ホリヒロキの復讐譚。~絶対支配者の憂い~

むー太郎

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ホリヒロキの目覚め。

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 いつも通りの日常。それはかくしていとも簡単に崩れ落ちるものだった。

 ホリヒロキは高校生でありながら「青春」というものが分からなかった。周りの人間が言う『大切な時間』というものが理解出来なかった。それは何故か。

 単純に、対人関係が苦手。というのも理由の一つだが。それ以前に自分の見た目が高校生にそぐわない醜く不気味な物だということを理解していた為だ。
 故に、疎まれ、嗤われ、嘲られ。何もかも諦めに等しい思考を十七という齢で構築していた。

 そんなホリヒロキでも、この日常がこんなにも呆気なく崩壊するとは信じ難く、脳内の思考を再構築するのに時間を要した。



 朝の教室内。その場が瞬く間に発光を始め、全員が全員どす黒い歪みに呑み込まれていった。
 最後、いや最期にその深淵へと呑み込まれたのはホリヒロキだった。









 ◆





 俺は弱者だ。そう、自分を断言出来る心がある。

 中学の時も、今通っている高校でも。


 何故だろう、そう考えると理由はいくらでも見つかった

 短い手足、高校生とは思えないオッサン顔、肥満...
 他にも沢山ある

 子供の残酷さは自分でも分かる


 だが、幸せな弱者だと自分は思っている。所謂「いじられキャラ」、というヤツだ

 ...でも、やはりこれまで自分を虐げてきた人間は赦せない

 ムカついたから殴る

 気に入らないから奪う

「違う」からイジる

 クラス内に抑止力が居ない為に起こる理不尽の連続

 誰も止める人間なんて居ない

 ...いや、それも言い訳に過ぎないのだが

 ワカイ ケイジ、ヤワタ シオン、マチヤマ タツヤ。他にもいる

 自らの快楽の為に他人を傷つける外道だ、何かしら罰を受けさせねばならない

 これも言い訳だ。

 自分はただ憎いのだ。だから、あの外道共を——


 ああ、もしチャンスがあるなら。




 ——殺してやりたい——



 出席番号 27番 ホリ ヒロキは歪みに呑み込まれるその最中、そう願った。




 ━━━━━━━━━━━━━━





 ——ここ、どこ——

 水面のように光を受け、反射と入射光を受けているかのような...良く分からない。
 自分は水の中に落ちたのだろうか。水中のように手足の動きが鈍い。
 でも何故か息は出来る。となると、ここは無重力状態にあるのかと推測する。

 ——ん?——

 しかし、何もしなければしない程水面と光が遠ざかっていく。

 後ろを振り向く。

 深淵だ。

 そう直観させる程の晦冥が目を通して自身の心を根本から恐怖させる。暗くて冷たい、彼の有名なマリアナ海溝よりも深いのでは無いか、
 そもそも底という概念が有るのか、
 そう思ってしまう程に、身体でさえも反射的に強ばっていた。

 アレは絶対に駄目だ。

 目を見開き、水では無い虚空を掴むような感覚でただひたすら光を目指す。

 もがき、もがき、もがいて。

 自身のコンプレックスでもある短い手足を脇目も振らず必死にただひたすら動かし続け



 その光に、手を伸ばす。——





 ━━━━━━━━━━━━━━







「おぇっ......」

 起きて自分の吐瀉物を見るという最悪な目覚めだった。
 視界がボヤついて周囲を把握するのに時間がかかる。

「アラ」

 つい癖で呟いてしまう。
 上擦ったような声でその口癖を言ってしまう。
 高校生になったばかりの春、自分はクラス内の中心に居るような人物とは関わらないようにしていた。
 その結果、否定の首振り、首肯を意味する頷き、そして、ア↑ラ↓というイントネーションの言葉だけしか喋らなかった。
 出来るだけ外界と接しないように。

