18 / 51
本編
16
しおりを挟む
目が覚めたら知らない天井だった、なんて。まさか小説にありがちなフレーズを俺が体験することになるとは思わなかった。
広い部屋だ。デズモンド邸の私室よりも広いかもしれない。
深い青色と白でまとめられた調度品はどれも最上級の品質だ。棚に飾られた花瓶ひとつで小さな家を一軒買えてしまえるだろう。
クイーンサイズの天蓋付きベッド。サイドテーブルには水差しとコップ。
大きな窓はバルコニーへと繋がっているらしい。気怠い体を起こして、カーテンの隙間から光が差し込む窓辺へと近づいた。
「ぅ、まぶし……」
カーテンを開くと、白い光に目を焼かれる。あまりの眩しさに目元を手で覆い、バルコニーへ出るべく内鍵を外した。
ガチャン、とやけに大きく響いた音に肩を跳ねさせて、逡巡してから扉を開けた。
外から風が吹き込み、濃紺のカーテンが室内を舞う。
「う、わ……なんだ、これ」
外へ一歩踏み出して、広がる光景に目を見開いた。
青い、蒼い、一面の蒼い薔薇の花園。
まるで海の水面のように広がる美しい花々に見入ってしまう。
「綺麗でしょう?」
「っ、アデル……」
「僕もいますよ。おはようございます、お寝坊さん」
いつの間に部屋に入ってきたのか、両脇からするりと腰と手を取られた。
最後に見た時よりもずいぶんとラフな格好をしており、無事に彼らが攫ってくれたのだと実感する。きっと今頃、エインズワース邸も、デズモンド邸も大騒ぎだ。
「お前ら、薬か何かを混ぜたんだろう。そうじゃなきゃ、俺がこの時間まで起きれないはずがない」
「……デズモンドは、子供に薬の耐性を付けさせると聞いています。だから、いろいろと組み合わせたモノを用意したんですが効果がおかしくなってしまったみたいで」
そもそも薬を飲ませるんじゃないよ。いろいろ組み合わせたモノってなんだ。それでオーバードーズでも起こしたらどう責任取ってくれる。
――まさか、ノアにもしたんじゃないだろうな!?
顔色を変えた俺に、カインが慌てて首を横に振った。
「ノア君には何もしていません。貴方にだけです」
「……別に、逃げるつもりはないが」
「念には念を。貴方の意識がないほうが、誘拐っぽいでしょ?」
ぱちん、とウインクを飛ばしてきたカインに瞠目する。なんとなく、そういう事をするのはアデルだと思っていたから意外だった。
噂で聞いたことがあった。蒼い薔薇に囲まれた美しいミラー家の別邸がある、と。
『蒼薔薇の館』はアデルとカインが所有する私邸で、他の家族は滅多に来ない別邸だとか。なるほど、俺とノアを隠すのに持ってこいだ。
使用人も最低限で、街からも遠いため、外に出ても見られる可能性は低い。
「用意周到だな」
「そのための屋敷ですから」
「? ……どういう、」
「この屋敷は、貴方と暮らすために整えていたんです。……蒼い薔薇が好きだと仰っていたでしょう」
ぱち、ぱち、とまぶたの裏で記憶が火花を散らす。
壊れた馬車と、見目麗しい双子の兄弟。腕を広げて庇う俺はずいぶんと小さくて――。
「僕たちを見てください」
「思い出さなくていいんですよ」
「ぁ、」
あと少しで思い出せそうだったのに、邪魔をされてしまい開きかけてた記憶の棚が再び閉じてしまった。
脳裏に描かれた俺は今よりも随分と幼くて、今のノアよりも小さかったかもしれない。十歳よりも前となれば、外へ出る機会も限られていた。
今現在ですらマリアにすべてを握られているのに、それよりも酷かった頃だ。
起床から就寝まで。分単位でスケジュールを決められて、『俺』風に言うなら過干渉な毒親だった。
成長するにつれて、というよりもノアが生まれてからマリアの苛烈さは鳴りを潜めていった。――否、おそらくそれもノアの異能が作用していたんだろう。
母という無条件の愛を注いでくれるマリアを慕い、その結果『慈愛』は効果を発揮した。
「……ノアは? どうしてる?」
「ノア君なら、貴方よりも早く起きて身支度を済ませています。食事は兄上が起きてから一緒に食べる、と言うので今はメイド長が見ていてくれています」
「待たせてしまったのか、それじゃあ俺も早く準備をしないとだな」
「本人からアレルギーや好き嫌いを聞いて食事は用意させたんですが……柑橘類が食べられないというので、食後のデザートはフルーツタルトからプディングに変えたんですが、よろしかったですか?」
「プディングは、俺もノアも大好物だよ」
手を取られたまま部屋の中へと招かれる。いくら日差しがあるとはいえ、風邪を引いてしまいますから、と言う双子は俺を子供かなにかかと思っているんだろうか。
何度でも言うがお前らよりも年上なんだけど。
着替えよう、と着せられていたガウンに手をかけてから、そういえば着の身着のままでさらわれてきたのなら、荷物も着替えも何一つないのではないか?
