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第16章 摩天楼の聖女
第306話 最悪の人災
『歩きながらでも話そう』っていう表現は、割とよく聞くというか、よく使うものだと思う。
けど、それが『走りながら』になると……まあ、あんまりないんじゃないだろうか。
走りながら話すとか、普通に考えて結構苦しいし。息荒くなるしね。あと、舌噛むかもだし。
まあ、その辺僕には縁のないことなので、普通に駆け足で……螺旋階段をかけおりながら、ウェスカー他と話してますけどもね。
現在僕らは、『摩天楼』から下に続く謎の塔を走って下りながら、ウェスカーからなぜか『説明』ないし『答え合わせ』を聞いている。適宜、それに質問とか確認しながら。
その程度のことは造作もないメンバーが、ほぼほぼそろってるので。
僕、ナナ、義姉さん、師匠、エレノアさん、そしてソニア。ああ、ウェスカーもか。
ただ……ソフィーだけちょっと辛そうだったので、あんまり会話に入ってこないが。
なお、今言った通り、塔の中は螺旋階段で下に降りられるようになっていた。超長いけど。
「上にあったあの井戸……中から組み出せる水はあの『御神酒』だろ? あのヤバい代物の出所はここだったわけだ。汲み上げて加工して……あの壁際に置いてあったやたら豪華なビンに詰めて、『御神酒』として儀式に使う。ってか、『聖女』やその見習いに飲ませたりするわけだ」
「ご明察ですね。他に気づいたことは?」
「……あの毒、成分の一部が……『アバドン』の爪の毒に似てた。まだ詳しいところはわからないけど、多分、何らかのつながりがあるんじゃない?」
「正解です。まあ、それについては……『答え合わせ』の中で説明させていただきましょう」
僕の数m横を走りながら、息ひとつ乱すことなくそう言ってくるウェスカー。
……どうやら、こいつは僕ら以上に色々と知っているようだ。自分、あるいは自分たちで調べたのか、はたまた元からそういうルートがあって知ることができたのかはわからないけど。
一応、内容に興味はあったし、敵意・害意は……少なくとも今のところは感じないので、師匠たちも含めて大人しく聞いている。
……いざとなったら、『女楼蜘蛛』2人を含むこのメンバーでどうとでもできそうだ、っていう見通しも正直あるけども。
「窓でもあればよかったのですがね……この塔の外がどうなっているかは把握していますか?」
「バカみたいにだだっ広い地下空間になってることくらいは」
「十分です。では、その地下空間についてですが……」
敵意や不満感を隠すのに失敗しているソニアとソフィーのことは見事なまでに気にしないまま、ウェスカーはとても分かりやすい感じで語り出した。
ウェスカー曰く、ここの地下空間には、巨大な『地底湖』があるらしい。
その地底湖は、ある理由で汚染された毒の湖になっていて……それを、どういう原理か地上近くまで吸い上げている。そして、あの『井戸』で汲み出せる仕組みになっている。
さっき言った通り、それが『御神酒』であり……言ってみればその地底湖は『御神酒』の毒水で満たされたヤバい場所なわけなのだが、問題はそこじゃない。
問題はさっき僕が予想した通り……『アバドン』の爪と牙の毒と、『御神酒』の毒に、やっぱり関連性があった、っていうことだった。
分かりやすくするには、話を1つ1つ順々に、丁寧に説明していくのがよさそうではあるんだけども、そうするには時間が足りないので……要点だけ、結果だけ、って感じになる。
まず、これもさっき言った通り、地下空間には『アバドン』が住んでいる。
教皇や枢機卿の部下たちは『7匹しかいなかった』と思い込んでたそうだが、実際はもっと大量にいた。彼らが捜したのはこの塔の中、それもおそらくは、上のいくつかの階層だけ。
この螺旋階段は発見できなかったと見た。地下何階かの『遺跡』で満足してたんだろうな。
が、実際には無数の『アバドン』が塔の外にいたわけだ。あくまで、塔の中を縄張りにしていたり、偶然そこにいた『アバドン』が限られていただけで。
そしてアバドンは……この毒の水を栄養にしているというか、依存関係にある生態だった。
