明日の夜は

禅筆

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出会う

2章

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見ると、黒髪の男が店内に入ってくる所だった。
それを見て、東川がすかさず声をかける。
 「おう拓人!こいつ剥がしてくれ。
 五月蝿くてしょうがないわ」
拓人と呼ばれた男は笑顔で未だ東川から離れようとしない豊川の方を見る。…今入ってきた人間には些か理解しにくい状況ではあるかもしれない。
 と、佐藤が豊川によくとおる声で一言。
「今日豊川くんにお土産買ってきたんだけど、秀樹さん困らせてるみたいだからあげないことにしよっかなぁ…?」
佐藤が手に持っている袋を掲げる。
その袋は近所のケーキ屋のものだった。
 「佐藤さん中身なんですか」 
 「苺のショートケーキとー、アップルパイとー…あと、」
 「………あと?」
 「秋限定のマロンケーキ。」
 季節は秋とあって限定商品だった。
 これを聞いた瞬間豊川の目が光った。
 「俺が食べたいって言ってたやつじゃないっすか!」
 「うん、でも人の迷惑になるような悪い子にはやっぱりあげなーい。全部僕と秀樹さんが食べるね。」
 佐藤がそう言った途端に、豊川は血相を変えて先程まで座っていたカウンター席にもどった。
「……さすが拓人。」
ボソッと東川が呟く。
「ケーキ食べちゃいましょうか。他の子達の分無いですし。」
何事も無かったようにケーキを順に箱から出していく佐藤。独特のペースと店で長く仕事をしているということからなんとなくまとめ役となることが多い。
 東川がアップルパイ、佐藤がショートケーキ、豊川が限定ケーキをとる。
 「「「頂きます」」」
 各々ケーキを口に運ぶ。
 「うま……。」
豊川が恍惚とした表情を浮かべつつ
ケーキを次々と口に運んでいく。
「大袈裟だな…美味いけど…」
 「豊川くん甘い物ほんと好きだよね……。ん、このショートケーキもスポンジふわふわで美味しい。」
呆れた表情を浮かべた二人もそれぞれ味わう。
 
 (プルルルルッ  プルルルルッ)
 
電話だ。
「俺が出る。……はい、あぁご予約ですね。はい…はい…」
淡々と電話相手と会話する東川を見てケーキを食べ終わった豊川が佐藤に小声で
「佐藤さん…オーナーって敬語使えたんすね…。」といった。
「んふふっ。」普段の口調のみを見ていると至極最もな意見に佐藤の口元が思わず緩む。
「ふふっ…そりゃあ秀樹さんだって大人だからね…」
二人でコソコソ話していると、そこに電話相手と話し終わったでのあろう東川が話に加わった。
「お前ら俺をなんだと思ってんだよ…ところで夏樹、お前今から出れる?」
どうやら先程の電話は、予約の電話だったらしい。
「出れるけど、佐藤さんじゃダメな感じ?」豊川が面倒くさそうに返す。
すると東川は苦笑いをしながらモニョモニョと何か言った。
 「お客さんがなー…ネコ希望だったから…」
「あー…」豊川が思い当たる節がありそうなリアクションをする。
「佐藤さん逆に食っちゃいますもんね絶対…」
 「絶対じゃないよ~可愛い子だけだもん。」佐藤がニコニコと反論する。
「よく言うよお前…うちに来る客お前あてるとネコになる人多いんだよ…
 まぁ、そういう事だから行けるか?夏樹。」
「あぁ。何時間?」と、豊川は席から立って上着を探し始める。
「6時から6時間。ホテルでの予約らしい、105室だそうだ。こっから一番近い所。」
「あー、あそこな。って今5時50分じゃねえかっ!」気づいた瞬間入口へ突っ込んで行きそのまま外へ出た。
「行ってくる!」
 いきなり飛び出ていった豊川を見ながら、東川と佐藤が遅れて
「おう…」「いってらっしゃい…」と言った。

 必死に走ってようやくホテルに着いた。
(ったく、もうちょい早く予約とれよ…)
 知らない客に心の中で悪態をつきつつホテルに入りエレベーターに乗る。105号室ならば、三階だろう。
  エレベーターを降り、部屋へと向かう。
(……っと、ここか)
 105、とかかれた部屋。
インターホンを押し込む。
(どうせこの時間帯はチャラいやつばっかだしなぁ…ったく…)
心中で愚痴を並べ立てつつ客が出るのを待つ。
(あーーめんどくs((ガチャッ)
人が出てきた。
「こんにちは…あぁ、お店の方ですか?」
 見た目は好青年そうな男がニコリと笑う。
「あ、あぁ」戸惑いながら答える。
(意外と真面目そうなのが出てきたな…)
 確かに目の前にいるのは金髪でもないし、言動もまとも、むしろ欠点が見当たらない。
 (しかも)
チラッとそちらを見ると、男と目が合った。
 「?」相手がもう一度ニコリと笑う。
    (結構タイプだし。)
「中に入れてくんないの?」
嫌な仕事にならなそうで良かったと思いつつ、豊川が相手を急かす。
 「あぁそうでした、すみません。中へどうぞ。」
男に促され、部屋へ入った。
 

 


 

 
 
 
 


 
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