試合の練習だから、邪魔はするな」
「先輩も、主力選手なんですか?それにしては、余裕ぶっこいてますね。人の立ち合いにケチ付けたり、偉そうに三年の先輩にダメ出ししたり。先輩ってそんなに強いんですか」
オレを挑発するとは可愛いやつだ。だから、率直にそう言ってやった。
「そのとおりだ、この部、この学校で一番腕が立つのはオレだ。だから、みなには少しでもオレのレベルに近づいて貰うために、指導している」
「先輩って、二年の松澤さんですよね、こないだ初段を取ったばかりの。私は今二段です、近々三段の試験を受けようと思ってます。そんな空手初心者と言っていい、松澤先輩の指導など必要ないと思いますが、いかがでしょうか」
「へえ、そいつぁすげえや。今度気が向いたとき、見せてくれや」
その女性徒の目が、黄色く光った。あたりにきな臭い空気が漂った。
「私、今松澤先輩に、試合を申し込みます!受けて下さい」
「だから、練習中だ。だいたいお前名前は?人に頼みごとをするなら、名前くらい言われなくても名乗れ」
「失礼しました。一年B組の瓜生真希絵と申します。ぜひ、松澤先輩との立ち会いを希望します」
「言ったろ、気が向いたらな。おおい、そこ、足の踏み出し位置が違う」
オレは飛んで行って、足運びの理由と、そのやり方を実際に示して見せた。瓜生は、その様子を見て、呆れた様子だった。
「なんですか、あれ、あんな足運び、空手では習ってません。出鱈目もいいとこじゃないですか」
それを聞いていた、二年生部員も言った。
「そうだよなあ、確かに空手の技じゃないんだよ」
「そんな出鱈目許して良いんですか?あのひとの形、見たことありませんよ。なんなんですか、あのひと」
「うーん、たぶん空手初段者としては、史上最強だろうな」
瓜生は、二年生の先輩の言葉に当惑した。練習が終わる際に、オレとの立ち合いと、形の演武を見てくれとしつこく言ってきた。
「なんだよ、お前メンバーにでも立候補する気か」
「立候補はしません。それは、部長さんや幹部の方が、決められることです。どうかお願いします」
「ふーん、オレとしては、新入生のこんなわがまま、聴く耳持つ必要はない、と思いますがね」
部長の葛城さんは、瓜生の気っぷが気に入ったようだった。
「まあ、特例だが形を演舞させて、立会してやれ。ただし女の子だからな、適当に手を抜いて、ケガさせるんじゃないぞ」
「はい、はい、分かりました。じゃお前、時間ないから、さっさと形の演武始めて」
瓜生は、むっとした顔をしながら、十手、半月、岩鶴と言った形を披露した。
「どうでしたか、松澤先輩」
「俺はやったことがないから分からん。だが以前の大会で見た、前日本代表候補の女性の演技とは、技のキレが劣ったな。お前もまだまだじゃね」
「じゃあ、次は、そのまだまだの、女子生徒と立ち合って下さい」
正直オレは、乗り気じゃなかった。防具を無理に着けさせようとすると、瓜生は拒否した。動きも制限されるし、そんなものは必要ないというのだ。ならば、オレはやらんと言った。防具をつけるのは、瓜生の安全のためだ。新入生を死なせないまでも、大ケガさせたら、部活が成り立たなくなる。それが嫌というなら、それはそれで結構だ。お前の入部は認めない。
私が、松澤さんなんぞに負けるわけがない、と言い放ったので、久々にオレはキレた。
「おい、小娘、世の中にはなあ、お前の知らない途轍もなく強い奴がいくらでもいる。早い話がこのオレだ、手前の小さい物差しで、世間を計るもんじゃねえよ。はっきり言ってお前のスキルは入門者の域を出ていない。お前のような、トーシロー相手に立会いする気もなくなった。おととい来やがれ」
そう言い放つと、オレはさっさとその場を去ろうとした。
「いいんじゃね?相手してやれよ」
新美が、割って入ってきた。
「はあ?こいつ下手すると、大ケガするぞ」
「だから、お前がケガしないように、手加減してやれよ。お前の技量なら、たやすいことだろ」
そして、オレに囁いた。
「あいつ、意外にやるかもよ。いいから、オレの顔立ててやってくれ」
「お前の知り合いか?」
「まあ、多分、ある意味な」
「?」
「よし、瓜生、松澤先輩が相手して下さるとよ。気合い入れていけ」
オレは、新美の言うことがよく分からなかったが、こうなったら仕方ない。瓜生はやる気満々だった。
