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84、英雄扱いのエーベル。
第四皇子がどうやって手に入れたのかはわからないが、ドラゴンは自分の子供を人質に取られていたから、言うことを聞いていたのだ。
ドラゴンを最初に見たエーベルは、ドラゴンが何かを伝えたがっていることに直ぐに気付いたそうだ。恐らく、ドラゴンもエーベルが猛獣調教師であることに直ぐに気付いたのだろう。
エーベルが観察したところ、ドラゴンはメス。しかも、昔読んだ文献の通りであれば、産卵直後の特徴を備えていたという。私が聞いた音が、卵の殻を内側から叩く音だと気付いたエーベルは、卵をドラゴンに渡せば彼女が自由になることを予測したらしい。
「エーベル、鞭はお父さんの形見じゃなかったの?」
確かに、卵剥き出しだったり四角い箱のままだとドラゴンは抱えにくかっただろう。エーベルが鞭をそのままにして渡してあげたからこそ、ドラゴンはもたもたせずに颯爽と飛び立つことが出来たのだ。
エーベルの鞭は、腰の左右に一本ずつあるのが常で、見慣れた姿の右側が空になっているのを見ると、少し物悲しく感じた。
鞭が嫌いな私ですらそう思うのだから、エーベルの喪失感たるやそれ以上だろう。
「まぁ……鞭一本でドラゴン達を助けられたのだから、よしとします。ドラゴンは、受けた屈辱と同じ位、受けた恩も忘れないらしいですよ?いつかドラゴンの恩返しとか万が一にもあれば、是非お友達になって頂きたいものですね」
エーベルはすっきりとした顔で言う。
「……そっか」
確かに、父親の形見がエーベルの命を救ったのだと考えれば……
「それに、まだ九本ありますしね」
「……はい?」
私はぎょっとして聞き返す。
「おや?ヴァーリア様はご存知なかったですか?父が残した鞭は、十本あるのですよ」
ゾワゾワっと毛が逆立つ。
知らんがな!!じゃあ、二本だと思っていた私の敵は残り九本だってことかい!!いらん情報で、敵増えた!!
でもまぁ、形見には違いないし……と私が口を尖らせていると、エーベルは笑顔で
「それより、ヴァーリア様があの男に抱き付く必要はございましたか……?」
と聞いてきた。
ヒイイイイイ!!目が!目が笑ってないよ!!
「今晩はお仕置きですね」
コワーッッ!!
ガクブルする私をエーベルはひょいと横抱きにし、先程からエーベルに激励や歓声を送っていた観客達に片手を挙げて挨拶をする。
勝利宣言をした時以上の大音声が会場内を埋めつくし……ドラゴン対人間という決闘のショーは幕を閉じた。
***
結論から言うと、私はお仕置きされずに済んだ。
その日はエーベルの健闘を称える晩餐会が急遽催されたからだ。
明日の主役達は流石に引っ込んだが、来賓された友好国の大使達がかわるがわるエーベルに話し掛けては絶賛して去って行った。
そしてエーベルは、何故か各国の言葉で貴賓の方々と挨拶を交わしていた。どうやって学んだのか聞けば、「私のところに弟子入りした者達に、調教師として教える代わりにそれぞれの国の言葉を習ったのです」と笑って答えた。
エーベルが平民だと言うことは誰もが知るところだが、堂々とした立ち振舞いといい、マナーも所作も王候貴族と何らかわりなく、隣に私がいなければエーベルに娘や親族を紹介しようとする輩が国内外問わずわらわら湧いた。
エーベルが事ある毎に私の腰を引き寄せるので、言葉がわからなくても「今牽制したな」と何となくわかるレベルだが。
それにしても、エーベルは昨日ほぼ寝てないにも関わらず、そんな素振りを全く見せずにずっとニコニコと対応しているのだからとんでもない体力だ。調教師は昼も夜もない、と聞いたのだがどうやら本当らしかった。
エーベルが穏やかに話す声が心地よくて、私は目を瞑ってエーベルに寄り添う。思えば、今日は緊張のしっぱなしだった。エーベルがこうして無事でいてくれるだけで、幸せなことなのだと改めて気付かされた。
