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電車通勤はしんどいのか否か
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隣の二階堂さんには変な癖がある。
考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。
何も怖くはないのだけど……
今日は少し気になることがある。
いつも仕事の帰りの時間が一緒になることが多い二階堂さん。
きっと残業などせずまっすぐに家に帰ってくるのだろう。
夕方……
あたしは4歳になった娘の夕凪と一緒に手をつなぎながら『夕焼け小焼け』を歌いながら住んでいるアパートへ帰る。
そんなときにいつも彼女と会うことが多いのだ。
『あ、お疲れ様です』
『ん? あ、お疲れ様……』
元々、二階堂さんは何かに集中すると周りが見えなくなる傾向があるから、きっと何か考え事をしているだけなのだろうけど……ちょっと思いつめたような顔をしていたのが印象的だった。
どんどんどんどん……
あたしたちが部屋に戻ると、まあ、予想通り隣の部屋から壁をたたく音がした。
何か悩んでいるのかな?
ちょうどいい。
今日は甘いものを買ってあるし、お茶にでも誘おう。
あたしは夕凪に言った。
『お姉ちゃん、呼んできてくれる?甘いものでもいかがですかって。』
―――――――――――
たった一駅ではあるものの、あたしは満員電車に乗って通勤している。
帰りはさほど満員というわけではないのだけど、行きはぎゅうぎゅうに詰め込まれた電車のなかでしんどい思いをしながら通勤している。痴漢の被害にあったことは今のところないのだけど、あんな状況ではいつされてもおかしくない。
それにしてもみんな……あんな状況に毎朝よく耐えられるなあと思う。
今日は最悪だった。
背の低いあたしは満員電車の人混みに阻まれて、降りるはずの東戸塚で降車できずに保土ヶ谷まで行ってしまったのだ。もみくちゃにされるのはいつものことだし、せっかくセットした髪の毛がぐちゃぐちゃになるのも、毎朝のことで気にしていない。
でも降りるはずの駅で降りられないのは我慢できない。
身体が大きく、筋量のある男性なら人混みを押し分けて無理にでも降りることができるのだろうけど、あたしのように小さくて力もないOLにはそれは無理な話だ。
一体何のために電車に乗ったのだ。
こんなことなら時間をかけて歩いて会社まで行った方がましだ。
悔しいやら情けないやらで涙が出てきそうになるのを我慢しながら今日は一日、仕事をした。
もう仕事なんかやめて大分の実家に帰りたくなった。
でも時間の経過とともに、悔しい思いは薄れてきて、よく考えてみると仕事は何も関係がなく、いけないのは満員電車なのだと気づいたので、実家に帰るのはなんとか思いとどまることができた。
ただ、こんな思いは二度としたくないので、この際だから電車通勤は辞めようと思う。
それで……スクーターでも購入しようかと考えている。
大体、乗り物というのは快適に遠い場所まで短い時間で到達するのが目的ではないか。
満員電車なんか快適とは程遠い。あんなものに毎朝乗るのは狂気の沙汰である。
朝の時間は出勤の時間がどの会社も同じということであんなに混むのだろう。
一つの車両にあんなにたくさんの人がぎゅうぎゅうと押し込まれて乗車するということは、車両にも良くないのではないだろうか。乗り物というのは乗車定員と言うものがある。あれは完璧に乗車定員のことなど考えていない。
いつか電車のブレーキが利かなくなって止まらなくなったら、あたしは満員電車の人混みの中で死ななければいけないのだ。間違えてもそんな死に方は嫌だ。
雨降りのことを考えると、車通勤が理想なのだけど、うちの会社は辺鄙なところにあるくせに車通勤を認めていない。
おそらく土地が高いのだろう。社員の駐車場までは会社も準備できないというのはよく分かる。その代わりバイクや自転車での通勤は認めているので、それで通勤してくる者は多い。
松沢さんなどはスクーターで通勤しているようだ。
だから呑みに行く時は一度、家に帰ってスクーターを置いて、東戸塚の駅で待ち合わせてから飲みに行く。それであたしはさっさと先に戸塚の居酒屋に行って吞みながら待っているのだけど、彼女は東戸塚で待ち合わせなどして石岡くんと二人で戸塚まで来るもんだから、二人は付き合っていると噂されるのだ。違うなら辞めればいいのに辞めないところを見ると付き合っていると思われても仕方ないのだ。
『李下に冠を正さず』というやつで疑われたくなければ疑わしい行動は慎むべきなのである。
まあ……そんなことはどうでもいい。
問題は満員電車だ。
やはりいろいろ考えるとスクーターが一番いい。
でもどうせなら休日に遠くに行けたらもっと楽しいだろうから、少し大きめのスクーターがいいかもしれない。そうなると免許を取る必要もあるけど、遠出するときに、いちいちレンタカーを手配する必要がないことを考えるとすごく魅力的だ。
う――ん……。
どうしようかな――。
考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴る。
あたしは我に返った。気が付けば壁の前に立っていた。
どうやらあたしはまたやらかしてしまったらしい。
ちょっと今日はため息しか出ない……。
考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。
何も怖くはないのだけど……
今日は少し気になることがある。
いつも仕事の帰りの時間が一緒になることが多い二階堂さん。
きっと残業などせずまっすぐに家に帰ってくるのだろう。
夕方……
あたしは4歳になった娘の夕凪と一緒に手をつなぎながら『夕焼け小焼け』を歌いながら住んでいるアパートへ帰る。
そんなときにいつも彼女と会うことが多いのだ。
『あ、お疲れ様です』
『ん? あ、お疲れ様……』
元々、二階堂さんは何かに集中すると周りが見えなくなる傾向があるから、きっと何か考え事をしているだけなのだろうけど……ちょっと思いつめたような顔をしていたのが印象的だった。
どんどんどんどん……
あたしたちが部屋に戻ると、まあ、予想通り隣の部屋から壁をたたく音がした。
何か悩んでいるのかな?