「分かった、どうなっても知らねえぞ」
「別に、ケガしても文句はありませんよ」
キャプテンに許可取ると、新美が審判になって、自由組手が始まった。
まず、瓜生が直線的な突き、蹴りを繰り出してきたが、オレは余裕でかわした。技のスピードもキレも思ったとおりだった。こんなの時間の無駄だろうと思った瞬間、瓜生は身体を密着させて、オレの首に手をまわそうとしてきた。これは、空手の技ではなかった。
自衛軍の並河さんと立ち会った時、彼女が使ってきた技だった。そのまま首投げに移ろうとする、瓜生の腕を外し、関節技を決めてから投げた。あの時の、並河さんのように、瓜生は一回転してひっくり返った。
部員のみなが、感嘆の声を上げた。瓜生自身も呆然としていた。
「一本だな」
新美は、冷静に言った。
「これで、気が済んだろう。瓜生」
「・・・」
瓜生は、信じられないものを見た顔で、オレを見つめていた。それで本日の練習は、終了となった。
オレと新美は制服に着替えると、ベタ付いてくる久住とともに下校しようとした。その時、オレたちに声をかけてきた者がいた。
「先輩!私もご一緒させていただいても宜しいでしょうか?」
声の主を見ると、瓜生真希絵だった。
「どうした、ケガでもしたのか?」
「いえ、大丈夫です。それよりも、みなさんとお話ししたいと思いまして」
「はあ?なんだあ、またなんか文句つけてくんのか?」
「いえ、松澤先輩、本日は大変失礼しました。どうかお許しください」
瓜生は、丁寧にお辞儀した。妙におとなしいので、逆にオレは警戒した。
「なんか、お前おかしなこと、企んでないだろうな」
「いえ、別に。ただ、松澤先輩、いえ小隊長に久しぶりに逢えてうれしかったんです」
瓜生の言葉に、オレは愕然となった。小隊長?もしかして、こいつも転生仲間か?
「まったく、なんで毎度々々こんなに膨大な宿題をやらなくちゃならないんだ。オレ、入る高校間違えたかな」
「違うとこ行ってたら、あたしとは逢えなかったじゃん」
「その替わり、違う娘と付き合ってたと思う」
「そして、フラれて泣かされる、というパターンを繰り返してたね」
「うう、確かに。お前の言うとおりだ」
「昔から、あんたは女を見る目がないから」
「ホントにそうだと思う、心から思う」
そう言って、オレは夏実のやつをじろじろ眺めてやった。
夏実は、オレに拳骨を当てた。
「あたしは、あんたがフラフラしてるから、掴まえてあげたの!けど、あたしのことが嫌なら、仕方ないしい」
「捨てないで、夏実ちゃん」
「相変わらず、仲がいいですね」
久住が、新美と楓とともに入店していた。
「ここが、先輩方の集合場所なんですね。素敵なお店です」
「夏実の趣味だ」
「だろうと思いました、店の名前を見ましたから。マギーさんには、大変お世話になりました。お陰様で、皆さんの後輩になることができました」
「あーよかったな、まーがんばれー」
オレは棒読み口調で言ってやった。
「あれ、小隊長はつれないですね。可愛くて、頼りになる後輩ができたんですよ。もっと喜んでくださいよ」
「いい加減、お前の図々しさにも慣れっこになったな。この課題の山を見ろ、これが来たるべき、お前の近い将来だ」
「ええっ、修博って、こんなに宿題出るんですかあ」
「おうともよ、これが修博に入った者の運命だ。これがこなせないというなら、悪いことは言わん、今のうちに他の高校に鞍替えしろ。オレも今後悔してたところだ」
「確かに、遼介はウチでは中の上てとこだけど、他校へ行けば、トップクラスでとおると思うな」
「そして、成績優秀、拳法部でもトップになり、女子生徒にモテる」
「そして、悪い娘に騙されて、捨てられる」
他の三人は、オレと夏実の掛け合いに、声を出して笑った。
「まあ、確かに松澤は頼りになりそうで、抜けたところがあるからなあ」
新美がいみじくも感想を述べた。あまりに的確過ぎてオレは情けなくなった。
こいつは、最近、楓と行動を共にする機会が増えたようだった。どうも、夏実はオレを連れて、ふたりで先に下校することで、後から、楓と新美が自然にふたり連れでここへ来るように仕向けているらしかった。オレは、そのことをふたりに言ってやった。
「それで、お前らの進展具合はどうよ」
「進展て何よ?」
