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「ところで、サージス様。アスワンは候補地として、如何ですか?」
カダルが、今回男性陣の目的を話題にする。
サラやユリアナが花火をメインに来たのであれば、カダルやサージスは、アスワンの視察がメインで来た。
「ああ、非常に良いな。片田舎と言っていたから、どれだけ長閑なのかと思って来てみれば……野蛮な奴等が蔓延るほど街は大きくもないし、閉鎖的になるほど小さい訳でもない。行商も通るから活気もあるし、街並みや景色も素晴らしい。もう少し、二人の為に娯楽施設があれば更に良いが……二人とも、娯楽施設よりアスワンの自然を好みそうだからな。不要か」
「何だかとても気に入られたみたいですね」
「ああ。ルクセンのダールクも候補地にしていただろう?四季が美しいのは良いのだが、夏に干ばつが起きる年があるらしい。恥ずかしい事だが、今まで全く私の耳に入ってきていなかった。二人がまだ子をなさないなら工事が終わるかもしれないが……」
「あ、それ多分無理です」
「何?」
「もしかすると、サラが。本人全く気付いていませんが、今月の予定日は一週間過ぎてます」
「……ふむ。では、アスワンに決定し、急遽屋敷の建設に入るとしよう」
カダルとサージスの話を一方的に聞いていたカッシードは、口を挟んだ。
「……別荘でも作る気か?」
「別荘、というか」
「むしろ、本邸だ」
「……は?」
カダルが説明した。
「今のままだと、サラと俺の子をサージス様が育てて、サージス様とユリアナの子を俺が育てるという図式が出来上がるだろ?出来たらやっぱり自分の子供の成長も見たいから、手っ取り早く、4人で住む場所を探してる」
「え?それって、ありなのか?」
「理由なら、どうとでもつけるさ。無理なら、今開発している魔具の出番かな」
「どんな魔具だ?」
「間者の潜入用魔具として予算ふんだくってるやつだよ。通信機能を応用させただけだが、触れられない限り、ホログラムが身の回りを包むから、他人に成り済ませる」
「……つまり?」
「俺とサージス様が、入れ替わる」
カッシードは、呆れて言った。
「お前達の仕事への情熱、どう考えても不純な動機だな」
続けて言う。
「しかし、都合は良い。それ、触れられてもホログラム解除されない様にまで質をあげれば、我が国も大分動きやすくなるぞ」
カッシードの基準は、常識よりも国の為であり、やはり色々突っ込みどころがずれていた。
☆☆☆
キャロラインは、サージスに部屋を追い出されて途方に暮れていた。
サージスをこの田舎で見かけた時には、自分を迎えにきて下さったのだとばかり思っていた。
こんな結末、信じられないし、信じたくもない。
そもそも、実家の反対を押し切ってルクセン家の侍女になったのは、伯爵家の……サージスの妻になる為だった。
自分の美貌と身体があれば、絶対に上手くいくと思っていた。
実家のある街では、男爵とは言え貴族であるし、可愛く頼めば大抵の男は言いなりになっていたのだ。
……悔しい、悔しい、悔しい。
何故あの時……5年前、私が針を仕込んだ事をバレたと思って、逃げ出してしまったのか。
逃げ出してしまったからこそ、その罪を認めてしまった様なものだ。
逃げていなければ、もしかしたら今頃、サージス様の隣にいたのは私だったのかもしれない。
……トッドのせいだわ。
あの、背の低い、取り立てて良いところもない、つまらない平凡な男。
部屋にいたら、どうしてくれよう……!!
