上 下
28 / 54

1-27 レベルアップと異常な数値

しおりを挟む
 その後何度もゴブリンと対峙した。しかしいくら恐怖を抑え込もうとも、それで僕の戦闘能力が爆発的に上がる訳でもなんでもない。

 ただそれでも、挑んではリセアさんに助けてもらい、挑んでは助けてもらいを繰り返していくことで、徐々にゴブリンの思考や攻撃のクセといえばいいのか、そういうものがわかるようになってきた。

 その影響だろうか、7度目の戦闘で僕はついにゴブリンの攻撃を避け、こちらの剣で切りつけることができた。

 ……よし!

 だがその喜びも束の間、その痛みによってか、ゴブリンは適当に剣を振り回し始めた。それを予見できなかった僕は、その剣で切り付けられそうになり──しかしすんでのところで間に入ったリセアさんがそれを受け止め、そのまま一撃でゴブリンを屠ってしまった。

「……はぁ……はぁ」

 緊張やら疲れやらで、肩で息をする僕。そんな僕へ、リセアさんは小さく笑みを向けてくれる。

「惜しかったな」

「はい、あと少しでした。でも──」

 体感ではあるが、おそらく開始からおよそ2時間以上経過してしまっている。それなのにも関わらず、現状一つの成果もあげられていない。

「……すみません、お忙しいのに」

「いんだよ、気にすんな。さっきも言ったけど、ソースケのレベルアップはあたしのためにもなるんだから」

 そう言った後、一拍置いてリセアさんはさらに言葉を続けた。

「それに……これはある意味恩返しの機会でもあるからな」

「……恩返し?」

「そ。過去に囚われていたあたしを救い出してくれたことへのな」

「そんな大層なことは──」

「してくれたぞ。ソースケにとってはたった1時間の些細なことなのかもしれねぇが、少なくともあたしはあんたのマッサージで救われた」

 一拍置き、再度口を開く。

「そのお返しになんかできねぇかと考えたけど、あいにくあたしには戦うことしかできなくてな。だからソースケから付き添いを頼まれて、正直助かった。これで役に立てるってな」

「リセアさん……」

「だからどんなに時間がかかろうとなんも気にすんな。最後まで面倒見てやるからよ」

 言ってニッと笑うリセアさん。

 ……その仄暗いものなど1つもない笑顔に思わず見惚れてしまったのは、ここだけの内緒である。

 ◇

 いったいあれからどのくらいの時間が経過したのだろうか。辺りが少しだけ薄暗くなってきたことを考えれば、もうあと1時間かそこらで陽が沈むころか。

 とにかくそれだけの時間を費やし、リセアさんのサポートをたくさん受け、僕は計3体のゴブリンを倒すことに成功した。

 そして3体目を討伐した瞬間、僕の全身を何やら暖かいものが包み込むような感覚と共に、これまでの疲れなど吹き飛ぶほどに力が湧き上がってきた。

「……リセアさん、多分」

「確認してみな」

「はい!」

 言葉の後、僕はステータスと念じた。瞬間、いつものように浮かび上がるホログラム。

 ==============================

 ソースケ 28歳 Lv. 2

 体力 7
 魔力 28
 攻撃 4
 防御 5

【スキル】
 『エステ Ⅰ』

 ==============================

「おお! レベルが上がってます! 上がってますよリセアさん!」

「やったな!」

「はい! あ、見ます?」

「いや、ダメだろ。そんな簡単に見せちゃ」

「リセアさんのおかげでレベルアップしましたし、何よりも信頼してますから!」

「……そ、そうか? じゃあ──」

 言葉と共にリセアさんが僕のステータスを覗く。そして上からスーッと視線を動かしていくのだが……どういう訳か、その内の一点を見つめたまま硬直してしまった。

「リ、リセアさん?」

 ……『言語理解』は見えないようにしているから、そんなおかしな所はないはずだけど。

 心の内でそう考えていると、リセアさんがステータスボードをじっと見つめたままこちらに問うてきた。

「ソースケ。あんたレベル1の時のステータスは?」

「えっと、確か上から5、4、2、3だった──」

「4……4? 今は28? つまりプラス24? 合わせて……30?」

 リセアさんは呆然と呟くようにそう声を上げた後、ステータスボードへ向けていた視線をグリンッと急にこちらへと向けると、ガッチリと僕の両肩に手を置いてくる。そして鬼気迫るような凄まじい表情で口を開いた。

「ソースケ」

「は、はい」

「今後気軽にステータスを見せるのはやめとけ」

「それはどういう……」

「これ見ろ」

 言葉と共に、彼女はステータスをこちらへと見せてくる。

「えっ、僕は」

「いいから」

「じゃ、じゃあ……」

 僕は目前のリセアさんのステータスボードへと目を通す。

 ==============================

 リセア 27歳 Lv. 42

 体力 336
 魔力 167
 攻撃 334
 防御 85

【スキル】
 『大剣術 Ⅵ』
 『火魔法 Ⅲ』

 ==============================

「どうだ?」

「いや、リセアさんが強すぎるってことしか──」

 ここで僕はふとあることに気がついた。

 ……ん? レベル42で、このステータスの差?

 たとえば僕のステータスはレベルが1上がるだけで合計30数値が上昇した。だがもしこのレベルアップで伸びるステータス値が人によって違うのだとしたら。いや、リセアさんのステータスを見る限り、確実に30よりも少ないはずだ。
 そしてその上で、リセアさんは体力と攻撃が大きく伸びつつも、魔力と防御も安定して伸びている。

 対して僕のステータスはどうか。

 魔力が24伸びているのに対し、他は2だけ。

 ではもしもレベルとステータスの伸びが比例しているのだとしたら、僕がレベル42の時のステータスは──

「リセアさん。もしかして僕の魔力の伸びって、異常ですか?」

 思わずそう問いかけると、リセアさんはそれはもう力強く頷いた。

 ……どうやら僕の手にしたチートはスキルだけではなかったようだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生者ジンの異世界冒険譚(旧作品名:七天冒険譚 異世界冒険者 ジン!)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:411pt お気に入り:5,498

桜が散る頃に

BL / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:0

怒涛のソロ活(末っ子4)

BL / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:4

生存戦争!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:0

召喚されて声を奪われた聖女ですが、何としてでも幸せになります!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,635pt お気に入り:32

『腸活コーヒー』

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:511pt お気に入り:0

夕暮れ時、消えた少年

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:3

青い炎

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:23

大好きなあなたを忘れる方法

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:10,546pt お気に入り:1,054

処理中です...