12 / 12
化け猫と月の兎
カホ
しおりを挟む
手術日が近くなれば見舞客が少なくなるというのはごく普通のことである。
だれでもそうだが手術となれば、神経質になるのだ。だから手術日に近い日は見舞客も遠慮してあまり来ない。
その風景にはなんの違和感もない。
それなのに……
何故か……
あたしはよく分からない違和感を感じている。
マサキが入院した日にはたくさんの見舞客がいた。
その大半が女の子だったが、チームメイトらしい男の子もいたし、チームのコーチらしき人もいた。
見舞客に共通する思考。
それはマサキに対する期待感だ。
チームのエースだったマサキ。彼がいなくなったらチームの戦力ダウンは必至だ。
できればケガから復帰してほしい。
チームの勝利に貢献してほしい。
そんな期待感なのだろう。
同時に少しのあきらめの思考も感じる。
期待感とあきらめ……。
相反するような感情がおのおのの思考で交じりあっているのは何もおかしいことではない。
そもそも人の感情は複雑で異なる二つの感情が同居しているのだ。
でも感じた違和感はそんなものからくるものではなかった。
その違和感はマサキの思考……
彼は絶対に治ると信じている。
またマウンドに立つと100%思っている。
それが何故違和感なんだ?
アスリートが自分を信じて行動できなければ復帰できるものもできないではないか……という意見もあるだろう。まったくもってその通りだ。
しかしどんなにメンタルが強靭なアスリートでも大きな怪我をしたら、100%治ると信じることなどできない。医師から『大丈夫』と太鼓判を押されても0.00…1%の不安は心に残るはずなのだ。
ところがマサキにはそれがまったくないのだ。
自分は100%治る。
マウンドに立って以前のよう投げることができると信じている。
不自然なぐらいの確信はどこから得られたのだろうか。
『あの……』
マサキの手術日の前日。
見舞客も少なくなった頃にその女の子はやってきた。
ぱっと見たところ……彼女はクラスでも目立たないタイプの子のように見えた。
そもそも中学生ぐらいだと化粧なんかしないのだろうけど、それでもその子は地味だった。
ボサボサの髪の毛を少し短めに切ったままにして、枝毛もそのまま……。
大きな眼鏡をかけており、それがとってつけたかのような眼鏡で、度もきついし、似合っていない。
おばあさんがかけているような目がやたら大きく見えてしまうような眼鏡だ。
それにしても女の子なんだし……眼鏡をお洒落なものにするとか……髪の毛にしても、染めたりパーマをかけたりするまでではなくとも、少し使うシャンプーをこだわったり……髪を少し伸ばしてカールをつけるなり、ストレートにするなりすればいいのに……。
……と、このあたしが感じたぐらいだ。
どうしても中学生ぐらいの若い女の子を見ると死んだカンナと比較してしまう。
それにしてもこの子……。
とにかく存在感がない……と思われてしまいがちな子……というのが第一印象だった。
ただ……よく見ると少しかわいい。
目は二重だし、まつ毛も長くてくるんとカールしているから目鼻立ちがくっきりしている。
その上、肌も白い。
体型も痩せすぎず、太りすぎず……そして背も少し低めだ。
声はアニメに出てくる声優のようにかわいらしい。
ちゃんとメイクしたら……いや眼鏡をコンタクトに変えるだけでもかなり印象は変わるはずだ。
つまりは……本人が自分をよく分かっていないのだろう。
だから存在感が、かき消されてしまう。
『はい。何でしょう』
ナースステーションにはあたししかいなかったので、その子にはあたしが対応した。
マサキの見舞客だった。
面会の記入シートには「木村夏帆」と書いてあった。
あたしはカホをマサキの病室に案内した。
実はカホからもちょっと違和感を感じた。
彼女がマサキに対して発していた思考は期待感でもあきらめでもない。
役に立ちたい……
そういう感情だった。
基本的にはカホからは投げやりな自己肯定感の低い感情が強く出ていた。
その感情は自分に向けている感情である。
マサキに向けている感情は『役に立ちたい』というもの。
これはなんとなくわかる。
この子はマサキのことが好きなのだ。
しかしもう一つの思考はどういうことか……ちょっと分からない。
『あれ? カホじゃん。どうした?』
見舞客がいることを知ったマサキはカホに声をかけてきた。
誰であっても気さくにやさしく話をすることができる……こんなところも彼がモテる要因の一つだろう。いい男というのは子供の頃から違うのだ。
あたしはさっさと病室を出てナースステーションに戻った。
カホから出てくる感情の違和感は気になるが、正直あたしの知ったことではない。
そもそもあたしには盗み聞きの趣味はないし、仕事が忙しいのだ。
だれでもそうだが手術となれば、神経質になるのだ。だから手術日に近い日は見舞客も遠慮してあまり来ない。
その風景にはなんの違和感もない。
それなのに……
何故か……
あたしはよく分からない違和感を感じている。
マサキが入院した日にはたくさんの見舞客がいた。
その大半が女の子だったが、チームメイトらしい男の子もいたし、チームのコーチらしき人もいた。
見舞客に共通する思考。
それはマサキに対する期待感だ。
チームのエースだったマサキ。彼がいなくなったらチームの戦力ダウンは必至だ。
できればケガから復帰してほしい。
チームの勝利に貢献してほしい。
そんな期待感なのだろう。
同時に少しのあきらめの思考も感じる。
期待感とあきらめ……。
相反するような感情がおのおのの思考で交じりあっているのは何もおかしいことではない。
そもそも人の感情は複雑で異なる二つの感情が同居しているのだ。
でも感じた違和感はそんなものからくるものではなかった。
その違和感はマサキの思考……
彼は絶対に治ると信じている。
またマウンドに立つと100%思っている。
それが何故違和感なんだ?
