悪口を言えばレベルが上がるお嬢様

一ノ塾 諒

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ユーリス

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「お嬢様?ケーキはどうなさいますか?」
 そこにいたセバスティアンはユーリスの姿には気が付いていないようだった。窓をのぞき込んでいるローズクイーンを見て、不思議そうな顔をする。
「なんでもないわ、ケーキ、頂くわ」
「かしこまりました」

 その時からユーリスはこうやって遊びに来るようになった。目的は一つ。ローズクイーンに会いに来てくれるのである。
 外から来ているとか、スラム出身だとか、誰にも見つかってはいけないだとかローズクイーンにどうでもよくて、彼女にとってはユーリスと話すことが彼女には必要だった。

「そんな不機嫌な君に、実はプレゼントがあるんだ」
「え?本当?」 

 そういってユーリスは胸のポケットを探る。そして、一輪の花を差し出した。
「町のバザーで見つけてさ、きみに似合うと思って持って来たんだ、受け取ってよ」
「え?本当?うれしい」
 
 それは青い花だった。品種は分からない。けど綺麗で、ローズクイーンにとっては、宝物の一つになった。

「けどごめん、実は今日は少し用事があってすぐに行かなくちゃいけないんだ」
「ううん、いいの、大丈夫。また来てくれるよね」
「もちろんさ、また来るよ」
「ねぇ、ユーリス、実は……」
「ごめん、本当に時間がないんだ。また来るからあとでいいかな?」
「うん、ごめんね、いいの、今日は来てくれてありがとう」
「うん、またね」

 そういってユーリスは薔薇の庭園の死角へ消えていった。音もなく、気配もなく、誰もいなかったかのようにユーリスはいなくなった。
 青い花を見つめながら、ユーリスを思い返す。あの日、図書室で出会ったときから、ローズクイーンは口角が上がりっぱなしだ。そういえば顔が痛いなとローズクイーンは頬をほぐす。ぐりぐりと回すと血流が流れる気がして痛みが和らいだ。
どうやら彼と話しているときずっとにやけてしまっているようで、それで痛みが出ているようだ。でも自分ではどうすることができないのだ。仕方がない。

「お嬢様、先ほどようやく茶葉が届きましたがどうされますか?おやそれは?」
「ほんとバカね、こうやってね、あ、いやなんでもないわ」
 平静に戻るために目をそらした。これはローズクイーンとユーリスの秘密だ。誰にも悟られるわけにはいかない。それが彼女には楽しかったし、彼女だけがそれを知っているのは彼女だけでよいのである。

 その時だった。
「Lv.が2に上がりました」
 どこから聞こえたのは分からない。だが確実にローズクイーンはその声を聴いた。誰の声なのかもわからなかった。
「エルブイ……、レベルが上がったわ」
「レベル?どういうことですか?お嬢様」
 今話したセバスティアンの声ではないことは明らかだった。
「セバスティアン、レベルって何かしら?」
「はい、レベルは冒険者たちが主に使う言葉でございます。レベルが高いほど筋力や魔力が上がるといわれています」
「なるほど、そのレベルが上がったようなの」
「レベルですか?どうしていきなり上がったのですか?」
「分からないわ」
 セバスティアンは深く考え込んでしまった。あごに生えた髭をさすり、何か不安そうな顔をする。
 私には一つ、心当たりがあった。恋愛だ。これは愛の力だ。きっとそうだ。ユーリスと出会ったこと、そうして私の力を一つ上げたのだ。
「そうね、愛の力、つまりloveが上がったということね。やっぱりこの気持ちは本物ね」
「何のことですか?お嬢様」
「いいえ、なんでもないわ」
 その日セバスティアンはローズクイーンがやけに機嫌がいいことを不審に思っていたという。
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