4 / 4
第4話 魔物襲来!村を守る無能(?)の青年
しおりを挟む
村に戻る途中、曇天がどんどん厚みを増していった。森を抜ける風は湿って寒く、草木がざわざわと不気味に揺れている。リーナは心配そうに空を見上げた。
「これ、嵐ですか?」
「いや……違う。この風は生きてる。」
レオンは一歩立ち止まり、耳を澄ませた。空気の奥底に濁った魔力の渦がある。懐かしいようで、最も忌まわしい気配。それは確かに知っていた。勇者として召喚された直後、戦場で感じた“魔族の瘴気”だ。
胸の奥がきゅっと軋む。「まさか、あの時みたいに……。」
村の屋根が見えたその瞬間、遠くから悲鳴が聞こえた。
「きゃあああっ!魔物だああ!」
「武器を持て! 急げ!!」
砂煙を上げながら、畑の方角に黒い群れが押し寄せてくる。翼のない犬のような形をした魔獣たち。牙をむき出しにし、聖樹を狙うように走っていた。
「リーナ、後ろに下がれ!」
レオンは剣を引き抜き、疾風のように前へ出た。
村人たちは農具を手に必死に抵抗しているが、相手は数十匹。どう見ても素人では相手にならない。村長エドワードが声を枯らして叫んでいた。
「うろたえるな! 守るんじゃ、神樹を!」
レオンは最前線まで駆け抜け、盾の前に躍り出た。
一体の魔獣が村人を噛み殺そうと跳びかかる。
「させるかッ!」
反射的に剣を横に振り払うと、轟音と共に閃光が走った。
刃が白く爆ぜ、魔獣の体が灰となる。衝撃波が周囲を吹き飛ばし、土煙が上がった。
「な、なに今の……!?」
「レオンだ、レオンがやった!」
「すげぇ、魔物が一瞬で消えた!」
村人の歓声など耳に入らない。
レオンは次々と襲い来る魔獣を見据え、迫りくる牙に剣を突き立てる。光が弾け、二体、三体と薙ぎ払われていく。
まるで刃が意思を持ったかのように敵を見つけ、自動で追尾していく。聖剣などという高尚な品ではない。彼の古びた剣が、勝手に“世界の理”から力を吸っていた。
「レオンさん、後ろ!」
リーナの声に振り向くと、一際大きな影が迫ってきていた。狼よりも巨大で、背中に骨の翼を生やしている。赤い瞳がぎらりと光り、唸り声が響く。
「中級魔獣、デスファングか……!」
かつて勇者パーティで戦ったことがある。討伐には四人がかりでやっとだった。だが今はひとり。
それでも、体が勝手に前へ出る。
レオンは剣を握り直し、地を蹴った。
魔獣の爪が振り下ろされ、風が裂ける。ギリギリで横に回り込み、剣先を奴の脇腹に突き込む。
「おおおおっ!」
爆音と共に光が弾け、空間そのものが揺れた。
魔獣が断末魔を上げて砕け散り、粉塵となって消える。
その瞬間、村中の風が止まり、聖樹が煌々と輝き始めた。
「……終わった?」
そう呟いた瞬間、レオンの足元に魔法陣が浮かび上がる。
地に刻まれた黒い紋様、邪悪な気配が一気に立ち上がる。
「しまった、封印式か! やつら、群れじゃなく召喚だったのか!」
叫びながらリーナを見ると、彼女は村人たちを避難させようとしていた。が、すでに陣の一部が彼女の足元まで広がっている。
「リーナ、逃げろ!」
「動けない……!」
レオンは迷わず走った。魔法陣が発光し、闇の塊が一斉に飛び出す。
その中心で、彼はリーナを抱き寄せ、軽く跳躍した。
次の瞬間、眩い白光が爆ぜて爆風が一面を薙ぎ払う。
意識が戻ったとき、レオンは聖樹の根元に倒れていた。
リーナは腕の中にいて、気を失っているが無事だ。
周囲を見渡すと、黒い陣が真っ二つに割れ、焦げた地面が煙を上げている。
「……ギリギリ間に合ったか。」
立ち上がろうとした瞬間、聖樹の光がゆらぎ、声がするように風が鳴った。
“守りなさい、この地を。汝、選ばれしもの――”
頭の中に直接響いたその声に、レオンは目を見開いた。
「今の……聖樹の声?」
それとも幻聴か。わからない。ただ、あの一瞬の力が、以前よりはるかに強い。
カデルが駆けてくるのが見えた。鎧に泥をつけ、全身を震わせている。
「レオン……今の戦い、まさかひとりで?」