「楓ちゃん、カレシ作らないの?好い男がそこにいるじゃん」
「はあ、克哉のことお?こいつはただのダチでしかないよ。あたしが好きなのは、誰だか知ってるくせに」
「でも最近、ふたり連れでいるのが多いらしいじゃん。悪いけどオレは浮気はできない性分なんだ。その代りと言っちゃ失礼だが、新美は良い奴だぞ、ちっとは考えてみろよ、楓」
「そういうことを、本人の前で言うな!」
新美も、楓もなんだか顔を赤くしていた。オレと夏実は、その様子をニヤニヤしながら眺めていた。
こいつらは、結局春休みの間、進展はなかったようだ。まあ、本人たちが決めることだから、オレもそれ以上関与する気もなかったがね。オレと夏実は、休み中例の図書館デートと言う名の勉強会をずっとやっていた。
春休みも終わり、明日から新学期だ。新美とオレたち空手部は一日早く登校し、来週から始まる、春の総体の準備に入った。部室で新美は、オレを選手として、部長の葛城さんに推薦した。
「ああ?あんなヘタレ野郎、使い物にならねえだろ」
「とんでもない、奴はこの一年間、三味線引いてたんですよ。こないだの初段の昇進試験で、協会の徳永理事に相手をして貰ってましたが、実力はほぼ互角でした」
「はあ?徳永って、あの元全日本代表の徳永さんか?」
「まさか、そんなことはあり得んだろ」
「いや、オレはその場に立ち会ったんです。やつは少林寺拳法を十二年程やってましたからね。少林寺の内規のため公称は二段ですが、実力は五段以上のお墨付きです」
新美は、話を少し大げさに脚色してキャプテンたち先輩に吹き込んだ。
「信じられんな」
「立ち会って見られれば分かりますよ。間違いなく、奴はこと武術に関しては、わが校最強です」
新美の段取りで、オレは、キャプテンの葛城さんと、三年の周東さんと立ち会うこととなった。防具をつけて、一本勝負だ。試合は、あっという間に終わった。
キャプテンは、突き蹴りの際、オレにいなされてバランスを崩し、そこを足刀蹴り一発でノックアウトとなった。防具をつけていなければ、あばらの数本も折ってたところだ。
周東さんは、慎重に攻めてきたが、軽くジャブを放ち、よけたところを連続技で、蹴り倒した。空手なら、それで終わりだが、少林寺流は相手の制圧を旨とするので、より実戦的であり、倒れた周東さんの腕を固め、動けなくした。もっともこれは、空手の技ではないので、試合で使っても、単なるスリップと扱われるだろう。
しかし、葛城さんと周東さんはオレの技に驚嘆したようだった。
「松澤!お前こんな技、どこで身に着けたん
だ?」
「はあ、ウチの近くに道場がありましてねえ、そこの師匠にガキの頃から、基本を叩き込まれたんですよ。今回の昇進試験でもいろいろ世話になりまして、まず空手の基本を勉強しろ、と言われて新美と二人で形の特訓をしてたんですよ」
「オレもその道場を見学したい。お邪魔させて貰えないか」
「良いですけど、今は空手部存亡の危機でしょう。他道場の見学より、空手の練習に専念すべきじゃないですか」
「なに、空手部が廃止になりゃ、拳法部を立ち上げればいいだけのことだ、部長はお前にする」
この人たちが、こんなに節操のない連中だったとは思いもしなかった。空手で負けたから、少林寺でというのは虫が良すぎるだろ。
案の定、上泉師匠は道場で彼らから事情を聴くなり断った。
「まだ、君たちは、空手で何かを掴むところまで行ってないじゃない。空手には、空手の良さがあると思うよ。ただ、その道が平坦でないのは、ウチの拳法も同じだ。空手でやることをやって、他の世界も見てみたいというなら、その時は歓迎するよ」
だが、どうせなら、うちの拳法の神髄を披露しようということで、師匠とオレが、約束組手方式で、組み合ってみせた。
空手にはない、剛柔併せた技の数々に先輩たちは驚嘆していた。特に師匠の技は、キレていた。すさまじい迅さで、見たこともないような技が繰り出されるのだ。オレがその技についていけてたことにもたまげていた。
ウチの美人師匠の技に葛城先輩たちは、大変感銘を受けたようで、妙にやる気になったらしい。学校に帰るなり、おれたち空手家にできることをすべきだと言いだした。上泉師匠の紹介もあり、徳永さんの指導を月一度受けることにもなった。
