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冒険者編
帝都食道楽漫遊記
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食べすぎた。アレだけ食べれば当然か。
いえね、腹の中も調節できるからさ、消化促進させてたら次から次へと食べるわ食べるわ、底なしの食欲を発揮して露店の食料品店を全て練り歩いたぜ。そして腹は八分目なんだけど、気持ち的に胸焼けを起こした。しばらくは何も食べなくてもいいや。
でもま、露店の人は潤ったし、私は満足なのでまさにWin-Win。あと、機嫌が良かったんで、露店中の人々に一回だけ超ラッキーになる加護をつけてあげた。この超ラッキー、発動タイミングがランダムなのでどこで発動するかわからないし、当人が危機だと認知した瞬間に発動する代物だ。ようは危機回避の加護ね。これつけてあげたんで、しばらくは帝都のラッキーマンが増えるかもね。
さーて、腹がくちくなったところでお次は……そう、酒だ! 嗜好品と言えば酒しかあるめぇ!
というわけで、酒を飲みに酒場を探すため、露店のおっちゃんに場所を聞いたところ、帝都の酒場は二種類あるという事がわかった。
一つは大衆食堂としての酒場。普通に食事したり酒飲んだり、な場所ね。
それともう一つが、情報交換を主としたその手の人が集まる酒場。つまりは、冒険者の吹き溜まりだな。
なんとも、冒険者が増えたのはいいけども、ごろつきが多いじゃん? だから治安悪化を改善するために一般向けの食堂と冒険者向けの酒場を別個にしたらしい。大衆食堂は衛兵が定期的に巡回してて一般人も安心安全。だが冒険者の酒場はうらぶれた路地裏とかにあって、その手の人とかも出入りしてそうな危ない感じ。ただしお安い。
どっちがいいかと自問自答し、私はロマンを追求するために後者へと突貫する事にした。だって雰囲気が良さそうじゃん? 場末の酒場とか、ジャズが似合いそうというか。
さて、噴水広場から教えてもらった大きな路地を抜け、入り組んだ住宅街を突っ切って帝都の隅の方、城門に近い路地裏に入れば、そこはクッソきったねぇ路地だった。くさっ!? きたなっ!?
この時代、汚物は各家庭にあるらしき床下の下水溝にドバーするか、面倒だとこういう裏路地に放り捨てる習慣があるようだ。帝都の人口って多いし、下水溝って詰まることも多いから。だからか、汚いここには人が近寄らないし、薄汚れた建物の間に浮浪者がゴロゴロいる。どこも繁栄の裏っ側には、こういう貧しさが溢れているのだろう。
そんで、私は教えられた通りまで辿り着いて、酒場を発見する。小汚い外観だけど城門までのアクセスは徒歩10分、大通りまで5分という素晴らしい位置にある。立地的には城壁側で太陽があんまり当たらないという、住宅には向かない場所だけどね。
その木造建築な酒場の戸を開けて入れば、ムワッとした熱気と一緒に、ガヤガヤとした喧騒が。
入ってすぐにお出迎えするのは、ごちゃっとしたテーブル群、そこにめいめいの人々が座って歓談している。もうすぐ夕方とはいえ既に人でいっぱいだとは予想外だな。で、テーブル群の横にカウンターとか厨房があるようで、燻し銀の主人らしき人が注文を取ってる。で、その合間をちょこちょこと歩き回ってるのはウェイトレスさんの女の子だ。ちなみに可愛い。
「あ、いらっしゃいませー」
お嬢さんの気の抜けた声を受けて、私は歩を進めて適当にカウンターの端に座る。ぶっちゃけ、酒場の作法なんて知らんし、あるかどうかもわからんので、マスターに尋ねられるこの位置に座った。
「おや爺さん、どこの人だい? ここらじゃ見かけたことなかったが」
マ スターに話しかけられたので、翻訳機能全開で答える。
「昼頃に到着して間もなくな。この帝都の酒が味わえる場所を探して足を運んでみたのだが、良い酒はあるか?」
「おお! そりゃあいい場所にやって来たようだな。ここは帝都の酒場で一番の上物が味わえるよ!」
「ふむ、ならそちらのおすすめを貰おうか。何がある?」
「今日はガゼリス地方のエールと、ネーンパルラのブラッツがオススメだな」
うん、よくわからん。しかし名称は普通にエールなんだな。いや、有り難いけど。
ガゼリスは、確か帝都から西の穀倉地帯だったかな? そこの麦が名産だったはず。そこのエールか。
で、ネーンパルラはここから東の森、かつてエルフの王国があった森を切り開いた、上質な水で有名な林業が盛んな地方ね。
しかしブラッツってなんだろう、地方的に果実酒か?
