窓際のリリィ

鴇葉

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君と夏

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夏の暑い日。
ジワジワと背中に汗が流れる気持ち悪さを拭うように、下敷きであおぐ。

昼休みが終わって、最初の授業は数学。
黒板に書かれた図形と、先生の説明が呪文のように右から左へと流れていく。
だんだんと眠くなってくるなか、ふと優しい風が吹く。

窓際の、前から3番目。
背中までの髪が風にふわりと揺れて、太陽の光に黒がキラキラと反射している。
黄金比のような横顔とゆるい輪郭に、まるで真っ白な花びらみたいだなと思う。

先生の声が遠く聞こえて、写真で切り取ったような美しさ。
大きな額縁にいれて飾りたいくらいだ。ああでも、手のひらサイズの写真でもいい。
私だけが眺めて、優越感に浸るようにそっと君の横顔をなぞる。
君以外が目に入らないくらい、私は君に目を奪われる。


少し強い風が吹いて、君は髪を抑える。
茶色の瞳を隠すようにふせられたまつげ。

本当に、綺麗だなぁ。


見つめるあまり、パチリと目が合ってしまった。
驚いて固まる私に、君はふわりと笑った。
顔が赤くなっていくのがわかって、慌てて目をそらし、うつむいた。
少しして顔を上げると、君はもう窓の外を見ていて。
その姿でさえ様になる。


手の届かない君に、憧れと独占欲が入り混じる。
話しかける勇気もないくせに、こっちを向いてほしいなんてわがまま。


チョークの音がうっすらと聞こえて、黒板に目をうつす。
ノートに文字を書きながら、やっぱり君のことを盗み見てしまう。

そうしてまた君と目が合って、またくすりと笑われて、私は顔を赤くした。
でも、少しだけ勇気を出して笑ってみると、君はそっと手を振ってくれた。

今日はいい日だ。

前を向いてしまった君の肩から落ちていく黒に、ああ、やっぱりと息がもれる。

夏の君は、今日も美しい。
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