「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。【短編集】

長岡更紗

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ただの花屋の僕だけど、ツンデレ女騎士団長に一目惚れしたのであなたを溺愛したいです。

後編

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「そのお花はデイジーっていうんですが、美人っていう花言葉があるんです。アビゲイルさんにぴったりだと思いませんか?」
「美人? わ、私がか?!」
「はい!」

 アビゲイルさんはめちゃくちゃ美人だ。着こなしている騎士コートは風になびいて、凛々しく美しい顔が夕日に映える。
 ブタ箱なんて言葉を使っちゃ、ホントもったいない。

「な、名前……」
「え?」

 アビゲイルさんが、ごろつきたちを踏んづけていた足をおろしてくれた。

「お前の、名前は……」

 照れてるのかな? もごもごと言っているその顔が、かわいいや。

「僕は、サミーって言います」
「そ、そうか……では、サミーがいいと言っているから、今回だけは見逃してやる」
「ひゃはーー、ありがとうごぜーますー!」
「悪事なんか二度としませんぜー、ぎゃはは!」
「おい!!」

 立ち上がったごろつきたちの首根っこを、アビゲイルさんがむんずと捕まえた。うーん、あざやか。

「貴様ら、サミーのことを『ただのバカなお人好しだぜラッキー』と思いながら言っただろう?」
「ひいい! 思ってましぇぇえん!」
「ちょっと思……ってませぇえええん!!」
「アビゲイルさん、考えすぎですよ! 思ってないって言ってますし」
「いや、しかしこいつらはやはり……」
「僕は、気にしません」
「聖人か……!」
「はい、僕は成人してますけど」

 うーん。そんなに確認されるほど、僕って子どもっぽい? ちょっとショックだな。

「……わかった、サミーがそこまで言うなら……」

 アビゲイルさんは、ごろつきの首根っこを外してあげた。
 言えばわかってくれる、素敵な人だな。アビゲイルさんは。

「わかっているな、貴様ら。二度はないぞ。もし今度騒ぎを起こした時には、ブタば……ンンッ、ケツから手を突っ込んで内臓引き摺り回してやるからな」
「ヒィーー」
「二度としないっすー!」

 うん、アビゲイルさん、ブタ箱は言わなかったけど、替わりにすごいことを言っちゃったね!
 でも、効果は抜群だったみたいだ。ごろつきたちはかわいそうなほどに震え上がっちゃった。
 ごろつきたちがどこかに行ってしまうと、僕はアビゲイルさんに頭を下げた。

「騎士団長さん、僕のためにありがとうございました!」
「いや、市民を守るのも、私の役目だからな」

 ニッと笑うアビゲイルさん、痺れちゃうな。
 あ、もしかして……これが恋ってやつなのかもしれない。
 アビゲイルさんを見てると、なんだか胸があったかくなるっていうか……ドキドキしてしまう。

「それじゃあ、気をつけて帰るように」
「待ってください、アビゲイルさん!」
「ん? なんだ?」
「よかったら、僕と食事に行ってくれませんか?」
「しょ、食事?! わ、私とか?」
「はい」

 アビゲイルさんは僕がびっくりするくらいに慌てている。そんな変なこと、言ったかな?
 でも、そうやって慌てている姿がまたかわいくてたまらない。

「でも、私なんかと……いやではないのか?」

 もしかして、アビゲイルさんは食事に誘った相手にいやだと拒否されたことがあるのかな。
 そんな見る目のない相手のことなんて、気にすることないのに。
 どこかしゅんとしているアビゲイルさん。僕ならアビゲイルさんにこんな顔はさせない。

「いやなんかじゃないですよ。アビゲイルさんがいいんです。知ってますか? デイジーの花言葉は、美人の他に、純潔、平和、希望という意味があるんです。全部あなたにぴったりの花言葉だと思います」

 僕がそう言った瞬間、アビゲイルさんの顔は花が色づくように赤くなった。
 なんてかわいい人だろう。アビゲイルという名の美しい花を、手折ってしまいたくなる。

「そんなこと言われたの……生まれて初めてだ」
「アビゲイルさんは、すごくかわいい人ですよ。アビィって呼んでもいいですか?」
「え、あ、か、構わないが……」
「じゃあアビィ、こっちに女の子の喜びそうな素敵なお店があるんです。行きましょう!」
「ま、待ってくれ! サミーは一体、どういうつもりなんだ……!」

 アビィの困惑顔。それもかわいらしいけど、ちゃんと女の子の不安は取り除いてあげなきゃ。
 僕は、切られて落ちている紫色の花を拾ってアビィに見せてあげた。

「これ、なんの花かわかります?」
「いや……花に縁などなかったから」
「これは、ライラックっていう花です。紫色のライラックの花言葉は、恋の芽生え、初恋、です」
「え?」
「これが僕の気持ちです」

 アビィがさらに頬を赤らめて、その切られてしまったライラックを受け取ってくれる。

「すみません、もっとちゃんとした花を渡せたらよかったんですけど」
「いや……これで、十分だ……」

 アビィが目を細めて笑ってくれた。
 ああ、本当に花のように可憐で優しくて美しい人だ。見た目だけでなく、心も清らかで、誰よりも強くかわいい。

「手を繋いでもいいですか、アビィ」
「て、手?!」
「はい。お店まで、手を繋いで行きたいんです。だめですか……?」

 さすがに体には触れさせてもらえないかなとしゅんとしていたら、アビィは慌てて首をこくこくと上下に振ってくれた。

「だだ、だいじょうぶだ!」
「わ、よかった! じゃあ、行きましょう!」

 僕はアビィの手をぎゅっと取った。手の大きさもそんなに変わらないなぁ。剣だこもあるし、きっとすごーーく市民のために努力をしてきた人なんだろう。なんて素敵な人なんだ。
 でもなんだか、ちょっと震えてる? どうしたんだろう。

「アビィ、どうかしたんですか?」
「わ、私は……男と手を繋ぐなんて、初めてなんだ……」

 耳まで真っ赤にして視線を逸らせるアビィ。うう、可憐で純粋すぎるよ。
 僕をそんなに煽らないでほしい。

「そんなに恥ずかしがらないで大丈夫ですよ。ほら、僕ってあんまり男らしくないでしょ。花屋を営んでいて、女みたいだっていつも言われて……」
「そんなことはない!! サミーは勇敢で誇り高く、それでいて誰よりも優しい! 優しさというのは、強くなくてはできぬものだ! 貴君は素晴らしい、男の中の男だ!!」

 わ、なんかすごい勢いで言われちゃった。そんなこと言われたの、初めてだ。
 でも、アビィにそう思ってもらえてるって、嬉しいな。

「ありがとう、アビィ。僕もアビィのこと、この世で一番素晴らしい女性だと思ってるよ」
「さ、サミー……」

 花も恥じらう乙女なアビィ。見てるだけで僕は彼女に吸い寄せられてしまう。

「僕と、付き合ってくれる?」
「え?! あ……」

 僕の問いに、アビィは顔をサルビアよりも真っ赤にして、こくんと頷いてくれた。

 ちなみサルビアの花言葉は、尊敬、知恵、良い家庭、家族愛だ。
 きっと、僕たちにぴったりの花言葉になるよ。ね、アビィ?

 僕たちは真っ赤な夕日を浴びながら、手を繋いで食事に向かった。



 fin.
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