とりあえず、興味本位で銅貨10枚のブラッツを注文したところ、出されたのは小さな木製コップに並々注がれた茶色い液体。なんだこれ。匂いを嗅ぐがよくわからんので、ちろっと一口舐めて…………うわ、キツッ! ウォッカみたいな鼻にくるレベルの酒だな。でもウォッカより芳香豊かでちょっとだけ甘い。うーん、蒸留酒の一種か?
ま、聞いてみればわかるか。
「マスター、この酒はいったい何で出来ているのだ? 実は初めて飲んだんだが」
「……ああ、やっぱり知らなかったのか。ブラッツはグルーモを発酵させた酒だから、癖が強くてあんまり飲み手が居ないんだ」
グルーモ?って、なんじゃらほい。
と、神様権限でグルーモに関する知識を取得してみたところ、思わずゴフッと咳き込んだ。
グルーモ。それは蜘蛛である。
赤い掌サイズの蜘蛛を酒に入れて発酵させた代物がこちら、ブラッツでした~。わ~ぉ……ゲテモノだったか、そりゃ笑われるわな。というか、わざとだなこの親父、わざとこれ飲ませやがったな、こやつめはははっ!
ちょっとムッとしたので、適当に酒と料理を端から端まで全部注文してやろう。金貨1枚を渡して言ったら、目を白黒しながら厨房へ向かっていった。ははは、頑張れ。私は舌鼓でも打つとしよう。
ま、このブラッツという酒だが、製法はともかく不味くはない。私は強い酒もいける口なので、結構ガバガバ飲めそうだ。酩酊感が程よい感じ。うむ、いつかヴァーベルの奴でも誘って来ようかな。あいつも飲めそうな感じだしな。
次から次へと出てくる料理を胃へと流れ作業のように詰め込んでいると、周囲からの奇異の視線も多くなるが無視である。なぁに神界の視線に比べれば全然マシだ。私は向けられる視線に悪意があるかどうかわかるんでね、わかってるからこそ楽だよ。
そんな事より飯だよ飯。どんどん来るぞ。
豚肉っぽいソーセージはサラミみたいで分量があるなぁ、噛んでパキッて音がするのが堪らん。そして弾ける肉汁、最高か。こっちのターブという豚肉っぽいスペアリブはタレが効いてて味わい深く、骨も噛めばコクが滲み出てくる。これのバキバキとした歯ごたえも悪くないな。
酒だって悪くないぞ、ワインは鮮やかな芳香が鼻を擽り、僅かな渋みが舌の上を転がる。そこにナチュラルチーズを口に含めば、まろやかで癖の強い風味が鼻腔を刺激する。それを相殺するようにワインをまた一口。うん、至福。……え、胸焼けはどうしたって? ばっかお前! 酒とツマミは別腹だよ別腹! 酒にはツマミが必須だるおぉぉ!?
