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第1話 追放された「役立たず」
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曇り空の下、石畳の広場にて、俺は仲間たちの前に立たされていた。
冒険者ギルド《白鷹の牙》の仲間たち。彼らはかつて共に命を懸けて戦った仲間——のはずだった。
だが、今その中で俺に向けられているのは、軽蔑と嘲笑の視線だけだ。
「リオ、お前は……今日限りでパーティーから追放だ」
リーダーのガイルがそう言って、俺の視線を正面から押し返してくる。
筋骨隆々の体。勇者の称号を持つ彼には、周囲の冒険者たちも一目を置いていた。
俺はゆっくりと息を吐く。
「理由を、聞いてもいいか?」
「理由? わかりきってるだろ。お前は“役立たず”だからだ」
ガイルのその一言で、ざわりと周囲の空気が歪んだ。
彼の隣に立つ女魔法使い——エリーナが、高慢に口角を上げた。
「リオのスキル《創造》、そんな地味な能力、戦闘じゃ何の役にも立たないわ。せいぜい矢じりでも作る程度でしょ?」
その言葉に、他の仲間たちも同調するように肩をすくめる。
「俺らには戦える仲間が必要なんだよ。後ろで道具叩いてる奴なんて、足手まといだ」
「そうそう、せめてヒーラーならまだ使えたのにな」
俺は両手を見つめた。
確かに俺のスキル《創造》は、攻撃でも回復でもない。物質を生み出すだけの力。
たしかに地味だ。戦闘中に役立てることは、今までできなかった。
だけど——。
「……わかった。出て行くよ」
俺は短くそう告げると、ガイルの横をすり抜けようとした。
彼の剣の鞘が、俺の肩に軽く当たる。
「お情けで今まで連れてやったんだ。感謝くらいしとけよ」
笑い声が広場を満たす。
その視線を背に、俺は振り返らずに歩き出した。
***
ギルドを去った後、俺は町外れの森へ足を運んだ。
冒険者登録証だけが、腰の袋の中で重い。
金も装備も、宿代さえ残っていない。
それでも胸の奥には、不思議な軽さがあった。
誰かに命令されることも、侮辱されることもない。
自由——というやつかもしれない。
森の中を抜け、焚き火を起こした。
周囲には誰もいない静寂。風の音、木々のざわめき、土の匂い。
俺は掌を見つめ、そっとつぶやいた。
「《創造》……起動」
空気が震える。光が舞い、掌に黒鉄のナイフが現れた。
見た目はただの凡庸な刃だ。だが、これは俺が想像して作り出したものだ。
何でも“想像した通り”に創り出せる。それが、このスキルの本質。
けれど、冒険者訓練では一度も扱い方を教えられなかった。
誰も気づいていなかったのだ、これが“ただの鍛冶スキル”ではないことに。
俺は苦笑した。
「本当に……地味だよな」
だが、腹は減る。地味でも、狩りをして食わなければ死ぬ。
そのときだった。
茂みの奥から、悲鳴が聞こえた。
「誰かっ……助けて!」
即座に立ち上がり、音のする方へ走る。
倒木を飛び越えた先に、少女がいた。金髪のケモミミを持つ、獣人族の少女。
森狼に囲まれている。牙を剥いた三匹が一斉に跳びかかる。
思考より先に体が動いた。
「創造——《鉄壁の盾》!」
閃光とともに、俺の前に黒鉄の壁が出現する。
狼たちが牙を立てた瞬間、金属の音が響き、全てが弾き返された。
少女の目が、驚愕と共に見開かれる。
俺は続けて、再びスキルを解放した。
「《炎の槍》!」
今度は、俺の想像した“炎を纏う魔槍”が形を取る。
瞬間的な閃光——槍が狼を貫き、炎がまるで意志を持ったように燃え上がる。
嘘だろ……。俺は思わず息を呑む。
武器を創るスキルのはずなのに、魔法のような現象まで起きている。
残りの狼は怯えて逃げ去った。
少女が腰を抜かしたまま、震える声で言った。
「……あなた、何者ですか?」
俺は苦笑して、手を差し出す。
「ただの、追放された冒険者さ」
少女はその手を躊躇いがちに取った。
白く柔らかな手だった。
「……助けてくださって、ありがとうございます。わ、私はリリア。森の村の護人です」
「俺はリオ。あんたの村、ここから近いのか?」