この毒は『アバドン』には効かず、それどころか彼らが生きていくのに不可欠な養分を含んでいるらしい。彼らは、この湖の水が蒸発した空気を吸って生き、この水を飲み、この水で汚染された食べ物を食べて生きる。主に、その湖に暮らす魚なんかだそうだ。
そして、その毒素がアバドンの体内で分解され、吸収・変換された結果……あの、爪や牙に宿る毒が出来上がる、というわけだ。
……そして、ここから先が……僕がこの世界に『転生』してからで、トップクラスに聞いていて気分が悪くなる話だった。内容そのものも、そこから受ける印象やら、感情的にも。
正直、ショックを受ける人も多いだろうし、気の弱い人には聞かせるのもはばかられるというか。
衝動的に『この国滅ぼした方がいいか?』とか思ってしまった程度には、ひどい話だった。
そうしたところで改善するかって考えても、微妙だと思うからやめたが。
聞いている最中、ナナやソニア、ソフィーは顔を青ざめさせ……多少なりそういう話に耐性があるであろう義姉さんや師匠、エレノアさんも、眉間にしわが寄っていた。
……どういう話なのかっていうと、だ。
その『アバドン』だが……種族の特徴として、かなり寿命が長く、また長期間の絶食にも耐えられるようなレベルで燃費がいいんだそうだ。地底湖の中に生息している、決して大きくはない魚を細々と食べて生きていけるくらいには。
ただ、この魔物……普通に生きているだけならそれで問題ないんだが、唯一『生殖』の時だけは、普段の餌以外に特別な餌を必要とする。
普段食べているもの以上に、より高濃度に『御神酒』の毒水に汚染されている肉を。
そしてそれは、地底湖に生きている魚その他の小動物、ないし植物では到底足りない。
もっと大量の毒を取りこんで、隅から隅までその成分がいきわたっているような餌が要る。それがある程度まとまった量ないと、『アバドン』は子孫を残すことができないそうだ。
だが、アバドンがこの地下で繁殖しているということは、それを満たす餌が、どこかにはある、ということだ。では……一体それはどこにあるのか?
…………答えは簡単。
その『餌』の正体は…………『聖女』の亡骸だ。
ちょっと話が横道にそれるんだけども……『御神酒』の毒の影響で、聖女は寿命が短いってのは、前に話した通りである。毒が体中に蓄積してその身をむしばみ、あまりに早い死を迎える。
そして、それによってできた亡骸には……『御神酒』の毒が大量にしみ込んでいる。
公式には、聖女は亡くなると国葬が執り行われ、亡骸は立派な墓地に埋葬される……ということになっているが、実際は違う。
これも、隠された『戒律』というか『言い伝え』によるものなんだが……さっきまで居た、『井戸』があった部屋の壁に、穴が開いてたのを覚えてるだろうか?
人が1人、四つん這いでなんとか通れそうな感じに見える穴が。
結論から言おう。聖女の亡骸は……その穴から捨てられるのだ。
理由はわかっていないが、そうする決まりになっていた。宗教としての『戒律』で。それを、歴代の『教皇』や『枢機卿』たちは守ってきた。理由もわからずに。
で、その理由が、さっき言ったこと、というわけだ。
あの壁の穴は、細い管状態の通路になっていて……入れられたものは、地底湖に落ちる。
そしてそこで……亡骸は『アバドン』の餌になるわけだ。
そして、それを食べたアバドンは、生殖行為が可能になる。そして、増える。
つまり、聖女は……そんなところまでその身を利用されるのだ。
生きているうちは、危険な『御神酒』で自我を奪われ、寿命と引き換えに魔力をブーストさせた操り人形として、ブーストした魔力による『奇跡』演出で信者をまとめるために利用される。また、いざって時に『アバドン』を操るコントローラーとしても利用される。
そして死んだ後は……『シャルム教』の秘密兵器である『アバドン』を増やし、数を保たせるために……餌として、栄養食としてその身を利用されるという……。
この時点でもう胸糞悪いことこの上ない感じだったんだけど……この話、さらに続きがあったんだなこれが……。もっと気分が悪くなるのが。
さっき、アバドンは寿命が長い、といったのがここにかかってくる。
まあ、長いと言ってもせいぜい数十年程度で……人間よりは長くは生きないそうだけど。
そもそも、『聖女』は寿命が短いとはいえ、そんなに頻繁に死ぬわけじゃない。
仮に、普通の人より半分くらいしか生きられない……40~50歳くらいで死ぬとして、だ。
ネフィアットを例にとって……就任が20歳前後として、50歳で死ぬとして、任期は30年。その後、次の『聖女』が選ばれ……また30年後に死ぬ、と。
そんな『聖女』が4人。
つまり何が言いたいのかというと、まんまだが……彼ら『アバドン』が増える機会は、決して頻繁にあるわけじゃないというわけだ。
聖女の亡骸が……『餌』が落ちてくるスパンは、頻度を均等にしたとすると、7年半に1回。まとまった感じにすれば、30年に1回だ。1回チャンスが来たら、次は最長で30年後なのだ。
そしてこのスパン、というかペースは……地下空間に住んでいる『アバドン』の数を一定に保つという上で最善のものだった。
いかに『秘密兵器』と言えど、扱いきれなければ意味がない。4人の『聖女』でコントロールできる程度の数に、全体の数を抑えておくための最適なペースだったんだそうだ。『聖女』を4人用意し、その寿命による死のタイミングで『アバドン』を増やすという仕組み。
もともと、『聖女』の素質を持つ少女自体が多くはなかったから、っていうのもあるだろうな。
……しかし、現在……上を見ればわかる通り、『聖女』4人じゃ到底追いつかない数の『アバドン』が地上にあふれ出している。全然最適な数じゃない……これはどういうことか?
簡単な話である。この仕組みが崩されていたのだ……人間の、権力者の欲望によって。
……はい、ここからもう1つ、胸糞悪い話が出てきます。
シャルム教が確保している『聖女候補』の娘たちにも、毒に慣れさせる目的で、薄めた毒を飲ませている、というのは、先にあの『枢機卿』のおっさんから聞き出した通りだ。
その中から、特に適性がある娘を『聖女』に任命するのだということも。
では、その『候補』でありながらも、選ばれなかった娘はどうなるのか。
彼女達には、大きく分けて、3通りの『その後』が用意されている。
用意されているというか……否応なしにそのうちの1つを選ぶことになる、って言った方が正確かもしれないな。必ずしも、そうしたいっていう希望で選べるものじゃないし……。
1つ目、毒に耐えられないなどの理由で、『聖女』になるには力量不足だとみなされた場合。
この場合は、『聖女候補』のまま、しかし選ばれることはないまま、一介の修道女として静かに暮らし、その一生を終える。
見込みなしと判断された時から毒の投与は止まるので、そこそこ長生きはできる。
2つ目……毒に耐えきれず、投与の中止も間に合わず、体を壊して死んでしまう場合。
この場合は、体を壊して療養するために異動になった→その異動先で引退した、とか適当に情報を操作したりして、事実を隠蔽する。
そして3つ目……『聖女』には力量不足ながらも、『教皇』その他の幹部に気に入られた場合。
ここでいう『気に入られた』っていうのは……聖職者としてじゃない。奴隷としてだ。主に、色々な欲望を発散させるための……18歳未満お断りな類のそれだ。
騙して言いくるめるなり、拘束・監禁して自由を奪うなりして手籠めにする。
時には……適度な濃度に調整した『御神酒』を飲ませ、死なず、しかし自我は失い……という状態にして、欲望のはけ口に利用するために囲っておく……なんて下衆いことまでやっていた。
……本気で腐ってるな、この国。
当然、そんなことされれば……心身ともにボロボロになる。
『御神酒』の投与で自我とか奪われた日にゃ、その毒性で――元々それに『耐えられない』って判断された体なんだから――いつ死んだっておかしくない。
というか、近いうちに確実に死ぬ。
そして、今挙げたうちの『2つ目』と『3つ目』の聖女候補……その後始末が問題だった。
もうわかったと思うが……証拠隠滅のため、彼らはこのケースで出てしまった聖女候補の亡骸を、同じように壁の穴から捨てていたのだ。本職の『聖女』ほどではないにせよ、少なくない量の『御神酒』の毒をため込んで汚染されていたそれを。
どのくらい前から……何代前の教皇や枢機卿たちから、そうなったのかはわからない。
しかし、その結果何が起こったかは……もう、明らかというか。
最適なペースを超過して供給された『餌』。それによるアバドンの増殖。
しかし、地下の食料や空気にも限りはある。十分なそれがない以上……飢える個体も出てくる。
食べ物がなくて腹を空かせ、空気がなくて息苦しい。
仕方ないので、休眠状態で過ごして耐えていた個体がほとんどだった。
運よくそうならずにいられた個体が7匹……『教皇』たちに見つかり、捕らえられた。
そして起こった、上層部の破損。正規の入り口以外にもできてしまった、いくつもの『穴』……というか、出入り口というか。
そこを通って流れ込んできた新鮮な空気が、休眠していて見つからずにいた無数の『アバドン』たちを目覚めさせ……さらに、外に出た1匹の咆哮により、待ちわびた『餌』の存在が発覚。
狂喜したアバドン達は、腹を空かせて次々に地上へ。
そして今、未曾有のモンスターパニックが起こっている。
すなわち、今こうして起こっているこの事態は……発生そのものには、引き金というかきっかけがあったとは言え、この国の上の連中の腐った部分が、連綿と続けてきた下衆い行いによって積み重ねられてきたものが一気に噴き出したという……最悪の『人災』なのだ。
☆☆☆
ところ変わって、神殿の外。
そこでは……この聖都ごと吹き飛ばしかねない実力者たちが3人、刃を交えていた。
「だからこそ! この国に最早未来はない! 上にのさばっている老害共を誅殺せねば……道をふさぐ石をどけてやらねば、民は自分の力で前に進む機会すら与えられんのだ!」
「その手段が極端すぎると言っている! 民にも国そのものにも過剰な痛みを伴っては、後から立ち直る時に手間が増える……それだけならまだしも、巻き込むものが多すぎるのだ、貴様は!」
「くくっ……相変わらず、甘いのか厳しいのかわからん奴だ。地獄を作る御膳立てをして、後はそこから一本独鈷の独立独歩でやっていけ、と放り出すわけか」
「『シャルム教』は曲がりなりにも、この国における行政府として機能している……それを無暗に壊せば、国が無政府状態に陥るだけだ! シャラムスカの……旧リアロストピアの時は、最低限の行政機能が残っていたし復旧も早かったが、あの国以上に中央集権、いや依存に等しい状態になっているこの国にそれは愚策だぞ!」
「だとしてもこれが一番確実で早い! あの獣共を見ればわかるだろう……この国の連中に時間を与えるとろくなことにならんのだ! 革命を経て、一部でも国家運営が最適化されていたリアロストピア以上に、この国は腐っている! 周囲の国家に影響が及ぶ前に一刻も早く壊さねばならん!」
飛び上がって上空から青い炎をまき散らすアザー。
ドレークはそれを切り払い、あるいは空間をゆがませて無力化して防ぐと、その力を手にした武器……戟に魔力をまとわせて、アザーめがけて振りぬいた。
空間を切り裂く勢いで迫るその空気の刃は、直撃すれば人間など跡形もなく消滅してしまう威力だが……アザーはそれを両手で受け止め、弾いて反らした。
狙って弾き飛ばしたのであろう、その先にいたのは……リュウベエ。しかしこちらも、その空気の刃に恐れを見せることはなく、手にしていた大太刀を、その太刀筋に沿うように振るう。
巨大な空気の刃の、さらに真芯を捕らえたその一撃は……ドレークの斬撃を真っ二つに切り裂いて霧散させた。
斬撃を斬る、というとんでもない技を見せつけたその直後、別な軌道で振りぬいた刃が……こちらも飛ぶ斬撃となって、赤黒いエネルギーの収束した、より薄く鋭い刃となって放たれた。
今度はアザーは、それを受け止めず身をひねって回避する。
標的からそれた刃は、明後日の方角にそのまま飛んでいき……その先にあった氷の壁に激突。その壁を半ばまで削り取って、そこで止まって霧散した。
この3人が、本気で三つ巴で戦えば、町の1つや2つ、簡単に消し飛ぶだろう。
ドレークとアザーだけなら、町の無用な被害を嫌って、余分な破壊が起こらないよう近接戦に限定し、やや力を抑える選択肢もあったかもしれないが、リュウベエがいる時点でその選択肢はなくなってしまったも同然だった。
周囲の被害も何も関係なしに力を振るうこの男は、常に全力で戦い、それを楽しみ、そして敵を斬ることに全身全霊を注ぎ込む。加えて、その実力は2人と互角の領域。
それに対抗するには、やはりドレークとアザーも全力を出すしかない。
ゆえに……もし、この3人の周囲を覆う、巨大な氷の壁がなければ……瞬く間にこの町の大部分は、瓦礫の山になっていたことだろう。
現に今のリュウベエの斬撃は、小さな村なら横断できてしまうほどの威力と射程があった。アザーの火炎は、川の水を蒸発させてその底をえぐる熱量と威力があったし、地上に被害が出ないように空に向けて放たれたドレークの一撃は、高層ビルを粉々に粉砕して余りある威力だった。
それを、周囲に被害が出ないように抑えているのは……ドレークの緊急の要請によりそこに駆けつけ、魔力を込めた氷で周囲を覆ったブルースの働きによる。
この氷山でできたコロッセオのような覆いによって、その中で大暴れしても外に被害が出ないようになっている。壁は常にブルースが魔力を注いで保たせており、魔法金属の比ではないレベルの防御力を持つのに加え、破損しても即座に再生するようになっていた。
先程のリュウベエの斬撃による傷も、みるみるうちに塞がっていく。数秒後には跡形もなく修復され、元通りの氷壁になるだろう。
(つか、割とマジで勘弁してもらいてーんだけど? こんなもん長くは持たねーぞ……いや、かといってコレ解除したら、聖都ソッコーで消し飛ぶからそれもできねーし……)
もっとも、防御に集中しているとはいえ、格上3人の破壊を封じ込めるというのは、ブルースにとっても決して楽ではないのだが。
「くっそ、せめて姉貴かミナトがいればな……つか、テーガンの姐さんどこ行ったんだよ? あの人なら…………あれ、マジでどこ行った? 獣の相手するっつって……」
ブルースがふと、先程まで街中で『アバドン』を狩っていたはずの、『女楼蜘蛛』の切り込み隊長の不在……気配が感じられないことに気づいて戸惑っていた、まさにその頃。
その女傑……テーガン・ヴィンダールは、とある場所で、とある男と相対していた。
「はてさて……妙な場所で妙な方にお会いするものです。私に何か御用ですか?」
「あぁ……大騒ぎになっている上に、何やらよからぬ連中が暗躍しているという話だったのでな? ひとまず、気配を感じる中で一番強そうな奴の所に来てみた。それだけじゃ」
「気配、ですか。やれやれ……無茶苦茶な方だ」
肩をすくめて言うその男は……後ろからテーガンに話しかけられている形だった。
彼は振り向いて、彼女の顔を正面から見る。……テーガンの目は、病的を通り越して純白と呼べる白さの肌と、赤い瞳を持つ男の姿を、改めて正面からとらえた。身にまとっている礼服が、阿鼻叫喚の町の喧騒の中に、どうにもミスマッチに映る。
「私は別に、この騒ぎに何かの形で加担するつもりはありませんよ? ただ、全くの無関係というわけでもありませんし……一応、顛末を見守ろうと思って、隠れて見ていただけなのですが。放置してくだされば、何もせずただじっとしていますよ」
「それを信じろ、というのは難しい話じゃな。わしのカンに引っかかるような奴を放置するのも論外……それに貴様、その恰好からして、ミナトの小僧が言っていた、例の財団の頭目じゃな? 何にせよ、とりあえずは捕えてから話を聞けばいい、というだけの話じゃ」
「それは残念……しかし、ならば折角ですし……私も抵抗させてもらいましょうか」
その瞬間、ぱちん、と指が鳴る。
直後……景色が一変した。
「――っ!?」
「あなたが暴れると、あの3人よりも大変なことになりますからね。別空間にご招待しました。ここでなら、存分に力を振るっていただいて結構ですよ……『覇王』殿?」
何もない空間。ただ、石のような材質の床だけが、地平線まで広がっているように見える、本当に何もない場所に……テーガンは連れ込まれていた。
一瞬にして、気づくことすらできないうちに。
「なるほど……わしのカンは正しかった、というわけじゃな。とんだ化け物が紛れておったわ」
「できれば名前で呼んでいただきたいものですがね……あぁ、申し遅れました。ミナト殿から聞いている様子でしたが、改めて。バイラス、と申します、以後お見知りおきを」
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