マスターがヒーヒー言いながら作る声を聞きつつ、たらふく飯を食い続けていれば、なにやら声が聞こえてきた。
「そこをなんとか……再度の護衛をお願いできませんか?」
「あ~、無理だね、無理、あいにくとこっちにも都合があってね。払うなら迷惑料も込みで払ってくれよ」
と、何やら商談でもしているのか、悲痛そうな声色だったのでそちらを注視してみた。
そこに居るのは、なんとエルフ……ではないな、ハーフエルフか。黒髪に紫の瞳で線の細そうな、トンガリ耳のヒョロっとした男性だ。身なりは良さげなんだけど、今は何事かお困りな様子である。
大飯食いならがも暇だったんで、私は席を立ってそっちに向かって声を掛けてみた。
「もし、そこの者。何事か困っているのかね?」
声を掛けた私を見て、男性はビクッとしていた。なんだ、顔が怖いのか? うん怖いかもな。だが私は無害な定命の者だぞ、ハーフエルフよ。なお正体は邪神だが。
「あ、その、貴方は冒険者ですか?」
「ふむ、一応はな。そちらの話しを聞いていたが、護衛の仕事かね?」
「はい、ドワーフ王国までの護衛なのですが……少し予定が狂ってしまって、出発が遅れてしまったのですよ」
ああ、それで迷惑料を求められてたのね。本来の依頼料の半額は払ったようだけど、渋られたか。ま、冒険者側も予定が狂えば収入が減るから致し方ない、か。阿漕なのは確かだが。
ふむ、それなら私がうってつけだな。なんといっても凄腕の魔法士(笑)だからな。
「なら、私がそれに乗ろう。私は魔法士だから手広く守ることが出来るぞ」
「本当ですか……!? 貴方は見るからにお強そうですが、もしやどこかの名のある御方なのでは……」
お! 君ぃ、なかなか見る目あるじゃないか。まあ無名なんだけどね! なお正体は邪(略)
ともあれ、適当にあちらの話しをはぐらかしつつ、出発は明日ということで昼前の北門前に集合するということで話しをつけた。報酬はドワーフ王国への旅路の間まで、約20日間の旅程となるので銀貨40枚。食事などの旅費は別払い。これは高いのか安いのか、よくわからんな。まあブラッツの酒が一杯銅貨10枚で、銅貨100枚で銀貨一枚と見れば高いんじゃないの。
さて、なんか護衛という面白ミッションが発生したので、明日は早起きして城門に向かおうかね。まあ、私は睡眠なんて取らないんだけども。
だがしかし、今は目の前の大量の料理を詰め込もうか。
ああ、それとマスター。この酒場に居る者全員に酒と料理を振る舞ってやってくれ。ほら金貨1枚、釣りは取っといてくれたまえ。
野郎どもの歓声を受けながら、私は酒を楽しむ。
うむ、やはり酒場はこう賑やかしく無いとなぁ。定命の者は実に面白い事をやってるもんだ。
※※※
【ブラッツの酒
ネーンパルラの名産にして地酒である、赤蜘蛛を漬けた酒である。見た目がグロテスク故に女性人気は無いのだが、独特な風味と濃厚な味わいにコアな酒呑みたちの間では好まれている傾向がある。
また、この酒の材料を知らぬ者に飲ませて、その反応を見て楽しむという風習が帝都では見られる。もしも昆虫食が苦手な者の場合、ケンタックに着いて酒場でこれを進められても、飲まないように注意しよう。
「帝国歴730年版:帝都ケンタック・ガイド」より】
いえね、腹の中も調節できるからさ、消化促進させてたら次から次へと食べるわ食べるわ、底なしの食欲を発揮して露店の食料品店を全て練り歩いたぜ。そして腹は八分目なんだけど、気持ち的に胸焼けを起こした。しばらくは何も食べなくてもいいや。
でもま、露店の人は潤ったし、私は満足なのでまさにWin-Win。あと、機嫌が良かったんで、露店中の人々に一回だけ超ラッキーになる加護をつけてあげた。この超ラッキー、発動タイミングがランダムなのでどこで発動するかわからないし、当人が危機だと認知した瞬間に発動する代物だ。ようは危機回避の加護ね。これつけてあげたんで、しばらくは帝都のラッキーマンが増えるかもね。
さーて、腹がくちくなったところでお次は……そう、酒だ! 嗜好品と言えば酒しかあるめぇ!
というわけで、酒を飲みに酒場を探すため、露店のおっちゃんに場所を聞いたところ、帝都の酒場は二種類あるという事がわかった。
一つは大衆食堂としての酒場。普通に食事したり酒飲んだり、な場所ね。
それともう一つが、情報交換を主としたその手の人が集まる酒場。つまりは、冒険者の吹き溜まりだな。
なんとも、冒険者が増えたのはいいけども、ごろつきが多いじゃん? だから治安悪化を改善するために一般向けの食堂と冒険者向けの酒場を別個にしたらしい。大衆食堂は衛兵が定期的に巡回してて一般人も安心安全。だが冒険者の酒場はうらぶれた路地裏とかにあって、その手の人とかも出入りしてそうな危ない感じ。ただしお安い。
どっちがいいかと自問自答し、私はロマンを追求するために後者へと突貫する事にした。だって雰囲気が良さそうじゃん? 場末の酒場とか、ジャズが似合いそうというか。
さて、噴水広場から教えてもらった大きな路地を抜け、入り組んだ住宅街を突っ切って帝都の隅の方、城門に近い路地裏に入れば、そこはクッソきったねぇ路地だった。くさっ!? きたなっ!?