「はい。でも、魔獣が急に増えて……村ももう、危ないかもしれません」
俺の中に、奇妙な引っかかりが走る。
魔獣の増加。森を蝕む黒い霧。ギルドでも最近噂になっていた現象。
リリアが不安げに俺を見上げた。
「リオさん……助けてくれませんか?」
頼られるなんて、久しぶりだった。
俺はゆっくりと頷いた。
「いいよ。少しは役に立ってみたいからな」
***
森を抜けた先にあった村は、小さく静かな集落だった。
木造の家が並び、子どもたちの笑い声が消えている。
村長がリリアの後ろから出てきて、俺に深く頭を下げた。
「旅人殿。お嬢を救ってくださったとか。どうか、お力を貸してください」
「何が起きている?」
「黒い霧に包まれ、魔獣が狂暴化しております。結界も保ちません。村人たちは避難の準備を……」
話の途中、村の外から地響きが聞こえた。
リリアが叫ぶ。
「来たっ! 大魔獣オルグベアです!」
見ると、七メートルはありそうな巨体が木々を押し潰しながら迫ってくる。
皮膚は鋼のように硬く、爪は岩をも砕く鋭さだ。
俺の足が自然に前へ出た。
ガイルの言葉が脳裏で反響する——
「お前は足手まといだ」
——いや、違う。
俺は、俺のやり方で戦う。
「《創造》——《巨鎚ヴァルドリア》!」
轟音。大地を裂き、空が震えた。
俺の手に現れたのは、片手では持てぬほどの巨大な黒鉄の戦鎚。
オルグベアが咆哮を上げ、突進してくる。
俺は地を踏み締め、全力で振り下ろした。
衝突と同時に地面が crater のように抉れ、魔獣の巨体が崩れ落ちた。
村人たちが息を呑み、リリアが震える声で呟く。
「た、倒した……本当に……一撃で……」
俺はハンマーを見下ろす。
想像した通りの力を持つ武具——いや、それ以上。
《創造》の力は、俺が思っていたよりもずっと桁外れだったのだ。
リリアが駆け寄ってきて、驚いたように俺を見つめる。
「リオさん、あなたは……一体、何者なんです?」
俺は少し迷ってから、笑った。
「ただの“役立たず”だよ。だけど、少しだけ頑張ってみたくなったんだ」
その夜、村では人々が焚き火を囲んで俺の名を語っていた。
“名無しの英雄”。
そんな呼び名が、知らぬ間に広がりはじめる。
(第1話 終)
冒険者ギルド《白鷹の牙》の仲間たち。彼らはかつて共に命を懸けて戦った仲間——のはずだった。
だが、今その中で俺に向けられているのは、軽蔑と嘲笑の視線だけだ。
「リオ、お前は……今日限りでパーティーから追放だ」
リーダーのガイルがそう言って、俺の視線を正面から押し返してくる。
筋骨隆々の体。勇者の称号を持つ彼には、周囲の冒険者たちも一目を置いていた。
俺はゆっくりと息を吐く。
「理由を、聞いてもいいか?」
「理由? わかりきってるだろ。お前は“役立たず”だからだ」
ガイルのその一言で、ざわりと周囲の空気が歪んだ。
彼の隣に立つ女魔法使い——エリーナが、高慢に口角を上げた。
「リオのスキル《創造》、そんな地味な能力、戦闘じゃ何の役にも立たないわ。せいぜい矢じりでも作る程度でしょ?」
その言葉に、他の仲間たちも同調するように肩をすくめる。
「俺らには戦える仲間が必要なんだよ。後ろで道具叩いてる奴なんて、足手まといだ」
「そうそう、せめてヒーラーならまだ使えたのにな」
俺は両手を見つめた。
確かに俺のスキル《創造》は、攻撃でも回復でもない。物質を生み出すだけの力。
たしかに地味だ。戦闘中に役立てることは、今までできなかった。
だけど——。
「……わかった。出て行くよ」
俺は短くそう告げると、ガイルの横をすり抜けようとした。
彼の剣の鞘が、俺の肩に軽く当たる。
「お情けで今まで連れてやったんだ。感謝くらいしとけよ」
笑い声が広場を満たす。
その視線を背に、俺は振り返らずに歩き出した。
***
ギルドを去った後、俺は町外れの森へ足を運んだ。
冒険者登録証だけが、腰の袋の中で重い。
金も装備も、宿代さえ残っていない。
それでも胸の奥には、不思議な軽さがあった。
誰かに命令されることも、侮辱されることもない。
自由——というやつかもしれない。
森の中を抜け、焚き火を起こした。
