君が大地(フィールド)に立てるなら〜白血病患者の為に、ドナーの思いを〜

長岡更紗

文字の大きさ
9 / 17

09.寝て、寝て、眠る

しおりを挟む
 ゆっくりと目を開けた時、どこかの病室にいた。
 目の前には美乃梨らしき人物がいる。まだ頭がぼんやりしていて、ちゃんと認識できない。

「晃、大丈夫?」
「今……何時……」
「今? 十二時少し前よ。ちゃんと骨髄液は採れたって」

 そう言いながら美乃梨はナースコールを押していた。
 すぐに看護師が来て、俺の様子を見た後に「大丈夫なようなので、病室に戻りましょう」と言ってベッドを移動させられる。
 どうやらここは回復室みたいなところのようだな。
 けど移動している最中に、俺は逆らえない何かに目を瞑らされてしまった。
 意識の外で美乃梨と誰かが会話しているような感じだったが、何を喋っているのかは理解出来ない。
 脳が暗く閉ざされるような感じがして、また記憶が途切れた。


 次に目を覚ました場所は、自分の病室だった。
 さっきよりは随分と意識はマシになっている。体はまだ動かないし、動いちゃダメなんだが。

「美乃梨……」
「あ、晃。起きた?」
「うん……まだちょっとぼんやりしてる感じはするけど、大丈夫」
「三時までは動いちゃダメだって。足を立てるのも禁止ね。六時からは体を横にしても良いって」

 事前に説明を受けてはいたけど、やっぱり全く動けない時間があるのは苦痛だな。
 お尻のところに穴が空けられているから、自分の体重で止血するために動いてはいけないそうだ。

「うーん、なんかトイレに行きたくなってきたな」
「え、本当に? 尿道カテーテルが入ってて、ベッドの下に尿が溜まってるよ? 」

 そういえば、動けないから尿道カテーテルで過ごすか尿瓶にとってもらうか、どっちが良いかと聞かれたんだっけか。
 手術中には尿道カテーテルを入れなきゃいけなかったから、そのまま付けておいて貰った方が楽だと思った。トイレに行きたくなる度に看護師さんを呼んで、お世話してもらうのは嫌だったしな。
 尿道カテーテルは気にならないという人が多数なんだろうが、俺は何故か常に尿意がある感じだ。
 でも尿瓶にする方がイヤだから、このまま我慢しよう。
 ふと見ると、手に取った点滴のルートへ、血液が落とされていた。これは俺自身の、事前に採取していた血液だろう。

「骨髄液は、もう渡したのかな」
「私は会ってないけど、手紙と一緒に持って行って貰ったって坂下さんが言ってたわ。形岡県は遠いから、届くのは夕方くらいでしょうね。明日の移植日には間に合うわよ」
「うん」

 どうか俺の骨髄液が、無事に少年の元に届きますように。
 少しするとその坂下さんがやってきて、労いと礼の言葉をくれる。患者レシピエント側のコーディネーターと看護師に、間違いなく骨髄液と手紙を託したと言ってもらえてホッとした。
 その人達と話をしたかったな。少年がどんな子か、どんな状況なのかを聞いてはいけないから、会わせては貰えなかったんだろうけど。
 少しすると担当の先生も回って来てくれて、お尻に四箇所の穴を開けて採取したと教えてくれた。場合によっては六箇所開けると言っていたけど、四箇所で済んだみたいだ。
 まぁそれは表面上の話で、骨には何十箇所も挿して骨髄液を取っているわけだが。どっちもそのうち回復するらしいから問題はない。
 喉が少し痛いというと、人工呼吸器をつけたせいだから、しばらくすれば治ると言われた。

「先生、水を飲みたいんですが……」
「水分は、二時になってから一口飲んでみましょう。それで気分悪くならなければ、その三十分後に少し量を増やして飲んでみます。問題なければ、三時から普通に飲んで貰って構いませんよ」

 うわぁ、ちゃんと飲めるのは順調に行って今から二時間後か……。
 飲めないと思うと、余計に喉が渇く気がするから不思議だ。点滴もしているし、水分が足りなくなる事はないはずなんだが。まぁなるべく気にしないように努めよう。
 今のところ手足の痺れはなさそうだと伝えると、先生はホッとした様子で病室を去って行った。坂下さんにも、もう大丈夫だからと伝えて帰ってもらう。
 美乃梨は帰る前に、スマホや雑誌を枕元に用意してくれた。

「じゃあ私も帰るけど、何かあったらすぐに電話してね」
「分かった、ありがとう美乃梨」
「ううん、お疲れ様、晃。ゆっくり体を休めてね」

 俺に後遺症等が認められなくて、安心したんだろう。美乃梨は来る時とは全く違った足取りで家へと帰って行った。

 しかし、動けないというのは予想以上に大変だな。体勢を変えられないのはしんどいし、喉の乾きもやっぱり気になる。
動けないし、水も飲めないのならいっその事、眠って時間を過ごしてしまった方がマシそうだ。
 ちょうど良い具合に、雑誌を読んでいたら少し眠くなってきた。朝のうちにあれだけ眠っていたのに、まだ麻酔がまだ残っているのかな。それとも眠気と麻酔は関係ないんだろうか。
 俺はバサッと雑誌を枕の隣に置くと、また目を瞑った。
 さっきまではブラックアウトって感じだったけど、今度は夢を見たからただの睡眠だったんだろうな。

 目を覚ますと、病室が暗くなっていた。
 スマホで時間を確認すると、午後五時を過ぎた所だ。結構寝られたようだな。
 三時を過ぎたから足は立てても大丈夫なはず。体勢を変えるのはまだダメだが。
 しかしずっと同じ体勢で寝ていると体がバキバキ言い出しそうだ。少し足を曲げると、少しだけ楽になった。早く体を横に向けたい。
 今度はバッチリと目を覚ましたけど、病室は暗くて何もできない。かと言って、自分では電気をつける事さえも出来なかった。
 雑誌も読めないなぁ……。
 どうしようか悩んだけど、ナースコールを押して看護師さんを呼び、電気をつけてもらった。
 喉が渇いた事を知らせて、小さな紙コップに一口だけの水を飲ませてもらう。
 午後六時になると、俺は早速体勢を変えた。
 お尻のあたりというか、腰のあたりというか、その辺に鈍い痛みを感じる。痛み止めを貰って飲み、お茶のペットボトルを冷蔵庫から取り出して枕元に置いてもらった。普段は簡単に出来る事でも、いちいち頼まなきゃいけないのは気が引けるし面倒臭い。寝たきりっていうのも大変なもんなんだな。
 尿道カテーテルは、やっぱり入れておいてもらって正解だった。電気をつけてもらうのもペットボトルを取ってもらうのも気を使うのに、排尿の世話までさせたら気を使うどころの騒ぎじゃない。
 まぁそれは俺の場合であって、尿道カテーテルが怖い人もいるだろうから、好きな方を選べば良いと思うが。
 今日は絶食だから、水分以外は何も取れない。その水分も、水かお茶だけだ。
 流石にお腹が空いてきたけど、明日の朝まで我慢だな。
 変な時間に寝てしまったのもあって、夜は中々眠れなかった。雑誌を読んでも飽きてきた。他にする事はないし動けないし暇だ。家にいると、何だかんだとやる事があるんだが。

 俺はテレビを見たり雑誌を読んだりスマホをいじったりして、時間を潰す。
 最後には眠くもないのに無理矢理目を瞑って眠った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...