引きこもり王子は全てを手にする

イセヤ レキ

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ニートの俺は全てを手にする・前

俺の人生は8歳から始まっている。

いや、正確には、日本人として生きた25年分の記憶と、いまの世界で生きてきた8年分の記憶があわさった状態になり、が形成されたのが8歳からという事だ。

ややこしいだろうから、まずは簡単に自己紹介するとしよう。


まず、俺は元々日本という国で平凡なサラリーマン……でなく、ホストとして働いていた。
名前は忘れた。
寄るもの拒まず、去るもの追わず。
まぁまぁなクズだった自覚はある。

どこをどう人生間違えたのか、とにかく親と反りが合わなかった俺は、元々頭も顔も悪くなかった筈だが、いきすぎた反抗期を経て気付けば親と絶縁状態となり、女から金を貰って生きていく輩に成り下がっていた。

25になっても、夢も希望もない。
同棲していた女がいても、枕営業当たり前。
多分、最後の記憶がその女が激昂しているところだから、恐らく刺されたか何かして死んだんだろう。



でだ。
そんなクズだった前世の自分を思い出したのにも訳があった。
それは、いまの世界で毒を盛られて一週間寝込んだ事だ。

眼を覚ました時に飛び込んできたのは、綺麗なスカイブルーの瞳にたっぷりと涙を溜めてこちらを覗き込んでいる小柄な女。

ルディア。

名前は、わかる。
今の俺は8歳で、それまでの記憶も同時に持っていたから。
しかも、8歳とは思えない認知力。
俺が寝込んだ理由は恐らく、異母兄によるものか、義母によるものらしい。


オイオイ。


いきなり命狙われるとか、新しい人生ハードモードだな。
鏡を見れば、そこには金髪碧眼の美少年としか言えないガキがいる。
こりゃ、日本でこの顔なら間違いなく芸能人になったろうよ。


「ルーサ様、良かった……!!今、医師と人を呼びますね。何かお飲み物を口になさって下さい」

ルディアがチリンチリンと呼び鈴を鳴らし、侍女を呼ぶ。
てきぱきと指示を与えるその横顔を眺めつつ、それまでの思慕とは違う感情が沸き上がってくる。


8歳の小僧からすれば、18歳は残念ながらオバチャンとひとくくりだ。
だがしかし。そこには健全な25歳のオッサンが同居している訳で。

(やべー、やべー、ルディア超可愛いな、滅茶苦茶ドストライク……!!)

前世ですらこんな胸の高鳴りを感じた事がない。
キャバ嬢の元カノやセフレにはない、素朴な可愛さがルディアにはあった。
ルディアの性格の良さは、8歳までの記憶が保証してくれている。

そして俺はルディアに一目惚れ?した。



☆☆☆



俺は、二度と毒を盛られてたまるか、という気持ちで大芝居をうつ事にした。
アホになるのである。

考えてみれば、俺が賢すぎたから、小さなうちから不安分子はさっさと潰しておこうと兄達や義母達から命を狙われたのだ。

8歳の時までは性善説を信じるとっても良い子の俺だったが、25歳で人の表も裏も見てきた俺からすれば、俺の回りを固めるのは「賢い王子」という肩書きで寄ってくる奴らばかりだった。
甘い汁を啜ろうとすり寄ってくる貴族、王族の血脈が欲しい者達。

本気でルーサを慕って側にいるのは、ルディアと長年勤めてくれた侍女のみだった。


……うん、こんな窮屈なところには長くいたくねぇな。
ルディアを自分の女にするのも、ここにいたら無理そうだ。
ルディアは孤児らしいし、俺は腐っても王子だからな。
王宮の内情だけさっさと掴んで、アホのフリして追い出して貰おう。

俺はこうして、人目があるところでとにかく暴れまくる日々を送るのだった。



☆☆☆



俺がわざと頭を柱にゴンゴン打ち付けていると、
「ルーサ様、頭を打ち付けるのはお止め下さい」
とルディアの声がし、
「失礼致します」
と、そっとおでこに手の平を押し当てられた。

