62 / 62
家族とはありがたいものなのか否か
しおりを挟む
目が覚めたら、母はいなかった。
台所に呑んだビール缶が洗って置いてあったので、勝手に呑んでさっさと帰ったのだろう。
実に母らしい。てゆうか……なんか用事があったのではないのだろうか?
まあ……いいや。
気まぐれな母のことだ。
ちょっと顔が見たくなったとかそんな理由でやってきたことも十分に考えられるのだ。
調子は少し良くなった。
起きると少しフラフラするものの、眩暈はなくなったし、悪寒はしないわけではないが、それでも動けないほどではない。
死にそうだと感じたのが嘘のようだ。
もしかしたらあの煮麺には本当に魔女の秘薬が入っていたのかもしれない。
時計を見ると15時前だった。これなら病院に行ってこれそうだ。
あたしは身支度をして近くの内科にかかることにした。
歩いていける場所に病院があるのは本当に助かる。と言っても午前中のように眩暈がして歩けないとなると近くでも行けないのだが……。
ここの病院は真夜中でも診てくれるらしい。
前にお隣の夕凪ちゃんが熱を出したことがあって、ダメ元で連れて行き、病院のチャイムを鳴らしたところ嫌な顔一つせずに笑顔で診察してくれたと聞いた。
初老の先生だけど、なかなか立派な先生だ。
午後からの診察は空いているらしく、待たされずにすぐに呼ばれた。
『お。お姉ちゃん、久しぶりだね。風邪でも引いたかね。』
『見たままです。風邪っぽいです。』
あたしは自分の声があまりにガラガラのハスキーな声になっていたのに自分でも驚いた。なんと言ってもこの声は母の声そのものである。
やはり一服盛られたか?
『どれどれ……はい、口開けて。』
先生はアイスの棒みたいな平べったい木の棒をあたしの口に突っ込んで喉の様子を見た。
『あーあーこいつはひどいなあ。はい、いいよ』
『どうですか?』
『風邪だな』
まあ、予想通りの答えである。
ここの先生のありがたいところは、余計な薬はあまり出さないことである。
『熱が出るかもしれないし、関節痛や頭痛もあるだろうから、痛み止め、出しとくけど、辛い時以外は飲まないでな』
『はい……』
『それと治るまでは酒は飲まないこと』
先生とはたまに近所のスーパーで会ったりするから、あたしがビールを買っているところも知っているのだろう。
『普段からそんなに呑まないから大丈夫です』
『お姉ちゃん、出身は九州か?』
『そ、そうですけど……』
『九州の人間にはありがちなんだが……お姉ちゃんは自分が思っているより酒呑みだからな。一応ちゃんと自覚しといた方がいいぞ』
そうだったのか。
それは知らなかった。
せっかくの助言だ。自覚しておくことにしよう。
病院を出ると『風邪』と診断されたせいか、少し身体が軽く、楽になったような気がする。
病院には1時間ぐらいいただろうか。
アパートに戻ると家の中に誰かいる。
確か戸締りはしてきたはず……。
そ――っと、玄関の扉を開くと……
母がいた……
そして姉もいた……
そのまま扉を閉めてどこかに行こうかと一瞬思ったが、朝ほどではないにしても足元もふらつくし、少し頭もぼんやりしている状態で外など行くものではないだろう。
本来なら、もらった薬を飲んでゆっくり寝るのが一番なのだ。
『お。帰ったか』
『ただいま……』
母は姉を相手に焼酎を飲んでいる。
あたしの部屋の冷蔵庫にあったビールはすでに全部なくなっていたから、起きた時にいなかったのは焼酎を買いに行っていたのだろう。
それにしても、ついでに姉までいるとは……
『やだ。母ちゃんの声と同じになってる――!』
姉はあたしの『ただいま』という声を聞いて大笑いした。
笑ってる場合ではない。こっちは午前中から死ぬ思いをしていたんだぞ。
『てゆうか……母ちゃんは分かるけど、姉ちゃんはなんで?』
いや……母もなんで来たのかは聞いてない。
でもまあ、二人の来訪理由を一気に聞くだけの元気は今はない。
『母ちゃんから電話があったのよ』
『そうそう。あんたが具合悪いから呼んだの』
母は『具合悪いから呼んだ』と言っているが、どうせ酒の相手をさせるために呼んだに違いない。狂ったような姉のメルヘンな話でも母は面白がって聞く。彼女にとっては酒の肴にちょうど良い話なのかもしれない。
『そうなんだ……』
あたしは疲れ切って言った。とにかくもう寝よう。こっちはまだ風邪が治りきっていないのだ。
『あたし……寝ていい?』
『そうだね。寝てな。病人なんだから』
母は焼酎をドバドバとコップに入れて言った。
昼間だよ……。
でも……あたしが病人だという認識はあるわけね。
まあ、いいや。
もうしんどいし……
あたしは水を一口飲んでベッドにもぐりこんだ。
母と姉が何やら話しているのが分かる。ガーベラがどうのこうの話しているから、もしかしたら姉は今日、松沢さんのお見舞いに行ってきたのかもしれない。
なるほど。
それなら、母が電話してきてもすぐにここに来れるはずだ。
タイミングがいいなあ。
母は魔法か何かが使えるのだろうか?
そんなわけないのは分かっているのだけど、そんな風に思える出来事がけっこうある。そんな母のことを考えているとおかしくなってベッドで声を出さずに少し笑った。
なんだかんだ病気の時は一人でいるよりは誰かがそばにいてくれた方がありがたい。
母にも姉にも感謝だな。
景色がぐにゃりと歪んで見える。
意識が遠のいていくのが分かった。
台所に呑んだビール缶が洗って置いてあったので、勝手に呑んでさっさと帰ったのだろう。
実に母らしい。てゆうか……なんか用事があったのではないのだろうか?
