【完結】脇役モブの悪役令息に転成したら、脇役モブの双子騎士にヤンデレられた。

白霧雪。

文字の大きさ
29 / 51
本編

27


「そうねぇ、あとは何かしら……マリアおば様を悲しませた罪とか?」

 ただ鞭を振るって俺を甚振りたいだけのイザベラは、もう罪を数えることもやめて、とってつけたような理由を口にする。
 罪の数が十を超えたあたりで立っていられず、四つん這いすらも体勢を保てなくなった俺を壁を向いた体勢で天井から伸びた手枷につなぎ、背中が真っ赤に腫れ、肉が裂けるまで力の限り鞭を振るう。

 もはや痛みすらも麻痺しつつあり、意識が朦朧とする。

「それじゃあ、サーシャちゃんを泣かせたこととか」

 まだ、続くのか。
 粘着質で終わりの見えない『躾け』に目を閉じて、次の衝撃に耐えようと体を強張らせた。

「――そこまでだ、姉上」

 足音も、気配も悟らせずに現れたアレクシアに、イザベラはわざとらしく驚きをあらわにする。

「……あら、アレクシアじゃない。今日は外に出ているんじゃなかったの?」
「討伐する予定だった魔物がすでに殺されていたんだ。それで、イザベラ姉上は、ノエルに何をしていたんだ?」
「無駄足だったのね。オツカレサマ。あたしはノエルちゃんのことを躾けていたのよ。姉兄あたしたちは道を間違えた妹弟ノエルちゃんを正しい道へと導いてあげないと。そうでしょう?」
「確かに、姉上の言う通りだ」

 賛同を得られたイザベラはさらに上機嫌になって声を上ずらせる。

「うふふ、アレクシアならわかってくれると思って、」
「だが、これはやりすぎだろう。躾けにも、限度がある」

 ミシリ、と掴んだ手首から軋む音が鳴る。
 大剣を片手で震えるアレクシアにしてみれば、イザベラの細腕など小枝と同然だった。

「ヒッ、い、ぁ、あ゛……!! い、いたいっ、いたいわっアレクシア! 折れてしまうから!! 離してちょうだい!!」

 バチンッ、と手首を返して振るった鞭によって手が離される。
 アレクシアの思想は『家族主義』
 父や母は敬うべき存在であり、姉兄は妹弟の手本となり、きょうだいを守らなくてはいけない。

 アレクシアは姉・イザベラの言うことには基本的に従うが、イザベラの行き過ぎた躾けは彼の琴線に引っかかる事項であったようだ。

「お前も!! いつか躾けてやるわよ!」

 フン、と鼻を鳴らして捨て台詞を吐いたイザベラが出ていくと、とたんに懲罰房の中が静まり返る。

 いたるところが裂け、腫れている俺の頭を労わるように優しく撫でた。妹弟を守るために俺はいるんだ、と豪語するこの男が、ためらわずに人を殺せる狂人だと知っている。
 罪悪感も抱かず、ただデズモンドの邪魔になる存在だったから殺しただけだ、と言う男だ。

 いくら俺が弟で、アレクシアの庇護下にあるとしても、俺はデズモンドを裏切っている。――血の裏切り者には死を。
 チャキ、と携えた剣の擦れる音がして、目隠しをされて、鎖につながれた俺は、剣を振りかぶられたら避ける術はない。

「痛いか?」
「……痛いに、決まってるだろ」

 ぷっ、と口内に溜まった血を吐き出した。

「俺が躾け役になるはずだったんだが、姉上に押し切られてしまったんだ。ノエル、何があったのか教えてくれ。そうすれば、反省したと父上に伝えてあげよう。いつまでもこんなところ、嫌だろう?」
「何を、教えろと。俺は何も知らないし、何も見ていないのだから、お前らに言うことなんてないな」

 鼻で笑い、口を噤んだ。何を言われようと、何をされようと、何一つ教えることなんてない。
 ノアの居場所も、アデルとカインのことも、決して口にすることはない。

「……そうか。人形みたいにおとなしくてかわいかった俺の弟ノエルにも、反抗期がきたんだな」
「ハ?」

 ゴツゴツした手が頭を撫でて、視界を閉ざしていた目隠しを取る。
 急に視界が明るくなり、白く明滅を繰り返して頭がクラクラした。ガシャン、と手首を吊るす枷が大きな音を立てて無理やり意識を覚醒させられる。

 グ、と眉間にシワを寄せ、目の前に立つアレクシアを見上げた。

 ニコニコと、何が楽しいのかわからない笑顔を浮かべている。
 彩度の低い金茶髪を後ろへと撫でつけてオールバックにし、血よりも濃い深紅の瞳は笑っているのに笑っていない。整った顔立ちだ。そこらへんの貴族に比べたら、ずっと見目秀麗だ。――ただし、中身が最悪。

 外着のままのアレクシアは帰宅してまっすぐに懲罰房へと来たのだろう。

 異能を封じる目隠しが取られた今なら視ることができる。目の前の男の未来を視ようとして――男の指が右の眼球に触れた。

「ぁあ゛ッ!?」

 粘膜を擦られる感触に激痛と気色悪さが走り、『先見』をするどころじゃない。
 ぐり、ぐり、ぐり、と反射で閉じようとする瞼を押さえつけられて、指の腹が眼球を撫でまわす。気色悪い、気持ち悪い、キモチワルイ!
 生理的に涙がポロポロと零れ落ちて、このまま抉られてしまうんじゃないかと、心臓が大きく音を立てて全身に脂汗をかいた。

「や、め……!」
「ハハッ、じょーだんだよ。お前の目が、あまりにもおいしそうな色をしているから」
「ッ……頭おかしいだろ……!」
「違うな。お前がお利巧すぎるだけなんだよ」

 涙の滲む視界で、アレクシアは口の端を釣り上げて嗤った。

 イザベラに続いてアレクシアの相手もしなければいけないだなんて、厄日に違いない。
 未だ痛む眼球を休ませるために、目を瞑った俺は瞼の裏に蒼薔薇の夢を見た。


感想 34

あなたにおすすめの小説

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。