困った顔で双子を見れば、カインが新品だろう衣服を持っており、アデルはそれに合わせた靴やアクセサリーを手にしていた。
「サイズはぴったりだと思います」
「着替えたら、テーブルの上のベルを鳴らしてください」
「お迎えにあがりますので、ゆっくり着替えて結構ですよ」
「貴方に待たされるのはなれていますから」
にっこり。
サイドテーブルにそれらを置いて、さっさと部屋を出ていってしまった双子に物申したい。
インディゴのヴェストだとか、スカイブルーのリボンだとか、ボタンや金具が銀で統一されているところだとか。
用意してくれたのはとってもありがたい。
しかし、だ。デズモンドの俺にミラー家の色彩を着せるのはちょっと価値観が狂っているんじゃないだろうか。
広い部屋だ。デズモンド邸の私室よりも広いかもしれない。
深い青色と白でまとめられた調度品はどれも最上級の品質だ。棚に飾られた花瓶ひとつで小さな家を一軒買えてしまえるだろう。
クイーンサイズの天蓋付きベッド。サイドテーブルには水差しとコップ。
大きな窓はバルコニーへと繋がっているらしい。気怠い体を起こして、カーテンの隙間から光が差し込む窓辺へと近づいた。
「ぅ、まぶし……」
カーテンを開くと、白い光に目を焼かれる。あまりの眩しさに目元を手で覆い、バルコニーへ出るべく内鍵を外した。
ガチャン、とやけに大きく響いた音に肩を跳ねさせて、逡巡してから扉を開けた。
外から風が吹き込み、濃紺のカーテンが室内を舞う。
「う、わ……なんだ、これ」
外へ一歩踏み出して、広がる光景に目を見開いた。
青い、蒼い、一面の蒼い薔薇の花園。
まるで海の水面のように広がる美しい花々に見入ってしまう。
「綺麗でしょう?」
「っ、アデル……」
「僕もいますよ。おはようございます、お寝坊さん」
いつの間に部屋に入ってきたのか、両脇からするりと腰と手を取られた。
最後に見た時よりもずいぶんとラフな格好をしており、無事に彼らが攫ってくれたのだと実感する。きっと今頃、エインズワース邸も、デズモンド邸も大騒ぎだ。
「お前ら、薬か何かを混ぜたんだろう。そうじゃなきゃ、俺がこの時間まで起きれないはずがない」
「……デズモンドは、子供に薬の耐性を付けさせると聞いています。だから、いろいろと組み合わせたモノを用意したんですが効果がおかしくなってしまったみたいで」
そもそも薬を飲ませるんじゃないよ。いろいろ組み合わせたモノってなんだ。それでオーバードーズでも起こしたらどう責任取ってくれる。
――まさか、ノアにもしたんじゃないだろうな!?
