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Ⅴ、意志疎通

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朝方、気を失ったセイヤを抱いて洞窟に戻り、そっとベッドに彼を寝かせた。

マッチで火を起こしてヤカンで湯を沸かし、木桶の中に注いでタオルを浸す。人肌位の温かさにしてから、セイヤの全身をタオルで清めていく。
昨日は間違いなく、無理をさせた。もう無理だというように頭を振る彼を押さえ付けて、セイヤが誰のものかわからせるつもりでセックスに明け暮れた。

まさか、自分にこんな醜い感情があったとは……

大事に、大切にしたいのに。
俺を置いて何処かへ行ってしまうのかと考えたら、手加減なんて出来なかった。
セイヤが可愛らしく啼いて、喘いで、よがり狂っても安心出来なかった。

どうしたら、私は自分のこの感情に折り合いをつけられるのだろう?このままでは、逆にセイヤが離れていってしまうかもしれない。

その時私の目の前で、セイヤが「ン……」と声を漏らした。この声を聞くだけで、私のペニスは元気になってしまうのだから本当にどうしようもない。
極力煩悩を払いながら、大量の体液にまみれたセイヤの下半身を拭っていくと、私の想いを一晩中受け止め続けた愛らしい蕾から、トロリトロリと子種が流れる。

ひくひく動いて誘う菊門に、元気な息子。
……本当に、どうしろと……!!

これ以上セイヤの傍にいると、また襲ってしまいかねない。
昨日は夕刻の儀式をサボり、今日も朝の儀式を現在進行形でサボっている。泉に食糧はないだろうから、今日の夕刻の儀式はしっかりと行わなければ。
セイヤだけでも何か食べさせなければならないから、この後水だけ持って、森へ食べられる物を採取してこよう。

私はそっとセイヤに毛布を掛け、泉に向かった。

泉の横には、今日の夕刻の分の供物と……何故か、食糧が普段の半量。そして、見た事もない分厚い変な物体が置かれていた。

ひとまず、一人分の食糧が確保出来て安心した。セイヤは少食だが、もう少し食べた方が良い。
しかし、何故今日だけは食糧が半分置かれていたのだろう?昨日は儀式を疎かにしたのに、神からの贈り物があるのかが謎だった。
儀式の供物だけは捧げていたから、それで祈りがない分を食糧から引かれたのだろうか。それか、セイヤを私のもとに送ってくれた神が、儀式を行わなかった私の分だけ差し引いたのだろうか。
首をひねっても、答えはわからない。ともかく私は有り難くそれを頂戴した。

そして、妙な物体。ツンツン枝で触ってみても、動かない。全く見た事もない物で何なのか、どう使う物か見当もつかないが……もしかして、セイヤが昨日願ったものだろうか?

触ってみても、問題はない様だった。
私はセイヤを笑顔に出来なくても、これはセイヤを笑顔にするかもしれない。
そう思って、その物体はセイヤの横に置く。喉が渇いているだろうから、木のコップで水を汲んで、それもセイヤの横に置いた。


神から頂いた肉を下処理し、野菜を切る。
フライパンで、ライスと肉と野菜を全て一緒に蒸して、仕上げに調味料と香味草を入れて終わりだ。

良い香りが漂い始めた頃、後ろでセイヤが目を覚ました気配がした。直ぐにでも振り向きたかったが、セイヤが私を見てどんな表情をするのかを見るのが怖くて、私はそのまま黙々と火を見続けた。
私がこんなに臆病だったなんて、思いもしなかった。セイヤといると、私自身が知らなかった自分の弱い部分が、良かれ悪かれ暴かれていく。

「……!」
セイヤは、何やら後ろで騒がしくしている。……気になる。物凄く気になる。いやしかし、セイヤが私に失望していたら……

私がそんな事をうだうだ考えていると、後ろからセイヤが元気な声で「アルバール!」と呼んでくれた。
私は嬉々として、振り返る。
そしてセイヤは例の謎の物体を横目に見つつ、私に「オハヨウ」と言った。