翌日の始業式の前に、クラス替えが発表になっていた。二年、三年では、毎年前年の成績に基づき、クラス替えがある。オレは、今回は残念ながら、夏実とは別のクラスとなった。成績によって、国立理系と文系、私立理系と、文系のクラスに分かれることとなった。夏実は、国立理系だ。残念ながら、オレは私立理系クラスだ。俗に、リボンと呼ばれていた。ちなみに、私立文系はブルボン、最低クラスはバカボンだそうだ。夏実は、コクリクラスなので、成績ヒエラルキーの頂点に君臨する。
「夏実と、一緒でないと、オレはこの高校では生きていけないよお」
「オーバーねえ。来年は頑張って、コクブン狙えばいいじゃん。遼介は、もっと要領よく勉強すれば、あと少しでコクブンくらい入れるよ」
「いいや待てよ?アホ生徒として、このまま夏実に勉強面倒見て貰ってた方が良くね?」
「はああ?貴様あ、いったいいつまであたしに頼る気だあ!」
「勿論、一生」
その返事に、なぜか夏実は顔を赤らめた。
まあ、二年からのクラス分けは成績次第ということは、入学時から分かってたことだったし仕方がない。が、ひとつだけ、気に食わないことがあった。青崎千華の奴が、オレと同じクラスになったのだ。あいつは確か、オレより成績は良かったはずだ。コクリクラスにも入れたはずなのだ。なにか嫌な予感がした。
ただし、悪いことばかりではなく、新美と楓も同じクラスだったのはありがたかった。どうも、青崎は苦手だ。オレひとりでは心許なかったところだった。
またなぜか、豊田、大井、丹波、浅野、芝原と言った、前世で同じ中隊だった連中が集まっていた。
「よう、最低野郎ども、オレたちゃ同じ穴のムジナだぜ」
オレは、クラスに入るなり、新美と楓に声をかけた。新美は頬づえをつきながらオレを見て、溜息をついた。
「代り映えのしないメンツだ」
始業式後から、いきなり授業が始まった。いや普通、始業式後は早仕舞いだろ。まあ、修博らしいと言えば、そうなのだが。きっちり六時間の授業に、課題もどっさり出された。オレの高校生活は、ひたすら課題を解くことで終わるのだろう。
ホームルームの後、早速、青崎のやつが、露骨に言い寄ってきた。
「ねえ、今日帰りに一緒に来てほしいところがあるんだけど」
「オレは用はねえよ。ってか、部活がある。じゃあな」
放課後は、空手部でみっちり練習があった。もう適当に空手をやる必要がないというか、しっかりやらなければ、ならなくなったオレは、先頭で形をやらされた。
そのあと、事情を知らない連中にオレが対戦メンバーになった理由を、実地に示すように部長に言われた。黒帯の部員五人を相手に自由組手をおこなった。
あっという間に、組手は終了した。別に自慢するわけではないが、防具をつけていなければ、全員病院行となっただろう。それだけ、オレと他の部員たちには腕の差があった。
オレの本当の実力を知った部員たちは、みな呆気にとられていた。
「徳永さんと互角?オニだな、それ」
「松澤がこんなバケモノとは思わなかった」
ざわつく、部員たちにオレは説明した。
「実は、オレはガキの時分から、十数年間少林寺流の拳法をやってたんだ。ウチの流派は、対外試合禁止なもので、みんなには黙ってた。実際、空手については素人だからな。だが、今回PTAから厄介な要求があったんで、仕方なく早急に初段を取得したんだ。だから、オレのメンバー入りは、今回だけのものと思ってる。オレより長く、空手をやってるひとは、不満だろうし、それも承知している。だから、夏の大会は、特に先輩中心で選んでもらえると良いと思ってる。以上です」
「オレは、今回メンバーから漏れたが、松澤がメンバーなら納得できると思う。実際、こいつとやってみて、全く歯が立たなかった。恐ろしく強かった。松澤なら、ひとりで岳徳寺高校の連中を片付けられるだろう。廃部になったら意味がないし、ここは松澤に託すべきだとオレは思うが」
オレの言葉に、先ほど立ち会った、石橋という先輩が感想を述べてくれた。
「まあ、そういうことだ。部の存亡がかかっている以上、今回の試合は結果を残さなければならない。そんな時に、松澤がいてくれたのは、ラッキーと思うべきだろう。みんなも宜しくたのむ」
部長の葛城先輩が締めてくれた。空手部は一致団結して、春の大会を目指すこととなった。