「まぁ、誰も間に合わなかったからな。」
「信じられん……。あれは王都でも討伐部隊が苦戦する相手だぞ。」
レオンは肩をすくめた。
「俺はただ、村を守っただけだ。それ以上でも以下でもない。」
「だが、これは報告せねばならん! 聖樹の加護は現実に存在する! 君こそ真の勇者だ!」
その言葉に、レオンは苦い笑いを浮かべた。
「勇者、ね。追放された人間を、今さら勇者って呼ぶのかよ。」
エドワードが村人たちを引き連れてやって来た。
「レオン、すまん。助かったよ……おぬしのおかげで誰一人死ななかった。」
「守れてよかった。」
リーナがゆっくりと目を開いた。
「レオンさん……ありがとう。」
「何言ってんだ。お互い様だろ。」
そう答えながらも、彼の胸の奥では強い違和感が残っていた。
あの魔法陣、王都で勇者召喚の儀を見たときと似ていた。ということは――。
「この襲撃、偶然じゃない。」
「なんだと?」カデルが目を細める。
「狙いは俺だ。あるいは聖樹ごと、“この村を”。」
沈黙が落ちる。
この辺境で、誰がそんな術式を扱えるのか。
カデルが呟いた。「まさか、魔王軍が動き始めたのか……?」
聖樹が再び風に鳴り、黄金の光を放った。
まるで答えるように、空を翔ける鳥たちが遠方へ飛び立っていく。
新たな運命が近づいているのを、レオンは肌で感じていた。
リーナがか細く言った。
「レオンさん……また戦うことになるんですか?」
「できりゃ避けたい。でも、俺が動かないと誰かが泣くなら……仕方ないな。」
そう言って、レオンは聖樹を見上げた。
その枝先で小さな金の果実が生まれ、柔らかく揺れている。
村は静けさを取り戻したが、夜風は次の嵐の気配を運んできていた。
(続く)
「これ、嵐ですか?」
「いや……違う。この風は生きてる。」
レオンは一歩立ち止まり、耳を澄ませた。空気の奥底に濁った魔力の渦がある。懐かしいようで、最も忌まわしい気配。それは確かに知っていた。勇者として召喚された直後、戦場で感じた“魔族の瘴気”だ。
胸の奥がきゅっと軋む。「まさか、あの時みたいに……。」
村の屋根が見えたその瞬間、遠くから悲鳴が聞こえた。
「きゃあああっ!魔物だああ!」
「武器を持て! 急げ!!」
砂煙を上げながら、畑の方角に黒い群れが押し寄せてくる。翼のない犬のような形をした魔獣たち。牙をむき出しにし、聖樹を狙うように走っていた。
「リーナ、後ろに下がれ!」
レオンは剣を引き抜き、疾風のように前へ出た。
村人たちは農具を手に必死に抵抗しているが、相手は数十匹。どう見ても素人では相手にならない。村長エドワードが声を枯らして叫んでいた。
「うろたえるな! 守るんじゃ、神樹を!」
レオンは最前線まで駆け抜け、盾の前に躍り出た。
一体の魔獣が村人を噛み殺そうと跳びかかる。
「させるかッ!」
反射的に剣を横に振り払うと、轟音と共に閃光が走った。
刃が白く爆ぜ、魔獣の体が灰となる。衝撃波が周囲を吹き飛ばし、土煙が上がった。
「な、なに今の……!?」
「レオンだ、レオンがやった!」
「すげぇ、魔物が一瞬で消えた!」
村人の歓声など耳に入らない。
レオンは次々と襲い来る魔獣を見据え、迫りくる牙に剣を突き立てる。光が弾け、二体、三体と薙ぎ払われていく。
まるで刃が意思を持ったかのように敵を見つけ、自動で追尾していく。聖剣などという高尚な品ではない。彼の古びた剣が、勝手に“世界の理”から力を吸っていた。
「レオンさん、後ろ!」
リーナの声に振り向くと、一際大きな影が迫ってきていた。狼よりも巨大で、背中に骨の翼を生やしている。赤い瞳がぎらりと光り、唸り声が響く。
「中級魔獣、デスファングか……!」
かつて勇者パーティで戦ったことがある。討伐には四人がかりでやっとだった。だが今はひとり。
それでも、体が勝手に前へ出る。
レオンは剣を握り直し、地を蹴った。
魔獣の爪が振り下ろされ、風が裂ける。ギリギリで横に回り込み、剣先を奴の脇腹に突き込む。
「おおおおっ!」
爆音と共に光が弾け、空間そのものが揺れた。
