君が大地(フィールド)に立てるなら〜白血病患者の為に、ドナーの思いを〜

長岡更紗

文字の大きさ
15 / 17

15.テレビ

しおりを挟む
 今日も出社だと歯を磨いていると、一颯いぶきが声を上げた。

「おとうさーん! おとうさんの好きなせんしゅ、テレビでてるー!」
「ん? 本当か? 誰だ?」

 俺が骨髄を提供してから、五年と四ヶ月。息子は四歳半になっている。
 一颯に言われて口をゆすぐと、居間のテレビに急いだ。

「お、島田選手だ!」

 俺はリモコンを手に取ると、音量を大きくする。一颯の言った通り、俺の好きな選手がテレビに出てインタビューに答えていた。
 島田選手はJリーガーで、一年前からアンゼルード全陸に所属している。
 あの日から高校サッカーを中心に見ていた俺は、彼を高校生の頃から知っているのでファン歴は結構長い。
 讃明高校や翔律高校、白咲学園や猪熊工業等の全国出場常連校の選手なんかは結構覚えていて、毎年見るのが楽しみだ。

 島田選手が高校三年の時の試合は特に良かった。因縁の讃明高校との決勝で、翔律高校がもぎ取った優勝。
 あの時には体が震えたっけ。
 島田選手の名前は颯斗はやとで、息子の一颯いぶきと同じ漢字を使っている事もあり、俺のひいき選手の一人だ。
 その島田選手がいつもと違う環境でインタビューに答えている。テレビ局が用意したであろうスタジオらしき所で。島田選手は、とても真面目な顔で。
 テレビの右上の方には、〝白血病を乗り越えた今、伝えたい〟と見出しがついていた。

 白血病……
 島田選手は白血病だったのか。

 高校サッカーの試合を見ていた時、アナウンサーが言っていた。島田選手は一時期、病気でサッカーをやれなくなった期間があったと言ってはいた。
 何の病気かは言っていなかったし、まさかという思いもあったが……。

 この番組はサッカーの特集ではなく、白血病の特集として組まれたもののようだった。
 島田選手が当時の闘病の様子を語っている。

 苦しかった事を。動けなくなった事を。
 同じ白血病仲間が亡くなって、絶望しかけた事を。

 そんな時、色んな人達に助けられたと語った後、二通の手紙が取り出された。
 まさか……まさか、だよな?
 封筒は真っ白で、何の特徴もない。どこにでもあるものだ。俺が出したものだとは言えない。
 島田選手はその封筒をジッと見つめながら再び話し始める。

「俺は、本当に沢山の人に支えられてきました。名前を上げればきりがないくらい、大勢の人に応援してもらって。特に、頂いたこの二通の手紙は宝物です」
「それは、どなたからのお手紙ですか?」
「俺に骨髄液をくれた、ドナーさんからです」

 ドクドクと胸が鳴る。まさかという思いと、もしかしたらという期待。それが入り混じる。

「実は、最初に決まっていた提供者ドナーさんが、何らかの事情で提供出来なくなってしまったんです。でも移植日まで時間がない中、この手紙をくれた提供者ドナーさんが了承してくれて、骨髄液をくれました」

 俺は五年前の事を思い返す。
 そうだ、一度は他の人にドナーが決まって、コーディネートは終了したんだ。だけどそのドナーが事故かなんかで、急遽俺の方に連絡が来て、それで提供する事になったんだっけ。
 俺がドキドキするのもお構いなしに、彼は続ける。

「手紙には、〝僕が君の一番のサポーターだ〟と書いてくれていました」

 その言葉にドンッと衝撃を受ける。
 俺だ。そう書いた覚えがある。
 俺が少年の、一番のサポーターだと。

 島田選手が、俺の患者レシピエントだ!!

 テレビの中で、嬉しそうに笑う島田選手。
 マジか……あの、熱い手紙をくれた少年が、今テレビの中で元気に笑っている。

 映像はインタビューに答える声をバックグラウンドに、島田選手の高校の頃の、全国大会の試合がダイジェストで流され始めた。

 高校一年のベストエイトの試合、高校二年の準優勝の試合、そして高校三年の全国制覇の試合。
 テロップには、〝仲間達と夢を叶えた瞬間〟と書かれてある。

 映像はアンゼルード全陸へプロ入りが内定した時の合同記者会見へ。
 そしてJリーグでプレイするダイジェストへと。

 全部見た。全部知ってるよ、俺は。
 必死になって、島田選手を応援して来た。

 テレビ画像は直近の試合でゴールを決めて、島田選手の吠え猛る姿で静止された。そして画面の半分が切り替えられて、インタビューに答える彼が映し出される。

「俺がこうして元気になってサッカー選手になれたのは、骨髄を提供してくれたドナーさんのお陰です」

 テレビの中の島田選手は本当に嬉しそうにそう言って、画面が切り替えられる。
 いつものニュースキャスターの男女がコメンテーターと話しているが、頭に入ってこない。

 島田選手の言った、言葉と笑顔が脳裏に焼きつく。

 サッカー選手になれたのは、骨髄を提供してくれたドナーさんのお陰──

 いや、それは紛れもなく君自身が努力したからだよ。
 でも、俺も少しは力になれていたなら、すごく嬉しい。
 俺の顔からは自然と笑みが溢れ、ようやくアナウンサーの声が耳に入ってくる。

「明日の夜七時から伊利ファレンテイン対アンゼルード全陸の試合が、あさぎのサッカースタジアムで行われます」

 明日の水曜のナイター試合は、ビールを飲みながら家でテレビ観戦するつもりだった。
 でも、あさぎのスタジアムはそう遠い距離じゃない。
 行ける、行きたい!

「晃? そろそろ出ないと遅刻するわよ?」

 台所にいた美乃梨が声を上げた。
 俺は鞄を持つと急いで玄関に行き、靴を履きながら喋る。

「美乃梨、明日の夜はサッカーを観に行くぞ!」
「え?」
「コンビニ行って、チケット買ってくる!!」
「え、え? い、いってらっしゃい……」

 困惑している美乃梨を置いて、俺はコンビニに駆け出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

青天の霹靂ってこれじゃない?

浦 かすみ
恋愛
贅沢三昧でとんでもない王妃だった私、国王陛下の(旦那)から三行半を突き付けられた! その言葉で私は過去を思い出した。 第二王妃からざまぁを受ける羽目になった私だが、おや待てよ? それって第一王妃の仕事もうやらなくていいの? 自分磨きに独り立ちの為に有効使わせてもらいましょう! ★不定期更新です 中盤以降恋愛方面の話を入れていく予定です。 誤字脱字等、お見苦しくてすみません。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...