その日は、練習が遅くなり、夏実とも別々で下校することになった。彼女からメールが来たが、結局合流はできなかった。どうも、同じ陸上部同士の楓と一緒だったようだった。
翌日は、入学式だった。上級生は、この日くらい休みにしたって良さそうなものだが、自習という名目で登校が指示された。
先生方の多くは、入学式に駆り出されていたが、学年に数人の先生が残り、各クラスを巡回していた。まあ、そんなことまでしなくても、ウチの生徒は真面目だから、しっかり自習していたが。その中で一部の生徒が、一年の誘導に駆り出されていた。おおむね、クラス委員のメンバーだった。勿論オレは、そのメンバーには加わらなかった。
ただし、在校生は午前中で授業は終わり、弁当を食って帰宅することになった。午後は、新入生のオリエンテーションがあるそうだ。帰宅部は、そのまま帰っていいが、部活の勧誘も許され、オレはそっちに駆り出された。
午後から、空手着を着て、空手部員募集の呼びかけをさせられた。そんなことしてる場合かね。オレは、部長に意見した。
「あの、おれたちの部は危急存亡の秋でしょ。新入生が入ってもすぐ潰れちまったら意味ないじゃないですか。こんなことやってるより、試合に向けて、メンバーだけでも練習しましょうよ」
部長も、その意見を考えていたが、うんと頷いた。
「そうだな、練習風景が、そのまま活動のアピールになるかもしれない。よし、メンバーは、試合に向け稽古だ。その他の連中は、新入生を誘導して解説をやってくれ」
オレたち主力メンバーは、道場に集まり、まず形から稽古を始めた。そして身体をほぐすと、自由組手の練習を始めた。オレが登場しては練習にならないから、もっぱらコーチ役に回っていた。
「良いですよ、今の蹴り。なるべく左右に動いて、相手を撹乱しましょう」
新入生は、先輩たちの動きを見て、驚きの喚声を上げていた。まだまだ、こんなもんじゃないんだがな。
「小隊長、僕も入部しますよ」
久住が言って来た。お前経験あるのか、と聞くと、中学三年間は空手、その前は柔道をやってたそうだった。オレは、つい久住と談笑していた。
その時、ひとりの新入生が、自分の実力を見てほしいと言って来た。形と自由組手を所望だった。女生徒で、身のこなしを見ると、それなりの経験者のようだった。
「いや、今日は君たちは見学、主力選手は来週の試合の練習だから、邪魔はするな」
「先輩も、主力選手なんですか?それにしては、余裕ぶっこいてますね。人の立ち合いにケチ付けたり、偉そうに三年の先輩にダメ出ししたり。先輩ってそんなに強いんですか」
オレを挑発するとは可愛いやつだ。だから、率直にそう言ってやった。
「そのとおりだ、この部、この学校で一番腕が立つのはオレだ。だから、みなには少しでもオレのレベルに近づいて貰うために、指導している」
「先輩って、二年の松澤さんですよね、こないだ初段を取ったばかりの。私は今二段です、近々三段の試験を受けようと思ってます。そんな空手初心者と言っていい、松澤先輩の指導など必要ないと思いますが、いかがでしょうか」
「へえ、そいつぁすげえや。今度気が向いたとき、見せてくれや」
その女性徒の目が、黄色く光った。あたりにきな臭い空気が漂った。
「私、今松澤先輩に、試合を申し込みます!受けて下さい」
「だから、練習中だ。だいたいお前名前は?人に頼みごとをするなら、名前くらい言われなくても名乗れ」
「失礼しました。一年B組の瓜生真希絵と申します。ぜひ、松澤先輩との立ち会いを希望します」
「言ったろ、気が向いたらな。おおい、そこ、足の踏み出し位置が違う」
オレは飛んで行って、足運びの理由と、そのやり方を実際に示して見せた。瓜生は、その様子を見て、呆れた様子だった。
「なんですか、あれ、あんな足運び、空手では習ってません。出鱈目もいいとこじゃないですか」
それを聞いていた、二年生部員も言った。
「そうだよなあ、確かに空手の技じゃないんだよ」
「そんな出鱈目許して良いんですか?あのひとの形、見たことありませんよ。なんなんですか、あのひと」
「うーん、たぶん空手初段者としては、史上最強だろうな」
瓜生は、二年生の先輩の言葉に当惑した。練習が終わる際に、オレとの立ち合いと、形の演武を見てくれとしつこく言ってきた。
「なんだよ、お前メンバーにでも立候補する気か」