アスリートが自分を信じて行動できなければ復帰できるものもできないではないか……という意見もあるだろう。まったくもってその通りだ。
しかしどんなにメンタルが強靭なアスリートでも大きな怪我をしたら、100%治ると信じることなどできない。医師から『大丈夫』と太鼓判を押されても0.00…1%の不安は心に残るはずなのだ。
ところがマサキにはそれがまったくないのだ。
自分は100%治る。
マウンドに立って以前のよう投げることができると信じている。
不自然なぐらいの確信はどこから得られたのだろうか。
『あの……』
マサキの手術日の前日。
見舞客も少なくなった頃にその女の子はやってきた。
ぱっと見たところ……彼女はクラスでも目立たないタイプの子のように見えた。
そもそも中学生ぐらいだと化粧なんかしないのだろうけど、それでもその子は地味だった。
ボサボサの髪の毛を少し短めに切ったままにして、枝毛もそのまま……。
大きな眼鏡をかけており、それがとってつけたかのような眼鏡で、度もきついし、似合っていない。
おばあさんがかけているような目がやたら大きく見えてしまうような眼鏡だ。
それにしても女の子なんだし……眼鏡をお洒落なものにするとか……髪の毛にしても、染めたりパーマをかけたりするまでではなくとも、少し使うシャンプーをこだわったり……髪を少し伸ばしてカールをつけるなり、ストレートにするなりすればいいのに……。
……と、このあたしが感じたぐらいだ。
どうしても中学生ぐらいの若い女の子を見ると死んだカンナと比較してしまう。
それにしてもこの子……。
とにかく存在感がない……と思われてしまいがちな子……というのが第一印象だった。
ただ……よく見ると少しかわいい。
目は二重だし、まつ毛も長くてくるんとカールしているから目鼻立ちがくっきりしている。
その上、肌も白い。
体型も痩せすぎず、太りすぎず……そして背も少し低めだ。
声はアニメに出てくる声優のようにかわいらしい。
ちゃんとメイクしたら……いや眼鏡をコンタクトに変えるだけでもかなり印象は変わるはずだ。
つまりは……本人が自分をよく分かっていないのだろう。
だから存在感が、かき消されてしまう。
『はい。何でしょう』
ナースステーションにはあたししかいなかったので、その子にはあたしが対応した。
マサキの見舞客だった。
面会の記入シートには「木村夏帆」と書いてあった。
あたしはカホをマサキの病室に案内した。
実はカホからもちょっと違和感を感じた。
彼女がマサキに対して発していた思考は期待感でもあきらめでもない。
役に立ちたい……
そういう感情だった。
基本的にはカホからは投げやりな自己肯定感の低い感情が強く出ていた。
その感情は自分に向けている感情である。
マサキに向けている感情は『役に立ちたい』というもの。
これはなんとなくわかる。
この子はマサキのことが好きなのだ。
しかしもう一つの思考はどういうことか……ちょっと分からない。
『あれ? カホじゃん。どうした?』
見舞客がいることを知ったマサキはカホに声をかけてきた。
誰であっても気さくにやさしく話をすることができる……こんなところも彼がモテる要因の一つだろう。いい男というのは子供の頃から違うのだ。
あたしはさっさと病室を出てナースステーションに戻った。
カホから出てくる感情の違和感は気になるが、正直あたしの知ったことではない。
そもそもあたしには盗み聞きの趣味はないし、仕事が忙しいのだ。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ストーリーは面白いです。展開も早くスムーズに読めました。
化け猫ちゃんが可愛いです。こんな化け猫ちゃんなら、側にいて欲しいです。
猫野たまさん
感想、ありがとうございます。
実はアヤコのモデルは実際にいる看護師さんでした。
ボクが訪問入浴時代に一緒に仕事をした看護師で、けっこう仲良くしていたので楽しみながら書いています。
と言いつつちょっと切ないストーリーなので、今度はちょっとライトな話を書きたいな~なんて思っています。