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雷神編
04.今日は受け取ってもらうぞ
しおりを挟む「おい、ジャン」
ジャンという名の少年は、気だるそうに振り返る。まだ六歳の少年がする顔ではない。
「ロクロウか……なに」
「今日は受け取ってもらうぞ。……これだ」
そう言って雷神は一本の短剣をジャンの目の前に出して見せた。アリシアの目が丸くなる。子どもになんというものを渡すのか、という顔だ。
しかしジャンは、気だるそうな表情から一転、力のこもった目でそれを受け取った。
「俺の短剣を見ていただろう。俺のはやれないが、これもそれなりのもんだ。古代遺跡から発掘した、魔力の込められた短剣だからな」
ジャンはその説明を聞き、短剣を鞘から抜いた。その鋭さに心を奪われたかのように、ジャンは短剣に見入っている。古代遺跡から発掘される剣は、基本的に切れ味の変わらない、不思議な力が備わっているものが多い。
装飾は豪奢ではないが、刃の煌めきは宝石の何倍にも勝るものだ。
「斬りかかってこい、ジャン」
その言葉に、ジャンは躊躇いもなく雷神に向かって斬りかかってきた。この思い切りのよさがいい。雷神は少年の刃を己の短剣で軽く受け流す。
「いいぞ。どんどんこい!」
少年は息を切らせながら、一心不乱に短剣を振るった。それをすべて受け止め、雷神はジャンの心に応える。ようやくこの少年も一歩前進できた、と心で笑って。
やがてジャンが動き疲れた時、雷神は己の短剣をしまった。そして肩で息をするジャンに向かって問いかける。「楽しかったか」と。
「……別に」
少年はそう言って短剣を鞘に納めた。どこか高圧的で、人を見下したかのようなジャンの発言。この少年が誤解を受けるのはこういう態度からだろう、ということを雷神は察する。
「またやろう。ただしその短剣を俺以外には向けるなよ」
「わかってるよ」
ジャンは面倒そうにプイと横を向いてどこかに行ってしまった。アリシアはなんとも言えぬ顔で腕組みをしている。
「……あんた、そんな顔もできるんだな」
「あら、変な顔も素敵でしょ?」
「なにか言いたいことがあるんだろう。さっさと言え」
「それじゃあ遠慮なく言っちゃいましょうか」
アリシアはスッと息を吸い込むと、怒涛のように質問を被せてきた。
「あんな小さな子に短剣を持たせるなんて、危険過ぎない? 特別高いものは与えないって言ってなかった? 斬りかかってこいなんて、一歩間違えば二人とも怪我をするのよ? あの子はどういう生い立ちなの? どうして特別扱いしてるのかしら?」
思った以上の質問を浴びせかけられて、雷神は少し困惑しながらもひとつひとつ答えていく。
「俺は昔、四つのガキに脇差を持たせて剣を教えたことがある。大丈夫だ、ガキはガキなりにわかってる、心配ない。あの剣は売れば高いが、遺跡で拾ったもんだ。金を出して買ったわけじゃない」
わざわざ買って与える分には高価な物を買うつもりはないが、拾った物をあげるには問題ないつもりだ。それがアリシアに伝わっているかは怪しいが。
「それに俺は強いから、あんなガキの攻撃で怪我をすることもさせることもあり得ない。あとは……あいつの生い立ちだったな。そんなのは知らん、本人に聞け。俺には関係ない。えーと、それから……」
「あの子を特別扱いする理由よ」
「別に特別扱いしてるつもりはないんだがな」
「じゃあどういう意図であの短剣を渡したの?」
その質問に、雷神は一拍置いて答えた。
「あいつ、子どもなのに大人みたいな目をしてたろ」
「……ええ、そうね」
雷神は去って行ったジャンの深い緑色の瞳を思い返す。達観した目。周りを蔑むような目。人を見下すような目。物憂げな目。
さらには雷神と同じ漆黒の髪が、周りのすべてを拒絶しているように感じられた。
「なにか夢中になれるものを探してやりたかった。それがあいつにとっては短剣だったってだけだ」
「そうなのね」
「見てろ。あいつは今に変わるぞ。なにかを見つけられた奴ってのは、必ず変わる」
「そう。あなたも見つけられるといいわね、ロクロウ」
アリシアがあまりに自然に言ったので、雷神はそれに反応することができなかった。
ただ緑眼の美女は、金色の髪をなびかせながら雷神に微笑みかけていた。
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