ARK

雨漏そら

文字の大きさ
27 / 54
せいぎのみかた

祖母の知恵

 光太は下水道を進んでいた。恐らくハワイの本島だと検討を付けた島である。ある程度大きいようだし、下水道関連も整備されている。そして何より幸運にも上空を飛行機が飛んでいた。ほぼ間違い無いであろう。人一人ようやく通れるような排水用の側溝の中だ。頭上は重苦しいコンクリートの蓋で閉じられ、所々から空いた穴から外界の様子を少しは確認できる。とはいえ、薄暗い側溝の中は異臭もあるし汚物もある。じめじめとした気持ち悪い場所だ。光太としては一刻も早く脱出したい所だが、周囲に人気を感じる為コンクリートの蓋を開けて今外に出る訳にもいかなかった。もう少し進んでみようと側溝の中を匍匐前進でじりじりと進んでいく。
「うげぇ気持ち悪い……妖怪とか言われてるけどこれでも清流の方が好きなんだよ。汚れた水とか勘弁して欲しいよね。ほんと川にタバコとか捨てる奴なんなの。今度見かけたら川突き落として溺死させてやろうそうしよう……物ポイ捨てするなら海にでも捨ててなよ。海とかどうでもいいからさ。そもそもあんなの僕達から流れてきた水が溜まっただけの水たまりじゃん。絶対上流である川の方が偉いって。母なる海とかふざけてんの? 川で生まれ育ったんだよこっちは。舐めないで欲しいなぁ。命を育むのが水ならどう考えても川だって。美しいのは川だし。海なんてただでかいだけだって。どこがいいのあんなの。そもそも塩混じってるのがおかしい。あんなの絶対おかしいよ。海との繋がり何度切りたかったことか」
 ぶつぶつと愚痴りながら進行方向に落ちていた燃え尽きたタバコを地上に繋がる穴から地上に戻していく。ふと、外の話声が聞こえてきた。
「え? 雑草抜くんじゃないの?」
「雑草処理よ。おばあちゃんが言ってたの。水にね、大量の塩を投入すると雑草が死んでそこに雑草が生えなくなるんだって!」
「へぇーお前のばあちゃん物知りだな」
 日本語だった。日本人の若い夫婦がハワイに移り住んだのだろうか。ハワイの家賃帯等々がどうなっているか等光太は全く知らないが随分と金持ちな若い夫婦も居るものだという感想を抱いた。とはいえ、そのおばあちゃんの知恵袋のような知識には少々異を唱えたい。そんな大量の塩なんて撒いたら周辺に居る小さな妖怪、死ぬんじゃないだろうか。他の妖怪等正直どうでもいいのだ。が、以前最も猛威を振るっていた時代は彼を慕う妖怪達も確かに存在していた。彼らの事は少しだけ覚えているのだ。そもそも、妖怪と言っても害を成すものだけではないと異を唱えたい。ヤマタノオロチといえば害を成す代表格にされそうではあるのは脇に置いておこう。そういえば以前自分で築いた妖怪の城とかはどうなったのだろう。忌々しい奴に打倒されてから彼はずっと眠っていた。現代において妖怪の話を一切聞かない辺り奴が城ごと破壊したと見て間違いは無さそうだ。
 そんな下らない事を考えていたら光太の進みは止まっていた。
 それが、仇となった。
 彼が今居るのは排水溝なのだ。当然、排水がやって来る場所だ。当然、件のおばあちゃんが考えたと思しき塩水も一緒に流れてくる。側溝の壁をたらり、と透明な液体が這っているのが見えた。光太の目が見開かれる。狭い側溝の中では思うように体も動かない。そして、水が落ちる場所に丁度あった光太の手がその水に触れた瞬間、 音と煙を立てて、焼けた。
「うわああああああああああああああ!!!!!」
 痛みと久しぶりに感じる浄化の感覚に動揺し、思わず蓋を押しのけて立ち上がってしまった。世界を書き換えたあの日から、光太の身体能力は飛躍的向上を遂げている。いや、向上したのではなく元に戻ったというのが正しいのかもしれない。元々巨大な体を持て余しているような大蛇だ。出力を変えずに姿形を変えているだけなので腕力等々は人間のそれを遥かに凌駕している。その腕力があれば重苦しいコンクリートの側溝の蓋等簡単に吹っ飛ぶ。それを完全に失念していた。光太が立ち上がった瞬間、周囲に居た数名の通りすがり、そして先ほど生ぬるい会話を交わしていた若い夫婦が呆然と光太を見ている。水を打った様に静まり返った周囲に、光太はサーッと血の気が引くのを感じていた。
「あ、もしもし。警察ですか? 排水溝から不審な男が奇声を発しながら出てきたんです。至急来てもらえますか?」
 おばあちゃんの知恵を披露していたと思しき若妻が警察に電話しているようだった。光太は両手で顔を覆い、背後にあった側溝の蓋に思わず腰を掛けていた。
「おばあちゃんの馬鹿……」
 そう言えば、光太の祖母も碌な事をしなかった。親が忙しいということで祖母に預けられた日には髪の毛が伸びていると言われて勝手に祖母のセンスに任せて髪を切られた事がある。その後学校に登校した際クラスで大爆笑されて涙目になった事を何故か思い出した。
 数分後、急遽駆けつけた地元警察に身柄を拘束されるという史上稀に見る大妖怪の大失態が執り行われた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。