この時代、汚物は各家庭にあるらしき床下の下水溝にドバーするか、面倒だとこういう裏路地に放り捨てる習慣があるようだ。帝都の人口って多いし、下水溝って詰まることも多いから。だからか、汚いここには人が近寄らないし、薄汚れた建物の間に浮浪者がゴロゴロいる。どこも繁栄の裏っ側には、こういう貧しさが溢れているのだろう。
そんで、私は教えられた通りまで辿り着いて、酒場を発見する。小汚い外観だけど城門までのアクセスは徒歩10分、大通りまで5分という素晴らしい位置にある。立地的には城壁側で太陽があんまり当たらないという、住宅には向かない場所だけどね。
その木造建築な酒場の戸を開けて入れば、ムワッとした熱気と一緒に、ガヤガヤとした喧騒が。
入ってすぐにお出迎えするのは、ごちゃっとしたテーブル群、そこにめいめいの人々が座って歓談している。もうすぐ夕方とはいえ既に人でいっぱいだとは予想外だな。で、テーブル群の横にカウンターとか厨房があるようで、燻し銀の主人らしき人が注文を取ってる。で、その合間をちょこちょこと歩き回ってるのはウェイトレスさんの女の子だ。ちなみに可愛い。
「あ、いらっしゃいませー」
お嬢さんの気の抜けた声を受けて、私は歩を進めて適当にカウンターの端に座る。ぶっちゃけ、酒場の作法なんて知らんし、あるかどうかもわからんので、マスターに尋ねられるこの位置に座った。
「おや爺さん、どこの人だい? ここらじゃ見かけたことなかったが」
マ スターに話しかけられたので、翻訳機能全開で答える。
「昼頃に到着して間もなくな。この帝都の酒が味わえる場所を探して足を運んでみたのだが、良い酒はあるか?」
「おお! そりゃあいい場所にやって来たようだな。ここは帝都の酒場で一番の上物が味わえるよ!」
「ふむ、ならそちらのおすすめを貰おうか。何がある?」
「今日はガゼリス地方のエールと、ネーンパルラのブラッツがオススメだな」
うん、よくわからん。しかし名称は普通にエールなんだな。いや、有り難いけど。
ガゼリスは、確か帝都から西の穀倉地帯だったかな? そこの麦が名産だったはず。そこのエールか。
で、ネーンパルラはここから東の森、かつてエルフの王国があった森を切り開いた、上質な水で有名な林業が盛んな地方ね。
しかしブラッツってなんだろう、地方的に果実酒か?
とりあえず、興味本位で銅貨10枚のブラッツを注文したところ、出されたのは小さな木製コップに並々注がれた茶色い液体。なんだこれ。匂いを嗅ぐがよくわからんので、ちろっと一口舐めて…………うわ、キツッ! ウォッカみたいな鼻にくるレベルの酒だな。でもウォッカより芳香豊かでちょっとだけ甘い。うーん、蒸留酒の一種か?
ま、聞いてみればわかるか。
「マスター、この酒はいったい何で出来ているのだ? 実は初めて飲んだんだが」
「……ああ、やっぱり知らなかったのか。ブラッツはグルーモを発酵させた酒だから、癖が強くてあんまり飲み手が居ないんだ」
グルーモ?って、なんじゃらほい。
と、神様権限でグルーモに関する知識を取得してみたところ、思わずゴフッと咳き込んだ。
グルーモ。それは蜘蛛である。
赤い掌サイズの蜘蛛を酒に入れて発酵させた代物がこちら、ブラッツでした~。わ~ぉ……ゲテモノだったか、そりゃ笑われるわな。というか、わざとだなこの親父、わざとこれ飲ませやがったな、こやつめはははっ!