ちょうどいい。
今日は甘いものを買ってあるし、お茶にでも誘おう。
あたしは夕凪に言った。
『お姉ちゃん、呼んできてくれる?甘いものでもいかがですかって。』
―――――――――――
たった一駅ではあるものの、あたしは満員電車に乗って通勤している。
帰りはさほど満員というわけではないのだけど、行きはぎゅうぎゅうに詰め込まれた電車のなかでしんどい思いをしながら通勤している。痴漢の被害にあったことは今のところないのだけど、あんな状況ではいつされてもおかしくない。
それにしてもみんな……あんな状況に毎朝よく耐えられるなあと思う。
今日は最悪だった。
背の低いあたしは満員電車の人混みに阻まれて、降りるはずの東戸塚で降車できずに保土ヶ谷まで行ってしまったのだ。もみくちゃにされるのはいつものことだし、せっかくセットした髪の毛がぐちゃぐちゃになるのも、毎朝のことで気にしていない。
でも降りるはずの駅で降りられないのは我慢できない。
身体が大きく、筋量のある男性なら人混みを押し分けて無理にでも降りることができるのだろうけど、あたしのように小さくて力もないOLにはそれは無理な話だ。
一体何のために電車に乗ったのだ。
こんなことなら時間をかけて歩いて会社まで行った方がましだ。
悔しいやら情けないやらで涙が出てきそうになるのを我慢しながら今日は一日、仕事をした。
もう仕事なんかやめて大分の実家に帰りたくなった。
でも時間の経過とともに、悔しい思いは薄れてきて、よく考えてみると仕事は何も関係がなく、いけないのは満員電車なのだと気づいたので、実家に帰るのはなんとか思いとどまることができた。
ただ、こんな思いは二度としたくないので、この際だから電車通勤は辞めようと思う。
それで……スクーターでも購入しようかと考えている。
大体、乗り物というのは快適に遠い場所まで短い時間で到達するのが目的ではないか。
満員電車なんか快適とは程遠い。あんなものに毎朝乗るのは狂気の沙汰である。
朝の時間は出勤の時間がどの会社も同じということであんなに混むのだろう。
一つの車両にあんなにたくさんの人がぎゅうぎゅうと押し込まれて乗車するということは、車両にも良くないのではないだろうか。乗り物というのは乗車定員と言うものがある。あれは完璧に乗車定員のことなど考えていない。
いつか電車のブレーキが利かなくなって止まらなくなったら、あたしは満員電車の人混みの中で死ななければいけないのだ。間違えてもそんな死に方は嫌だ。
雨降りのことを考えると、車通勤が理想なのだけど、うちの会社は辺鄙なところにあるくせに車通勤を認めていない。
おそらく土地が高いのだろう。社員の駐車場までは会社も準備できないというのはよく分かる。その代わりバイクや自転車での通勤は認めているので、それで通勤してくる者は多い。
松沢さんなどはスクーターで通勤しているようだ。
だから呑みに行く時は一度、家に帰ってスクーターを置いて、東戸塚の駅で待ち合わせてから飲みに行く。それであたしはさっさと先に戸塚の居酒屋に行って吞みながら待っているのだけど、彼女は東戸塚で待ち合わせなどして石岡くんと二人で戸塚まで来るもんだから、二人は付き合っていると噂されるのだ。違うなら辞めればいいのに辞めないところを見ると付き合っていると思われても仕方ないのだ。
『李下に冠を正さず』というやつで疑われたくなければ疑わしい行動は慎むべきなのである。
まあ……そんなことはどうでもいい。
問題は満員電車だ。
やはりいろいろ考えるとスクーターが一番いい。
でもどうせなら休日に遠くに行けたらもっと楽しいだろうから、少し大きめのスクーターがいいかもしれない。そうなると免許を取る必要もあるけど、遠出するときに、いちいちレンタカーを手配する必要がないことを考えるとすごく魅力的だ。
う――ん……。
どうしようかな――。
考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴る。
あたしは我に返った。気が付けば壁の前に立っていた。
どうやらあたしはまたやらかしてしまったらしい。
ちょっと今日はため息しか出ない……。
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