「るでぃあ」
わざと舌ったらずに呼んで振り向けば、そこには変わらず可愛い俺のルディアが苦笑していた。
呆れているのではなく、心配をしてくれているのだ。
他の者は皆、俺をスルーしていくのに。

まさかルディアの手を柱に打ち付ける訳にもいかず、今日の奇行はここでおしまいにする。

俺は、人目が付くところでこそ、頭を打ち付けたり、全裸になったりした。
当然、気味悪がってルディアと年老いた侍女以外は誰も近寄って来ない。
ルディア以外の騎士はさっさと護衛対象を変更したし、侍女もどんどん減らされた。
8歳になるまでやる気満々で教師をしていた者達も、とっくに来なくなった。

うんうん、順調順調。


ルディアは、年老いた侍女が退職し、他の侍女や家庭教師がつかなくなると、侍女の仕事や家庭教師の仕事までもする様になった。

うんうん、感心感心。


ルディアが配膳してくれる食事はより美味しく感じるし、他の人の目がない為に、「さみしい」と一言呟けば、困りながらも一緒に食事をしてくれた。
食具を使うのは全く困らなかったが、ずっと先になるであろう新婚気分を味わいたくて、3年だけ、と期限を設けて「あーん」して貰ったのも楽しい思い出だ。


日本人の記憶が戻り、最初はマジで読み書きが苦手だったが、直ぐに読み書きに関しては8歳までの記憶が先行した為に問題なくなった。

……が、ルディアは一生懸命俺に教えようとして、自分も苦手な読み書きを勉強し出したので、それも孤児だったルディアには大事な事だと思い、放置した。


王宮の文献は毎夜読み漁って、ほぼ読み尽くしたからルディアの教えてくれる多岐に渡る学科……しかし子供向け、は正直暇だった。
とはいえやはり一生懸命教えてくれるルディアが可愛すぎて、放置した。
俺からみたら小学生低学年レベルの問題を解けずにウンウン頭を抱え、調べに行っては晴れやかな顔で「ルーサ様、わかりましたよ!」と答えにたどり着く(たまに間違えている)時のルディアはそれはそれは可愛かった。
合ってた時だけ、拍手した。


夜中に自主学習、昼に好き放題ルディアと遊んで王宮の実情もそこそこ把握した頃。俺とルディアに転機が訪れる。



☆☆☆



「……それは丁度良いじゃないか。ルーサもこう言っているんだ、そろそろ王宮からこの阿呆をつまみ出してくれよ」
「……ルドルフ様」

俺は、この国の重鎮達が一目置くカッシードに会いたかった。
少し遠回しで面倒であるが、カッシードに会いたい、という内容をルディアと自室で話していたところ、一番上の兄ルドルフが部屋にずかずか上がり込んで言ってきた。

ルディアは直ぐ様部屋の隅に移動して片膝をおり、反対の手を胸にあて、深く頭を下げる。
ルディアにこんな事をさせるルドルフに一瞬殺気立ったが、ここは日本ではないと思い返す。

俺はわざと何もわかりませーん、という態度をとる。
誰がお前なんかに頭を下げるかっての。

ちちには既に許可は頂いた。ただし、住みかと食うに困らない程度の金は配分してやれって言われたからさ、何処に行きたいか一応聞きにきてやったんだ」


王も俺も本当に心が広いよな、と続けるルドルフに、初めて感謝した。
やっと王宮から外に出られるのだ。
ここがどんな国なのか、身を持って知る事が出来る。


ルドルフはルディアと同い年の筈だが、見た目は既に30過ぎの肥えたオッサンだった。
さぞかしモテないだろう。
そんなルドルフが、何を思ったのか急にルディアに近付き、髪を掴んで顔をあげさせた。
「……っ」
痛みに顔をしかめるルディア。
俺の頭に血が昇る。
「お前の名前、なんつったっけ……?お前もさ、俺のところで可愛がってやってもいいんだぜ?」
更にイヤらしい目でルディアを見るブタ。

