どうも、邪神です

満月丸

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冒険者編

よし勝ったな!風呂入ってくる

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雄叫びを上げながら、数千もの騎兵が荒野を疾駆する。

「大翼陣形!騎兵隊は左右に展開!右翼と左翼はそのまま敵を押し込め!」

将軍の号令に応えるかのごとく、軍馬は鈍重さを感じさせず駆け、隊列は横に広がって敵を覆いこむように動いた。帝都へ向かう魔物の一軍、その塊へ向かって、騎兵達は長槍を構えて叫ぶ。

まるで鉄が岩を押しつぶすかのような轟音。

騎兵隊は魔物の群れにぶつかるように突入、そのまま幾本もの槍で敵を刺し貫く。当然、衝撃に耐えきれず落馬するものも多い。
しかしそこで翻るのは魔法の輝き。

『我が声に答え、契約の名の下に力を貸し与えなさい。我が名は、メルサディール!』

メルが霊薬を大奮発して召喚した精霊達が、身を翻して地に落ちる人間たちを手助けする。

「この程度、造作もありませんわ!」

更にメルは杖を大地へ向けて魔法陣を広げる……その範囲はまさに広大。戦場全てに届かんばかりの陣を広げ、その上に薬液の入った瓶をガッシャンガッシャンとばら撒きまくる。途端、凄まじい範囲でポーションの効果が適応されていく。
精霊と錬金術によって怪力を得て、鎧の重みを取り除き、まるで羽のように軽くなった騎士たちは、敵の反撃に一歩も退くことなく、魔物の軍勢を押し込んでいく。
左右に広がった部隊の内、いくつかは小隊となって遊撃に当たる。広い荒野を疾駆しながら、とめどなく追いかけてくるゾンビーやワームの群れを引き付け、本隊のいる集団から孤立させていく。何かを感知したのか魔法騎士が声を張り上げ、その合図と同時に一人の騎士が馬に括り付けていた塊…血の滴る動物の生肉の塊を、地面に放り捨てる。と同時、通り過ぎた地面から湧き上がるワーム。地面の音と血の匂いに引かれてゾンビーたちもわらわらと寄ってきており、囮を駆使して遊撃隊は分断を続ける。
と、そこで本隊に追いついた大盾部隊が密集しながら魔物を後ろに押し込め、歩兵部隊は隙間から長槍で敵を突く。いくらかの者達はトロールに掴まれて腕が引きちぎられたり、ワスプによって頭を齧られたりしたが、痛みもなくその端から傷は治癒される。否、傷を負ったという事象自体が消えていく。千切れた腕が煙の如くくっついたのを見て、兵は一気呵成に槍で魔物を突き殺す。
そして遠く後衛から、弓兵部隊と魔法部隊が雨のごとく掃射する。矢にすら精霊の加護が乗り、魔物へ特大のダメージを与えているのか、魔物は輝きに咆哮を上げつつ泥となって散っていく。

「アタクシが居る限り、無為に兵士を散らしはしません!皆のもの、安心して攻撃なさい!!」
「皇帝陛下の、勇者メルサディール様の加護ある限り、我ら帝国軍は不滅である!者共続けぇぇっ!!」

兵士が突撃する合間にも、メルサディールは中央を陣取りながらも詠唱を続ける。
その合間、フェスベスタの咆哮の如き詠唱が響き渡る。天から次々と燃える大岩が降り注ぎ、1つ目竜ごと遠くの魔物を蹂躙しているのが見えた。
それに頼もしさを感じながら、メルが杖を地面に向ければ、巨大な魔法陣が複数、敵の進路上に現れる。そして錬金薬を放り投げれば、それは精霊が運んで魔法陣へと投入され…
突如、全ての魔法陣が燃え盛る業火に覆われる。
哀れ、侵入していた魔物たちは一瞬で炭となり、その魔核を散らした。

そんな工程を戦場全てへ同時に行い、メルは魔物の進路を妨害し続ける。その手腕はもはや人の領域を脱しており、場合によってはカロンよりも器用なことを成している。

「まだまだ、アタクシの腕前はこの程度ではありませんわよ…!!」

メルは更に錬金薬を取り出して宙へと放り上げる。
それをやはり風の精霊達が運び、

空高き頭上と、離れた場所で、それぞれ大爆発が起こる。
いわずもがな、1つ目竜と吸血鬼の周囲が、爆煙に包まれたのだ。

「『2重・呪文停止!第9の光精!いと高き天の輝き、強く堅き楔より、汝逃れる術は無し!』ズーフド・トル・セット!ベシュト・セクト=ブリテ・エマ・バドレ=ビン・ヴァーベア・セーレシャイア!!」