魔獣が断末魔を上げて砕け散り、粉塵となって消える。
その瞬間、村中の風が止まり、聖樹が煌々と輝き始めた。
「……終わった?」
そう呟いた瞬間、レオンの足元に魔法陣が浮かび上がる。
地に刻まれた黒い紋様、邪悪な気配が一気に立ち上がる。
「しまった、封印式か! やつら、群れじゃなく召喚だったのか!」
叫びながらリーナを見ると、彼女は村人たちを避難させようとしていた。が、すでに陣の一部が彼女の足元まで広がっている。
「リーナ、逃げろ!」
「動けない……!」
レオンは迷わず走った。魔法陣が発光し、闇の塊が一斉に飛び出す。
その中心で、彼はリーナを抱き寄せ、軽く跳躍した。
次の瞬間、眩い白光が爆ぜて爆風が一面を薙ぎ払う。
意識が戻ったとき、レオンは聖樹の根元に倒れていた。
リーナは腕の中にいて、気を失っているが無事だ。
周囲を見渡すと、黒い陣が真っ二つに割れ、焦げた地面が煙を上げている。
「……ギリギリ間に合ったか。」
立ち上がろうとした瞬間、聖樹の光がゆらぎ、声がするように風が鳴った。
“守りなさい、この地を。汝、選ばれしもの――”
頭の中に直接響いたその声に、レオンは目を見開いた。
「今の……聖樹の声?」
それとも幻聴か。わからない。ただ、あの一瞬の力が、以前よりはるかに強い。
カデルが駆けてくるのが見えた。鎧に泥をつけ、全身を震わせている。
「レオン……今の戦い、まさかひとりで?」
「まぁ、誰も間に合わなかったからな。」
「信じられん……。あれは王都でも討伐部隊が苦戦する相手だぞ。」
レオンは肩をすくめた。
「俺はただ、村を守っただけだ。それ以上でも以下でもない。」
「だが、これは報告せねばならん! 聖樹の加護は現実に存在する! 君こそ真の勇者だ!」
その言葉に、レオンは苦い笑いを浮かべた。
「勇者、ね。追放された人間を、今さら勇者って呼ぶのかよ。」
エドワードが村人たちを引き連れてやって来た。
「レオン、すまん。助かったよ……おぬしのおかげで誰一人死ななかった。」
「守れてよかった。」
リーナがゆっくりと目を開いた。
「レオンさん……ありがとう。」
「何言ってんだ。お互い様だろ。」
そう答えながらも、彼の胸の奥では強い違和感が残っていた。
あの魔法陣、王都で勇者召喚の儀を見たときと似ていた。ということは――。
「この襲撃、偶然じゃない。」
「なんだと?」カデルが目を細める。
「狙いは俺だ。あるいは聖樹ごと、“この村を”。」
沈黙が落ちる。
この辺境で、誰がそんな術式を扱えるのか。
カデルが呟いた。「まさか、魔王軍が動き始めたのか……?」
聖樹が再び風に鳴り、黄金の光を放った。
まるで答えるように、空を翔ける鳥たちが遠方へ飛び立っていく。
新たな運命が近づいているのを、レオンは肌で感じていた。
リーナがか細く言った。
「レオンさん……また戦うことになるんですか?」
「できりゃ避けたい。でも、俺が動かないと誰かが泣くなら……仕方ないな。」
そう言って、レオンは聖樹を見上げた。
その枝先で小さな金の果実が生まれ、柔らかく揺れている。
村は静けさを取り戻したが、夜風は次の嵐の気配を運んできていた。
(続く)
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
追放された村人、実は世界最強でした~勇者パーティーを救ったら全員土下座してきた件~
fuwamofu
ファンタジー
村で地味に暮らしていた青年アレンは、勇者パーティーの雑用係として異世界冒険に出るが、些細な事故をきっかけに追放されてしまう。だが彼の真の力は、世界の理に触れる“創造の権能”。
追放後、彼は優しき女神や獣娘、元敵国の姫たちと出会い、知らぬ間に国を救い、人々から崇められていく。
己の力に無自覚なまま、やがてアレンは世界最強の存在として伝説となる。
仲間たちに裏切られた過去を越え、彼は「本当の仲間」と共に、新たな世界の頂点へと歩む。
──これは、すべての「追放ざまぁ」を極めた男の、無自覚な英雄譚。