キャロラインは、鬼の形相で帰宅した。
自宅と呼べるのは、今日までだ。
流石に、それくらいの事はキャロラインにもわかっていた。
さて、帰宅したキャロラインは鍵を開けて部屋の中に入り、「トッド!トッド!!」と叫んだが、部屋は物音一つせずに静まりかえっている。
代わりに、テーブルの上に、置き手紙と皮袋が置いてあった。
置き手紙には、
『キャロラインへ
この家は、直ぐに売りに出す。
もしまだ君が生きていたら、
1ヶ月は何とか工面出来るよう、
お金を置いておく。
これから二度と、ルクセン領とガルダー領には
立ち入らない様に。
気をつけて。
トッド』
と書かれていた。
キャロラインはその手紙を無言で握り潰し、急いで皮袋の中身を確認した。
中には、素泊まりの宿で宿泊したり、食べ物を買ったり、移動したりする為のお金として、約100ギル(20万円程)が入っていた。
それは、トッドにしてみれば精一杯の餞別であったが、キャロラインは「何よ、こんなはした金……!!」と文句をつける。
キャロラインは贅沢が好きなのだ。
旅人をつかまえてはお駄賃をせびっていたが、5年前に比べてキャロラインも歳を取り、そこまで実入りがなくなってきた。
「……まぁ、ないよりはマシね」
文句をつけながら現実を見、さて、何処に行こうか頭を巡らせる。
実家には帰らない方が良い、連絡もやめておけとトッドに言われてしていなかったが、実家に戻るのが一番手っ取り早い。
キャロラインはその時、ユリアナの言葉を思い出した。
「……そうよ。もしかしたら、良い縁談があるかも」
実家の者も、5年間音信不通だった娘が帰ってきたら、泣いて喜ぶに違いない。
「サージス様より……上の身分の人も、いるかも」
そうだ。サージスより容姿が整っている人はなかなかいないかもしれないが、サージスより金持ちの人であれば、幾分溜飲が下がる。それが貴族であれば、尚良い。
サージスには騙された。何せ、あの方は……実の妹と肉体関係を結ぶ様な輩だったのだ。
そうか、これは神様が逆に応援してくれているのだ。
サージスの妻になったら、後悔すると。
お前の容姿や身体があれば、もっと素敵な人が相応しいのだと。
そう考えれば、キャロラインの気分は上昇した。
そうよ。私のこの容姿さえあれば…………
キャロラインは、鏡を見た。
そして━━━絶叫した。
カダルが、今回男性陣の目的を話題にする。
サラやユリアナが花火をメインに来たのであれば、カダルやサージスは、アスワンの視察がメインで来た。
「ああ、非常に良いな。片田舎と言っていたから、どれだけ長閑なのかと思って来てみれば……野蛮な奴等が蔓延るほど街は大きくもないし、閉鎖的になるほど小さい訳でもない。行商も通るから活気もあるし、街並みや景色も素晴らしい。もう少し、二人の為に娯楽施設があれば更に良いが……二人とも、娯楽施設よりアスワンの自然を好みそうだからな。不要か」
「何だかとても気に入られたみたいですね」
「ああ。ルクセンのダールクも候補地にしていただろう?四季が美しいのは良いのだが、夏に干ばつが起きる年があるらしい。恥ずかしい事だが、今まで全く私の耳に入ってきていなかった。二人がまだ子をなさないなら工事が終わるかもしれないが……」
「あ、それ多分無理です」
「何?」
「もしかすると、サラが。本人全く気付いていませんが、今月の予定日は一週間過ぎてます」
「……ふむ。では、アスワンに決定し、急遽屋敷の建設に入るとしよう」
カダルとサージスの話を一方的に聞いていたカッシードは、口を挟んだ。
「……別荘でも作る気か?」
「別荘、というか」
「むしろ、本邸だ」
「……は?」
カダルが説明した。
「今のままだと、サラと俺の子をサージス様が育てて、サージス様とユリアナの子を俺が育てるという図式が出来上がるだろ?出来たらやっぱり自分の子供の成長も見たいから、手っ取り早く、4人で住む場所を探してる」
「え?それって、ありなのか?」
「理由なら、どうとでもつけるさ。無理なら、今開発している魔具の出番かな」
「どんな魔具だ?」