更にメルは二重呪文を行い、杖を掲げて魔法を行使。
天より伸びた輝く鎖が追尾し、竜と吸血鬼の体に絡みつき、その動きを鈍くさせた。

…と、そこで、メルが脅威に映ったのか、1つ目竜が叫んだ。

『我、虚無の実行者にて招致を命ず!』

「させません!!」

回復のために再び精霊を喰らい始めた相手へ、しかしメルは印を刻みながら対抗。
あれだけ何度も披露した術なのだ。それの対抗策を編み出さないわけがない。

「貴方がたのそれは確かに脅威ですけど…けれど、無限に吸い続けることは不可能ですわよね?」
『ぬぐっ…!?』

メルは巨大な結界を作り出し、そこに精霊たちを退避させたのだ。どこぞの神様の言葉もあり、精霊たちは危機を感じると、いの一番に安全な場所へと逃げ込んでいた。
結果、敵は回復できず無駄な一手を投じる羽目になる。

『こ、この…!小癪な真似を…!!』
『余所見とは余裕ではないか!』
『くぅっ!?』

吸い続けるクレイビーの横っ面を、フェスベスタが食らいつく。咆哮を上げる相手の顔へ牙を突き立て、フェスベスタはそのまま業火を文字通りに食らわせた。

頭上であがる絶叫。
それを背景に、ネセレとラーツェルは、意外なほどのチームワークで吸血鬼達へ猛攻撃を繰り広げていた。

「はっ!随分と形勢が悪くなってきたようだなぁ!?あぁん!?」

獰猛に笑うネセレ。メルのバフ魔法が効果を発揮しても、もはや限界値に近い彼女の体躯にはさして影響はない。が、それでも体中が絶好調になり、ダーナの援護で不調という不調が取り除かれている今、彼女を止められる者は存在しない。
ネセレの一振りで、左右の従属の体が細切れになる。再生する音すら置き去りに、更に奥の魔法士を狙う。飛んでくる魔法なぞ切り飛ばし、相手の首を泣き別れしてやる。
その合間、ラーツェルの剛剣がリーンの触手を切り飛ばす。相手が一瞬動きを止めたのを見て、ラーツェルは直感的に目を封じ、耳で動きを察知。横合いから飛んできた斧を弾き、蹴り飛ばしながら、魔眼が閉じたのを察して目を開く。

「…厄介だが、問題はないな」

とはいえ、一度でも目を合わせれば、その時点でかなりの不利だが。
しかしそれを見たのか、吸血鬼の魔眼は一つずつ開いて常時攻撃を展開した。
対するラーツェル、それに真っ向から目を伏せる。ほぼ視界を塞がれるような状況だが、ラーツェルは耳と鼻だけで攻撃を察し、避け続けた。魔眼が縦横無尽に放たれ、すぐそこの兵士たちが石となって固まっていたが、それすら光の雨とメルの錬金術によって一瞬で解放されている。
魔眼を切り抜けて相手へ肉薄したラーツェルは、幾本もの剣筋で敵を切り飛ばす。が、同じ速度で敵もそれを躱し、同じく攻撃を仕掛けてくる。別次元からの攻撃によって空間が割れ、何度もラーツェルの体を裂き、防具すら斬り飛ばすそれに、しかし鉄面皮は崩れない。幾ら血が流れようとも不思議と痛みは一瞬で、負傷は軽症へと変化する。その疑問は今は放り投げ、それを利用して半ばノーガードに等しい状態で敵と切り結ぶ。腕や足に傷を負い、ふっ飛ばされて体がひしゃげようとも一切の躊躇なく立ち上がり、鎧の残骸を捨てながら向かっていく。その姿はまさに、白き守護神。
しかし幾度目かの突進で、敵の触手が、剣を持った片腕へ巻き付くのを許してしまう。

「っ!!」

敵がその4つの腕を振り上げた間際。
ラーツェルは、残った片腕で何かを握りしめ、そのまま…、

敵の腹口へ拳を叩き込んだ。

ごぼっ、という音と共に牙が腕を貫く。
しかし一切の躊躇すらなく、ラーツェルは手の中のそれを起動した。
刹那、

―――ドッゴォォンッッ!!!