 ...結局裏目に出てネタキャラになる一因となり、一員となってしまったが。

 漸く周りを把握する。

 しかし、又もやその行為は邪魔された。

「ヴっ...くさ...」

 その臭いの正体は直ぐに分かったのは、湯灌バイト死体洗いの経験があったからなのか、それとも人間としての直感的な部分が反応したからなのか判別がつかない。

 屍臭だ。

 それも、焦げ付いたような熱い空気と混じっている。
 耐えきれず鼻を塞ぎ、それと同時にまた状況の把握に務め始めた。

「なんだここ」

 草木が焦げ付き荒廃した平原。

 今にも慟哭しそうなソラ

 漂う煙に混じる屍臭。

 黒ずんだクレーターとだったものの残骸。

 ここは、地上の地獄そのものだった。



 ソレを見て、更なる吐き気を催す。
 先程総て中身を吐き出した為に、今吐いているものは緑色の胆汁だ。

 ——戦争

 そんな単語が頭を過る。
 テレビ越し、書物に記録されているだけの味気無い歴史の数々を教室内で聞いていたあの時。
 何とも思わなかった。これから自分がその現場に居合わせることなど絶対にありえないと考えていたから。

 現実だが、現実とは思えない光景に生唾をごくりと飲み込む。

「おへッ...カッはっ...」
「ゲホッ...」

 その声で自分とは異なる存在に気付く。良く聞いた声だ。

「ヤマモト、ハラグチもいる」

 知り合いだ。いや、同類だ。
 同じ弱者達がそこにはいた。

 出席番号 25番 ハラグチ ヒロキ
 それと
 出席番号 31番 ヤマモト ユウスケだ。

 ハラグチは、その某黄色い怪盗に似た面を一層歪めて吐いていた。
 ヤマモトも細い体からこれ以上何が出るのか、という程咳き込み吐いている。

「ヴォェ!!くっさ!!おぇえ!」
「ゴホッ...なにこの臭い」

 壮絶な臭いに二人とも早くも顔をくしゃくしゃにして咳き込み、咽せる。

「お前ら、起きた?」

「ホリエモン...?てかヤマモトもいるじゃん。ここどこ?」
「はぁ?ふざんなよ...ここどこだよぉ...」

 ハラグチはすぐ様順応し、ヤマモトはいつものように困り顔で悪態をつく。いつも通り、声変わりの起きていないような高音だ。

「そう、マジで、ここどこ」

「ホリエモンも分かんないのかよ。って凄いなここ。...うへぇコレ、人の腕だぞ」
「やめろよォ...」

 訳の分からない状況はお互い様だった。

「とりあえず、歩こう。ここ流石にやべぇだろ」
「ホリエモン、語彙力」
「賛成...」

「ホリエモン、でもどこ行くの?見た感じ戦争起きた跡だろ。なんかどこ行っても敵に勘違いされて殺される気がするんだけど」
「...アラ」

 何も考えて無かった。
 ならばどうするべきか...。いや、意外と簡単だ。

「いい事思い付いた。」
「えぇ...何?」

 ヤマモトはいつものように困り顔で怯えた様なトーンで話す。でもこれはガチだろう。

「ここら辺一帯歩き回る、死体の衣服を見極めて、各方面の軍の方向を考える」
「...うん。それで?」
「死体から衣服と鎧を集めて着る」
「...ホリエモンマジで言ってる?」
「それしか方法無いだろ」

 二人とも俯く。
 3分間程の沈黙が続き、ハラグチが決意した。

「分かった。」

 ヤマモトが釣られて

「...分かったよぉ...」

 決まった。

「それじゃ、行こう」

 歩き出す。北も南も分からないこの地獄を、不毛の地を。

 ホリ ヒロキとハラグチ ヒロキ、そしてヤマモト ユウスケ3人組は一歩を踏み出すと決めた。





 ━━━━━━━━━━━━━━

 その背後、土に埋もれた兵士の残骸が微かに動いた事に気付くのはもう少し後の事になる。




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