顔色を変えた俺に、カインが慌てて首を横に振った。
「ノア君には何もしていません。貴方にだけです」
「……別に、逃げるつもりはないが」
「念には念を。貴方の意識がないほうが、誘拐っぽいでしょ?」
ぱちん、とウインクを飛ばしてきたカインに瞠目する。なんとなく、そういう事をするのはアデルだと思っていたから意外だった。
噂で聞いたことがあった。蒼い薔薇に囲まれた美しいミラー家の別邸がある、と。
『蒼薔薇の館』はアデルとカインが所有する私邸で、他の家族は滅多に来ない別邸だとか。なるほど、俺とノアを隠すのに持ってこいだ。
使用人も最低限で、街からも遠いため、外に出ても見られる可能性は低い。
「用意周到だな」
「そのための屋敷ですから」
「? ……どういう、」
「この屋敷は、貴方と暮らすために整えていたんです。……蒼い薔薇が好きだと仰っていたでしょう」
ぱち、ぱち、とまぶたの裏で記憶が火花を散らす。
壊れた馬車と、見目麗しい双子の兄弟。腕を広げて庇う俺はずいぶんと小さくて――。
「僕たちを見てください」
「思い出さなくていいんですよ」
「ぁ、」
あと少しで思い出せそうだったのに、邪魔をされてしまい開きかけてた記憶の棚が再び閉じてしまった。
脳裏に描かれた俺は今よりも随分と幼くて、今のノアよりも小さかったかもしれない。十歳よりも前となれば、外へ出る機会も限られていた。
今現在ですらマリアにすべてを握られているのに、それよりも酷かった頃だ。
起床から就寝まで。分単位でスケジュールを決められて、『俺』風に言うなら過干渉な毒親だった。
成長するにつれて、というよりもノアが生まれてからマリアの苛烈さは鳴りを潜めていった。――否、おそらくそれもノアの異能が作用していたんだろう。
母という無条件の愛を注いでくれるマリアを慕い、その結果『慈愛』は効果を発揮した。
「……ノアは? どうしてる?」
「ノア君なら、貴方よりも早く起きて身支度を済ませています。食事は兄上が起きてから一緒に食べる、と言うので今はメイド長が見ていてくれています」
「待たせてしまったのか、それじゃあ俺も早く準備をしないとだな」
「本人からアレルギーや好き嫌いを聞いて食事は用意させたんですが……柑橘類が食べられないというので、食後のデザートはフルーツタルトからプディングに変えたんですが、よろしかったですか?」
「プディングは、俺もノアも大好物だよ」
手を取られたまま部屋の中へと招かれる。いくら日差しがあるとはいえ、風邪を引いてしまいますから、と言う双子は俺を子供かなにかかと思っているんだろうか。
何度でも言うがお前らよりも年上なんだけど。
着替えよう、と着せられていたガウンに手をかけてから、そういえば着の身着のままでさらわれてきたのなら、荷物も着替えも何一つないのではないか?
困った顔で双子を見れば、カインが新品だろう衣服を持っており、アデルはそれに合わせた靴やアクセサリーを手にしていた。
「サイズはぴったりだと思います」
「着替えたら、テーブルの上のベルを鳴らしてください」
「お迎えにあがりますので、ゆっくり着替えて結構ですよ」
「貴方に待たされるのはなれていますから」
にっこり。
サイドテーブルにそれらを置いて、さっさと部屋を出ていってしまった双子に物申したい。
インディゴのヴェストだとか、スカイブルーのリボンだとか、ボタンや金具が銀で統一されているところだとか。
用意してくれたのはとってもありがたい。
しかし、だ。デズモンドの俺にミラー家の色彩を着せるのはちょっと価値観が狂っているんじゃないだろうか。
100
あなたにおすすめの小説
最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~
水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。
「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。
しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった!
「お前こそ俺の運命の番だ」
βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!?
勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
異世界転生してBL漫画描いてたら幼馴染に迫られた
はちも
BL
異世界転生した元腐男子の伯爵家三男。
病弱設定をうまく使って、半引きこもり生活を満喫中。
趣味と実益を兼ねて、こっそりBL漫画を描いていたら──
なぜか誠実一直線な爽やか騎士の幼馴染にバレた!?
「……おまえ、俺にこうされたいのか?」
そんなわけあるかーーーっ!!
描く側だったはずの自分が、いつの間にか翻弄される立場に。
腐男子貴族のオタ活ライフ、まさかのリアル発展型BLコメディ!
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる