隣の二階堂さん

阪上克利

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物語はハッピーエンドがいいのか否か

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 隣の二階堂さんには変な癖がある。
 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
 最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。
 最近では彼女が何かに煮詰まってきている時にお茶に誘って話を聞くことをあたしも夕凪ゆうなも楽しみにしている。

 どんどんどんどん…

 今夜も壁を叩く音がする。
 4歳になった夕凪ゆうなはあたしを見る。
 あたしは夕凪ゆうなに言った。
『お姉ちゃん、呼んできてくれる?甘いものでも食べましょうって』


 --------------


 暇だったので本を買ってきた。
 たまには読書でもしようと思ったのだ。
 末期がんの少女が最終的に死んでしまうお話だった。
 うーん。
 なんだかなあ……。
 世間様は物語に涙を誘うことを好むらしい。
 映画でも感動とか涙するとかそんなコピーが乱立している。
 でもそれはなんだか納得ができない。

 だって現実の世界ではうまく行かないことが多いからだ。

 ヒーローは出てこないし、仕事が奇跡的にうまく行くことはない。
 魔法は存在しないし、少女が男を殴り倒すことなど、できはしない。
 ネコはネコであって人間ではない。化け猫などは存在しない。
 探偵は捜査に参加することはないし、警察は必ず犯人を捕まえられるわけではない。
 弱小チームが血のにじむような努力をして、奇跡的に甲子園に行くことなどはあり得ない。いくら練習しても地方大会を勝ち抜くことは難しいし、その努力は現実には報われないことの方が多い。

 こうやって考えると本当に現実とはうまくいかないことだらけだ。
 ただでさえ現実がうまく行かないのなら、お話の中ぐらいうまく行ってほしい。

 だからあたしは現実とは逆のことをお話に求めているのだ。

 ヒーローが出てきて、うまく行かないと思われる仕事が大逆転でうまく行く。
 魔法を駆使して、本来筋力ではかなわないはずの少女が、悪人である大男を殴り倒す。
 ネコが人間に変身して、人間の日常を送る。
 探偵が気持ちよく事件を解決し、犯人は絶対につかまる。
 弱小チームが努力に努力を重ね、並み居る強豪校に連戦連勝しつつ、甲子園に出場し、全国制覇を成し遂げる。

 こうやって考えるだけでも楽しくなる。
 とにかくお話の中だけでいいから奇跡的に物事がうまく運んでほしいのだ。

 それなのにしてもなぜ……こういう悲しい話を喜ぶ人がいるのだろうか。
 泣きたいからか?
 なんで??
 あたしは少なくとも泣きたくないし、本当に悲しいことばかりある世の中でお話の中にまで悲しい話を持ち込んでほしくない。

 だけども世の中、悲しいことばかりではない人もいるからかもしれない。
 自分の周りにはそんなに悲しいこともない。
 いや……あるのかもしれないけど悲しいと感じていない。
 そういう人が悲しい物語を見て非日常を感じているのだろう。
 ちょっとあたしの価値観では分からない。

 う――ん……。

 考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。

 どうやらあたしはまたやってしまったらしい。
 今日もお隣にお茶を誘ってもらえることを考えると、そんなに世の中捨てたものでもないのかもしれない。
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