阪上くんと保田くん

阪上克利

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出会いと学生生活

旅行とアルバイト

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 夏休みの思い出といえばなんだろうか……。
 よく映画やドラマでは友人同士で夏休みにどこかに出かけて冒険をするという物語がある。
 子供の頃からそういったものにあこがれ続けていたボクは、いつしか夏休みには泊りがけで何かをやりたいといつも思っていた。

 中学生の頃……
 横浜市内のキャンプ場に友人と二人でキャンプにでかけたのだが、なんとなく自分の思うような感じではなかったのを覚えている。
 何故ダメだったのかというのはなんとなく分かる。

 夜が眠れないのだ。
 夏の暑い時期に出かけているから、昼夜問わず暑い。
 昼間はまだ釣りをしたりしているから我慢できるのだけど、寝なければいけない夜の時間はそれはもう苦痛でしかない。

 分かりやすく一言で言うと……エアコンがないから寝れないのだ。

 実に根性のない話である。

 ただ暑いだけでなく、このキャンプが自分の思うようなものにならなかったのは風呂に入れないということが大きな理由の一つである。

 キャンプと言えば、野外で行うものなのだから、暑いのを我慢するというのは当たり前なのだけど、風呂に関してはキャンプ場近くの銭湯を探すなどできる。
 要は下準備が足りなかったのである。

 中学の頃の失敗を踏まえて、高校ではもう少しマシな旅行に行きたいと思っていたボクは、高校2年の頃、夏休みに千葉県の房総半島に旅行に行くことを保田くんと計画したことがある。
 もちろん、旅行ともなるとそれなりのお金は必要になる。

 ……と言っても学校がやっている間にアルバイトをするわけにも行かない。
 勉強があるから……という理由ではない。
 いや、そもそもそんなに勉強などしていない。

『バイトするか……』
『だな……』
『部活があるから休みに入ってからだな』
『部活関係なくね?』
『いや、部活は大事だろ。特に保田くんは部長としての責任があるだろうし』
『部長としての責任? 何それ??』
『おいおい。ちゃんとやろうぜ!』
『いや……そんなこと言われても……』

 学校帰りにボクは保田くんとそんなことを話した記憶がある。

 でも学校がやっている間は部活動がある。
 別に部活動に関してもそんなに真面目にやっていたわけではないのだけど、それでも楽しかったからその時間をアルバイトにはとられたくはないというのがボクの本音だった。
 ちなみに保田くんは鉄道研究部の部長としての責任などは持ち合わせていなかった。
 そもそも彼から言わせると、かなり強引に押し付けられた役職なのであって、そんなものは知らんというところなのだろう。

 そんなわけで、夏休み中に何らかのアルバイトをして、ためたお金で、夏休みの後半に旅行に行こうとボクらは計画したわけだ。

 何故、房総半島だったのか……

 それは珍しく鉄道研究部らしい理由だった。

『この特急車両かっこよくない?』
 こんなことをボクが言うのは珍しかったから、保田くんはいつもでは考えられないほど食いついてきた。
『おお! そうだよね。このカラーリングとかたまらんよね』
『乗ってみたいなあ……』

 当時、房総半島を走っていた特急『わかしお』と『さざなみ』は新車両になって走りだしており、ボクらはそれに乗る予定を立てたのだった。
 旅行だけでなく、特急にも乗りたいのだからそれなりにお金がかかる。

 幸いなことに、鉄道研究部の先輩の伝手つてでアルバイトはすぐに見つかった。

 バイト先の名前を出すのはちょっと抵抗があるので伏せておくが、横浜近郊の私鉄のとある駅での駅員のバイトである。
 主な仕事は改札口での切符切りだった。
 今でこそ自動改札が当たり前だし、スイカやパスモが当たり前の交通機関だが、なんと当時は自動改札ですらなく、駅員がはさみで切符を切っていたのだ。

 余談だが、よくよく記憶をよみがえらせてみると、ボクらが通学で使っていた大船駅も自動改札ではなかった。朝夕のラッシュの時間帯など、駅では『猫の手も借りたい』ぐらいの忙しさだったのは部外者であるボクにもよく分かった。しかしそんな大事そうな仕事をたかだか高校生のアルバイトにやらせてもいいのだろうか……というのが当時のボクの感想ではあった。

 そうは言っても、旅行に行くにはお金が必要なわけで……
 やっていいかどうか、ということよりも背に腹は代えられないという事情もあり、アルバイトを開始した。

 ところが……。
 これが思っていた以上にきつい仕事なのである。

 数時間立ちっぱなしの作業だし、切符の内容があっているかどうかもしっかりと見なければいけない。
 切符切りの方は、あのはさみに慣れるまでにやたら手首が疲れるのだ。

『いや……こんなん無理だわ……』
 そんなことを心の内で呟きながら、ボクは嫌になってしまった。
 今から考えてみるとその程度の仕事はそんなに難しいことではなく、今のボクなら、なんなくこなしてしまうだろう。でも当時のボクはいろんなことを考え過ぎていたのかもしれない。
 とにかく完璧に仕事をこなす必要なんてないということに気付いたのはつい最近で、実は仕事というのはそういう『良い加減』が大事であることなんて当時は分からなかったから、それで嫌になってしまったというのが本当のところかな……と今振り返ってみると思う。
 分かりやすく言えば根性がないのである。

 そんなこんなでボクは早々にアルバイトはやめてしまった。

 ボクとは対照的に、保田くんは当時、すでにボクより前にバイトをしていたようだった。

 学生生活はうまく行かないと自負していた保田くんだが、社会生活、とくに勤労と言うものに関しては案外溶け込んでいくのに抵抗がなかったと思える。恐らく物事のとらえ方がボクよりもいい意味で『良い加減』だったのだろう。

 結局、ボクは一日、バイトを体験しただけで辞めてしまった。

 バイトを辞めてしまって、じゃあ旅行に行けたのか……
 そんなもん……無理に決まっている。

 アルバイトもせずに旅行に行けるだけのお金が当時のボクにあるわけもなく、旅行のことなど頭からきれいさっぱり忘れて、夏休みは朝から高校野球を見ながら、たまに自転車で釣りに行ったりしてだらだらと毎日を過ごしていた。

 そして記録的な台風が来たのはその年である。
 しかもボクらが旅行に行こうと予定していたその日に台風は関東に直撃した。
 小笠原で発生した台風はそのまま関東に直進してやってきて、上陸した後、北上していくという進路をとり、東京近郊の主要都市の交通機関はすべて麻痺してしまっていた。

 旅行が行けなくなった理由として、台風が来たから行かないことになったのか……それともボクがバイトをしていないから行かなかったのか……その辺のことは実に曖昧である。
 ボクは、自分で言い出しておきながら、バイトを挫折してしまってからは保田くんに、この旅行の事を話していなかったからである。

 保田くんはボクに旅行の件を聞くようなことはなかった。
 それはボクがバイトを挫折してしまったことに触れまいとしている優しさだったのだろうか。

 否。

 たぶんそれはないだろう。
 ただ単に彼は最初から行く気がなかったのだろう。

 行けなかったこの旅行……実は高校を卒業した後、保田くんと多田くんとで夏休みに行った。
 その話はまた別の機会に話そうと思う。
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