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第1話 追放された「無能」
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「アルト、お前は今日限りでパーティから外れてもらう」
冷たい声が、仲間たちの間に響いた。
勇者レオンの言葉に、一瞬言葉を失った俺は、ただ黙って彼の顔を見つめることしかできなかった。
焚き火の火がパチパチと弾ける音だけが、やけに耳に残る。
「……どうしてだよ、レオン。俺、ちゃんと役に立とうと――」
「何を言ってる? お前のスキルは“無効化”だろ? そんなもの、戦いでどう使えるっていうんだ?」
レオンの隣に立つ僧侶のエリナが、あからさまに鼻で笑った。
金の髪に神官服をまとい、いつも清楚ぶっていたエリナ。その口調は今までで一番冷たかった。
「むしろ迷惑だったわ。あなたがいると、みんなの強化魔法が無意味になるの。こっちの魔力が無駄になるのよ」
「……そんな、俺は……」
喉の奥が焼けるように痛い。
何度も、努力した。
才能がなくてもできることを探そうとして。
でも結局、誰にも認められなかった。
後方で弓を構えていた狩人リオも、面倒くさそうに言葉をつなぐ。
「悪いな、アルト。正直、レオンも我慢してたんだぞ。お前がいなけりゃ経験値もうまく回るしな」
……そういうことか。
必要とされていたと思っていたのは勘違いだった。
俺はただの足手まとい。邪魔者。
勇者として選ばれたレオン、女神の加護を受けた僧侶エリナ、俊敏なる狩人リオ、そして天才魔導士セシリア。
彼らの中に、俺なんか最初から居場所はなかったのかもしれない。
「よし、決まりだ。アルト、お前にはこの金貨十枚をやる。これで好きに生きろ」
レオンが投げよこした革袋は、俺の足元に重く落ちた。ガチャ、と鈍い音がする。
俺はそれを拾わず、ただ一歩、焚き火の光から離れた。
「……今まで世話になった」
それだけ言って、俺は夜の森の中へ歩き出した。
背後から、エリナの馬鹿にした笑い声が聞こえる。
「無能が消えて清々するわね!」
「せいぜい盗賊にでも気をつけることだな!」
笑い声が遠ざかる。代わりに、冷たい夜風と虫の音だけが辺りを包んだ。
……寂しさも、悔しさも、込み上げてくる。
けれど涙は不思議と出なかった。
心のどこかで、もう誰にも期待していなかったのかもしれない。
村を追い出され、パーティも追放された俺に残ったのは、“無効化”というスキルだけ。
触れたものの効果を消す。それだけの、地味で、誰の役にも立たない力。そう思っていた。
夜が明けるころ、森の奥、古い木の根元で俺は倒れていた。
全身に疲労が溜まり、体は冷え切っている。
意識が薄れかけたとき、頭の奥で何かが響いた。
――選ばれし者よ、ようやく見つけた。
……誰だ? 声? 頭の中に直接……。
――お前の“無効化”は、神ですら干渉できない絶対権能。
――それは拒絶の加護。あらゆる理を打ち消す“神の盾”。
……何を言ってる。俺のスキルは、地味な……。
――否。“無効化”は全スキルの頂点。使う者の器が足りぬだけ。
――そして、お前にはもう一つの権能が眠っている。“複製”。
目の前に光が生まれた。
それはやがて人の形を取る。白い衣をまとった女性。まるで神話の女神のような存在。
「あなたは……誰……?」
「私は“始まりの神”リーゼ。お前の魂を見守っていた者」
リーゼと名乗る女神は、優しく手を差し伸べた。
俺の胸に光が走り、眠っていた何かが目覚めるような感覚が押し寄せる。
「アルト。お前の力は、神々の試練によって封じられていた。しかし今、解放の時が来た」
「そんな……俺は“無能”なんかじゃなかったってこと……?」
「そう。お前は神と同等の力を持つ唯一の人間。だが、その力ゆえに恐れられ、封印された」
笑うしかなかった。
あの勇者たちは、俺をただの足手まといだと思っていた。
でも実際は、“世界の理を無効にする存在”だったとはな。
「ただし、力には代償がある。お前がその力を使えば、この世界の均衡は崩れる」
「俺は……どうすればいい?」
「お前の心に従えばいい。憎むも、救うも、自由だ」
眩い光が俺の体を包む。
気づけば女神の姿は消え、辺りには森の静寂だけが戻っていた。
だが胸の奥には確かに感じる――暴風にも似た、圧倒的な力のうねり。
手を伸ばすと、そこに剣が現れた。
木の枝を削っていたわけでもない。思っただけで現れたそれは、なぜか見覚えのある形だった。
「これ……レオンの剣?」
光の中、俺は複製した。見ただけで、思い浮かべただけで。
神具すら再現できる――それが“複製”の力。
試しに剣を振ると、空気が裂け、瞬間、周囲の木々が風圧で薙ぎ倒された。
その一撃に、俺はただ唖然とした。
「これが……俺の力……」
無能だと笑われ、捨てられた俺が、今や神をも凌駕する存在。
皮肉にも、追放されたことで真の力に目覚めた。
腹の底から笑いが込み上げた。
それは復讐の決意でもあり、自由を得た喜びでもあった。
「レオン、エリナ、リオ、セシリア……見ていろよ。俺はもう、誰にも“無能”なんて言わせねぇ」