と、敵の腹部が弾け飛ぶ。
内側から破裂したそれに、敵は堪らず嘔吐くような声を上げ、後ずさった。同じく、ラーツェルの片腕も焼けただれ、複雑骨折レベルでバキボキな状態になるが、やはり当人は涼しい顔である。

「おらよぉ!!」

そこで追撃をかけるネセレ。
そんな彼女を止めるべく従属達が迫るも。

「こっちだっ!!」

横合いから飛来したコウモリが人の形になって、剣で従属達と切り結んだ。
言うまでもなく、回復したハディである。

「ゼケルト・カトゥ!!」

更に背後からケルトが貫通弾を放ち、敵の魔法士を再び塵に帰す。

「くたばれっ!!」

ネセレの両刀が敵の両腕を削ぎ、遂には一対の腕を切り飛ばす。
ニヤリ、と大きく破顔するネセレだが、

「…ちっ!!」

ぐちゃぐちゃになった敵の腹が瞬時に回復し、その獰猛な牙を晒してネセレを襲う。
咄嗟に背後へ飛んだが、一瞬遅ければ頭から齧られていた。
しかも、吸血鬼の切り飛ばされた両腕は煙を発しながら、徐々に回復していくのだ。
これには、流石にネセレも冷や汗を禁じ得ない。
敵が飛ばしてくる魔眼は、やって来たハディの魔眼が全て消し飛ばすので、視界がクリアになったのが救いか。


「ったく、無駄にかてぇし再生するし、バケモンが…!」
「どうするネセレ!?」
「決まってんだろチビ助!圧倒的に!徹底的に!再生する暇もねぇほどに切り刻む!これしかねぇ!!」
「…脳筋極まりありませんが、他に手はなさそうですね」
「君たちパーティは、いつもこんな感じなのか?」
「流石にいつもはもっとマシなんですが。あの通り、獲物を前に戦闘狂の血が滾っているようでして」

笑うネセレが飛び出していく。その背にため息を吐きながら、ケルト達もまたフォローすべく追いかける。
その合間、天より雷が降り注ぐ。メルの精霊が天より見下ろし、その力を放ったのだ。
同じく、遊撃隊が魔物を引き連れながらも、遠巻きに弓を射掛けてくれる。矢の幾つかは命中するも、さしたるダメージは当然ながら無い。…が、たまたま関節に刺さった鏃が、その動きを阻害する。
たった一瞬、されど一瞬。
その一瞬の隙、ネセレは懐に入り込み、ナイフを無尽に振るう。
再び千切れ飛ぶ両腕。
そこで左右から飛び込んでくる従属は、しかしケルトの魔法によって足止めし、そこをラーツェルが狩ることで消失する。
吸血鬼は、触手の目玉をギョロリと向け、

「させない!!」

しかしその全ての魔眼は、ハディの見開かれた魔眼に無効化される。

「ナイスアシストだチビ助!」

そしてネセレの再攻撃!
怒涛の連撃からの空中で回転し、その勢いを持ったままの回転斬り。
相手の両腕を大きく削り取ったそこで、背後から飛び出たハディが、虚無の剣を振りかぶる。

「リィィーンッ!!!」

虚無の剣は抵抗しようとしたリーンの腕をも切り飛ばし、遂にはその胸を深々と切り裂いたのだ。

『…っ!!』

ビクンビクンと震えた吸血鬼は、雨のような鮮血を降らせながら、形容し難い遠く轟く咆哮を上げ、遂には倒れた。
その眼前で、振り切った姿勢のまま、ハディは目を伏せて、大きく息を吐いた…。

「……」

赤い霧がザァァ…と晴れていき、赤い月が影となって散った。同じく、従属達がドロリと溶けて消えたのを見届けて、ケルトは確固たる表情で吸血鬼へ近づく。油断なく、杖を向けながら、しかしその瞳には複雑な色合いが映っている。
吸血鬼は、ボロボロと表皮を崩れさせながら、力なく身を横たえている。徐々に端から灰になり、チリチリと消えつつあったのだ。

『…まともに虚無の剣で切り裂かれたのだ。いかな眷属とて、長くはなかろう』

虚無殺しの剣。それは虚無にとって絶大な効果をもたらすが、持ち手もまた虚無の力を宿すゆえに、諸刃の剣となる代物。
それに裂かれ、もはや赤月の吸血鬼の命は、風前の灯となっていた。

「………」

ケルトは、ぐっと息を呑み込んでから、杖先を向けた。迷いながらも、しかしその因縁を終わらせるために。

「…リーン」
『…』
「………お別れです」

そして、呪を紡ごうとした、その時!

