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11 永久就職先
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那岐は、一軌という寄生先を見つけて喜んだ。
自分が突っ込まれる側というのは予定外だったが、正直に言って身体の相性もいいし、ゲイだからか滅茶苦茶優しくして貰える。
今までは自分が相手を甘やかしていたのに、気づけばどろどろに甘やかされている。
家に帰って来る一軌のために家事全般にせっせと精を出したが、一軌はそのどれもを「稼いでないんだから当たり前」と言わずに「ありがとう」と言ってくれた。
一週間のお試し期間はとっくに終わって、那岐の敬語が消えた頃。
一軌は宣言していたとおり、那岐の見た目に口を挟んできた。
「ピアスは私がプレゼントする二つ以外、外してください」
「うん」
「髪は黒に戻して。目にかかるくらいに伸ばしましょうか」
「うん」
「カラコンはしないでいいですよ。那岐のそのままの瞳が好きですから、眼鏡にしましょう」
「わかった」
「家にいる時は、楽な格好をしていていいですよ。私のトレーナーを貸しましょうか」
「ありがとう」
姿見に映るのは、三年前の自分とほぼ大差ない。
ただ、この姿でいることに恐怖を覚えた。
外見に気を遣わなかったせいで、振られたのかもしれないから。
「一軌、こんな姿の人がタイプなの?」
なんだか懐かしいなあと思いながら、でもこんな姿の男がタイプであれば、出会った時の自分にときめくことはなかったはずだよなと首を傾げる。
「私のタイプは那岐ですよ。ただ、ここからやり直したいだけですかね」
「そうなんだ?」
何をやり直したいんだろう、と思いながらも、那岐はそんなことはどうでもいいかと放り投げて機嫌良さそうにキスを落とす一軌に応える。
「それと、那岐に提案です。本格的に私の会社でデザイナーとして雇われてくれませんか?」
「……いいの?」
自分の夢であるデザイナー。
正規のデザイナーとして雇って貰える話に、那岐は目を輝かせた。
しかし、一軌にとってメリットはない。
美佳のように、デザイナーとしてではなく単なる素人の意見として話を聞くだけのほうが給与を払わなくて済むし、仕事が生活の中心になれば、家のことは今まで通りとはいかなくなるだろう。
那岐がヒモのままであればずっと主導権を握っていられるのに、わざわざお金を渡す意味がわからない。
もしかして、本当は出て行って欲しかったのだろうかと那岐は不安に駆られる。
そんな那岐を安心させるかのように、一軌はその頭を優しく撫でた。
「私は、那岐を手放す気はありません」
「うん……」
「ただ、色んな選択肢を持った上で……私の下から去ることも出来る状態で、私の傍にいることを選んで欲しいんです」
「……もちろん、傍にいるよ」
雇われているから、ではない。
那岐にとって、とっくに一軌の傍にいることが心地好くなっていたのだ。
「ヒモではなく、恋人になってくれませんか?」
「えっ? ……いいの? 僕、何も持ってないけど……」
一軌を知れば知る程、自分が肩を並べて堂々と歩けるような人間ではないということを思い知らされた。
それでも、一軌に捨てられるまでは、傍にいたいと思うようになっていた。
「那岐が何かを持っているから、傍にいて欲しいと思うわけじゃないですよ。それとも那岐は、私が倒産したら逃げるつもりですか?」
「そんなことしないよ! 一緒にいて、支えるよ!」
「ふふ、そういうことです」
「そっか、そういうことか」
二人は笑い合って、口付けを交わす。
「これからも、恋人としてよろしくお願いします」
「うん……よろしく、一軌」
捨てる神あれば拾う神あり。
ヒモ男だった那岐は、こうして寄生先ではなく永久就職先を見つけ、幸せに暮らしたのだった。
自分が突っ込まれる側というのは予定外だったが、正直に言って身体の相性もいいし、ゲイだからか滅茶苦茶優しくして貰える。
今までは自分が相手を甘やかしていたのに、気づけばどろどろに甘やかされている。
家に帰って来る一軌のために家事全般にせっせと精を出したが、一軌はそのどれもを「稼いでないんだから当たり前」と言わずに「ありがとう」と言ってくれた。
一週間のお試し期間はとっくに終わって、那岐の敬語が消えた頃。
一軌は宣言していたとおり、那岐の見た目に口を挟んできた。
「ピアスは私がプレゼントする二つ以外、外してください」
「うん」
「髪は黒に戻して。目にかかるくらいに伸ばしましょうか」
「うん」
「カラコンはしないでいいですよ。那岐のそのままの瞳が好きですから、眼鏡にしましょう」
「わかった」
「家にいる時は、楽な格好をしていていいですよ。私のトレーナーを貸しましょうか」
「ありがとう」
姿見に映るのは、三年前の自分とほぼ大差ない。
ただ、この姿でいることに恐怖を覚えた。
外見に気を遣わなかったせいで、振られたのかもしれないから。
「一軌、こんな姿の人がタイプなの?」
なんだか懐かしいなあと思いながら、でもこんな姿の男がタイプであれば、出会った時の自分にときめくことはなかったはずだよなと首を傾げる。
「私のタイプは那岐ですよ。ただ、ここからやり直したいだけですかね」
「そうなんだ?」
何をやり直したいんだろう、と思いながらも、那岐はそんなことはどうでもいいかと放り投げて機嫌良さそうにキスを落とす一軌に応える。
「それと、那岐に提案です。本格的に私の会社でデザイナーとして雇われてくれませんか?」
「……いいの?」
自分の夢であるデザイナー。
正規のデザイナーとして雇って貰える話に、那岐は目を輝かせた。
しかし、一軌にとってメリットはない。
美佳のように、デザイナーとしてではなく単なる素人の意見として話を聞くだけのほうが給与を払わなくて済むし、仕事が生活の中心になれば、家のことは今まで通りとはいかなくなるだろう。
那岐がヒモのままであればずっと主導権を握っていられるのに、わざわざお金を渡す意味がわからない。
もしかして、本当は出て行って欲しかったのだろうかと那岐は不安に駆られる。
そんな那岐を安心させるかのように、一軌はその頭を優しく撫でた。
「私は、那岐を手放す気はありません」
「うん……」
「ただ、色んな選択肢を持った上で……私の下から去ることも出来る状態で、私の傍にいることを選んで欲しいんです」
「……もちろん、傍にいるよ」
雇われているから、ではない。
那岐にとって、とっくに一軌の傍にいることが心地好くなっていたのだ。
「ヒモではなく、恋人になってくれませんか?」
「えっ? ……いいの? 僕、何も持ってないけど……」
一軌を知れば知る程、自分が肩を並べて堂々と歩けるような人間ではないということを思い知らされた。
それでも、一軌に捨てられるまでは、傍にいたいと思うようになっていた。
「那岐が何かを持っているから、傍にいて欲しいと思うわけじゃないですよ。それとも那岐は、私が倒産したら逃げるつもりですか?」
「そんなことしないよ! 一緒にいて、支えるよ!」
「ふふ、そういうことです」
「そっか、そういうことか」
二人は笑い合って、口付けを交わす。
「これからも、恋人としてよろしくお願いします」
「うん……よろしく、一軌」
捨てる神あれば拾う神あり。
ヒモ男だった那岐は、こうして寄生先ではなく永久就職先を見つけ、幸せに暮らしたのだった。
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