「ぼくも、かわいがって~」
触るな、ブタ!!
勝手に人の許可なく俺のルディアに触りやがって。
そのうちその手を切り落としてやるから楽しみにしてろ。

空気の読めないフリしてルドルフにしがみつく。
だがしかし、年齢差、体格差は歴然で。
俺はその時、まだ10歳。20歳のオッサンの力に敵う筈はなかった。

「!!触るなっっ!!」
「ルーサ様!!」

ルドルフが、俺の身体を手で思いっきり払い、俺はぶっ飛んで行く……かと思えば、次の瞬間にはルディアの腕の中にいた。
つい、服越しに感じる胸の感触に、顔を埋めようとする。
くそ、サラシさえなければこれは絶対豊かな谷間が広がっていたのに……!!

ひとり嘆いている間にも、ブタとルディアは話を続けていた。

「有難いお話です。……しかし、私は第3王妃様に、ルーサ様を頼まれておりますので……残念ですが」
「……ふん、お前みたいな行き遅れの、やたら筋肉ついて抱き心地の悪そうな女、相手にしねーから安心しろよ」

俺は、サラシの向こうに広がる甘美な誘惑に気付かないブタに少し同情した。
王子の身分がなきゃ、童貞だろうな。

「は、失礼致しました」
「ルーサ、お前何処に行きたい?」

ブタが俺に聞く。そりゃ勿論、
「ぼくねぇ、カッシードのところ~」
「…わかった、ちちに話して手配する。二度と戻ってくるなよ?」
「はーい!」
ブタよ、知ってるか?ブタとの約束は、破るためにあるんだよ。


こうして、俺は無事に王宮という囲いから外へ出られる様になった。



☆☆☆



俺とルディアは、新しい住まいに簡単な荷物だけを持って、引っ越した。
懐かしい平屋の作りの民家がそこにはあった。
日本人の血が騒ぐ。
元々都会人だったから、こうした田舎暮らしというのにある一種の憧れもあった。
ホストしといて何だが。

「わあ!これからここがぼくの城!!」
俺が喜んでいる反面、家の中と外をざっと見ていたルディアは逆に難しい顔をしていた。


どーした、ルディア?

「一部屋……」

むふふ、である。

俺の護衛が一緒に住まない訳がないから、ダイニング兼寝室兼居室の一部屋にルディアと住む事になるのだ。
毎日、ルディアの風呂や着替えを覗きたい放題だ。
俺、10歳で本当に良かった。


「困った……」
「るでぃあ、どうしたの?」
「……いえ……」
ルディアはどうしようか思案しているらしい。
しかし、余分な金もない筈だし、一緒に住む以外に道はない筈だ。

ところが、ルディアは驚くべき提案をしてきた。
「ルーサ様、大変申し訳ございません。少しご一緒に、テントを買いにお付き合いして頂けないでしょうか?」
「なんで?」
嫌な予感しかしない
「私の、家を」
「なんで?ここ、一緒に住も」
間髪いれずに答える。
「それは……」
ルディアにテント暮らしなんてさせる訳ないだろ!!
……と言いたいのをグッと堪えて一言。
「るでぃあ、一緒、いい。ひとり、さみしい」
「……」

ルディアは俺の「さみしい」に弱いのだ。


結局ルディアは悩んだ末に、俺の泣き落としと自傷行為をやめさせる為、テントの代わりに天井につけるレールと、部屋を仕切るカーテンを買いに行ったのだった。



こうして、楽しい楽しいルディアと二人きりの同棲ライフが幕を開けた。



☆☆☆



のんびり田舎ライフは、カッシードとの面通しからスタートした。
俺が8歳になる手前まで将軍職を務めていた男は、快く俺とルディアを迎え入れてくれ、ひとまずホッとする。
この男の後ろ楯がないと、この土地で上手くやれる筈がないからだ。
もし万が一王宮に戻らなければならない事態になったとしても、この男の影響力は他のどんな重鎮よりも強い。