ちょっとムッとしたので、適当に酒と料理を端から端まで全部注文してやろう。金貨1枚を渡して言ったら、目を白黒しながら厨房へ向かっていった。ははは、頑張れ。私は舌鼓でも打つとしよう。
ま、このブラッツという酒だが、製法はともかく不味くはない。私は強い酒もいける口なので、結構ガバガバ飲めそうだ。酩酊感が程よい感じ。うむ、いつかヴァーベルの奴でも誘って来ようかな。あいつも飲めそうな感じだしな。
次から次へと出てくる料理を胃へと流れ作業のように詰め込んでいると、周囲からの奇異の視線も多くなるが無視である。なぁに神界の視線に比べれば全然マシだ。私は向けられる視線に悪意があるかどうかわかるんでね、わかってるからこそ楽だよ。
そんな事より飯だよ飯。どんどん来るぞ。
豚肉っぽいソーセージはサラミみたいで分量があるなぁ、噛んでパキッて音がするのが堪らん。そして弾ける肉汁、最高か。こっちのターブという豚肉っぽいスペアリブはタレが効いてて味わい深く、骨も噛めばコクが滲み出てくる。これのバキバキとした歯ごたえも悪くないな。
酒だって悪くないぞ、ワインは鮮やかな芳香が鼻を擽り、僅かな渋みが舌の上を転がる。そこにナチュラルチーズを口に含めば、まろやかで癖の強い風味が鼻腔を刺激する。それを相殺するようにワインをまた一口。うん、至福。……え、胸焼けはどうしたって? ばっかお前! 酒とツマミは別腹だよ別腹! 酒にはツマミが必須だるおぉぉ!?
マスターがヒーヒー言いながら作る声を聞きつつ、たらふく飯を食い続けていれば、なにやら声が聞こえてきた。
「そこをなんとか……再度の護衛をお願いできませんか?」
「あ~、無理だね、無理、あいにくとこっちにも都合があってね。払うなら迷惑料も込みで払ってくれよ」
と、何やら商談でもしているのか、悲痛そうな声色だったのでそちらを注視してみた。
そこに居るのは、なんとエルフ……ではないな、ハーフエルフか。黒髪に紫の瞳で線の細そうな、トンガリ耳のヒョロっとした男性だ。身なりは良さげなんだけど、今は何事かお困りな様子である。
大飯食いならがも暇だったんで、私は席を立ってそっちに向かって声を掛けてみた。
「もし、そこの者。何事か困っているのかね?」
声を掛けた私を見て、男性はビクッとしていた。なんだ、顔が怖いのか? うん怖いかもな。だが私は無害な定命の者だぞ、ハーフエルフよ。なお正体は邪神だが。
「あ、その、貴方は冒険者ですか?」
「ふむ、一応はな。そちらの話しを聞いていたが、護衛の仕事かね?」
「はい、ドワーフ王国までの護衛なのですが……少し予定が狂ってしまって、出発が遅れてしまったのですよ」
ああ、それで迷惑料を求められてたのね。本来の依頼料の半額は払ったようだけど、渋られたか。ま、冒険者側も予定が狂えば収入が減るから致し方ない、か。阿漕なのは確かだが。
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お! 君ぃ、なかなか見る目あるじゃないか。まあ無名なんだけどね! なお正体は邪(略)
ともあれ、適当にあちらの話しをはぐらかしつつ、出発は明日ということで昼前の北門前に集合するということで話しをつけた。報酬はドワーフ王国への旅路の間まで、約20日間の旅程となるので銀貨40枚。食事などの旅費は別払い。これは高いのか安いのか、よくわからんな。まあブラッツの酒が一杯銅貨10枚で、銅貨100枚で銀貨一枚と見れば高いんじゃないの。
さて、なんか護衛という面白ミッションが発生したので、明日は早起きして城門に向かおうかね。まあ、私は睡眠なんて取らないんだけども。
だがしかし、今は目の前の大量の料理を詰め込もうか。
ああ、それとマスター。この酒場に居る者全員に酒と料理を振る舞ってやってくれ。ほら金貨1枚、釣りは取っといてくれたまえ。
野郎どもの歓声を受けながら、私は酒を楽しむ。
うむ、やはり酒場はこう賑やかしく無いとなぁ。定命の者は実に面白い事をやってるもんだ。
※※※
【ブラッツの酒
ネーンパルラの名産にして地酒である、赤蜘蛛を漬けた酒である。見た目がグロテスク故に女性人気は無いのだが、独特な風味と濃厚な味わいにコアな酒呑みたちの間では好まれている傾向がある。
また、この酒の材料を知らぬ者に飲ませて、その反応を見て楽しむという風習が帝都では見られる。もしも昆虫食が苦手な者の場合、ケンタックに着いて酒場でこれを進められても、飲まないように注意しよう。
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