「立候補はしません。それは、部長さんや幹部の方が、決められることです。どうかお願いします」
「ふーん、オレとしては、新入生のこんなわがまま、聴く耳持つ必要はない、と思いますがね」
部長の葛城さんは、瓜生の気っぷが気に入ったようだった。
「まあ、特例だが形を演舞させて、立会してやれ。ただし女の子だからな、適当に手を抜いて、ケガさせるんじゃないぞ」
「はい、はい、分かりました。じゃお前、時間ないから、さっさと形の演武始めて」
瓜生は、むっとした顔をしながら、十手、半月、岩鶴と言った形を披露した。
「どうでしたか、松澤先輩」
「俺はやったことがないから分からん。だが以前の大会で見た、前日本代表候補の女性の演技とは、技のキレが劣ったな。お前もまだまだじゃね」
「じゃあ、次は、そのまだまだの、女子生徒と立ち合って下さい」
正直オレは、乗り気じゃなかった。防具を無理に着けさせようとすると、瓜生は拒否した。動きも制限されるし、そんなものは必要ないというのだ。ならば、オレはやらんと言った。防具をつけるのは、瓜生の安全のためだ。新入生を死なせないまでも、大ケガさせたら、部活が成り立たなくなる。それが嫌というなら、それはそれで結構だ。お前の入部は認めない。
私が、松澤さんなんぞに負けるわけがない、と言い放ったので、久々にオレはキレた。
「おい、小娘、世の中にはなあ、お前の知らない途轍もなく強い奴がいくらでもいる。早い話がこのオレだ、手前の小さい物差しで、世間を計るもんじゃねえよ。はっきり言ってお前のスキルは入門者の域を出ていない。お前のような、トーシロー相手に立会いする気もなくなった。おととい来やがれ」
そう言い放つと、オレはさっさとその場を去ろうとした。
「いいんじゃね?相手してやれよ」
新美が、割って入ってきた。
「はあ?こいつ下手すると、大ケガするぞ」
「だから、お前がケガしないように、手加減してやれよ。お前の技量なら、たやすいことだろ」
そして、オレに囁いた。
「あいつ、意外にやるかもよ。いいから、オレの顔立ててやってくれ」
「お前の知り合いか?」
「まあ、多分、ある意味な」
「?」
「よし、瓜生、松澤先輩が相手して下さるとよ。気合い入れていけ」
オレは、新美の言うことがよく分からなかったが、こうなったら仕方ない。瓜生はやる気満々だった。
「分かった、どうなっても知らねえぞ」
「別に、ケガしても文句はありませんよ」
キャプテンに許可取ると、新美が審判になって、自由組手が始まった。
まず、瓜生が直線的な突き、蹴りを繰り出してきたが、オレは余裕でかわした。技のスピードもキレも思ったとおりだった。こんなの時間の無駄だろうと思った瞬間、瓜生は身体を密着させて、オレの首に手をまわそうとしてきた。これは、空手の技ではなかった。
自衛軍の並河さんと立ち会った時、彼女が使ってきた技だった。そのまま首投げに移ろうとする、瓜生の腕を外し、関節技を決めてから投げた。あの時の、並河さんのように、瓜生は一回転してひっくり返った。
部員のみなが、感嘆の声を上げた。瓜生自身も呆然としていた。
「一本だな」
新美は、冷静に言った。
「これで、気が済んだろう。瓜生」
「・・・」
瓜生は、信じられないものを見た顔で、オレを見つめていた。それで本日の練習は、終了となった。
オレと新美は制服に着替えると、ベタ付いてくる久住とともに下校しようとした。その時、オレたちに声をかけてきた者がいた。
「先輩!私もご一緒させていただいても宜しいでしょうか?」
声の主を見ると、瓜生真希絵だった。
「どうした、ケガでもしたのか?」
「いえ、大丈夫です。それよりも、みなさんとお話ししたいと思いまして」
「はあ?なんだあ、またなんか文句つけてくんのか?」
「いえ、松澤先輩、本日は大変失礼しました。どうかお許しください」
瓜生は、丁寧にお辞儀した。妙におとなしいので、逆にオレは警戒した。
「なんか、お前おかしなこと、企んでないだろうな」
「いえ、別に。ただ、松澤先輩、いえ小隊長に久しぶりに逢えてうれしかったんです」
瓜生の言葉に、オレは愕然となった。小隊長?もしかして、こいつも転生仲間か?
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