セイヤが言うには、セイヤが手にしたそれは「ジショ」もしくは「ホン」と呼び、「モジ」が並んでいるらしい。
「モジ」には意味があって、絵のように見た者に意味を伝える物だと言う。
因みに私は、「ジショ」や「モジ」を見るのは初めてで、彼はそれを理解していた様に頷いてくれた。
どうやら、私の知っている言葉に当てはまらないものは、セイヤの世界の言葉で載っているとの事だ。

セイヤは私が作った食事を、「イタダキマス」と言って食べ始め、「オイシイ」と感謝の気持ちを伝えてくれた。
しかしセイヤは次にぎょっとした顔をして、パラパラとジショを捲り、「アルバール、ナク、ナゼ」と聞いてきた。

気付いたら、私の頬に涙が伝っていた。
セイヤが心配そうに近寄って、初めて自分から私に手を伸ばしてくれた。頬の涙の筋を親指でそっと拭って、「ドウシタ」と聞いてくる。
私は、わからないと答えた。
私の言葉を聞いて、セイヤは一生懸命ジショを捲る。
心配かけるつもりはなかった。ただ、様々な感情の波がこんなに一気に押し寄せたのは初めてで、未経験の事で頭の処理が追い付かなかったらしい。

セイヤを失いたくない。今彼が消えてしまったら、私は喪失感でどうにかなってしまう。

「アルバール、タベル」
セイヤは片手でページを捲り、「タベル、ゲンキ」と言いながら一人分しかない食事を木のスプーンで掬って、私の口の前に差し出した。
私は「ありがとう」と言って、それを頂く。いつもより美味しい気がした。

神様、ありがとう……神に感謝する。
私の伴侶にセイヤを選んでくれて、ありがとうございます。
「私の大事な妻……セイヤ、好きだ」
私がそう言うと、彼は急にハッとした顔をして、またジショを捲る。
私とコミュニケーションを取るために調べてくれるのはとても嬉しい。けれどもジショにセイヤを取られた気分になり、気持ちは複雑だ。

「……क्या इसका मतलब था!」
セイヤはジショに顔を埋めて、頭を抱えた。
「セイヤ?」
「妻」
「妻?」
「イミ、チガウ」
「……違う?」

セイヤが説明をする事には、どうやらセイヤの言語ではこちらの「妻」という言葉が、セイヤ達の人種を指す言葉だったらしい。
そうか、昨日の夕刻セイヤが三人組を指差して「妻」と言っていたのは、自分と同じ人種だと言っていたという事か。
成る程成る程と頷いてハタと気付く。

それだとセイヤは、自分の事を「私の伴侶つま」だという認識がなかった事になる。
ではなぜ、セイヤは私と性交する事になったんだ?
記憶を辿ると……確か初めての時はセイヤが「えっち」と口にしたからだ、と思い出す。そうだ、「妻、えっち」と言われてセックスがしたいのだと私は思ったんだ。 
──何となく嫌な予感がして、セイヤに「えっち」の意味を聞いてみた。セイヤも「えっち」と聞いて、何やら思い当たる節があるらしく、ジショを見て……再び頭を抱えた。



セイヤの話を聞いて、私は彼に深く謝罪した。
セイヤは「えっち、えっち」と言う……つまり、「大丈夫、大丈夫」という意味だ。
ベッドに誘われたと思っていたのは私の思い込みで、セイヤは足を私に舐められたから、大丈夫、と言っただけ。
……何て事だ。
今度は私が頭を抱えた。
初めて本当の意味で意志疎通が出来た事により、逆に今まで自分がどれだけセイヤの言葉を勘違いしていたかに気付いてしまった。
そう言えば、セイヤは最初の頃、性交中の態度と言語がちぐはぐだった。
「もっともっと」と煽られて調子にのった記憶があるが、あれは本来、どういう意味だったのだろう?

セイヤに確認した結果、「もっと」は「やめろ」という意味で、「突いて」は「嫌だ」で、「イク」は「ダメ」だった。
つまり、性交中ずっとセイヤは私を拒否していたのだ。

真実を知って絶望している私に、セイヤは「えっち?」と聞いてきた。……あまり、えっち、ではないかもしれない……心の中で号泣した。
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