「間者の潜入用魔具として予算ふんだくってるやつだよ。通信機能を応用させただけだが、触れられない限り、ホログラムが身の回りを包むから、他人に成り済ませる」
「……つまり?」
「俺とサージス様が、入れ替わる」
カッシードは、呆れて言った。
「お前達の仕事への情熱、どう考えても不純な動機だな」
続けて言う。
「しかし、都合は良い。それ、触れられてもホログラム解除されない様にまで質をあげれば、我が国も大分動きやすくなるぞ」
カッシードの基準は、常識よりも国の為であり、やはり色々突っ込みどころがずれていた。
☆☆☆
キャロラインは、サージスに部屋を追い出されて途方に暮れていた。
サージスをこの田舎で見かけた時には、自分を迎えにきて下さったのだとばかり思っていた。
こんな結末、信じられないし、信じたくもない。
そもそも、実家の反対を押し切ってルクセン家の侍女になったのは、伯爵家の……サージスの妻になる為だった。
自分の美貌と身体があれば、絶対に上手くいくと思っていた。
実家のある街では、男爵とは言え貴族であるし、可愛く頼めば大抵の男は言いなりになっていたのだ。
……悔しい、悔しい、悔しい。
何故あの時……5年前、私が針を仕込んだ事をバレたと思って、逃げ出してしまったのか。
逃げ出してしまったからこそ、その罪を認めてしまった様なものだ。
逃げていなければ、もしかしたら今頃、サージス様の隣にいたのは私だったのかもしれない。
……トッドのせいだわ。
あの、背の低い、取り立てて良いところもない、つまらない平凡な男。
部屋にいたら、どうしてくれよう……!!
キャロラインは、鬼の形相で帰宅した。
自宅と呼べるのは、今日までだ。
流石に、それくらいの事はキャロラインにもわかっていた。
さて、帰宅したキャロラインは鍵を開けて部屋の中に入り、「トッド!トッド!!」と叫んだが、部屋は物音一つせずに静まりかえっている。
代わりに、テーブルの上に、置き手紙と皮袋が置いてあった。
置き手紙には、
『キャロラインへ
この家は、直ぐに売りに出す。
もしまだ君が生きていたら、
1ヶ月は何とか工面出来るよう、
お金を置いておく。
これから二度と、ルクセン領とガルダー領には
立ち入らない様に。
気をつけて。
トッド』
と書かれていた。
キャロラインはその手紙を無言で握り潰し、急いで皮袋の中身を確認した。
中には、素泊まりの宿で宿泊したり、食べ物を買ったり、移動したりする為のお金として、約100ギル(20万円程)が入っていた。
それは、トッドにしてみれば精一杯の餞別であったが、キャロラインは「何よ、こんなはした金……!!」と文句をつける。
キャロラインは贅沢が好きなのだ。
旅人をつかまえてはお駄賃をせびっていたが、5年前に比べてキャロラインも歳を取り、そこまで実入りがなくなってきた。
「……まぁ、ないよりはマシね」
文句をつけながら現実を見、さて、何処に行こうか頭を巡らせる。
実家には帰らない方が良い、連絡もやめておけとトッドに言われてしていなかったが、実家に戻るのが一番手っ取り早い。
キャロラインはその時、ユリアナの言葉を思い出した。
「……そうよ。もしかしたら、良い縁談があるかも」
実家の者も、5年間音信不通だった娘が帰ってきたら、泣いて喜ぶに違いない。
「サージス様より……上の身分の人も、いるかも」
そうだ。サージスより容姿が整っている人はなかなかいないかもしれないが、サージスより金持ちの人であれば、幾分溜飲が下がる。それが貴族であれば、尚良い。
サージスには騙された。何せ、あの方は……実の妹と肉体関係を結ぶ様な輩だったのだ。
そうか、これは神様が逆に応援してくれているのだ。
サージスの妻になったら、後悔すると。
お前の容姿や身体があれば、もっと素敵な人が相応しいのだと。
そう考えれば、キャロラインの気分は上昇した。
そうよ。私のこの容姿さえあれば…………
キャロラインは、鏡を見た。
そして━━━絶叫した。
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