吹き抜ける風が、どこか祝福のように感じた。
俺の、真の物語がここから始まる。
(第1話 終)
冷たい声が、仲間たちの間に響いた。
勇者レオンの言葉に、一瞬言葉を失った俺は、ただ黙って彼の顔を見つめることしかできなかった。
焚き火の火がパチパチと弾ける音だけが、やけに耳に残る。
「……どうしてだよ、レオン。俺、ちゃんと役に立とうと――」
「何を言ってる? お前のスキルは“無効化”だろ? そんなもの、戦いでどう使えるっていうんだ?」
レオンの隣に立つ僧侶のエリナが、あからさまに鼻で笑った。
金の髪に神官服をまとい、いつも清楚ぶっていたエリナ。その口調は今までで一番冷たかった。
「むしろ迷惑だったわ。あなたがいると、みんなの強化魔法が無意味になるの。こっちの魔力が無駄になるのよ」
「……そんな、俺は……」
喉の奥が焼けるように痛い。
何度も、努力した。
才能がなくてもできることを探そうとして。
でも結局、誰にも認められなかった。
後方で弓を構えていた狩人リオも、面倒くさそうに言葉をつなぐ。
「悪いな、アルト。正直、レオンも我慢してたんだぞ。お前がいなけりゃ経験値もうまく回るしな」
……そういうことか。
必要とされていたと思っていたのは勘違いだった。
俺はただの足手まとい。邪魔者。
勇者として選ばれたレオン、女神の加護を受けた僧侶エリナ、俊敏なる狩人リオ、そして天才魔導士セシリア。
彼らの中に、俺なんか最初から居場所はなかったのかもしれない。
「よし、決まりだ。アルト、お前にはこの金貨十枚をやる。これで好きに生きろ」
レオンが投げよこした革袋は、俺の足元に重く落ちた。ガチャ、と鈍い音がする。
俺はそれを拾わず、ただ一歩、焚き火の光から離れた。
「……今まで世話になった」
それだけ言って、俺は夜の森の中へ歩き出した。
背後から、エリナの馬鹿にした笑い声が聞こえる。
「無能が消えて清々するわね!」
「せいぜい盗賊にでも気をつけることだな!」
笑い声が遠ざかる。代わりに、冷たい夜風と虫の音だけが辺りを包んだ。
……寂しさも、悔しさも、込み上げてくる。
けれど涙は不思議と出なかった。
心のどこかで、もう誰にも期待していなかったのかもしれない。
村を追い出され、パーティも追放された俺に残ったのは、“無効化”というスキルだけ。
触れたものの効果を消す。それだけの、地味で、誰の役にも立たない力。そう思っていた。
夜が明けるころ、森の奥、古い木の根元で俺は倒れていた。
全身に疲労が溜まり、体は冷え切っている。
意識が薄れかけたとき、頭の奥で何かが響いた。
――選ばれし者よ、ようやく見つけた。
……誰だ? 声? 頭の中に直接……。
――お前の“無効化”は、神ですら干渉できない絶対権能。
――それは拒絶の加護。あらゆる理を打ち消す“神の盾”。
……何を言ってる。俺のスキルは、地味な……。
――否。“無効化”は全スキルの頂点。使う者の器が足りぬだけ。
――そして、お前にはもう一つの権能が眠っている。“複製”。
目の前に光が生まれた。
それはやがて人の形を取る。白い衣をまとった女性。まるで神話の女神のような存在。
「あなたは……誰……?」
「私は“始まりの神”リーゼ。お前の魂を見守っていた者」
リーゼと名乗る女神は、優しく手を差し伸べた。
俺の胸に光が走り、眠っていた何かが目覚めるような感覚が押し寄せる。
「アルト。お前の力は、神々の試練によって封じられていた。しかし今、解放の時が来た」
「そんな……俺は“無能”なんかじゃなかったってこと……?」
「そう。お前は神と同等の力を持つ唯一の人間。だが、その力ゆえに恐れられ、封印された」
笑うしかなかった。
あの勇者たちは、俺をただの足手まといだと思っていた。
でも実際は、“世界の理を無効にする存在”だったとはな。
「ただし、力には代償がある。お前がその力を使えば、この世界の均衡は崩れる」
「俺は……どうすればいい?」
「お前の心に従えばいい。憎むも、救うも、自由だ」
眩い光が俺の体を包む。
気づけば女神の姿は消え、辺りには森の静寂だけが戻っていた。
だが胸の奥には確かに感じる――暴風にも似た、圧倒的な力のうねり。
手を伸ばすと、そこに剣が現れた。
木の枝を削っていたわけでもない。思っただけで現れたそれは、なぜか見覚えのある形だった。
「これ……レオンの剣?」
光の中、俺は複製した。見ただけで、思い浮かべただけで。
神具すら再現できる――それが“複製”の力。
試しに剣を振ると、空気が裂け、瞬間、周囲の木々が風圧で薙ぎ倒された。
その一撃に、俺はただ唖然とした。
「これが……俺の力……」
無能だと笑われ、捨てられた俺が、今や神をも凌駕する存在。
皮肉にも、追放されたことで真の力に目覚めた。
腹の底から笑いが込み上げた。
それは復讐の決意でもあり、自由を得た喜びでもあった。
「レオン、エリナ、リオ、セシリア……見ていろよ。俺はもう、誰にも“無能”なんて言わせねぇ」
吹き抜ける風が、どこか祝福のように感じた。
俺の、真の物語がここから始まる。
(第1話 終)
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