大地が唸り、空が震えた。
凄まじい轟音が鳴り響き、重く遠く響いていく。
黒き巨木より、巨大なエネルギーが放出され、それが鐘のような音となって、大陸中へと散っていくのだ。

『…な、なんと…遂に、遂にお出でになられるか!!』

クレイビーは狂喜する。
ようやく主人が芽吹く時がやって来たのだ、と。
血を吐き、血みどろになりながらも笑い吠えながら、フェスベスタに絡みつく。長い胴で絡まれたフェスベスタは、引きちぎろうと力を込めるも、それはビクともしない。クレイビーは今までとは違った、例えるのならばもはや後は必要ないと言わんばかりに、最後の力を振り絞って絞め殺さんとする。

『我が主人への供物に貴様を捧げてやろうぞ、火竜よ!!このまま、我が身の内にて死するがよい!!』
『くっ!!おのれ、なんという力…!』

もがくフェスベスタ。しかしギリギリと締まる体躯が、徐々にフェスベスタの体を締め付け、鱗を剥がし、潰そうとしてくる。思わず吠えるフェスベスタは炎を吐いて暴れるも、クレイビーはそれを許しはしない。

『所詮、勇者の力なくばここまで戦えぬ竜風情!我が力の…虚無の前に、消えるがよかろう!!』

クレイビーが顎を開く。
相手の魂ごと喰らおうとするかの如く、そのおぞましい牙がフェスベスタを貫く間際、

「…誰の許しを得て、そのようなことを言っておられるの?」

凛と響く声。
不思議と耳に届いたそれは、クレイビーの間近にて発された。

驚いて見回せば、メルは杖を掲げ、少し離れた虚空にて佇んでいた。
一瞬、驚いたクレイビー。しかし目の前にいる勇者に、笑みを深める。

『我が前に近づくとは、乱心したか勇者よ!ならばこの場で貴様ごと…!!』

「あら、どこの誰を見て仰ってるのかしら?」

メルの言葉が終わると同時、

「突撃ぃっ!!」

『なぬぅっ!?』

なんと、眼下より数百もの軍馬が彗星のごとく、凄まじい速度で宙を蹴立てて突撃してきたのだ。メルの飛翔魔法だ。
クレイビーが炎を吐こうと口を開くも、

「許すとお思い?」

メルの束縛魔法が鎖のごとく巻き付いて、クレイビーの口を覆い縛ってしまった。
その合間、鬨の声を上げる騎士達が、輝く長斧を構えてすれ違いざまにその巨体へ切り込んでいく。

『ぐがあぁっ!?』

閃く斧はブレード状の輝きが薄く纏い付き、光を放っていた。

「ハディとレビとケルティオの合体魔法剣。あれに着想を得て、各々の武器に、短時間だけ圧縮された魔法効果を乗せる薬品を開発しましたの。それなら、たとえ鉄塊でも、あなた方へ特大のダメージが期待できますものね?」

ゼロから作る魔法道具と違い、効果が短時間でも各人で付与が可能なのがこれの強みだ。つまり、全軍に行き渡るよう、メルは前々から準備していたのだ。それを惜しみなくここで解放し、今や全ての者が虚無を貫く特攻の武器を持っている。
返す軍馬は、再び速度を上げてこちらへ突っ込んでくる。

(…なんという、なんという…!これが、勇者っ…!!)

クレイビーは、今や心底から人間たちを恐れた。
所詮、相手は無力な存在。数しか揃えられない弱者の群れ。たとえ集おうとも、こちらの敵ではないと、そう確信していた相手。

しかし、現状はどうだ?

クレイビーがフェスベスタを巻きつけながら、迫る軍勢へ爪を閃かせれば、相手はバラバラになりながらも虚空に散って…途端、一瞬でその事象が無かったことにされる。恐るべき量の命の力が、人々の希望の祈りが、虚無の悪意という攻撃を無効化してしまっているのだ。
そして、彼らの持つ武器一つ一つが、クレイビーの体躯に違えようのない傷を与えていく。

(これが、人間…我らが、敵…!!)

錬金術、それは直接的な攻撃を持たない、戦闘面ではさして役に立たない技術であると認識していた。
だが、実際は違う。
錬金術の真骨頂。それはこれだけの大勢の人間に武器を与え、力を与える、戦力の増強そのものだ。そしてそれは、数が多ければ多いほど、絶大な力を放つ。