まあ……いいや。
気まぐれな母のことだ。
ちょっと顔が見たくなったとかそんな理由でやってきたことも十分に考えられるのだ。
調子は少し良くなった。
起きると少しフラフラするものの、眩暈はなくなったし、悪寒はしないわけではないが、それでも動けないほどではない。
死にそうだと感じたのが嘘のようだ。
もしかしたらあの煮麺には本当に魔女の秘薬が入っていたのかもしれない。
時計を見ると15時前だった。これなら病院に行ってこれそうだ。
あたしは身支度をして近くの内科にかかることにした。
歩いていける場所に病院があるのは本当に助かる。と言っても午前中のように眩暈がして歩けないとなると近くでも行けないのだが……。
ここの病院は真夜中でも診てくれるらしい。
前にお隣の夕凪ちゃんが熱を出したことがあって、ダメ元で連れて行き、病院のチャイムを鳴らしたところ嫌な顔一つせずに笑顔で診察してくれたと聞いた。
初老の先生だけど、なかなか立派な先生だ。
午後からの診察は空いているらしく、待たされずにすぐに呼ばれた。
『お。お姉ちゃん、久しぶりだね。風邪でも引いたかね。』
『見たままです。風邪っぽいです。』
あたしは自分の声があまりにガラガラのハスキーな声になっていたのに自分でも驚いた。なんと言ってもこの声は母の声そのものである。
やはり一服盛られたか?
『どれどれ……はい、口開けて。』
先生はアイスの棒みたいな平べったい木の棒をあたしの口に突っ込んで喉の様子を見た。
『あーあーこいつはひどいなあ。はい、いいよ』
『どうですか?』
『風邪だな』
まあ、予想通りの答えである。
ここの先生のありがたいところは、余計な薬はあまり出さないことである。
『熱が出るかもしれないし、関節痛や頭痛もあるだろうから、痛み止め、出しとくけど、辛い時以外は飲まないでな』
『はい……』
『それと治るまでは酒は飲まないこと』
先生とはたまに近所のスーパーで会ったりするから、あたしがビールを買っているところも知っているのだろう。
『普段からそんなに呑まないから大丈夫です』
『お姉ちゃん、出身は九州か?』
『そ、そうですけど……』
『九州の人間にはありがちなんだが……お姉ちゃんは自分が思っているより酒呑みだからな。一応ちゃんと自覚しといた方がいいぞ』
そうだったのか。
それは知らなかった。
せっかくの助言だ。自覚しておくことにしよう。
病院を出ると『風邪』と診断されたせいか、少し身体が軽く、楽になったような気がする。
病院には1時間ぐらいいただろうか。
アパートに戻ると家の中に誰かいる。
確か戸締りはしてきたはず……。
そ――っと、玄関の扉を開くと……
母がいた……
そして姉もいた……
そのまま扉を閉めてどこかに行こうかと一瞬思ったが、朝ほどではないにしても足元もふらつくし、少し頭もぼんやりしている状態で外など行くものではないだろう。
本来なら、もらった薬を飲んでゆっくり寝るのが一番なのだ。
『お。帰ったか』
『ただいま……』
母は姉を相手に焼酎を飲んでいる。
あたしの部屋の冷蔵庫にあったビールはすでに全部なくなっていたから、起きた時にいなかったのは焼酎を買いに行っていたのだろう。
それにしても、ついでに姉までいるとは……
『やだ。母ちゃんの声と同じになってる――!』
姉はあたしの『ただいま』という声を聞いて大笑いした。
笑ってる場合ではない。こっちは午前中から死ぬ思いをしていたんだぞ。
『てゆうか……母ちゃんは分かるけど、姉ちゃんはなんで?』
いや……母もなんで来たのかは聞いてない。
でもまあ、二人の来訪理由を一気に聞くだけの元気は今はない。
『母ちゃんから電話があったのよ』
『そうそう。あんたが具合悪いから呼んだの』
母は『具合悪いから呼んだ』と言っているが、どうせ酒の相手をさせるために呼んだに違いない。狂ったような姉のメルヘンな話でも母は面白がって聞く。彼女にとっては酒の肴にちょうど良い話なのかもしれない。
『そうなんだ……』
あたしは疲れ切って言った。とにかくもう寝よう。こっちはまだ風邪が治りきっていないのだ。
『あたし……寝ていい?』
『そうだね。寝てな。病人なんだから』
母は焼酎をドバドバとコップに入れて言った。
昼間だよ……。
でも……あたしが病人だという認識はあるわけね。
まあ、いいや。
もうしんどいし……
あたしは水を一口飲んでベッドにもぐりこんだ。
母と姉が何やら話しているのが分かる。ガーベラがどうのこうの話しているから、もしかしたら姉は今日、松沢さんのお見舞いに行ってきたのかもしれない。
なるほど。
それなら、母が電話してきてもすぐにここに来れるはずだ。
タイミングがいいなあ。
母は魔法か何かが使えるのだろうか?
そんなわけないのは分かっているのだけど、そんな風に思える出来事がけっこうある。そんな母のことを考えているとおかしくなってベッドで声を出さずに少し笑った。
なんだかんだ病気の時は一人でいるよりは誰かがそばにいてくれた方がありがたい。
母にも姉にも感謝だな。
景色がぐにゃりと歪んで見える。
意識が遠のいていくのが分かった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる