もふもふ王女のストーカーは、変態猛獣調教師

イセヤ レキ

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83、ドラゴンの弱点。

その音を目掛けて……第四皇子の下、椅子の代わりをしていた四角い箱目掛けて、エーベルの鞭がしなる。
それは物凄い早さで、通常の人間では微動だに出来ないスピードだ。
狼型ならまだしも、人型の私はその鞭より早く動いていたから、何とかなったもので。

「皇子!危ない!!」
誰もが、私が第四皇子を迫りくる鞭から守ったように見えただろう。本当は、エーベルが箱を奪うのに、邪魔な第四皇子を退けただけだけど。

私は身体全体を第四皇子に投げ出すように抱き付いた。全体重をモロに食らった皇子は、私を抱き止めたままバランスを崩し、椅子からずり落ちる。
護衛騎士が慌てて「大丈夫ですか、皇子!?」的な言葉を投げ掛けた時には、四角い箱はエーベルの手の内にあった。
エーベルは自分の大事な武器である鞭を四角い箱に巻き付けたまま、ドラゴンに投げつける。

「~~っっ!!」
第四皇子は何かを叫んだが、その箱を心得たようにキャッチしたドラゴンは、鞭を咥えてその場からあっさりと退場した。
誰もが呆然とドラゴンが飛び立った空を見上げている中、
「~~っ!!~~っっ!!」
第四皇子だけは護衛騎士に何かを叫び、真っ青な顔でコロシアムから出ようとした。
それを、身体中に傷を追ったエーベルが、東国の言葉で話し掛けて引き止める。

二人が言い合い……一方的に第四皇子が怒鳴りつけ、それに対してエーベルが返答をしているだけの形ではあったが、父が最後に介入して、第四皇子は何かを言い捨ててコロシアムを去って行った。

「良かったねぇ、ヴァーリア。エーベルの勝ちを第四皇子が認めて終わったよ」
いつの間にか横に長兄が立ち、エーベルと第四皇子の会話の流れを教えてくれた。

第四皇子ははじめあの箱をエーベルが奪ったことに激昂していたらしいが、器物を破壊しても文句を言わない約束をしたことと、「ドラゴンが持ち去ったのですから、第四皇子が返すように命じれば問題ないかと」と言われて黙るしかなかったらしい。

ドラゴンという後ろ楯がなければ、東国において第四皇子の継承権の順位は再び下がる。
彼にとっては私との婚約云々よりも、ドラゴンを再び支配下に置くことの方が優先事項にあたる為、エーベルが私との婚約を明日に発表することを伝えれば、「好きにするが良い、余は本日帰国させて頂く」と言い捨てたらしいので、これで漸く何の心置きなく、予定通りにエーベルとの婚約発表がなされることとなった。

目の前で、父がエーベルの手を上に上げて勝者宣言を行えば、それまで成り行きを見守っていた観衆がワッと湧き上がった。
「エーベルハルト様、素敵過ぎる……!」
「猛獣調教師様って、皆あんなに格好良いのかしら!?」
「あんなイケメンで強い人なんて、この国にいたのね」
民衆がエーベルの話題で盛り上がっているのを聞いて、そうだろうそうだろうと鼻高々になる私。

まぁ、皆は知らない情報を追加させて頂きますと、変態、なんだけどね?

「ヴァーリア、少しは俺達も頼れよ」
次兄の声がして振り向けば、そこにはエーベルと同じくボロを纏ったような状態になった次兄がいた。
「ちょ、ちょっとその姿、どうしたの!?」
「どうしたって、ヴァーリアが探し物してる間の時間稼ぎに加勢してたんだよ、俺」
「そうだよ、頑張ったよね~」
どうやら、私がせっせとドラゴンの弱点を探している最中、長兄が第四皇子に交渉して、催し物として更に盛り上げる為に次兄も飛び入り参加でドラゴンと闘ったらしい。
既に頭に出来た傷で随分と凛々しいのに、更に傷を増やしてどうするんだ。

「いや~、ドラゴンと闘うなんて機会まずないから、楽しかったわ」
「マジかー」
私は尻尾巻いて逃げる一択なのに、次兄は違うらしい。
まぁ、次兄は私達の中でも一番戦闘が好きなのだけど、婚約者がいるのに自重しなかったのだろうか?

……と思っていたら、一人の女性が涙目でパタパタと次兄に走り寄ってきた。うわ、めっちゃ可愛い。
「し、心配したんですよっ!!早く怪我の処置をさせて下さいっ」
「これ位大丈夫だって。相変わらず心配性だな~」
とか言いながら、婚約者の女性を抱き締める次兄の鼻の下は伸びきっている。

「ヴァーリア様」
「エーベルっ!!」
エーベルの優しい声がして、私は振り向きざまエーベルに抱き付いた。
きゃあ、だのおお、だの悲鳴や歓声が聞こえるが、今は気にしない。
エーベルは、私とドラゴンの為にめちゃくちゃ頑張ってくれたんだから。
「エーベル、お疲れ様!!」
「ヴァーリア様も、ありがとうございました。お陰様で無事に、ドラゴンへ卵を返せました」
エーベルはそう言って、微笑んだ。
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