悪口を言えばレベルが上がるお嬢様

一ノ塾 諒

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出会い

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「どうしていつもの紅茶が用意できないのですの?」
「大変申し訳ございません。近頃、お嬢様のお好みの茶葉が生産されている産地の輸送路で、崖崩れがございまして……、その結果、茶葉を仕入れることができなかったのでございます」
「それでも用意するのがあなたの仕事でしょ?セバスティアン」
「本当に申し訳ございません。ですが最高の技術と最高の道具で入れる最高級の紅茶でございます。どうか本日はこれで我慢してはいただけませんか?」

 バラのたくさん生えた庭で、セバスティアンは深くあたまを下げている。その目の前にいるのは赤いドレスを着た女の子、ローズクイーンである。

セバスティアンは昔から王宮に在籍しているベテランの執事である。その執事が頭を下げる、その光景が異様で異質で、ここ数年見たことがない光景だったのである。

 ローズクイーンはプリンセス、つまりはお姫様だ。いつも庭で、ローズクイーンはお気に入りの紅茶を飲むのが習慣だった。しかし今日はそれができない。腹を立てたのは彼女にとっては当然なのである。

この王室で彼女の意見が通らないことは珍しいことであった。

 それは彼女がわがままだから、というだけではない。彼女の周りの環境や、彼女の後ろにある影――王家の存在によって、聞かざるを得ない状況が、彼女をそういう性格に仕立てていたのだ。

「仕方がないわね、あなたの紅茶はおいしいもの、いつもの茶葉ではなくとも素晴らしい紅茶を淹れてくれるのでしょう」
「もちろんでございます」
「それを入れて頂戴。本を読みながら気長に待つことにするわ」
「ありがとうございます」

 ローズクイーンが本を読み始めたので、セバスティアンはせっせと紅茶を淹れる準備を始める。本に興味を移したことを察して、セバスティアンはもうさっきの謝罪を気にせず、いつもの日課を始めた。一つ一つの言葉を話さなくても、何を言っているのかが分かる。セバスティアンが優秀であることの証明だ。
 
ローズクイーンは年頃である。プロポーズを迫られることも数多くあった。そのプロポーズのほとんどが、ローズクイーンの後ろにある大きな権力を求めたものであるか、その美貌のためである。

彼女の母は国で一番といわれるほどの美人であり、その顔によって、国民すべてから信頼を得ているといっても過言ではないほどだった。そのを血を受け継ぐローズクイーンの顔は当然美人である。ローズクイーンの年は15であるため、少し幼さもあるが、母親顔負けの美貌の持ち主であると世間では評判だった。

いつも彼女はそんな王宮生活が嫌だった。権力と陰謀が渦巻くこの場所にローズクイーンの心が休まる場所がなかったのである。いつも自室、図書室、王宮のパーティー会場、そしてこの王宮の薔薇庭園以外行く場所がない。ローズクイーンは、嫌悪感を抱かない日はなかった。そんな彼女の趣味は紅茶と読書である。そしてもう一つは……。

彼女は愛の物語を読みながら、「フフッ」と笑う。

 読書を初めて十ページほど読んだとき、あたりが紅茶のにおいに包まれる。それはもうすぐセバスティアンの一つの作品が完成するということを知らせていた。セバスティアンの紅茶は素晴らしく、紅茶を淹れる仕草一つ一つにお金が取れるほどの芸術性を感じるほどである。そんな職人の技に見向きをせず本を読むローズクイーンは、そわそわと別のことを考えていた。

「お嬢様、紅茶が出来上がりました」
「えぇ、そこに置いといてくれるかしら」
「かしこまりました。では失礼いたします」

 セバスティアンはいつも紅茶を淹れた後、別の仕事のため、庭を離れる。それはローズクイーン自身が指示したことで、本に集中したいからという理由だった。だがそれは表向きの理由であり、本当の理由はほかにある。
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