だから緊張の糸が切れたのだろう、そのまま……寝た。
ドラゴンを最初に見たエーベルは、ドラゴンが何かを伝えたがっていることに直ぐに気付いたそうだ。恐らく、ドラゴンもエーベルが猛獣調教師であることに直ぐに気付いたのだろう。
エーベルが観察したところ、ドラゴンはメス。しかも、昔読んだ文献の通りであれば、産卵直後の特徴を備えていたという。私が聞いた音が、卵の殻を内側から叩く音だと気付いたエーベルは、卵をドラゴンに渡せば彼女が自由になることを予測したらしい。
「エーベル、鞭はお父さんの形見じゃなかったの?」
確かに、卵剥き出しだったり四角い箱のままだとドラゴンは抱えにくかっただろう。エーベルが鞭をそのままにして渡してあげたからこそ、ドラゴンはもたもたせずに颯爽と飛び立つことが出来たのだ。
エーベルの鞭は、腰の左右に一本ずつあるのが常で、見慣れた姿の右側が空になっているのを見ると、少し物悲しく感じた。
鞭が嫌いな私ですらそう思うのだから、エーベルの喪失感たるやそれ以上だろう。
「まぁ……鞭一本でドラゴン達を助けられたのだから、よしとします。ドラゴンは、受けた屈辱と同じ位、受けた恩も忘れないらしいですよ?いつかドラゴンの恩返しとか万が一にもあれば、是非お友達になって頂きたいものですね」
エーベルはすっきりとした顔で言う。
「……そっか」
確かに、父親の形見がエーベルの命を救ったのだと考えれば……
「それに、まだ九本ありますしね」
「……はい?」
私はぎょっとして聞き返す。
「おや?ヴァーリア様はご存知なかったですか?父が残した鞭は、十本あるのですよ」
ゾワゾワっと毛が逆立つ。
知らんがな!!じゃあ、二本だと思っていた私の敵は残り九本だってことかい!!いらん情報で、敵増えた!!
でもまぁ、形見には違いないし……と私が口を尖らせていると、エーベルは笑顔で
「それより、ヴァーリア様があの男に抱き付く必要はございましたか……?」
と聞いてきた。
ヒイイイイイ!!目が!目が笑ってないよ!!
「今晩はお仕置きですね」
コワーッッ!!
ガクブルする私をエーベルはひょいと横抱きにし、先程からエーベルに激励や歓声を送っていた観客達に片手を挙げて挨拶をする。
勝利宣言をした時以上の大音声が会場内を埋めつくし……ドラゴン対人間という決闘のショーは幕を閉じた。
***
結論から言うと、私はお仕置きされずに済んだ。
その日はエーベルの健闘を称える晩餐会が急遽催されたからだ。
明日の主役達は流石に引っ込んだが、来賓された友好国の大使達がかわるがわるエーベルに話し掛けては絶賛して去って行った。
そしてエーベルは、何故か各国の言葉で貴賓の方々と挨拶を交わしていた。どうやって学んだのか聞けば、「私のところに弟子入りした者達に、調教師として教える代わりにそれぞれの国の言葉を習ったのです」と笑って答えた。
エーベルが平民だと言うことは誰もが知るところだが、堂々とした立ち振舞いといい、マナーも所作も王候貴族と何らかわりなく、隣に私がいなければエーベルに娘や親族を紹介しようとする輩が国内外問わずわらわら湧いた。
エーベルが事ある毎に私の腰を引き寄せるので、言葉がわからなくても「今牽制したな」と何となくわかるレベルだが。
それにしても、エーベルは昨日ほぼ寝てないにも関わらず、そんな素振りを全く見せずにずっとニコニコと対応しているのだからとんでもない体力だ。調教師は昼も夜もない、と聞いたのだがどうやら本当らしかった。
エーベルが穏やかに話す声が心地よくて、私は目を瞑ってエーベルに寄り添う。思えば、今日は緊張のしっぱなしだった。エーベルがこうして無事でいてくれるだけで、幸せなことなのだと改めて気付かされた。
だから緊張の糸が切れたのだろう、そのまま……寝た。
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