その、数の暴力という積み重ねた力が、今やクレイビーを大きく疲弊させていた。

『…くっ、メルサディール…!!勇者めっ!!どこまでも我らの邪魔をするかぁっ…!!』

「貴方がたが世界を滅ぼそうとする限り、アタクシ達、人間は、貴方がたを止めますわ…クレイビー・カルネット!」

『抜かせっ!!我こそは虚無教が導士司祭!こんなところで敗北してなるものかぁ!!』

突如、クレイビーが吠えた。
瞬間、クレイビーの巨躯が一瞬で光のごとく包まれて消え、輝く何かが飛び出して天へと飛来する。光が再び形を取り戻せば、そこには人型に戻ったクレイビーが。
空洞の片目をも見開きながら、クレイビーは両腕を天に掲げて眼下を睨め付ける。

「やはり魔法こそが至高!!この場にて、貴様ら全員を吹き飛ばしてくれようぞ!!」

クレイビーの首飾りの石、ヴァルを込めた魔法道具が次々に割れていき、それは詠唱すら無視して込められた魔法を行使すべく、魔法陣を浮かび上がらせた。
それはレベル8魔法。
メルはともかく、眼下の兵士たちは無事では済まされない威力。

「全身を一瞬で消し炭にされれば…それは果たして再生可能であるかなぁ!?」
「…っ!」

相手の行動を察し、メルは詠唱していた魔法を行使した。
長々と呼び出されたそれは、人跡未踏のレベル10。しかし勇者ならば可能な領域。
円陣に回る上位精霊が魔法陣の様相を成し、その膨大過ぎるヴァルが一つの輝くものとなりつつ、クレイビーを狙った。
だが、それが発動されるよりも、クレイビーの方が早かった。

「纏めてくたばるが…」

「くたばるのはアンタの方よ!!」

「なぁっ!?」

不意に、クレイビーの頭上より掛かる、高負荷の衝撃。
虚空に縛り付けられ、急激に生命エネルギーを吸い出されるそれに、さすがのクレイビーも悲鳴を上げた。

「があぁぁっ!?な、なんだこれは!?我が、命が…」

「精霊は、食い物でしかないんだったかしら?じゃあ、その食い物に反逆される気分はどう?」

「貴様、は…!!」

頭上を仰げば、そこには黒い衣を纏う、闇エルフの少女。
ダーナは、紫紺の瞳を眇めながら、相手のエネルギーを吸収しながら、言い放った。

「お婆ちゃんの仇よ…くたばりなさいっ!!」

強烈なダーナの力に縛り付けられ、クレイビーは身動き一つできなくなった。その間にダーナは精霊界へと姿を消し、代わりに降るのは、冷徹な声。

「命を弄んだ罰です。消え失せなさい、クレイビー!!」

そして、メルサディールの魔法が放たれる。


―――空を貫く、一条の閃光。


その進行上に居たクレイビーは光に包まれ、それはそのまま天を穿つように雲を円状に切り裂き、そして…。

はるかな頭上にて、凄まじい大爆発を起こして、散ったのだ。


・・・・・・・
・・・・・
・・・


「ぐ…がぁ…ぁ…!!」

ぐしゃり、と地面に潰れるように落ち、それでも死ねずにクレイビーは呻いた。
体は不自然に捻じれ、白いドラゴンの物と人間の物が混ざりあい、歪な人型になっている。しかしその全てから赤い血が止めどなく流れ、牙は折れ、爪は剥がれ、見る影もないほどにボロボロの体であった。

「我が…主…我が主…ここに、私、は…」

各足なくブツブツと呟きながらも、ゆっくりと立ち上がる。片足が炭となってもげたが、そんなことは目に入らない様子で、喘鳴を繰り返しながら、這いずりながらも黒い大樹へと腕を伸ばす。

「我が、主…!どうか…神を…あの忌々しい神を…!!この、手で…」

「クレイビィィッ!!」

しかしそれを引き裂く誰かの雄叫び。
金色に輝く杖を構えたケルトが、決死の形相でクレイビーへ迫っていたのだ。
それを見てとり、クレイビーは呆然と振り返って…、嘲笑う。

そして、最後の力を振り絞ろうと、腕を…


両者が交差する、刹那。


赤いコウモリが飛び入り、それは人型を成して、その両方の攻撃を受けたのだ。



「「リーンッ!?」」

ケルトの杖は、鈍い音を立てて、リーンの体を貫いていた。
ボロボロと、ケルトの眼前でリーンの異形の顔が崩れ落ち、中から見知った彼女の素顔が現れる。

「………」

赤い瞳は、静かに熱く輝く光に包まれながら燃え、

「…み、に………」

リーンは、ゆっくりと、ケルトにもたれかかるようにして、首筋に牙を突き立てたのだ。


―――君に呪い祝福をあげよう


その言葉が、ケルトの脳裏にゆっくりと浸水し、そして…


膨大な記憶が、彼の脳髄を駆け巡った。

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