周囲には誰もいない静寂。風の音、木々のざわめき、土の匂い。
俺は掌を見つめ、そっとつぶやいた。
「《創造》……起動」
空気が震える。光が舞い、掌に黒鉄のナイフが現れた。
見た目はただの凡庸な刃だ。だが、これは俺が想像して作り出したものだ。
何でも“想像した通り”に創り出せる。それが、このスキルの本質。
けれど、冒険者訓練では一度も扱い方を教えられなかった。
誰も気づいていなかったのだ、これが“ただの鍛冶スキル”ではないことに。
俺は苦笑した。
「本当に……地味だよな」
だが、腹は減る。地味でも、狩りをして食わなければ死ぬ。
そのときだった。
茂みの奥から、悲鳴が聞こえた。
「誰かっ……助けて!」
即座に立ち上がり、音のする方へ走る。
倒木を飛び越えた先に、少女がいた。金髪のケモミミを持つ、獣人族の少女。
森狼に囲まれている。牙を剥いた三匹が一斉に跳びかかる。
思考より先に体が動いた。
「創造——《鉄壁の盾》!」
閃光とともに、俺の前に黒鉄の壁が出現する。
狼たちが牙を立てた瞬間、金属の音が響き、全てが弾き返された。
少女の目が、驚愕と共に見開かれる。
俺は続けて、再びスキルを解放した。
「《炎の槍》!」
今度は、俺の想像した“炎を纏う魔槍”が形を取る。
瞬間的な閃光——槍が狼を貫き、炎がまるで意志を持ったように燃え上がる。
嘘だろ……。俺は思わず息を呑む。
武器を創るスキルのはずなのに、魔法のような現象まで起きている。
残りの狼は怯えて逃げ去った。
少女が腰を抜かしたまま、震える声で言った。
「……あなた、何者ですか?」
俺は苦笑して、手を差し出す。
「ただの、追放された冒険者さ」
少女はその手を躊躇いがちに取った。
白く柔らかな手だった。
「……助けてくださって、ありがとうございます。わ、私はリリア。森の村の護人です」
「俺はリオ。あんたの村、ここから近いのか?」
「はい。でも、魔獣が急に増えて……村ももう、危ないかもしれません」
俺の中に、奇妙な引っかかりが走る。
魔獣の増加。森を蝕む黒い霧。ギルドでも最近噂になっていた現象。
リリアが不安げに俺を見上げた。
「リオさん……助けてくれませんか?」
頼られるなんて、久しぶりだった。
俺はゆっくりと頷いた。
「いいよ。少しは役に立ってみたいからな」
***
森を抜けた先にあった村は、小さく静かな集落だった。
木造の家が並び、子どもたちの笑い声が消えている。
村長がリリアの後ろから出てきて、俺に深く頭を下げた。
「旅人殿。お嬢を救ってくださったとか。どうか、お力を貸してください」
「何が起きている?」
「黒い霧に包まれ、魔獣が狂暴化しております。結界も保ちません。村人たちは避難の準備を……」
話の途中、村の外から地響きが聞こえた。
リリアが叫ぶ。
「来たっ! 大魔獣オルグベアです!」
見ると、七メートルはありそうな巨体が木々を押し潰しながら迫ってくる。
皮膚は鋼のように硬く、爪は岩をも砕く鋭さだ。
俺の足が自然に前へ出た。
ガイルの言葉が脳裏で反響する——
「お前は足手まといだ」
——いや、違う。
俺は、俺のやり方で戦う。
「《創造》——《巨鎚ヴァルドリア》!」
轟音。大地を裂き、空が震えた。
俺の手に現れたのは、片手では持てぬほどの巨大な黒鉄の戦鎚。
オルグベアが咆哮を上げ、突進してくる。
俺は地を踏み締め、全力で振り下ろした。
衝突と同時に地面が crater のように抉れ、魔獣の巨体が崩れ落ちた。
村人たちが息を呑み、リリアが震える声で呟く。
「た、倒した……本当に……一撃で……」
俺はハンマーを見下ろす。
想像した通りの力を持つ武具——いや、それ以上。
《創造》の力は、俺が思っていたよりもずっと桁外れだったのだ。
リリアが駆け寄ってきて、驚いたように俺を見つめる。
「リオさん、あなたは……一体、何者なんです?」
俺は少し迷ってから、笑った。
「ただの“役立たず”だよ。だけど、少しだけ頑張ってみたくなったんだ」
その夜、村では人々が焚き火を囲んで俺の名を語っていた。
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