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しおりを挟む殿下が魔術塔の修繕が終わったと教職員に告げ、警備兵の塔内点検が始まりました。
なので私と殿下は塔の最上階に移動して、話の続きをします。
大精霊様の姿は誰の目にも映ってしまうので、混乱を避けるためです。大精霊様は大聖堂の奥にいて教皇様の前にしか姿を現さなかったからと、教えられているので。
それが、こんな多くの人々の目に留まるような羽目に…。
「教皇様には私のことは言わないでください!」
「しかし――」
「この大精霊様が本物かどうか――」分からないのですから――と言おうとして大精霊様が不満そうにこちらを見ているのに気づきました。
――ですが負けません!
「分からないので、教会にバレると面倒なことになります!」
…あ、二メートル弱の大精霊様がそっぽを向いてしまいました。
その後、王太子殿下が手配をしてくれた高級ランチで栄養を補給した後、彼と本格的に情報交換を始めることになったのですが――
「私が…女神様の愛し子か…ははッ…」
殿下は乾いた笑みを浮かべています。
私に対して『聖女なのでは?!』と期待していたくらいですから、女神様への期待はそれなりにあると思っていたのですが。
「何か腑に落ちないことでも?」
考えなしにして発言ではありませんが、深く考えてした発言でもありませんでした。
「王家でも極一部の者しか知らないことだ。他言無用に願いたい」
「はい」
「………私には生まれたときから一切の魔力がないんだ」
「…え?」
それは…私が今まで聞いていた王家の内情に反すると言うか…
「君が言いたいことはわかる。私が現国王と王妃の子供であることに間違いはない」
私の反応に気を悪くした様子はありません。どこか疲れたような、困ったような笑みをされています。…心配です。
「王家に連なる者たちは皆、神の加護を受け、高い魔力を持って生まれてくる。直系ともなると当代の聖女の血をも取り込み、その力を盤石なものとしてきた…はずだったんだけどね」
…そうですね。ロクな学びを受けてこなかった私でも知っていることです。
王家に連なる者は、非常に高く貴い魔力を体内に有している。沢山の高度な魔術を駆使して国を守っている――。
この国は高い魔力を持つ王家によって守られている。だからこの国では魔力を持つ者はとても大切に扱われています。その反動でしょうか? 魔力を持たない者に対して、少し厳しいところがあります。そんなこの国の中心にこれから立とうという王太子殿下に…魔力が、ない――。
「私には弟が三人いるが、彼らには幼少の頃から婚約者がすでに定められている。他国の姫君であったり、自国の有力者だったりとさまざまだけどね。それが普通だ」
「え? あの…王太子殿下のご婚約者様はバーティ嬢ではないのですか?」
「ああ…彼女か……」
殿下の顔がさらに曇ってしまわれました。彼女の話題を口にするのは良くなかったでしょうか?
「彼女は…知らないんだ。私が魔力無しだと。知らないのは彼女だけじゃない。私の友人もこのことは知らない」
「ご友人…も?」
「ああ。意外かい?」
「……はい。殿下といつも一緒におられるご友人方は、とても優秀な方々だとお伺いしていたので…」
殿下に魔力があろうがなかろうが、共に支えあっていける強い絆で結ばれた仲間だと思っていたのに。
「そう…だな。私もそう思っていた頃もあった。政治的な駆け引きなど何も知らなかった子供の頃はね」
こちらに気を遣わせないためか、殿下は笑みを見せていますがどこか寂しそうにも見えます。いつもそばにいるご友人や公爵家のご令嬢に気を許すことができないなんて…本当にそうなのでしょうか? 人は本当に政治的な駆け引きだけで動くことができるのでしょうか? それはある意味――…
「まぁ…そういう事情もあって、私には正式な婚約者がいなかったんだ。私に魔力がないから、是が非でも聖女を王家に取り込む必要があったからね」
………えーと、これは大丈夫なのでしょうか? 殿下は先程から何度も私に聖女なのかと尋ねてきていました。その上での今の発言……。えっと、特に深い意味はないのかもしれませんね。気にしないように――
「…というわけで、一週間後に行われる『聖女選定の儀』に君も出て欲しい」
――して、本当に大丈夫なのでしょうか?!
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