隣の二階堂さん

阪上克利

文字の大きさ
49 / 62

日記を書くことはいいことなのか否か

しおりを挟む
 隣の二階堂さんには変な癖がある。
 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
 最近は壁の音もしない日がある。たぶん自分でも自覚があるから気を付けているのだろう。
 壁の音がしたら、お茶に誘うという謎のルールを決めている我が家では、壁の音がしないと寂しいと感じるまでになってしまった。特に雨の日曜日などは、外出するわけでもなく何もすることもないので、4歳になった夕凪ゆうなは壁の前でお絵かきなどをしながら音が鳴るのを待っている。

 とんとんとんとん……

 ふとあたしが夕凪ゆうなをみると……彼女は壁を叩いていた。
 変な癖にならないといいのだけど……。


 ――――――――――


 せっかくの日曜日も雨が降ってしまうと家でじっとするしかなくなる。

 こういう時に限って姉から電話が来て、残念な休日になるのは嫌なので、スマートフォンの電源は切っておくことにした。ネットを見たければパソコンがあるし、ニュースを知りたければラジオがある。
 日曜日にまで電話をしてくる人間は姉ぐらいで、あとはごくまれに職場の人間からのお酒の誘いがあるかないか……ぐらいだ。日曜日に呑みに行くのは嫌ではないが明日の仕事のことを考えると家で読書でもしながら静かに過ごしたいので、連絡がつかないぐらいがちょうどいいだろう。

 ここ数週間、あたしは日記を書くことにしている。

 最近ではブログなどが流行っているが、私生活をいちいち他人にさらす趣味はあたしにはない。
 日記というものは自分を見直すためのものであり、日々の生活の中で自分がどのように行動しどのように考えているかを客観的に知るためのものである。だからいちいち他人にそれを見せびらかす必要などないとあたしは思っている。
 ブログが流行はやる理由はよく分からない。
 どこかで聞いた話だが承認欲求と何か関係があるらしい。
 まあ……あたしは『他人に認められたい』という気持ちはほとんどないので、承認欲求などはまったく関係のない話だ。

 『日記を書く』と言っても平日は忙しいし、お酒を呑んでしまうことも少なくないので、土曜日か日曜日にまとめて1週間分の日記を書くことにしている。
 これはなかなか面白い。

『え――と……月曜日は……』
 考え事をしているとつい独り言をつぶやいてしまう。
 いい加減に治したい癖なのだが、独り言を言うことによって集中しているということもあるから何とも言えない。
 月曜日は姉から電話があったんだっけ。思い出したくもない。

『火曜日は……』
 そういえば……同じ会社の石岡くんが『自分探しの旅に出た』などと訳の分からないことを言っていた……。
 自分探しなら家でも十分できるのに……

『それから……水曜日は……と』
 ああ……平日にもかかわらず姉に呼び出されたんだった。まあ、おごってもらったからいいけど。あのお店はちょっと遠いけど今度一人で行って来よう。

『木曜日……』
 なんにもなかったか。
 テレビで箱根駅伝の特集を見たんだっけ。あ……ジョギングやってないや……。

『そして金曜日は楽しかったな』
 金曜日は休みをとって従妹の理彩ちゃんとミュージカルに行った。姉が来たのは面倒だったけど、ミュージカルはすごく良かった。

 日記を書いていて今週のあたしの行動で気づいたことがある。
 やたら姉が絡んでいるのだ。別に好きで絡んでいるわけではないのだけど、あの姉に絡むのはなるべく少なくしておきたいものだ。それにしてもなんでまた今週はこんなにも姉が絡んでいるのだろうか。
 まあ……なんだかんだあんな狂ったような姉でも、あたしの姉である事実は変えようがないのだから、うまく付き合っていくしかないのかもしれない。

 え――と……次は昨日か……土曜日。
 昨日は何もしてなかったなあ……
 そういや考え事してたんだっけ。ああ、恋とか愛とか……そんな感じの……。

 ふと時計を見たら14時を回っていた。
 意外と集中して日記を書いていたらしい。
 1週間いろいろあったけど、自分を見直すというほどのものは何もなかった。強いて言うなら姉との付き合い方を考えたいというところだろうか。

 う――ん……。
 日記は自分を振り返るにはとてもいいけど、継続しないと見えてこないものもあるらしい。

 とんとんとん……

 思わずあたしは壁の方を見る。お隣から音が聞こえる。
 お茶には良い時間だ。
 たまにはこちらから誘ってみるかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...