ルディアは、白痴になった俺を見たらカッシードがショックを受けるかと思っていたみたいだが、杞憂に終わって安心した様だ。
「私が責任を持ってルーサ様を見ているから、ルディアは家を整えておいで」
と優しく言われ、食材を求めて街へ元気に繰り出して行った。
久々に元上司のカッシードと会えて、嬉しかったというのもあるんだろう。
普段は、その小さな両肩に「ルーサ様おれを守る」という責務が重たくのし掛かっているのだ。
たまには羽を伸ばしてくれると俺も嬉しい。


ルディアが屋敷から出たのを見送ると、カッシードは表情を変えて俺と向かい合う。
厳つい男の無表情こえぇー。
10歳児を前にその威圧感ってどうよ??

「……さて。随分と先程までと違ったご様子ですね。どこから話を聞きましょうか、第3王子ルーサ様?」

俺の板についてきた演技力も、この男の前では全く歯が立たないらしい。
ルディアを見送った俺の顔を見てあっという間に暴く元将軍ガクブルだわ。
まぁ、俺もそのつもりだったから良いんだけど。



☆☆☆



事のいきさつを話して、カッシードに援助?を求めた。
前世の記憶が戻った云々は置いといて、俺がルディアを手にいれて命の危険がなくなるまで、助けて欲しい旨をそりゃもう10歳児らしく頼んだ。

が、カッシードは鬼だった。

「……話はわかりました。しかし、私には何も旨味がありませんね」
ソウデスネ。
「ただ、ルーサ様が王位を継ぐなら話は別ですが」
ん?
「私にも、大切なものがあります。他の王子が跡を継げば、どちらにせよ国はこれから更に腐敗していくでしょう。私が守るべきものの為に、ルーサ様には王になって頂く。それでも良ければ、私は貴方につきますよ」
どうしますか?と眼力ガンリキで問い掛けられる。
カッシードの目力半端ねぇ。
「ルディアを妻にしても良いか?」
「勿論。それが貴方の目的そのものでしょう?」
その通りだ。俺は、ルディアが手に入るのであれば、国王になろうが平民になろうが構わない。
「ルーサ様がルディアとの生活を万全なものにしたいのであれば、王位の簒奪は必須です。ルドルフ様は意外とおくびょ……慎重なので、これからも斥候が送られてきてはルーサ様の暮らしぶりを報告するでしょう。貴方は一生何もせずにルディアに助けて貰い続けるおつもりか?」
一瞬、前世の記憶が蘇った。
女にたかり、媚を売って金をせびり、どうしようもなく堕落していた頃の記憶。
「……成る程な」

やはり、新しい人生はハードモードだ。
好きな女を手にいれる為には、王様にならなきゃいけないらしい。

「わかった。必ず、やってやるよ」

こうして10歳の俺は、カッシードと手を組んだ。



☆☆☆☆☆☆



カッシードは、ルディアとは比べものにならない位にスパルタだった。
特に剣技となると、目の色を変えて襲いかかってくるからマジで何度も死ぬかと思った。
世界史、歴史、地理、帝王学、マナー、他国の宗派から果ては建築学的なものまでとにかく叩き込まれる。
カッシードの家には、この国の重鎮達が度々来てサロンに顔を出していた。
現職を退いたとは思えない顔触れに、正直圧倒される。
俺もそんなサロンに引っ張り出されては、顔を繋いで貰っていた。
王位簒奪の足固めの前に、俺が逃げられない様に固められてる感が半端ねぇ。

……前世の両親より酷くねぇか?

とたまーに思ったが、家に帰れば可愛いルディアが温かいご飯を作って待ってくれている。
ルディアは街の自警団に入って日銭を稼いでいるみたいだったが、ルディアの身(と貞操)を案じつつも養われている子供である限り、何も言えなかった。



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