追放された錬金術師は知らぬ間に神話級、気づけば王女と聖女と竜姫に囲まれていた件
fuwamofu
ファンタジー
錬金術師アレンは、勇者パーティから「足手まとい」として追放された──。
だが彼が作っていた薬と装備は、実は神すら凌駕する代物だった。
森で静かにスローライフ……のはずが、いつの間にか王女・聖女・竜姫に囲まれ、世界の命運を任されていた!?
無自覚に最強で無自覚にモテまくる、ざまぁたっぷりの異世界成り上がりファンタジー。
気づいたときには、全ての強者が彼の足元にひれ伏していた。
転生したら追放された雑用スキルで世界最強になっていた件~無自覚に救国してハーレム王になった元落ちこぼれの俺~
fuwamofu
ファンタジー
冒険者ギルドで「雑用」スキルしか持たなかった青年・カイ。仲間から無能扱いされ、あげく追放された彼は、偶然開花したスキルの真の力で世界の理を揺るがす存在となる。モンスターを従え、王女に慕われ、美少女賢者や女騎士まで惹かれていく。だが彼自身はそれにまるで気付かず、ただ「役に立ちたい」と願うだけ――やがて神々すら震える無自覚最強の伝説が幕を開ける。
追放者、覚醒、ざまぁ、そしてハーレム。読後スカッとする異世界成り上がり譚!
最弱だと追放された俺、実は神々の加護持ちでした 〜知らぬ間に世界最強になってた俺を今さら呼び戻そうとしてももう遅い〜
fuwamofu
ファンタジー
最弱だと追放された俺、実は神々の加護持ちでした 〜知らぬ間に世界最強になってた俺を今さら呼び戻そうとしてももう遅い〜
謎の最強師匠に弟子入りしたけれど、本当にこの師匠は何者なのだろう~最強を目指す少年が、謎の強すぎる師匠に弟子入りする話~
星上みかん(嬉野K)
ファンタジー
この作品は、
【カクヨム(完結済み)】
【ノベルアップ+】
【アルファポリス】
に投稿しております。
最強を目指す少年エトワールが町に行き着くと、メル・キュールという女性と出会う。
メルが道場主らしいという情報を仕入れたエトワールは、弟子入りを決意する。
それにしても、この師匠強すぎない?
タフなことだけが取り柄の少年が最強を目指すお話。
勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。
そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。
しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。
そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。
外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。
絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。
辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。
一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」
これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!
出向先は、剣と魔法と人事部でした 〜評価されなかった社会人の異世界改革〜
怪獣姫
ファンタジー
現実の会社で評価されず、
それでも真面目に働き続けていた三十歳の会社員・伊勢海人。
彼に下された辞令は――
異世界への「出向」だった。
魔法はあるが、文明は未成熟。
回復草は潰れ、道具は使いづらい。
評価されなかった男は、
異世界で“人事向き”の仕事を始める。
これは、剣と魔法の世界で
裏方から信頼を積み上げていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる